今回は、スペイサイドモルトを代表する、ザ・マッカランが高騰していることについてまとめていきます。

定価ベースでも10年前の2倍

ザ・マッカランは、イギリスの老舗百貨店であるハロッズが「ウイスキー界のロールスロイス」と謳うなど、シングルモルトウイスキーの中でも別格の扱いを受けています。

しかし10年ほど前までは、主流ボトルであるシェリーオーク12年は700mLで4,000円台で手に入り、当時の12年もののシングルモルトと比べても特別に高いわけではありませんでした。



しかし、2022年4月に、輸入元であるサントリーが定価で9,000円にまで値上げすることとなり、10年前の2倍の値段にまでなりました。
店頭での実勢価格になると、入手が困難になったことも相まって、12,000円以上が相場になってしまい、ウイスキーをよく飲む人にとっても高嶺の花になってしまいました。

また、2種類の樽材によるシェリー樽の原酒を使ったダブルカスクが実売10,000円ほど、それにバーボン樽原酒を加えたトリプルカスクが8,000円台半ば(ハーフボトルでも4000円台)で、それなりの気合いを入れて奮発しないと買えないお酒になってしまいました。

原因はシェリー樽原酒人気と樽不足?

ではなぜ、これだけ高騰してしまったのでしょうか。
一つには2000年代後半における大麦麦芽の不作により、絶対的な原酒の仕込み量が少なかったことが挙げられますが、たのウイスキーの銘柄はマッカランほどの高騰には至っていません。

もう一つの理由は、世界的なシェリー樽原酒人気と、シェリー酒自体の衰退にあると言われています。

ザ・マッカランは、樽の原材料であるアメリカンオークやスパニッシュオークの選定から、シェリー酒を作るスペインのへレス地方のメーカーに対して、希望するタイプのシェリー酒を樽に詰めて熟成させる事まで注文ほど、シェリー樽へのこだわりが半端ではありません。

しかし、肝心のシェリー酒自体の消費量がどんどん減っていき生産自体も減ったことで、使用された樽自体が少なくなっている事も挙げられるようです。



シェリー酒の製造工程は複雑で、まずアルコール度数が比較的高い白ワインを醸造した後、ブランデーを加えてアルコール度数を15度ほどにした後、3~4段に積まれた熟成樽で長期醗酵をさせます。

醸造した白ワインは一番上の熟成樽に樽全体の7割ほどになるまで入れます。
この入れるタイミングは、一番下の熟成樽から全体の1/3ほどのお酒を取り出した後、同じ量のお酒を2段目から注ぎ足し、そして3段目から2段目へ同じ量を、最上段から3段目へ同じ量をそれぞれ注ぎ足した時となります。

ワインは収穫したブドウの出来が年によって異なり、味や香りに差が出来やすい傾向にあります。
シェリー酒ではそうした品質の差分を軽減するため、樽の中のワインは複数の年に醸造されたものにして均質化を狙っています。
このような方法をソレラシステムといいます。

こうして手間暇がかかるシェリー酒ですが、1982年には1億2900万リットルの生産量を誇っていました。しかし近年では3060万リットルまで減ってしまい、使用する樽自体も大幅に減っていると言えます。

一般人がシェリー樽原酒を飲めなくなる?

シェリー樽の原酒は、レーズンを思わせる甘い香りと味わいが特徴的で、日本のブレンデッドウイスキーでも重要な原酒としてよく使われます。

しかしシェリー酒の人気が低迷し、生産量が落ちて使用済みの樽の量が少なくなれば、人気の高いシェリー樽原酒のために買い付けるメーカーが殺到し、樽自体の値段も高騰していると言えるでしょう。
そのために、シェリー樽原酒を多用するウイスキーほど値上がりが顕著になっています。
特にシェリー樽原酒ベースのシングルモルトを売りにするザ・マッカランは、樽のコスト高をとてもダイレクトに受けてしまっています。

今後もこの傾向が続けば、ノンエイジでもシェリー樽原酒のシングルモルトは1万円を超えてもおかしくはないでしょう。
そうなれば、一般庶民がシェリー樽原酒を飲む機会がほとんど無くなり、幻の酒のようなものになってしまうかも知れません。

また、シェリー樽原酒を使ったブレンデッドウイスキーも、シェリー樽原酒を使わないようブレンド構成を変えて価格を維持することも考えられるでしょう。
そうなるとウイスキー全体をイメージする香りや味わいも変わるかも知れません。

事態を打開するためには、やはりシェリー酒の人気再燃を世界中で仕掛けることにあるかも知れません。