俳優の原田芳雄が主演したテレビドラマに『真夜中の警視』(1973年/関西テレビ制作)という作品がある。本作は、原田が元警察官で、「山手第二有線放送」という有線放送を経営している自由人だが、夜になると多額の報酬を得る「事件屋」に変身し、どんな依頼も解決していく……という現代版『必殺仕置人』のようなドラマであった。

 本ドラマは、雑誌「月刊シナリオ」などを発行している「日本シナリオ作家協会」が企画を関西テレビへ持ち込んだもので、脚本家陣は日本シナリオ作家協会の元理事長で『七人の侍』などの脚本で知られる橋本忍、映画監督で脚本家としての作品も多作な新藤兼人らベテランを始め、石森史郎、白坂依志夫など当時の売れっ子脚本家たちが多数参加。全13話中すべての話をシナリオ作家協会所属のライター陣が週替わりで担当するという、豪華なドラマだった。

 そんな『真夜中の警視』だが、全13話予定だった話数が7話で打ち切られている。その原因は、原田芳雄の引き起こした交通事故にあった。

 4月13日、原田は東京都港区の青山墓地で主人公の愛車であるジープに乗るシーンを撮影していたのだが、その際、原田が運転を誤り、近くに止めてあったタクシーに衝突。原田ほかスタッフ数人が打撲を負うなどの事故になった。ここまであれば、よくある撮影上のトラブルであったが、本作が打ち切りにまでに至ったのは、原田が逮捕されたからだ。

 なんと、原田はこの時点で運転免許を持っておらず、車を運転するシーンを撮影する場合は代役を立てる予定だったが、監督の長谷部安春と原田がヒートアップしてしまい、無免許の原田が運転する車で撮影を続けてしまった結果、道路交通法違反で逮捕されたのだ。

 この時点でドラマは3話まで放送済みであり、6話まで製作が終わっていた。そのため無免許事故の発生した7話を急きょ最終回とし、製作を打ち切ることにしたのだ。

 その後、『真夜中の警視』はソフト化がされない幻のドラマの一つとなっている。

(文中敬称略)

文:穂積昭雪(山口敏太郎事務所)