岡:ところで小田嶋は入院の検査の時に、多幸感を味わうことはできた?
は?
小田嶋:何、それ?
岡:僕、人間ドックで大腸の内視鏡検査を定期的に受けているんだけど、あの検査の時は麻酔ですごく幸せになるの。僕の場合、体が大きいから1人前だと全然効かなくて、めちゃくちゃ苦しい。だから2人分にしてもらって苦痛をやわらげるんだけど、そうなると今度はめちゃくちゃな幸せが襲ってくるの。だいたいみんな、検査の時は寝ちゃうと言うんだけど、寝たらもったいないから、必死で起きているわけ。それで、もうちょっと増やしてもらってもいいな、なんて思っていたりしたんだけど、それ以上増やすと心停止するかもしれませんよ、ということで。
小田嶋:それって、いわゆるマイケル・ジャクソンの「あれ」じゃないのか。
岡:そうね。確かにあれだね。マイケル・ジャクソンはお金持ちだったから、医師を雇ってどんどん買えた。買える人は、そうやって、どんどん打っちゃって、死に至っちゃう。だから、やばい。
小田嶋:完全にプロポフォール(マイケルさんの死因とされた強力な麻酔薬)じゃ……。
その薬名で検索すると、「胃カメラ」で投与されるそれに依存して、不正に内視鏡検査を受け続け、逮捕された韓国の男の話が出てきます。2年で548回も内視鏡検査を受けていたそうです。
■「幸せはケミカルで手に入る」という恐ろしい真理
岡:僕も一時は、病院を転々とすれば、各回でこの幸せが味わえるんじゃないか、とも考えた。日本は法令によって、そういうことは厳格にできないようになっているんだけど、これを知って、小田嶋がアルコール依存症だったことも、少しは理解できる気持ちになった。
小田嶋:ただ、アルコールとタバコは、そっちの報酬系じゃないんだよ。体に取り入れることで、素晴らしく気分がよくなるわけじゃなくて、むしろ取らないことで気分が下がるという。
やっぱり、小田嶋さんが言うと説得力がありますね。
小田嶋:ビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンをモデルにした「ラブ&マーシー」という映画があって、彼が精神を病んだ時の話なんだけど、その時にかかった医者が精神科医で、そいつに薬で骨抜きにされた揚げ句に、財産を持っていかれの、出すレコードからスケジュールから全部管理されので、結局10年近く支配されていたのね。ある時、事務の女の子が、ウィルソンの身辺があまりにおかしいことに気付いて、その彼女の助けで医者を訴えて、ようやく世間に復帰できた、という話なんだよ。そう考えると医者って怖いよね。何でもできるんだもの。
岡:怖い。そんなに欲しいんだったら、うふふ……とか言われて量を3倍にされたらやばかった。
小田嶋:たとえ百害があっても、今、死ぬんじゃなくて、10年やっていたら死にますよ、ということだったら、やっちゃいますよ、人間は。
ああ、ここでまた妙な説得力を出さないでください。
岡:まあ、僕の場合大腸カメラは2年に1度だし、胃カメラは1年に1度なんだけど、胃カメラの時の量は少ないから、どうってことはない。で、僕たちは、今回の本について、役に立つことを言わなきゃいけないんですよね。
言ってくださるとありがたいんですけど、後編のこのタイミングで、唐突に思い出されても遅いですし、すでにずいぶん前から諦めていますので、別にいいですよ。
岡:あのですね、サラリーマンにとって一番つらいのは、50代なんですよ。
15件のコメント
あ
自分に無駄を楽しめる感性が備わってる事に感謝。
このユルさが格別です。
プロXは最後の方はネタ切れで単なる企業ヨイショ番組に成り下がった印象が有りますね。
かみたぼく
あ~、鼎談が終わってしまいました。書籍も読み終えてしまったし。岡さんがあとがきで「10冊まで続けたい」と述べられていました。10冊は無理でもあと2冊分ぐらいは続けてほしい……清野さん次第でしょうか。
dad51
日経ビジネスの購読料のつもりで本買いました。予想外の厚さでした。
フライヤ
文系は過去を紐解き
理系は過去を繋ぎ未来を創る
理解できるわけがないと思った。
でも、いつもの一人語りより読みやすかったですよ!
本を買うかと言われたら・・・買いませんね
ろっか
小田嶋さんの連載が好きで見てみたのですが、面白い内容でした。
途中で入る唯一の五十路サラリーマン、編集Y氏の言葉もよかったです。
しかしタグボートの岡さん、といえば「ブランド」を上梓された頃のキレ者のイメージが強かったのですが、もう還暦越
えになられたのですね。...続きを読む自分も年をとるわけだ...。
コメント機能はリゾーム登録いただいた日経ビジネス電子版会員の方のみお使いいただけます詳細日経ビジネス電子版の会員登録
Powered by リゾーム?