「日経ビジネス電子版」の人気連載コラムニスト、小田嶋隆さんと、高校時代の級友、故・岡康道さん、そして清野由美さんの掛け合いによる連載「人生の諸問題」。「もう一度読みたい」とのリクエストにお応えしまして、第1回から掲載いたします。初出は以下のお知らせにございます。(以下は2020年の、最初の再掲載時のお知らせです。岡さんへの追悼記事も、ぜひお読みください)
本記事は2009年1月30日に「日経ビジネスオンライン」の「人生の諸問題」に掲載されたものです。語り手の岡 康道さんが2020年7月31日にお亡くなりになり、追悼の意を込めて、再掲載させていただきました。謹んでご冥福をお祈りいたします。
(日経ビジネス電子版編集部)
(前回から読む)
小田嶋:前回の続きで言うと、人の性格って、資質と環境に影響される、ということはあるけど、家族は単純に「役割」だったりする。そういうことだと思う。
岡:確かに家族は「役割」だよね。
お二人は兄弟をお持ちですが、家族ではなく兄弟というのは、どういったものでしょうか。
小田嶋:俺は兄と妹がいて、兄は全然理系の人間で、うちの近所に住んでいますけど、ほとんど交流がないですね。仲が悪いわけじゃないんだけど。
クリエイティブディレクター 岡 康道氏 (写真:大槻 純一、撮影協力:「Cafe 杏奴」※当時は東京都豊島区のお店でしたが、現在はリンク先に移転されています)
岡:小田嶋のところは兄弟で似ていないし、無関係みたいな人だよね(笑)。
小田嶋:だから若貴騒動のときに俺が抱いた感想というのは、30すぎた兄弟が仲いいわけがないでしょう、というか、別に仲が悪くさえないよ、というか、そんなところだった。逆に岡は何くれとなく弟にやさしい。岡が弟のことを、相変わらず気にしているのを見ると、ちょっと不思議です。
岡:それは、10代の途中で親父がいなくなってから(「体育祭」と「自己破産」と「男の子」と 3頁)、団結しなくちゃいけない必要に迫られた、という要素が大きい。兄弟で話し合わないと、家族の経済を前に進められない、という物理的なことがらが、あれこれとあったんだよ。
小田嶋:岡はすごく面倒見がいいやつでは全然ないんですよ、あらゆる意味でね。高校のとき、陸上部の後輩だとかはもう鼻も引っ掛けないという感じだったし、部下や友人でも面倒を見るとか、フォローをするとかいう役割の人間では全然ない。そうなんだけど、ただ弟だけは一応、何となく気にかけているというのは伝わってきてね。
岡:弟は生来、病弱だった。学校に入る歳になっても、ぜんそくがひどくて、おふくろが弟を連れてずっと病院に行っている、ということが日常的だった。一方、僕は小さいころから風邪一つ引かないという(アツシさんの連載での言及はこちら)。
3つ年下の弟と同じ本を読んでいました
めっぽう丈夫、というやつですか。
岡:そう、めっぽう丈夫で(笑)。僕だって本とか読んでいたいな・・・・・・という日もあるんだけど、母親が近所のおばちゃんとかに、「下の子が本当に弱くてね、上は頭は悪いんですけど、元気だけはよくて」みたいに言うわけ。そうすると、だったら外に出て遊ばなきゃいけないな、そうしないと母親がかわいそうだな、みたいな気になりますよ。だから僕にあてがわれた役割を無理やり演じようとしていた、というか、雨の日でも出掛けるぞ、みたいな感じがありましたね(笑)。
コラムニスト 小田嶋隆氏
小田嶋:それは分からないでもない。うちのいとこでも1人病弱な子がいて、その兄貴というのが弟をすごく気にかけていた。なんかセットで生きている、みたいな感じなんだよね。
岡:自分が恐ろしく健康だった、ということが引け目というのではないけれど、やっぱりどこか常に気にかかっている。だって病気で寝ている相手とは、ケンカをしようにもできないじゃないですか。それで読む本は同じですからね。あっちは早熟で、どんどん頭がよくなっちゃって、小学校3年ぐらいからはもう同じ本でよくなっちゃった。僕は6年生なのに3年生の弟と同じ本を読んでいてさ(笑)。
3年分のマージンは、あっという間に消えたんですね。
岡:弟はめったに学校に行かないんだけど、教科書をどんどん読んでいって、豊島区で2番とか1番とかの成績なの。俺は毎日行っているんだけど成績表は2ばかり、みたいなことになって(笑)。
小田嶋:何か大人になった後でも、弟がどこかで倒れた、という話がなかったっけ?
岡:弟は大学を出た後、就職しないでいたんだけど、中野駅で倒れたんだよね、栄養失調で。
中野駅で、栄養失調で倒れたけど、大丈夫
それ、戦前の話ですか。
岡:なわけないでしょう。僕は会社員だったんだけど、病院から電通に電話がかかってきたときは、さすがにあ然としましたね。お前、ふざけんな、って。今どき、駅前でふらふらして倒れるって、戦後じゃないんだからさ。それでしょうがないから引き取って、好きなものを食ってもらったんだけど、普通は金がないにしても、倒れる前にバイトとかするでしょう、と。
配給米がないとダメなんですね。生活能力に欠けるタイプなんですか。
岡:いや、生活への関心に欠けるんですね。
小田嶋さんとそういうところは通じるような。
岡:それはどうか分からないし、僕は保護者でもないんだけど、やっぱり社会に参加していかないという独特なタイプなので、気にはなりますよね。何かこう、放っておいたら危険だし、大丈夫なのか、と。
小田嶋:でも、全然大丈夫なんだよね、結局。
岡:そう、これが全然大丈夫なの。
その後、絵を描き始めて、銀座のプランタンで個展を開いて、それによってファンの女の子が付いて、その人と結婚したり何かしたりで、今はどっちが豊かか分からない。あいつには慰謝料も住宅ローンもないんだもん(笑)。
アツシ:そうです。ローンも慰謝料もありません。
今日は岡さんのその弟、岡敦さんがいらしています、なんと。
岡 敦氏
アツシ:こんにちは。小田嶋さん、お久しぶりです。
小田嶋:久しぶりだよね。たぶんプランタンで個展をやったときに見に行って、作品を買うだか何だかして、それ以来だよ。
アツシ:いや、それって僕、記憶にないんだけど(笑)。小田嶋さんが見に来てくれた記憶もないし、代金を受け取った覚えもない。
小田嶋:そういえば、俺サイドにも支払った記憶はないな。
岡:それ、何だよ、一体。
まだコメントはありません
コメント機能はリゾーム登録いただいた日経ビジネス電子版会員の方のみお使いいただけます詳細日経ビジネス電子版の会員登録
Powered by リゾーム?