怪しいTV欄

2022.6/24

防衛費 そもそも割高だとしたら

  参院選の自民党の公約として高市早苗政調会長は「日本を虎視眈々と狙う国、地域の指導者たちの意思決定にストレートに響く言葉を使うことに致しました」とたっぷり前振りして、次期の防衛費についてGDP比2%を念頭にすると表明しました。現在からのほぼ倍増です。

 「虎視眈々」は随分と芝居がかった言葉選びですし、「ストレートに響く」は他国の指導者の見識を随分と低く見積もってはいないでしょうか。そう心配になって、TBS・SBC「報道特集」の「防衛費"倍増"で10兆円も? 懸念の声が」という特集(18日放送)を見てみました。

 今月の世論調査では、防衛費の増額に賛成する人が半数超え。しかしかねてから報道されているように、自民党内にも疑問の声があります。岩屋毅・元防衛大臣は番組の取材にも、「金額目標が先にあって、そこに向かってどんどんどんどん買い足していけ」となることに懸念を。さらに海上自衛隊のトップにいた古庄幸一・元幕僚長は、日本がアメリカに支払う戦闘機などの代金は総じて「割高」で、NATO加盟国との取引の「1.5倍か、1.4倍」と実態を語りました。

 これは多くの人に、まさにストレートに響く話です。確かに戦闘機に定価はなさそうですし、オープン価格で相手を見て割高で買わされたりもするのなら、防衛費の「倍」増で、防衛力が相応に増すとはどうにもこうにも考えにくい。同じ洗濯機を割高で買っても、洗濯できる量は変わりません。

 番組は、アメリカの識者による解説で終わりました。現状分析として、ウクライナ侵略への世界の反応から、中国は武力行使に「より慎重に」なり、その可能性は「むしろ低くなった」。そして日本やアメリカも「中国のような国を挑発し、より攻撃的にさせる行動をとるべきではない」、と日本の防衛費増額の問題点を指摘しました。

 この現状分析や指摘と噛み合わないのが、増額に賛成する人が増えた日本の状況です。ウクライナ侵略で不安高まるなか、「日本を狙う国」として思い浮かべる人が多いだろう中国が、世界の軍事費ランキングの2位にいて1位の米国との差を縮めつつあることなどが伝えられているのだから、無理もありません。

 過剰に不安をあおられていないか。数字とお金のわかりやすさに誘導されていないか。

 NHKEテレ「ETV特集 ウクライナ侵攻が変える世界 私たちは何を目撃しているのか 海外の知性に聞く」(4月2日放送)でも、ノーベル賞受賞作家や欧州復興開発銀行の発案者などの識者から、ソ連の崩壊後に世界が「軍備縮小に真剣に取り組まなかったこと」、民主化の変化に苦しむロシアを支えるべきだったことが指摘されていました。そして、今度こそ戦後の対応を間違えてはいけないと。3人のうち2人が「敵を侮辱しないこと」が重要だとも言います。そして、市民やジャーナリズムによる監視こそが、誤りのない対応を実現するのだとも。

 世界がこうした状況にあるのに、軍事費ランキングの上位に上がるようなことで近隣の国に威力を誇るなど、何の意味があるのでしょう。しかもそれが割高な価格に基づくなら、なおさらばかげています。