「節約すでに限界」「これ以上削れるものない」 物価高、ひとり親世帯や年金受給者直撃

 「また値上がりか」。福岡県久留米市の女性会社員(43)は6月下旬、スーパーで輸入牛肉を手にため息をついた。数日前までは100グラム当たり20円は安かったのに。牛丼をせがむ長男の顔が浮かぶ。「ごめん」。心の中でつぶやき、豆腐と納豆を買って帰った。

 2年前に離婚し、中学1年の長男と市内のアパートで暮らす。事務職としての手取りは20万円。6月に転職して3万円増えたが、家賃や光熱費、携帯電話代、子どもの習い事代を払うと、余裕はない。ひとり親世帯に支給される月4万円の児童扶養手当は半分を貯金に回してきたものの、制服などといった中学の入学資金30万円として消えた。

 コロナ禍で昇給は望めず、やれることは日常生活での節約だった。値上がりした食用油を控えるため、揚げ物は作らない。電気代が月数百円安くなる料金プランがあると聞き、電力会社を替えた。

 英会話や塾代わりの通信教育など「習い事は我慢させたくない」。それでも高校、大学進学などで出費が増えていくことは目に見えている。「節約で耐えるのはすでに限界なのに」

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 年金の少ない高齢者の家計はさらに苦しい。「数百円が惜しく、バスに乗るのもためらう」。月8万円の年金で暮らす福岡市東区の女性(82)は力なく笑う。

 44歳で離婚し、築50年を超える団地で1人暮らし。家賃で年金の半分が消え、貯金はない。

 「これ以上削れるものはない」。食材や日用品の宅配サービスでは、カタログから欲しい商品を一度書き出す。すぐに必要なもの以外はバツ印を付け、特売品でも買わない。

 綱渡りの生活に追い打ちをかけたのは、年金の減額だ。6月受け取り分から一律0・4%減り、女性は年4千円の減額となった。「病気にでもなったら生活は一気に傾く。そもそも年金制度は若い人たちの時代まで維持できるのだろうか」

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 物価高は、2月末に始まったウクライナ危機に春からの円安が重なり、小麦などの原材料や石油といった燃料の輸入コスト増が背景にある。

 「長引くコロナ禍でぎりぎりだった暮らしに、生活コスト増がのしかかった」。困窮家庭に食料を提供するNPO法人「フードバンク福岡」(福岡市城南区)の事務局長、岩崎幹明さんはこう話す。4~5月、食料の提供依頼が八つの福祉団体からあった。感染禍で依頼が増えていた昨年同期の2倍という。

 帝国データバンクの調査によると、主な食品メーカーによる年内の値上げは1万品目を超え、平均の値上げ率は13%となる見通し。「秋ごろに再値上げがある」との見方もある。

 参院選の主要争点となっている物価高騰対策。全7野党が消費税減税を公約に掲げる。消費を促す効果が期待できるが、税収減の穴埋め措置は不透明なまま。

 一方、減税について「消費税は社会保障の安定財源だ」と真っ向から否定する岸田文雄政権。ガソリンなどの燃油価格の抑制策を柱に、原油元売りへの補助金や節電した家庭へのポイント付与を講じる方針だ。だが「規模が小さい」との批判もあり、生活者が恩恵を感じられるのか疑問が残る。

 「明日の食事すらないです」「子どもだけでも食いつながせてほしい」

 選挙期間中も、フードバンク福岡には切実なメールが毎日のように届く。岩崎さんは言う。「この10年で平均賃金は伸びず、非正規雇用が増加し、格差はどんどん広がった。今こそ、本当に困っている人たちを支える政策を考えてほしい」 (平峰麻由)

 参院選は7月10日の投開票に向け、候補者の訴えも熱を帯びる。物価高、ウクライナ侵攻を受けた外交・安全保障、新型コロナ、人口減少…。九州各地の争点の現場を歩き、地域の今を見つめる。

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