<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~   作:折本装置

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マイナスにマイナスをかける

 □【闘牛士(マタドール)】サンラク

 

 

 レイがログアウトした後、とりあえず装備を整えた。

 防具が装備できないとはいえ、装備枠は他にもある。

 まずは武器。

 俺は結構二刀流で戦うことが多かったが、デンドロの初期武器は双剣や二刀という選択肢はなく、もう一本ナイフを購入した。

 覆面で半裸の変態が武器を買おうとしていることについて、何か言われるかもしれないと思ったが、何も言われなかった。

 まあ、何か言われても困るから、それ自体は別にいい。

 むしろ驚いたのはスルーされたことではなく、スルーのされ方(・・・)だ。

 ちらりと俺を見て、驚きを目の奥に浮かべながらも、指摘しなかったし驚きを極力表に出すまいとしていた。

 つまり、俺の格好が異常であることに気付き驚いたうえで、気遣いをもって、見なかったことにしたのである。

 

 

 『どんだけ、高性能な、AI積んでるんだか』

 

 

 これがストーリー上重要なキャラならともかく、どう見てもモブだったからな。

 続いて俺は別の店で回復アイテムを購入。

 ここでも似たような対応をされた。

 続いて市場で【空腹】や【渇水】を防ぐために食料品と水を購入した。

 最後にジョブに就き、カフェインを摂取して朝までレベル上げにいそしんでいた。

 ちなみに、就いたのは闘士系統派生下級職である【闘牛士】である。

 回避前提のジョブであり、AGIの補正が高く、回避が成功するごとにステータスが上昇するスキルもある。

 他には《殺気感知》や《看破》なども取れる。

 問題点が三つほどあるが、順調といってもいいだろう。

 --今も。

 

 

『はっはあ、どうしたどうしたあ!』

 

 

 そして今現在も、レベル上げと狩りにいそしんでいる。

 俺の目の前にいるのは、水色の熊、【マジックレジスト・グリズリー】という名のモンスターである。

 というかこのゲーム、プレイヤーの名前は表示されないくせにモンスターの名前は表示されるんだよな。

 逆じゃないのか普通?

 まあギリギリこれのおかげでNPCとモンスターを間違えてうっかりペナルティ、っていう事態は免れたけどな。

 なんでゴブリンはモンスターなのに、オークはNPCなんだよ。

 明確な基準を示せ基準を。

 ちゃんとチュートリアルで説明すべきでしょいろいろ。

 ヘルプ読んでね、って投げるのよくないよ。

 プレイヤーやNPCキルしたら普通にペナルティあるんだろうし。

 

 

『はっ!こ熊さんこちら手のなるほうへ!』

 

 

 ちなみに手は鳴らしていない。代わりにナイフを打ち合わせている。

 《看破》がまともに機能していないあたり、俺よりステータスは全体的にかなり高いようだが、速度の差はそこまででもない。

 俺より早いが、リアルの山登り(原因:母)とゴリライオンで培った対動物先読みで対抗できる。

 そもそもステータスが高いからか、動きが単調だし、ブレスのような範囲攻撃も持っていない。

 魔法耐性が特性らしいが、俺は物理オンリーだから特に意味はない。

 このまま戦い続ければ、俺は十中八九こいつを倒せる。

 

 

「GOOOOOOO!」

『あっ!』

 

 

 だが、問題はある。

 それも、俺がこいつを、こいつらを倒せない超ド級の問題が。

 

 

『あークソ、また逃げやがった』

 

 

 そう、デンドロのモンスター、結構な割合で勝算がないと悟ると逃げるのだ。

 これが格下か、同格相手ならばいい。

 AGIに振り切った俺から逃げられる道理がないから、そのまま倒せる。

 だが、俺よりもステータスが格上の手合いとなると話が変わる。

 さっきの【マジックレジスト・グリズリー】にしたって、逃げられないように徐々に足を削っていったにもかかわらず普通に逃げられた。

 別におかしなことはない。

 サバイバルにおいて、勝利とはすなわち生存。

 だから、命の危険を回避するのは当然だ。

 当然なのだが、正直な感想としては「クソゲーでは?」という思いもある。

 何というか、NPCといい、モンスターといい、リアルに近すぎるのだ。

 先ほどの俺の行動にしても、そうである。

 デンドロは、リアルのような部位破壊、そしてそれに伴う出血などの状態異常があることに気付いたから、足を潰そうとしたのだ。

 

 

『まあ、別にいいか』

 

 

 結局、AGIを上げてあいつより早くなれば何も問題ないわけで。

 むしろ、別の問題のほうが深刻で、《殺気感知》いいいいいい!

 

 

『またお前か……』

 

 

 やせいのすらいむがあらわれた!

 先ほどからこの【ミニ・レッド・スライム】をはじめ、何度かスライムに遭遇している。

 で、このスライムだが物理攻撃が一切効かない。

 スライムには三パターンある。

 一、クッソ弱い雑魚。すぐ死ぬので物理でさっさと殴るのが最適解なパターン。

 二、基本的に物理攻撃が効かないが、コアがあるのでそれを壊せば倒せる、などといった「物理に強いが、物理職でも倒せる」パターン。

 そして三、物理攻撃完全無効な物理職お断りパターン。デンドロのスライムはこれに分類される。

 いや本当に、この事実を理解するのに結構時間がかかった。

 

 

『刺突、斬撃、打撃は全部だめ。バラバラにして踏みつぶしても、コアは見つからずすぐに再生』

 

 

 だってさ、ここ霊都のすぐ近くだよ?

 いわゆる初心者狩場だよ?

 そんなところに物理が一切効かないモンスター配置するって運営……。

 まあ、攻撃は体当たりオンリーだし、そんなに早くもないから、負けはしないけどさ。

 まあ、とりあえず、対処法は一つ、逃げるしかない……いや、もう一つの俺の抱える問題、というか弱点を考えると、イケるか?

 

 

『さて、どこにいるのかな』

 

 

 上を見上げて、目的のものがいるかどうかを探る。

 もちろん、そばにいるスライムの体当たりを躱すことも忘れない。

 

 

『あ、いたわ』

 

 

 俺の目に映ったのは、飛行モンスター、【トキシック・バット】という名前がついている。

 俺たち人間と同じくらいの大きさの蝙蝠だ。

 

 

『おーおー、やってるやってる』

 

 

 

 相手はどうやらプレイヤーらしい。

 鎧で防御を固める重戦士だろうか?

 もしかすると、そういう<エンブリオ>なのかもしれない。

 どうやら、俺と同様近接メインらしく、飛行モンスターという存在に苦しめられているようだった。

 ただまあ、名前からしても多分こいつは、本当に厄介なタイプだけどな。

 あ、【トキシック・バット】が口を開けようとして

 

 

『ここだ!』

 

 

 いまだ追いかけてくる、スライムをつかむ。

 消化液でも出してるのか、わずかに俺のHPが削れるが気にしない、コラテラルダメージ!

 つかんだスライムを、放り投げた。

 それと同時、【トキシック・バット】が紫色の霧状の「これは毒です」みたいなブレスを吐き出した。

 逃げ回っている間にわかったことだが、このスライムはある程度の固さ、というか弾力を持っている。

 ピンポイントに投げるのは無理でも、STRがレベルアップで増えてる状態なら、ブレスのどこかに当てるぐらいはできる!

 《看破》してみると、スライムもプレイヤーも【毒】の状態異常にり患している。

 

 

『よーし、まず第一段階クリア、と』

 

 

 俺に攻撃手段がないなら、よそから借りればいい。

 これで、弱点(マイナス)の一つは攻略した。

 さて、次だが、あ、やばい。

 

 

「SHAAAAAAAAAA!」

『やっぱそう来るよなあ』

 

 

 【トキシック・バット】が俺に気付いてターゲットを変え、紫色のブレスを、今度はこっちに吐きかけてきた。

 そうして、毒霧に隠れて奴が飛来して、衝突した。

 そして、血が飛び散った。

 

 

「SHA、SHAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」

 

 

 俺ではなく、【トキシック・バット】の血が。

 こいつが突っ込んできたとき、俺は《殺気感知》で見えずとも、こいつの位置を知ることができた。

 あとは、それに対してカウンターでナイフを突き出すだけ。

 加えて、これはいい意味で誤算だったが、毒霧は覆面をしているせいか、俺には効果がない。

 さらに言えば、俺の攻撃はそれだけにとどまらない。

 蝙蝠は、飛び上がり、距離を取ろうとして、失敗した。

 

 

「SHA?」

『お前の敗因は、一つだけだ』

 

 

 俺は、蝙蝠の首にしがみついていた。

 顔をナイフで刺された際に、減速したのを見逃さず、何とか飛び移れた。

 蝙蝠は、飛翔に失敗して落下する。

 そして、更にここから詰めに行く。

 

 

『俺の間合いに入った、だからお前の負けだ』

 

 

 当初の予定では、スライムのドロップを回収したら逃げるつもりだった。

 アウトレンジから一方的に攻撃してくる飛行モンスターには、本当に打つ手がなかったから。

 だが、こいつはその選択肢を取らなかった。だから、俺が勝つ。

 

 

『ほんとに、絞まるんだな。よかった』

 

 

 やがて、地に落ちた蝙蝠は、落下ダメージと窒息で死に、ポリゴンへと変わる。

 俺は、ドロップを回収すると、茫然としている鎧のプレイヤーの目の前に【解毒薬】と【HP回復ポーション】を置いて、走り去った。

 そうして、ドロップアイテムを売却したのち、その日はログアウトした。

 

 

 □■【高位■■■】???

 

 

「ふーん。なかなか面白そうな、パパのお眼鏡にかないそうな人材ね」

 

 

 その言葉は、本人にしか聞こえなかった。

 

 

 To be continued

 

 

 

 




Qなにしたの?

A視界が効かない中、大まかな方向だけで、カウンターしてひるんだすきによじ登って絞めて倒したんだよ。

補足
サンラクは【窒息】の状態異常は知りませんでしたが、【空腹】や【渇水】は知ってたので、多分【窒息】もあると踏んでいました。

余談
重戦士「すごい、あんな種族がいるんだ……」

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