<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~ 作:折本装置
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□アムニール・〈光輝の広場〉サンラク
ログインすると、霊都アムニール内のセーブポイントの一つである、〈光輝の広場〉にいた。
草むらの中心に噴水があるだけの広場だが、どうやら待ち合わせスポットとしてそれなりに価値があるらしく、それなりの人が集まっていた。
この一見ただの草むらにしか見えない広場、なんと夜になると草が発光するらしい。
すでに俺たちより先に行っているプレイヤーが書き込んでいた情報だが、彼らは「謎の光空間」とか呼んでいた。
まあ、こっちでは時間が三倍速で進んでるから、早く始めるというのはアドバンテージであり、そういう人たちから得られる情報はありがたいのだが……そういう下ネタって恋人が隣にいるとすごい気まずいんだよね。
夜、光空間、深夜アニメ、くっ、待て、バカな考えはよせ!
くそっ!いつの間に拘束から抜け出したんだ脳内ディープスローター!
やめろ!脳内で光魔法を応用したムーディーな間接照明を作り出すんじゃない!
……割とマジな話、玲と付き合いだしてから、脳内ディプスロの出現頻度が増してるんだよね。
一線超えた日の夜なんて、夢の中で一晩中「すごいねえ、
割とゲームに向いていた精神が玲に、一人の女性に向いているからだろうな。
つまりだ、クソゲニウムに侵食されている俺の精神を保護しているメガミニウムが玲から放出され、俺を癒してくれているわけだ。
あれ、そういえば付き合う前に俺、玲に向かって……。
「さーて、レイはどこにいるのかな?」
黒歴史?過去は振り返らない。
AGI型は過去のカスダメを引きずらないのだ。
あ、他プレイヤーにやられた恨みは別だよ?
なにせ天がちゃんと覚えてるからね、仕方ないね。
彼女のプレイヤーネームはすでに本人から聞いている。
シャンフロ同様、サイガ‐0だそうだ。
そう、だからとりあえずサイガ‐0という名前を探し、て?
「表示、無くね?」
無い。無いのだ。
探せども探せどもプレイヤーネームの表示がない。
何人かプレイヤーと思しき、左手に卵をくっつけた連中は見かけるのだが、どいつもこいつも名前の表示がない。
噴水の淵の上で、横たわって寝ている線の細い美少年。
噴水の側に陣取り、なぜかその辺の草をむしってマヨネーズをかけながら食っている男。
こういうやつらはプレイヤーであり、草むしり野郎を止めようとしている衛兵っぽい恰好をした犬顔の男は、多分NPCだ。
え、なにこれ。マジでプレイヤーとNPCの見分けつかなくね?
いや、話しかけてみれば分かるんだろうけど、左の手の甲見ないとマジでわからん。
初期装備のグローブが、手の甲露出するデザインになってるわけだよ。
「多分、プレイヤーネーム見ようと思ったら、専用のスキルがいるんだろうな」
どこで取れるのかもわからんし、そんなことしてたら彼女と合流できなくなる可能性もある。
やべえ。どうせプレイヤーネームがわかるから大丈夫だろ、とかたかをくくって外見聞いてないし言ってないんだ。
何ならレイの場合、性別すらわからんから絞りようがない。
そもそもここ、人が多すぎてよくわからん。
叫んでも、聴きとってもらえない可能性が高い。
……今も、「ふひょおおおおおお、エルフだあああ!」とか「幼女!幼女!幼女!」とか叫んでるプレイヤーっぽい奴がそれなりにいて、ああもう、うるせえ!
こうしている間にも、レイのほうが俺を探して変なところに行ってしまう可能性もゼロではない。
「となると、あれしかないか」
俺は広場の噴水の傍にいるプレイヤーの中から一人の男の傍まで行き、声をかける。。
「ハロー兄弟。ちょっとそれもらえないかな。代金は払う」
◇◇◇
「ら、サンラク君。あの、レイです」
「おお、よかったレイ。合流できたね」
「は、はい。ですが、あの、ごめんなさい」
「え?ああ」
いわれて俺は、レイがどこを見ているのかを察する。
俺が脱ぎ、手に持って掲げたジャケット。
そこには、
たまたまマヨネーズを持っているプレイヤーがいたので買い取ったのである。
ちなみに草むしり野郎は、俺にマヨネーズを売るやいなや、懲りずにアイテムボックスからケチャップを取り出し、衛兵らしき犬顔の男(?)にめちゃくちゃ怒られていた。
うわあ、このジャケットもう使えないな。
というか、気持ち悪くて使いたくない。あとで売り払うか、もしくは捨てることにしよう。
「気にしないで。俺が勝手にやったことだし」
そう言って、俺は噴水の淵から飛び降りて着地する。
ほんとはマジックと看板があればよかったんだが、そんなもの都合よく落ちてなかったからな。
マヨネーズで代用するしかなかった。
「ていうか、むしろ俺こそごめん。見苦しいとこ見せちゃって」
「え、いえ!大丈夫です!見苦しくありませんから!」
「そう、ならよかった」
マヨネーズ人間、もといマヨラクになってしまったわけだが、好感度がダウンしたわけではないならよしとしよう。
「あの、サンラク君。私のほうこそ変じゃないですか?」
「え、全然変じゃないよ。むしろ、その、いいと思う」
レイのアバターは、俺と同じリアルをベースにいじったもの、わかりやすく言えばシャンフロの女性アバターだった。
体型は、おそらくリアルから全くいじってないのだろう。
何で分かるんだって、それはまあ、うん。
服装が魔法使い系なので、それが少々意外だろうか。
「あ、ありがとうございます」
変な話だが、こうして赤面して喜んでいる顔を見ると、ああ、
いやほんと、二人きりでよかった。
と、レイが何かアナウンスが来たらしく、ウィンドウを操作している。
「あ、あのすいません。電話みたいです」
「ん。そっか。しばらくここで待っておくよ」
そういえば、このゲームではハードと端末を同期させることで、メールや電話の着信を知ることができるらしい。
あと、リアルで何かあると【空腹】や【来客】などのアナウンスが出るらしい。
多分、実家からの連絡なのだろう。
あわただしくログアウトしてしまった。
とりあえず、できることもないし、しばらく待つことにするか……ん?
「おお、何だこれ、光ってる?」
俺の卵、もとい<エンブリオ>が輝き始めた。
これはレイから聞いた話ーー彼女もクイーンから聞いたーーだが、<エンブリオ>はマスターのパーソナルを解析すると孵化するそうだ。
その後は<マスター>の経験やパーソナルをもとに進化していくらしい。
で、<エンブリオ>自体はオンリーワンだが、カテゴリーはあるらしい。
結界型のTYPE:テリトリー。
住居型のTYPE:キャッスル。
乗騎型のTYPE:チャリオッツ。
魔物型のTYPE:ガードナー。
武器型のTYPE:アームズ。
何でも、他にも一応レアカテゴリーや上級カテゴリーはあるらしいが、基本はこの五種だとか。
俺のパーソナルから生まれる<エンブリオ>、一体何が出るかと俺は期待に胸ふくらませ。
ーー次の瞬間、俺の衣服がすべて膨らみ、否、
『…………』
はあああああああああああああん!?
To be continued
【■動戦■ ■■■■■■■ル】
TYPE:アームズ
能力特性:■■力
ついにサンラクの<エンブリオ>が孵化。
詳細は次回、というか明日。
補足説明
この世界戦では、「シャングリラ・フロンティアは円満にサービスを終了した」ということになっています。
あと、デンドロ一話の「成功といえるゲームは一つもなかった」というのを「デンドロほどのリアリティがあるゲームは発売されなかった」という風に解釈しています。
辻褄合わせがありますが、どうぞよろしくお願いします。
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