<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~   作:折本装置

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よろしくお願いいたします。


地を進む狼、相対するは天翔ける蛇
あなたは、何のために遊戯をしますか


 □???

 

 

「これは……」

 

 

 周りを見ながら俺は思う。

 湿った土の感触。

 どこか青臭い草木の匂い。

 あたりを覆うキラキラした霞。

 近くにあった花の香り。

 空気が肌をなでる感触。

 

 

 --そして、何よりあの落下した時の感覚。

 間違いない、と俺は実感した。

 これこそ、これこそがまさしく俺が探していたもの。

 そう、すなわち。

 

 

 

「クソゲーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」

 

 

 俺は先ほどと全く同じ叫びを繰り返した。

 

 

 □とあるゲーマーについて

 

 

 2043年7月15日、無限の可能性をうたう<Infinite Dendrogram>が発売された。

 のちに世界を席巻するVRMMOとなる<Infinite Dendrogram>ではあったが、発売日当日に買っていたプレイヤーは極々少数派である。

 陽務楽郎もまた、その極々少数派の一人であった。

 

 

 彼が購入した理由はいたって単純、「クソゲーだと思ったから」、それだけである。

 発売日前日まで一切の情報がなく、内容は誇大広告もいいところ。

 全世界単一サーバーや時間常時三倍加速など、かのシャングリラ・フロンティアですら行われなかったことを、実現できるとは思えない。

 VRゲーム黎明期に作られた<NEXT WORLD>同様、誇大広告の張りぼてだと解釈したのである。

 まあ、理由はどうあれ、彼は行きつけの店であるロックロールで<Infinite Dendrogram>の専用ハードを購入した。

 購入した時も、「専用ハード?まさかフルダイブですらないマジもんの偽物か?」と考えたものの、結局購入した。

 万が一の健康被害を考えて、悪友二人には<Infinite Dendrogram>を購入したことをメールで説明し、トイレと水分補給を済ませてからログインした。

 ちなみに、「どうせパチモンなんだしわざわざそこまで備えなくてもいいか」と考えて糖分やカフェインは補給していない。

 そうして彼はログインし、チュートリアルを始めた。

 そして、自身の予想がある意味で正しかったことに気付いた。

 またある意味では外れていたことにも気が付いた。

 となると、やることが()()ある。

 彼はそう判断し、一度ログアウトした。

 

 

 □陽務楽郎

 

 

 「まじかよ」

 

 

 ログアウトしてすぐ、携帯端末の時間を見て驚愕した。

 マジで三倍速で時間が進んでやがるのか。

 どうなってんだ。シャンフロも大概やばかったが、今回はそれ以上にやばい。

 まあ、いいや。

 とりあえずさっさと用事を済ませよう。

 

 

 ◇

 

 

 一つ目の用事を済ませて、再度ログイン。

 

 

「やあ、遅かったね。早く済ませておくれよ、時間が勿体無いからね」

 

 

 そんな風に不機嫌そうな声で俺に話しかけたのは白い二足歩行のウサギ。

 名を、管理AI十二号、ラビットというらしい。

 俺のチュートリアルをやってくれるんだとか。

 声から、少年、と言うかオスだなと推測される。

 ベストを着て、懐中時計を手に持っている。

 時間に几帳面なのか、かなりの頻度でその懐中時計を見ている。

 まあ、時間に対してストイックなのはいいことだよな。

 ちょっと油断するとピザ留学になってしまうからなあ。

 

 

「……チュートリアルを始めてもいいかな?」

 

 

 考え事をしている俺を見かねてか、ラビットが声をかけてくる。

 俺は薄く笑ってこう返す。

 

 

「おう、なにをすればいいんだ。さっさと始めようぜ、時間が勿体無いからな」

「…………」

 

 

 おっ、苛ついてる苛ついてる。

 ていうか煽られて反応するとか、ここのAI優秀すぎません?

 一周回って逆にアホな気がするまである。

 まあ、こいつのキャラ設定は大体つかめた。

 時間が勿体無い。

 時間を無駄にする相手じゃなく、自分の時間が削られるのが嫌なタイプ。

 わかるよ、俺も作業系で時間を無駄にしていく感覚はトラウマものだったからなあ。

 探して、探して、桃桃もももももももももももも……はっ!

 

 

「本当に君、大丈夫かい、頭」

「大丈夫だ、問題ない」

「……そうかい、じゃあプレイヤーネームを設定しても」

「サンラク」

「わかった」

 

 

 このウサギ、いっぺん絞めてやろうかな、という思考とは裏腹に、口はスムーズに動く。

 まあ、当然といえば当然かな。

 ずっと使ってきたプレイヤーネームだし。

 最近は別の名前も……いや、今はカボチャのことは忘れよう。

 というか、ウサギって懐かし……いや、今はヴォーパル魂のことは置いておこう。

 

 

 

「じゃあ次は、この世界の容姿を設定するよ。さっさと決めてくれるとありがたいかな。時間が勿体無いからね」

 

 

 俺の思考を置き去りにして、ラビットはチュートリアルを進めていく。

 

 

「ふむ……」

 

 

 シャンフロをはじめとするほとんどすべてのゲームでそうだったんだが、俺はキャラクターのアバターと現実の肉体は別にする派だ。

 ……しかし、ここまでバリエーションが多いと逆にめんどくさいな。

 外道鉛筆と違って、俺はキャラクリにそこまで力入れてないしなあ。

 え、なにこれ、動物型とかにもできるの?バリエーション広すぎでしょ?

 

 

「これ、動物型にしたりすると補正とかかかるの?」

「いや?ステータスは変わらないし、スキルが付くとかもないよ。ああ、ついでに実体験から言うと動物型は慣れるのに時間がかかると思うよ。人の体とは全く違うからね」

「……やめとくか」

 

 

 どうやら、GH:Cのような動作のアシスト補正とかはないらしい。

 時間三倍速が実現しているあたり、予算とか技術の問題じゃなくて、コンセプトーーリアリティを追求した結果なんだろうな。

 しかしそう考えてしまうと、このゲーム一周回ってクソゲーでは?

 

 

「ああそうだ、本来の姿を基にしたほうが楽だと思うよ。時間が勿体無いからね」

「おう、じゃあそうするわ」

 

 

 迷っている俺を見かねたのか、ラビットがアドバイスをしてくれたので、それに乗ることにした。

 まあ、顔を大幅にいじれば問題ないだろう。

 その後、肌を黒くしたり、手足を伸ばしたり、顔のつくりをいじったりして、俺のアバターは完成した。

 これならまず、俺だとはわからないだろう。

 名前込みだと危ないかもしれないが。

 

 

 その後は、適当にアバターにあった軽戦士風の装備を選んだ。

 武器はナイフにした。

 あと、視界選択とか言われたけど、現実視にしておいた。

 いや、ここまでやっといて今更変更するっていうのもね。

 それに、なんとなく()()ならこうする気がしたから。

 

 

「それじゃあ、所属国家を最後に決めてもら「レジェンダリアで」理由を聞いてもいいかな?」

 

 

 アンケートみたいなもんかな?

 これ、答えるのちょっと恥ずかしいんだが。

 

 

「……幾星霜の議論の果てに」

「……?まあいいや、これにてチュートリアルは完了。あとは君の好きにするといいよ」

「それは、どういう?」

「だから、言ったとおりだよ。この本物の世界、<Infinite Dendrogram>では君たち<マスター>は自由だ。できるなら、何をしたっていいのさ」

 

 

 先ほどまでとは、比べ物にならないほど、真剣な声音だった。

 なるほど、リアルな世界で自由に、がこのゲームのコンセプトなわけだ。

 ん?<マスター>?なんだそれ?

 

 

「その左手の甲にある、<エンブリオ>とおなじさ。これから始まるのは、無限の可能性」

 

 

 あ、ほんとだ、いつの間にかなんかついてる。

 いや、ちょっと待て、ちょっと待って。

 <エンブリオ>?<マスター>?ひょっとしてなんか大事なことすっ飛ばしてるんじゃ。

 

 

「ああ、そういえば、<エンブリオ>の説明忘れてた、まあいいか。どうせもう、時間がないし」

 

 

 そうラビットが言った直後、地面が消失して。落下した。

 このゲームの核といってもいいであろう、情報を忘れていた管理AI(ポンコツ兎)に対して、俺は落下しながら、叫んでいた。

 

 

「クソゲーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」

 

 

 かつて何度も叫んできた、この言葉を。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 かくして、物語は冒頭へと戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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