文・野口美恵(スポーツライター)
今季初戦となった全日本選手権では、ショート、フリーともに新たな伝説を予感させる新プログラムを披露した羽生結弦選手。プログラムが完璧に身体に染みこんだパーフェクトな演技で319.36点と、真の日本王者の存在感を示しました。北京五輪のプレシーズンとなる今季、26歳になってもなお進化を続ける姿には、圧巻というほかありません。
披露した2つのプログラムは、それぞれ脳裏に焼き付くものでした。ショートの『Let Me Entertain You』は、ロビー・ウィリアムズのロック。
「最初はピアノ曲を探していたのですが、世の中の状況を見ているうちに、やっぱり、皆さんがこんなに辛い中で、ちょっとでも明るい話題になったらなという思いで決めました。」
羽生選手のリズム感やキレ味のある動きは、『パリの散歩道』や『Let’s Go Crazy』を思い起こさせながらも、さらに身のこなしに余裕がある演技。ロックの荒々しさを爆発させるタイプではなく、ビートに乗る楽しさを教えてくれるようなプログラムです。
ジャンプは4回転サルコウ、4回転トウループ+3回転トウループ、トリプルアクセルという構成。全日本選手権ではすべてのジャンプを美しく決め、103.53点での首位発進となりました。スピンが一つ、シット姿勢での回転数が足りなかったためにノーカウントになりましたが、これも本来なら、テスト大会として出場する初戦で確かめて次戦に繋げるのが通例。世界選手権にむけて、さらにパワーアップさせる要素が見つかったということでしょう。
フリーは、一言では語りきれない大作です。大河ドラマ『天と地と』の曲を使い、上杉謙信公への共感から生まれたという作品。羽生選手は音源作りにも積極的に参画し、細かい音色を足したり、他の楽曲を繋げたりといった音楽プロデュースの視点からも、作品づくりにこだわりました。ジャンプやイナバウアーなど一つ一つの場面で、自身の感情と完璧に一致する音源にするため、18ものバージョンを作り、本番用の音源を完成させました。
「僕自身、競技することは好きだし、戦うことの楽しみや刺激はたまらないものです。でもその中で、戦っても勝てなくなってきたり、また僕が1位になることで犠牲があったりすることも感じていて、上杉謙信公の戦いへの価値観のようなものに影響を感じています。この世の中、戦わなきゃいけないことがたくさんありますが、戦いに向かっていく芯みたいなものが見えたら良いなと思います。」
羽生選手は、世界の頂点を目指す挑戦者としての戦いを経て、王者になり、そして王者でありながら進化をし続ける戦い方まで、あらゆるステージの戦いを経験してきました。だからこそ感じてきた深い葛藤を投射したこのプログラムは、彼の半生を描くドラマとも言えるでしょう。
全日本選手権では、4回転ループから始まり、3種類4本の4回転を成功。フリー215.83点と、国内参考記録ながら、今季の世界記録となる得点をマークしました。
記者会見では、「4回転アクセルを入れるなら冒頭で・・・」と、4回転アクセルについても言及した羽生選手。すでに完成度がここまで高いのは、さらに難度の高いジャンプを組み込んでいくためのスタートに立った、ということなのかもしれません。
いずれにしてもフィギュアスケートの歴史に残る名プログラムになることは間違いありません。スポーツと芸術が融合した傑作が誕生する予感で、胸がいっぱいになります。
今季はとうとう怪我なくこのGPファイナルを迎え、羽生結弦の真の実力が発揮できる舞台が整いました。新たな伝説を記す日が、刻一刻と迫っている予感がします。
今季の初戦オータムクラシックは、規則改正の影響を受けて、思ったほど点数が伸びない苦しい闘いからスタートしました。それは、今季から「重要なエラーがあった場合の演技構成点の上限」が明記されたことが原因でした。「重大なエラーが2つ」の場合、「スケート技術、つなぎ、構成は9.25点まで。演技力、音楽解釈は8.75点まで」と明記されました。もともと9点台に届かないような選手には大きな影響はありませんが、彼のように9点台後半を出せる選手にとっては、よりマイナスが厳しくなる傾向があります。そのためフリーでは、冒頭2つの4回転でステップアウトし、ほかのジャンプはクリーンに降りたものの、演技構成点がグッと引き下げられてしまいました。
しかし羽生は、悔しさから学び、成長するタイプです。今季の点数の傾向を理解し、自分の持ち味を見直すと、カナダ杯に向けてはしっかりとジャンプの質と演技をブラッシュアップしてきました。
カナダ杯は、今季の飛躍を象徴する一戦でした。冒頭の4回転ループ以外はしっかりとジャンプを降り、なかでも後半に「4回転トウループ+オイラー+3回転フリップ」を成功。この一つのジャンプで20.90点という高得点を得て、これはカナダ杯の時点での「一つの技術で獲得した史上最高点」をマークしました。
またカナダ杯と対比になるのは、NHK杯でした。今度は4回転ループとサルコウをしっかり降りることを目標に掲げた羽生。実は、ループは4回転の中でも「試合の一発で降りる」という面では、最もリスクの高いジャンプです。右足だけで踏みきるため、「高さを出そうとすると回転が足りない」、「回転をつけすぎると斜めになったり高さが出ない」という難しさがあり、成功するためには、繊細な重心位置とタイミングが求められます。そのため氷の硬さや、整氷の状況などに大きく左右され、氷との対話が求められるジャンプなのです。羽生自身もこう語っています。
「エッジ系ジャンプは氷に左右されやすい。トウ系であるルッツやフリップを身に付けられれば、そのほうが(フォームが)固まれば成功率も安定します。」
そんなリスクがあっても「氷との対話」を選んだ羽生。NHK杯では、「初日に乗った時に好きな氷だなと感じた」と言い、その後も、氷の質を何度も確かめながら4回転ループの練習を繰り返していました。本番では、6分間練習で氷に降りると手のひらで氷を触り、そして舐めて、うなずくという仕草も。「味を確かめた」ということですが、羽生にしかできない境地といえるでしょう。
NHK杯では見事に4回転ループとサルコウを続けて成功。エッジ系の4回転を2種類連続で降りるというのは、氷の感覚をマスターした証拠です。
「GPファイナルは、とにかく優勝したいです。さいたまの世界選手権では、フリーでそこそこ良い演技をできたけれど、それでも勝てなかった。記憶には残るけれど、記録には残らない。それは意味がないと僕は思います。しっかり結果を獲りたい、という強い気持ちです。」
GPファイナルでの優勝を誓う羽生。もちろんその先には、今季の大きな目標として掲げている4回転アクセルへの挑戦が待っています。常に成長を誓い、渾身の演技を見せてくれる彼は、GPファイナルの男子フリーの日に25歳の誕生日を迎えます。伝説の1ページを目に焼きつけたいと思います。
平昌五輪で66年ぶりの五輪連覇を達成した羽生結弦にとって、再び試練のシーズンがやってきています。11月のロシア杯、フリーの朝の公式練習中に右足首を捻挫。このまま滑ったら怪我が悪化すると言われながらも、強行出場して優勝をもぎとりました。
「ロシア杯、グランプリファイナル、全日本選手権と、どの大会を取りにいくか考えたときに、ロシアだったからこそ、この試合を選んだと思います。」
今季は、羽生にとって立ち返るシーズンに位置づけています。そこで子供の頃からの憧れである、ロシアの皇帝エフゲニー・プルシェンコの代表的プログラム『ニジンスキーに捧ぐ』の曲を使い、自身のプログラムのタイトルを『Origin』と命名。自分の原点を探る、そんな意味が込められているのでしょう。だからこそ、プルシェンコの母国であるロシアの地で、『Origin』を舞ってみせることが大切だったのです。
無理をしたため、右足首の怪我は長引き、12月のGPファイナル、全日本選手権は欠場。コーチのブライアン・オーサーによると1月から氷上練習を再開しているということですが、リハビリの状況はまだわかっていません。
もちろん平昌五輪も、右足首の負傷が完治しない中、迫真の演技で優勝。これまでにも何度も怪我や病気を乗り越え、本番で強さを示してきました。羽生の場合は、練習に復帰してからピークに達するまでの「ピーキング」の準備期間が短いこともあり、1月に氷に乗り始めているならば、3月に万全の調子にもってくることは十分可能でしょう。奇跡の復活劇を祈り、エールを送りましょう。
男子のフィギュア史上でも歴史的な“新4回転時代”のなか、その牽引者である羽生結弦はどこまで高みに登っていくのでしょうか。昨季は史上初の300点超えとなる「322.40点」と「330.43点」を叩き出しました。さらに今季も、11月のNHK杯で「301.47点」、2月の四大陸選手権では「303.71点」をマークし、世界選手権に向けてジワジワと調子を上げてきているのです。
今季の羽生は、過去のタイトルを振り返ることなく前進を続けています。「五輪王者」「世界王者」「世界最高得点保持者」というあらゆるタイトルを手に入れてきましたが、追われる立場にはならず、挑戦者の心持ちで世界初の4回転ループを取り入れることにしたのです。
昨季の世界選手権後は、左足甲の靭帯を痛めて2ヶ月ほど休養をとっていましたが、6月に復帰してからは、4回転ループの練習に特化。「右脚で跳んで右脚で降りる」という跳び方をするループは、左脚を怪我している彼にとって、リハビリにもなる技でした。
今季初戦となるオータムクラシックでは、史上初の成功者に。その後はジャンプでなく、演技全体の質をブラッシュアップする練習に方向転換しました。すると11月のNHK杯では、ジャンプ、スピン、ステップの精度が増し、プログラム全体を1つの作品へと昇華。自身3度目の300点超えとなる301.47点をマークしました。
「久しぶりに300点を見れてホッとしたのと、今日はお客さんに目が届くようにと思って滑ったので、楽しかったです。お客さんと呼吸も一緒にできた気分です」と羽生。
GPファイナルは、ミスがありながらも4連覇を果たすと「もっと点数を上げて、誰からも追随されないような羽生結弦になりたい。(4回転4本のフリーは)来季完成させればと思っていたけれど、今季の後半には完成させたい」と宣言しました。
四大陸選手権は、ショートでミスがあり3位と出遅れたものの、フリーは4本の4回転を成功させ206.67点をマークし、自身4度目となる総合300点超えを果たしました。
しかし優勝は米国の新鋭ネイサン・チェン。すると羽生はこう話しました。
「四大陸選手権の銀メダルは3個目ですが、今回が一番楽しかった銀メダル。ネイサンの怖さを感じながらやっていました。それが自分の限界を引き上げてくれることは間違いないです。ネイサンは尊敬に値するし、正直におめでとうと言いたい。僕には追うべきものがたくさんあって、もっともっと自分はレベルアップできると感じられる試合でした」
世界選手権に向け、飽くなき闘争心は最高に燃えさかっていることでしょう。
昨季は史上初の300点超えとなる、322.40点と330.43点を叩き出し、フィギュアスケートの歴史を塗り替えた羽生結弦。今季もNHK杯で自身3度目の300点超えを果たし、「羽生が打ち立てた記録を世界中の選手が追い掛ける」という時代を、確実に築き上げています。
羽生は昨季までに、「五輪王者」「世界王者」「世界最高得点保持者」というあらゆるタイトルを手に入れているにも関わらず、今季はさらなる進化を目指し、世界初の4回転ループを取り入れました。昨季の世界選手権後は、左足甲の靭帯を痛めて2ヶ月ほど休養をとっていましたが、6月に復帰してからは、4回転ループの練習に特化。「右脚で跳んで右脚で降りる」という跳び方をするループは、左脚を怪我している彼にとって、リハビリにもなる技でした。
今季初戦となるオータムクラシックで見事に初成功させると、史上初の成功者に。その後は4回転ループだけでなく、演技全体の質をブラッシュアップする練習に方向転換しました。
今季のショートは、ロックの王様、プリンスの『レッツゴー・クレイジー』。羽生が得意とするノリの良いアグレッシブな曲です。フリーは久石譲のメドレーで自らタイトルを名付けた『ホープ&レガシー』で、美しいメロディーに溶け込むように滑ります。
11月のNHK杯では、4回転サルコウや4回転トウループ、さらにはスピン、ステップの精度が増し、ショート、フリーともに、プログラム全体を1つの作品へと昇華。自身3度目の300点超えとなる301.47点をマークしました。
「久しぶりに300点を見れてホッとしたのと、今日はお客さんに目が届くようにと思って滑ったので、楽しかったです。お客さんと呼吸も一緒にできた気分です」と羽生。
GPファイナルは、ショートでは106.53点をマークして他を圧巻。しかしフリーでミスが相次ぎ、187.37点と得点が伸びず、300点超えには至りませんでした。ただし、ミスがあってもGPファイナル4連覇を果たし、その強さを示したことに違いはありません。
「これからはショート・フリーともに良い演技ができる練習をしていきます。4回転ループに関しては、苦手意識はないし、真新しさという感覚も無くなりました。特にフリーでの4回転ループの確率は上がっています。あとはもっと点数を上げて、誰からも追随されないような羽生結弦になりたい。(4回転4本のフリーは)来季完成させればと思っていたけれど、今季の後半には完成させたい」と宣言しました。
全日本選手権はインフルエンザのために欠場。GPファイナル以来の試合となる四大陸選手権には、これまで以上の気迫で臨んでくることでしょう。
昨季は史上初の300点超えとなる、322.40点と330.43点を叩き出し、向かうところ敵無しの羽生結弦。2016年世界選手権は調子のピークが合わずに銀メダルとなりましたが、実力、実績ともに世界トップの選手であることに、疑う余地はありません。
五輪王者、世界王者、世界最高得点保持者というあらゆるタイトルを手に入れているにも関わらず、今季はさらなる進化を目指し、世界初の4回転ループを取り入れました。数年前からアイスショーや練習では成功させていたものの、試合で跳ぶとなるとその難しさは格別。4回転ループを冒頭でミスすることによってリズムが崩れ、プログラム全体を壊しかねない危険な技です。しかし羽生はあえてこの大技を今季の挑戦に据えました。
春先に左足甲の靭帯を痛めて2ヶ月ほど休養をとり、6月に復帰してからは、4回転ループの練習に特化。「右脚で跳んで右脚で降りる」という跳び方をするループは、左脚を怪我している彼にとって、リハビリにもなる技でした。
そして夏には練習で7割以上の成功率に。ブライアン・オーサーコーチも、試合で挑戦することにOKを出しました。
そして今季初戦となるオータムクラシックで見事に初成功。史上初の成功者として、歴史に名を刻みました。しかしループ以外のジャンプは練習不足とスタミナ不足もあり、ミスが多く、得点が伸びません。カナダ杯で2位となったあとは、方向性を転換。昨季と同様に、プログラム全体の完成度をあげ、得点を積み増していく練習に注力してきました。
そしてカナダ杯の雪辱を誓ったNHK杯では、これまでの2戦とはまったく違う様子で登場。4回転ループだけでなく、他の4回転サルコウや4回転トウループ、さらにはスピン、ステップの精度が増し、プログラム全体が1つのまとまりを持つレベルまで磨き上げていました。しかも心の底から演技を楽しんでいるのが観客にまで伝わり、観客はスタンディングオベーション。今季前半戦で、早くも300点超えとなる301.47点をマークしました。
「久しぶりに300点を見れてホッとしたのと、今日はお客さんに目が届くようにと思って滑ったので、楽しかったです。お客さんと呼吸も一緒にできた気分です」と羽生。新たなジャンプを加えながらも、演技をまとめていくという、新たな進化を遂げました。
今季のショートは、ロックの王様、プリンスの『レッツゴー・クレイジー』。羽生が得意とするノリの良いアグレッシブな曲です。フリーは久石譲のメドレーで自らタイトルを名付けた『ホープ&レガシー』で、美しいメロディーに溶け込むように滑ります。
GPファイナルは、昨季に330点超えを果たした試合であり、また4連覇もかかっています。3種類の4回転ジャンプと、磨きのかかったプログラムをたずさえ、さらなる感動を私たちに与えてくれることでしょう。