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物語はこう始まる。
吟遊詩人が琴をつま弾き“うたうたう猫の伝説を知っているかい”と言葉を歌い紡ぐ。けれど君は、この世界の神々を知っていようともうたうたう猫を知るはずがない。 神々が大地を歩く時代は過ぎ去り、彼女を知るものは世界に流れる風と古き大地、詩歌う人たちしかもういないから。 詩にだけ遺されしうたう魔神。確立した天、あらゆる災厄が彼女を遠ざけても、詩人は決して歌うことをやめなかった。
琴をつま弾いた吟遊詩人は、見てきたかのような得意げな顔で歌い継ぐ。
耳と尾を持ち翼負う、リビカ。 神の怒りをかい滅ぼ去れようとしていたものを哀れんだ女神は猫の体へ入り込み、そのものと交われり。リビカはあるとき身ごもりて、虹色の卵を産む。虹色の卵は陽光に輝くが、そのあまりの眩しさにリビカは思わず目を背く。卵は天より転げ落ち、雲に当たって砕け散ってしまう。しかし卵の中より出でし「種」、リビカの歌で目を覚まし、芽吹いた大地が広がって、紡がれるのは、はじまりの歌。
これは、彼女のはじまりの物語。
天から転がり落ちる虹の娘、理から外れしまつろわぬ神。うたうたう彼女は、いったいどこへ。
契約と妖魔、瘴気に満ちた地は彼女の目にどう映る。大地は歌わず、沈黙してばかりだ。けれど彼女はこの地がひだまりに溢るるさまを見たいと歌った。大地は芽吹きの歌に震え────
聞き入って、いつのまにか閉じていた目を開いた。それはいまはもう、懐かしいぐらい昔のお話。
「うたうたう猫は訪れはするが芽吹きをもたらし去っていくもので、留まりはしない。」
得意げに琴をつま弾く吟遊詩人に揶揄われたのを思い出して、ごろりと寝転んだ草の上で大きく伸びをする。これは、宿命、とでも。あの言い方、随分意地悪な吟遊詩人野郎だった。
何だか辛そうに木にもたれかかっているものだから、つい、弓の弦につめたてて、うたを歌っていた。
「君はボクのために歌ってくれただろう?」 「わたしのうたは、あなたのためじゃない」 「そうかい?どちらでもいいよ、これからはボクの祝福とともに、もっと自由に歌うといい。」
私はその日、すべてをおもいだした。 祝福を押し付けた風が過ぎ去った大きな木の下で、私の知る歌が、この世界にはないことも。 私が、何度目かの命であることも、すべて。
手の中には、風の神の目が輝いていた。
あの吟遊詩人野郎、人の髪の毛の色も変えていきやがった。
背景、親愛なるモラクス様。
あなたの配下でありながら、あまり役に立てず戦死した魔神は人間へと生まれ変わり、風神のもたらす風吹くモンドで
璃月七星からの依頼。一世一代の大舞台。西風教会の信者を増やしておいでという騎士団本部からのそこそこの圧力。 他国で開催されるは、このままいけば相方不在の単独ライブ。
「絶対、バーバラが行った方がいいと思う。」 「だから私はいけないの!」
意地でも彼の地を踏むものか。こんな姿見られたくない。ベショベショに泣きながら西風教会の扉にしがみつく私を引き剥がそうとしているバーバラ、私たち二人の様子がいつもと違うと周囲にファンが集まってきた。ライブじゃないです。
「ライラちゃんとバーバラちゃんだ!」 「泣いてどうしたんだい、ライラちゃん!」 「大丈夫だよ皆!ほら、ライラもしっかりして!」
ぎゅっと抱きつかれて抱き返す。バーバラと離れるのも嫌だ。離さないで。私たちズッ友でしょ。モラクス様に会わせる顔がなさすぎる。
「もう、泣かないの!モンドは私とお姉ちゃんに任せていってらっしゃい!」 「えっ」 「諦めるんだ、ライラ」 「そんな」
そのまま璃月行きの馬車に乗せられて、私はいま売られていくヤギの気持ちです。
風の神の目を授かった娘を溺愛してる両親はあるとき私を教会に預け、そこまで厚い信仰心を持ってはいなかったが流れで祈祷牧師をしている。子供に夢をお届けするプリティでキュアキュアではない、だがバーバラとたまにユニットを組んでいる。
西風大聖堂の外側の壁に、何故手をつき項垂れているのかと聞かれた人々は、こう答える。
「ライラちゃんに会いたすぎてつらい」
推しは生きる活力。私、その気持ち、とてもわかる。歌いたい歌も歌えないよ、こんな世界じゃ、poison。急展開が過ぎたが転生者は歌って踊れる祈祷牧師を死んだ目でしていると思っていただければ良き。あと祈祷牧師の前は魔神してました、璃月の行く末を見届けられずに戦場で死んだのは地味に後悔してる。情報の多さはついて来れるやつだけついてきて欲しい。
信奉者が増え教会が潤えば私も潤う、生きていく上で必要な行い。仕事と割り切ればなんてことはない、そして私が好きなアニメは歌って踊れる少女たちが銀河系宇宙を救うやつです。愛と歌の力は最強なんだ。今世のガワが美少女であったのも救い、クールビューティーアイドルは私が守る。襲いくる敵は弓で薙ぎ払う、表現がおかしい?諸君、知らないのか、弓は鈍器にもなるんだぜ。馬上に仁王立ちパーリーで六爪流を知っている者は、あのゲームに弓でぶん殴りもする巫女がいることを知っている筈だ。それは置いておくが弓は威嚇もできるしバーバラを付け狙うファンも牽制できる、最高かな。
祈祷牧師としてアリなのか?バルバトス様のことももちろん好きだ。自由の響きは大変良い。ただガチャで来てくれなかった吟遊詩人のことは許してない。パワーオブマネー、今度こそ、力が、欲しい。真面目に祈祷牧師として神の教え、バルバトス様が掲げた自由に理解を示した態度で尽くしていたら、隣国にまで癒しを届けに行く羽目になった。
正直、璃月に、来たくなかった。 このような姿を見られたくなかった。知り合いに会いたくない。キャラチェンがあまりにも酷い。大学デビューなんてレベルじゃない。戦場で敵の首落として高笑いしてたバーサーカークラスの魔神が今は歌って踊ってんだ。
馬車でめそめそ泣いていたが国と国の境を越えて吹っ切れた、もう逃げ場などない。きっと、見つかっていることだろう。前世がバレていない可能性にワンチャン賭けるしかない。
「ライラちゃん、少しでも璃月を楽しめるように璃月に詳しい人に案内を頼んだから観光しておいで!」 「ほんとうですか」 「本当本当!ほら、もう来てるよ!」
私の知るウン年前の璃月と変わっていることは確かで、それはありがたい、すごく嬉しいと馬車から降りて案内人の顔を見る。 既に死んでいる目がさらに死んだ。 死にたてから数日経っているレベルで死んだ。 表情がごっそり抜け落ちた祈祷牧師はファンには見せられないよ。
「モンドから璃月へよく参られた、貴殿を心から歓迎しよう。」
この仕打ちはあまりに惨い。
人間として生まれ落ちた子供の頃、人間として生きていた魔神前の記憶を思い出す。魔神戦争後の人間時代に思い出せたのは幸いか。この世界に私の知る音楽があまりないことに絶望したとき手にした神の目を、握り締める。 黒髪に碧が混じる髪を揺らした元素は風、私の今の故郷が信じる風神と同じ、自由の風だ。
「私のような自由気ままに生きている祈祷牧師が、契約を重んじる岩神の国で歌って踊っても、いいんでしょうか。岩神が亡くなったばかりの璃月に風神の歌を届けるなんて」 「七星が貴殿を呼んだのならば、何も問題はない。」
少しでも英気を養って欲しいと、教会の人間が用意してくれた二日間で巡る璃月観光。あちこちの名所を案内してくれた鍾離さんは穏やかな表情で今回の
「俺も貴殿の
魔神時代の知り合いがタオルぶん回してるとこ見たくない。一番会いたくないモラクス様に初っ端に会うとか、風神の悪戯としか思えない。色々と冷静になった。本人ならぬ本神の許可が下りた。現凡人、正体は岩神。ファンの一人にそう言われては、
「行ってきます」 「ああ」
後方彼氏面ならぬ関係者席岩神面の応援で元気は出た。
「大丈夫そうですか?」 「はい!」
ひさしぶりの甘雨さんに笑顔で答える。あとはファンの皆さんにこの元気をお届けするだけだ。彼女が片手に持っているタオルを控えめに振った、甘雨さん、それは後で使うやつです。
「では手はず通りに進めます。」 「よろしくお願いします。」
深呼吸、ひとつ。頼りになる相方は隣にも背中にもいないけど、きっと、モンドで頑張っているんだろう。なら私も、ここで頑張ろう。
「────あなたに風神のご加護があらんことを!」
決め台詞と共に、崖から飛び降りる。悲鳴は新規、歓声は古参。挨拶がわりは既存曲、この世界に本来あるはずのなかったもの。歌が大好きな女子高生がトラウマを乗り越えて歌姫となったあの曲、竜繋がりだ。
さあ 踵を打ち鳴らせ どうぞ 心の踊る方へ
歌って踊れて戦える祈祷牧師とはこの私、ライラのこと。四日間の連続ライブだが、きっと意味はある。私も身に覚えがある。前世では糧でしたもの。厳正なる抽選の結果と仲良くできたファンを待たせるのも罪というもの。
次はどっちにしよう、会場のあちこちに設置してもらった火花が客に当たらないよう、風元素で散らす。 二曲目、本来はバーバラの水元素と私の風元素で織りなすハーモニー、バーバラのキラッを最大限活かせる某超時空シンデレラの神曲、それとも岩神リスペクトを込めて急遽新曲も用意したけど、バーバラがいないのは寂しいからキラッとしておこう。
「私一人では潤すことは難しいけど、私の大好きな風を届けさせて!」
キラッ あなたが好きよ
その後にタオルもぶん回したわけだが一人で二時間は正直、死ぬかと思った。魔神戦争時代の体力なんて残っているわけがない。
◇ ◇ ◇
得体が知れない隣国の歌い手の噂は、
「お兄さん、ライラのライブは初めてかい。」 「ああ、縁があり一日目から観に来ているがライブの礼儀作法には詳しくない、至らない点があればぜひ教えて欲しい。」
随分と優雅な物腰の紳士が来やがった。しかも全通かよ、ヤベェ。ちょっとからかってやろうぜ、なんて思っていたモンドからのライラ追っかけ古参組は数秒沈黙した。なんだこいつ。
「そ、そうか。礼儀ってほどじゃねぇが、俺らみたいな古参は独自の踊りを編み出し、彼女のライブがもっと素晴らしいものになるよう応援することがあるんだが。」 「ほお、どのような踊りだろうか。」 「見せてやるよ。これが、バルバトス。これがモラクスだ」 「まさか七神の名を」 「ありがたいもんだからな」
アマテラスではなくバルバトス。ネメシスではなくモラクス。自慢げに仲間がしているオタ芸を眺める古参リーダーに、モラクス本人である鍾離は目を輝かせ、口を開いた。
「それは新参者の俺がやっても不作法には当たらないものだろうか。」 「お、おう。」 「バルバトスは良い。モラクスを教えてもらいたい。勿論貴殿らには報酬を支払おう。」 「モラで解決できると思ってんのか!」 「落ち着け!こいつは初めてなんだって!新規を怖がらせんな!」
欲しいグッズは金で解決しようとするが、転売は殺せが合言葉。自分達が編み出した技術を評価されるのは嬉しいが、モラで買おうとするのはまた話が別。ちょっと繊細な古参たちは騒ぐものの、新規、の二文字に落ち着いた。教えるだけなら、全然、タダでも良いのに。視線を古参リーダーに向ける。目を細めて実力行使も厭わないつもりでいた鍾離はあげかけた手を下ろし、腕を組む。古参は思った、なんだこいつめちゃくちゃ偉そうだな。
「まあ、ライブの終わりがけに茶の一杯でも奢ってくれりゃそれで良い。」 「貴殿らに美味い茶をご馳走しよう、交渉成立だな。よろしく頼む。」
鍾離と名乗り古参の名前を尋ねてくる璃月人に、古参らは一人一人名前を教えた。そうすればもう仲間だ。同担という名の。あとはマナー良く推しを推すだけである。
そしてここにオタ芸モラクスを極める岩神が誕生した。
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三日目のライブ。最前列でオタ芸をする鍾離さんを見た気がする。幻覚を見るほど疲れている。あれはもうセンター張ってた。あなたがアイドルだよ。
「おれる、真ん中から体おれちゃう」 「少し休息をとられた方が良いと思います。」
四日目、早朝。ベッドから起き上がる力がない。私は無力だ。魔神時代の凄まじい体力なんぞ残っているはずもない、人間です。はじめての連日ライブは限界が既に来ていた。今日さえ終わればモンドに帰れる、今日さえ終われば。うわ言のように呟いている私を見かねた甘雨さんが昼過ぎに始まるライブを少し遅らせるかどうか、七星に相談しに行くと言って部屋を出た。有能すぎる
壁に手をつきながら移動して宿の窓を開けた、まだ起きていない町の空気感が好きだ。人は少なく通り抜ける風が清々しい。湖に囲まれたモンドとは違う海の近さ、潮風を吸い込んで、大きく吐いた。元素スキルを自分に使うことになろうとは。
「────うたうたう、めぶきのうた。」
今回選ぶのは、女神の慈悲たる癒しの旋律、リザレクション。ユリアとローレイライの契約の歌。すごく懐かしい気持ちになった。
「リュォ レィ クロア リュォ ズェ レィ ヴァ ズェ レイ 」
範囲内の味方を癒す歌声を紡ぎ、窓枠にもたれかかり目を瞑る。そよ風が気持ち良かった。バーバラへのプレゼントを決めかねていて、手に持っていた髪を結ぶリボンが風に揺れる。アクセサリーがいいと思った。バーバラがつけなくても、私が使えばいい。うん、いくつか買っていって一緒に選ぶのも楽しいだろう。バーバラの笑顔が浮かぶ。
一瞬、強い風が吹く、手にあったリボンが風に攫われる。
「っ、」
寝起きで結んでいない髪が風と舞い上がり、翠風と共に現れた少年は手にリボンを持っていて。彼は屋根の上に猫のように立っている。す、と差し出されたリボンを受け取った。
「ありがとう、」
璃月の港にまず、いないであろう少年仙人の姿がそこにあった。ふい、と顔を逸らされる。姿を消すであろうその人はなぜか振り返った。
「……最後の歌を楽しみにしている」
三日連続ライブの筋肉痛その他諸々の痛み消し飛びました。七星が来るとか、親愛なる岩神がオタ芸してたかも知れないとか、ファデュイもなんかいたとか、あれだけツンツンしまくってた夜叉の彼がちょっと笑んでいたとか。 様々な緊張があったというのに、ちくしょう、推しが観ていたなんてきいてない。もう歌って踊るしかねぇ。やり切るしかねぇ。
◇ ◇ ◇
「聞かせてあげる、風神の歌を!」
バーバラのイメージカラーは白と青、ライラは白と碧。胸元の緑がかった青のスカーフを揺らしては、キレがある動きでターンを決める。艶々の黒髪に碧が混じった不思議な髪は動きやすい三つ編み、目があったと思えば逸され、薄翠の目は閉じられた。
しんあいなる、璃月に。
呟かれた音を拾うのは、仙人たちだ。つ、と伸びた指先が、彼女が持っていない弓の弦をつまびく仕草を見せる。
────風はうたい、わたしの花は散る。
ぶわりと花風が吹き荒れる。璃月の人間に馴染み深い、歌を聞くと花開くあの花が散っている。 彼は何故か落胆した気持ちで琉璃百合の残骸を受け止めようと手のひらを伸ばす、残るのは花ではなく、紙だった。
「……作り物か」
自由を歌う清客は璃月の花を散らさない。ふと緩めた口元は落胆ではなく安らぎを示す。舞台を見つめる民だけでなく、こうして羽根を休めに来た夜叉の髪を、ひとしく風が撫でていく。
春を呼び込むような東風がまた心地よい。芽吹きはいまいちどこの地に訪れ、また、花が降る。
歌は自由だ、どこまでも。
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なんとか大成功を収めた璃月では次も良ければ、またやらないかしら、なんて話になった。そっと片手を持ち上げて握手を交わす。
「嬉しいです、早速本部に持ち帰ります(しばらくモンドで活動します)」
心の中がバレませんように。
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なめらかに下げられた頭が、土に汚れることも厭わずつけられた膝が、魔神にしては随分と腰が低かった。ぺたりと伏せられた獣の耳と尾に、そういう印象を受けた。
「モラクス様、わたしは約束をいたします。」
敬虔な信者のような形をしていた。血を浴びるときにだけよく笑う魔神がいたことを時折思い出す。どこから来て、どこへ行くのか。この地を通り抜けようとしたうたう魔神を契約で縛りつけたのは、この地に彼女の力が必要であったからだ。人を奮い立たせ、芽吹きをもたらす。
「殺生が好きではありません。嫌いでもないだけで。」
幾千の妖魔の骸を作り上げた彼女を二度見した夜叉を横目に、ゆったりと喋り出す。
「でもわたし、好きなものはたくさんありますよ。今、それらを愛せないだけで。」 「俺と交わした契約は、お前に苦悩を強いていると」 「……できないことでもありません。そうだ、モラクス様、わたしは約束をいたします。」
弧を描いた口元が目に痛いぐらい穏やかだ。戦場には似つかわしくない、うたうたう魔神は鈍器にしていた弓を爪弾く。力を貸してくれと、半ば強引に縛りつけられたときでさえ、従順な素振りで楽器では戦えまいと弓を選んだ指先が、名残惜しげに弦をつまびいて、言葉紡ぐ。
「わたしが死したあとも、」
訪れるはずもない明日を待っている。二度と出会えないお前が、普通に笑えるその日を。
「わたしの歌は、あなたさまがお守りしたいものをおまもりいたします。」
璃月にお前の声が響くときを待っている。
◇ ◇ ◇
「ッこのようなところで死ぬな!」
くちうるさい、夜叉だった。行動ひとつとってもわたしは不敬だと、目の届くところにいろだとか、わたしの獣らしい耳と尻尾が見苦しい、だとか。あなたが、そんなに泣かなくて、いいのに。ぺたりと触れた幼いかたち、頬についてしまった血のあとも。拭い切れるものではない。
「しょう、きょうは、あなたのゆめをみるよ。」
くしゃりと歪んだ幼さが、何だか可愛らしい。わたしの終わりにあなたを目にできたように。あなたの、ながいながい先にも、おだやかな終わりがありますように。
ああ、これが、終わりだ。
崩れ落ちるような春が、きっといまだに、わたしは忘れられなくて。花が朽ちるように、この身が崩れていく。魔神の亡骸は、残らない。塩の魔神は塩しか残らなかったと聞く。ならわたしもまた、人間のような死体なぞ残ってくれないのだろう。
思い出が薄れるというのも嘘だ、だってこんなにも生々しくわたしの中に残っている。つめたてた痛みと同じ。百年経とうと二百年経とうと愛しい記憶というものは、死ぬ間際までこびりついて、きえてなどくれない。
わたしも、あのひとをおいていく。
この先を見たいと心が揺れたのに、モラクス様、ひどく頑丈な、さみしがりやな魔神。まだ少し分からないこともあった。民が平和であれ、とか、戦がなければいい、とか、そういうの。人はどうせ死んでしまうし、それが遅いか早いかの違いだけで。
“悪くないだろう?”と、言った、あなたが。人が築くものを見て、営みを見て、人々を見ていたあなたが、あなたの柔らかな表情が。横から伺い見た、わたしがすきなきらめく琥珀があまりにも美しくて。
平和に心は震えない。平和であれと願ったあなたに心が震えたのであって、わたしは人々を守る魔神にもなり得ない。
ただ、わたし、もう少しだけ同じものを見ていたくて。あなたと同じものを見ていたくて。人のために歌ってあげるのもいいな、なんて思ったんです。
ライラ
魔神時代は猫耳尻尾つき、うたうたう魔神。殆どを璃月で過ごした。
現在は
吟遊詩人野郎 「やーいやーい!もうボクのだもんねー!はっはぁー!」
鍾離 「これから彼女の新曲を聴きに行かないか」
魈
「我は忙しい。護らねばならぬ
甘雨 「今度こそ、長く一緒にいられるよう頑張ります!」
ここで変わり種をひとつ。ごった煮スペシャル。あえていうなら性癖ビュッフェ。
捏造注意。微クロスオーバー。ゲーム本編の時系列ガバガバです。ゲーム本編、ストーリーを含め様々なネタバレを含みます。ご都合主義、己の本能に従いました。恥ずかしくなったらマイピクにポイっです。
クロスオーバーしたびえるゲームを知ってる方は私と握手!バーバラちゃんに歌ってほしい歌がわかった方も握手!
誤字脱字気づいたら直します。
凄まじい間違いに一日後に気づきましたね。お花、琉璃百合でした。なんか歌って咲くの青い花だった気がするんだよなって赤い花って書き終え、いやあってるじゃんって爆笑してます。