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シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜 作者:硬梨菜

謳えスカイスクレイパー:上

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狂わば歩けぬ戦禍の坩堝

ラグビー凄かった、日本の敢闘精神もだけど南アフリカの二度と「まさか」を起こさないと言わんばかりの徹底的なプレイングも


つーかデクラークが人権キャラすぎる、なんだお前マーリンか何かか?

なるほどよく分かった、四回目の死亡を経てテントから這い出してきた俺はこの戦場における必要条件を完璧に理解した。そして当初の作戦が全くの見当違いであったことも、だ。


「よく分かった、従来のセオリーで通そうとした俺が馬鹿だったってことだな」


「相変わらずめげないですわー……」


「きょ、きょうじん………」


狂人? 失礼な、強靭(タフネス)と言え強靭(タフネス)と。だが俺だってこのまま同じことをしていたら心が折れていたかもしれない、それくらいこの混戦は地獄じみていた。

ただでさえ蜘蛛と百足の頂上決戦に首を突っ込むのは慣れた俺をしてリスキーだと言うのに、そこに加えて狂乱のサイボーグカブトと恐怖の蠍ビームが加えられているのだ。漁夫の利を誘発しようにも流れ弾で死ぬ確率が従来の五倍くらいになっている。


「質問:打開策はあるのですか?」


「後先を忘れる」


「納得:いつも通り、と」


ある意味いつも通りではあるな、この戦場用のタクティクスからいつも通りの突貫工事だ。基本的にシグモニアでの戦いは蜘蛛と百足がこちらに敵意を向けてこないことが大前提の立ち回りだ。だが今回はヘイトが目まぐるしくシャッフルされる上に天候がレーザーレインとか言うイレギュラーもイレギュラーな状況だ。

安全策がむしろ首を絞める、温存の塩梅がシビア過ぎて切り札を使う前に死ぬのだ。これまでに死んだ四回も全てそのパターンだった。だから方針を変える………いっそ全員俺が叩き斬るくらいの気概で挑む。逃げの回避ではなく反撃につなげる回避で立ち回るのだ。


「ちょっと無双ゲーしてくる」


「いってらっしゃいですわー」


聖杯発動、気軽に性転換してからすり鉢状の戦場へと身を躍らせる。まず狙うは小蜘蛛アーミレット、連結スキル「千剣の盟(サウザンド・ボンド)」起動。

斬撃への耐性を完全に貫通した振り抜きで無尽蔵に思える程湧き出てくるアーミレット・ガルガンチュラを次々に斬り伏せていく。

流石に一撃で倒せはしないが遅かれ早かれ自爆する連中だ、一発でも攻撃を当てておけばキル判定が出る。どいつもこいつも同じ面構えなので一々斬った個体など覚えていられない、走り抜けながら手当たり次第に攻撃を加えていく。距離が足りないなら片手の剣を銃に変えて射程を伸ばす。


「あっぶねぇ!!」


リミットオーバー・アクセル起動! 速度二倍になった逃げ足で飛び退いた場所に百足の巨体が倒れ込む。基本的にシグモニアでは一度の戦闘でドーラと女王が現れない限り、トレイノルもフォルトレスも一体しか出現しない。

だが共に城砦クラスの巨体だ、巻き添えだけで死の危険が過ぎるわけで……だがおかげで大量のアーミレットが踏み潰され、ついでに他の個体にも誘爆した。


「一戦闘中の大量虐殺!」


それがこの剣を叩き起こすための条件!!

墓標ある特大剣、別離なく死を想ふ(メメント・モリ)を片手で担ぎ上げられた事でようやく全ての条件が整った。赤い頭蓋を被って高らかに叫ぶ!


「っしゃ行くぞ! 血解(ブラッドハート)!!」


強敵、難敵、それ故に短期決戦!使える手段を全部使ったこの五分間でFM'sクリサリスを撃破する!!

風火二輪(フレアテンペスト)」「天国への階段(ステアウェイ・ヘブン)」起動、エコーのかかった咆哮をあげて跳躍、虚空を蹴りつけて雑魚の戦場たる地上から主戦場たる高度100メートルへと躍り出る。


「背中を貸してもらうぜeee……」


フォルトレス・ガルガンチュラのいいところは体型的に背中の安定感が百足と比べても優れているところだ。暴走判定回避の為にアーミレットを叩き潰しつつ、レーザーや蜘蛛砲弾、毒の弾幕を戦闘機もかくやなマニューバで回避するサイボーグカブトを捕捉する。

奴のヘイトは目まぐるしく変わっている。何せ巨大だろうと軍勢だろうとその敵意が一切衰えないのだから、少しでも己の妨げになるならば蜘蛛だろうと百足だろうと蠍だろうと全力で向かっていく闘争本能の塊だ。


「このナリdEスコープ覗き込muのクソshuuuu(シュー)ルだな……」


プエーロと名付けられたスナイパーライフルを構え、今度は百足に狙いを定めたらしいサイボーグカブトに狙いを合わせて………獣を思わせる爪に引っ掛けた引き金を引く。


「ヘッショooo!!」


ほーらどうだ葱砂でチクチク狙撃される気分は! ウザかろうウザかろう、大振りなモンスター達の攻撃とは違ってFPS仕込みのスナイプは「命中率」という一点において抜群のヘイトを稼ぐ……!!

ノーダメージである事と気にしない事は別問題、ましてや視界に入るだけで殺意マックスになるような奴がウザったいチクチク攻撃なんて受ければ……ほら来たよし来た爆釣!!


「さぁ来iiiiiii!!!」


今度の俺は一味違うぜ、別離なく死を想ふ(メメント・モリ)を両手で握って振りかぶる。両足でフォルトレスの甲殻上で踏ん張り、ノックアウトこそが最高効率の野球ゲーで培われた凶弾ライナーの構え…………随分と平べったいバットとゴツすぎるボールだが、この世界じゃ生物(ナマモノ)をボールにするスポーツが流行ってるんだ、知ってたか?

タイミングを合わせて力を込めて、全身の捻りを入れた会心の一振りが俺に猛進してきたサイボーグカブトの下角と激突する。弾丸、ライ…ライ、ナ…………


「ファaaaaaル!!」


ギョリン! と硬質な者同士が物凄い力で擦れる音が響き、俺の身体はフォルトレスの身体から滑り落ちる。だがサイボーグカブトの方も無傷とはいかない、いかせない。結果としてファールじみた軌道になったが奴の頭角に重大なダメージを与えたのは事実、そして機動力を削がれたキャラの末路なんて古今東西決まっているもんだ。


「そKo、光のAめ()が降ruぞ」


蠍の思考ルーチンならお手の物だ、奴らは弱みを見せた敵に対してド畜生レベルの追撃を行う。一秒の隙だって絶対に見逃さない、それは水晶群蠍の近縁種たる帝晶双蠍であっても同様に。

俺との激突によって推進を一時的に中断させられたサイボーグカブトの巨体がわずかに速度を落とした、その一瞬を逃さなかった帝晶双蠍達の長距離射撃が一斉に叩き込まれた。現在深夜三時、脳に未だタンホイザーの輝きが焼きついた状態での徹夜行軍……水晶冠の赤い輝きを碧い身体の中で増幅したレーザーがサイボーグカブトに次々と着弾していく。相変わらず恐ろしい精度だ、モンスターのくせにエイム力が高すぎる。


「だgaナイスaシスTo!!」


怯み状態という明確な「隙」、おそらく今の俺すら比較にならない「火力」、そして水晶群蠍系列モンスターに見られる「数」………その全てによって防ぎきれない大打撃を受けたサイボーグカブトの身体が吹き飛びながらもなんとか体勢を………あ、フォルトレスの砲撃が直撃し、トレイノルの頭突きが。


「俺mo混ぜroよ!!」


続けざまに規格外の攻撃を喰らい続けたサイボーグカブトはその甲殻に軽傷とは言えない亀裂を走らせつつも、その戦意を衰えさせるどころかさらに燃え上がらせる。胸角からレーザーを放って追撃をしようとした百足の目を一つ潰し、抉りこむようなカーブを描いてフォルトレスの巨体を支える脚の一つを(戦闘でガタついていたとはいえ)上翅の刃で叩き斬った! なんつー怪物だ、だが次は俺が標的か? 面白い、時間が押してるからこっちも畳み掛ける!!


フォルトレスの上じゃダメだ、足場として及第点ではあるが大きい視点で見ると球体なので完全に踏ん張れない。だったら空中ジャンプを利用して短くとも完全な踏ん張りで迎え撃…………いや、逆だな。

サイボーグカブトが迫り来る中、土壇場でそれ(・・)を思いついた俺は別離なく死を想ふ(メメント・モリ)をバッティングポーズではなく盾のように腹を見せたガードの姿勢で奴の突撃を待ち受ける。覚悟を決めた直後、ある程度の強化をしていなければ耐えられなかっただろう衝撃によって俺の身体はいともたやすく吹き飛ばされて……だがそれこそが俺の狙い、そして物理エンジンが実現する電脳の物理法則は俺が望んだ通りの結果を算出した。


「情熱teき()なハグdaな……」


今俺はサイボーグカブトの上下二本の角に挟まれる形で空を飛んでいる。こいつは上の角が戦車の砲塔みたいな形状になっている、そしてカブトムシの形状からして挟んで潰すことはできても断ち切ることはできない……!!

俺を振り払おうとする動きに対して強化されたステータスで全力のしがみつきで対抗、さらに俺自身が重さを感じないとしてもサイボーグカブトは別離なく死を想ふ(メメント・モリ)の重さも感じている。空を飛ぶ生物ってやつは思っているほど自由ではない。こんなデッドウェイトを抱えたままで空を飛び続けられるかな? そしてそのデッドウェイトは積極的にお前を狙っている!!


暴走判定を解除するためのキルスコアが稼げない以上、この30秒が肝になる………覚悟を決めようぜ! 互いになァ!!

感想欄でよく見かけたので補足説明

Q."戦災孤児"は何故エクゾーディナリーたり得たのか?

A.中心部分で眠っていたあの個体以外は百足と蜘蛛の戦いに巻き込まれて成長しきる前に全部死んだため、戦禍の中でただ一体生き残った幸運と、三つの種族の性質を持ち、ツァーベリルの真下にして大陸の下に近い場所で眠り続けていた事実を持つからこそのエクゾーディナリー選出なのです。他の場所ではこれだけの幸運に恵まれないのです

今回はウィンプが潜伏するために大穴を作りましたが、ウィンプがいなくても必ずなんらかの要因でシグモニアの中心部地下には活動可能な空間が生成されます、そこからさらに地面を掘り返して初めてエンカウントできるエクゾーディナリーなのです。なおただ一体、と前述しましたがちゃんと次の個体はスポーンします。見つかってないだけで多分埋まってたんでしょう(創世さんイライラ案件)

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