控え3年生の「引退試合」 でも、夏はまだ終わらない

大村久
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 7月に開幕予定の全国高校野球選手権佐賀大会を前に、ベンチ入りがかないそうにない3年生部員たちの晴れ舞台「引退試合」が7日、さがみどりの森球場であった。北陵と鳥栖工の3年生30人が笑顔で楽しみながらも全力プレーでスタンドやベンチを沸かせた。

 引退試合は、北陵の吉丸信監督(66)が佐賀工の監督時代から続けている恒例の行事だ。愛知県で夏の大会に出られない3年生の選手のために「親善試合」を開いていることを知り、感銘を受けて始めたという。

 試合に出場した選手たちは、凡打でも懸命に一塁へ走り、気迫あふれるヘッドスライディングを見せた。打撃でも思い切りよくスイングし、両チームともに2桁安打の打撃戦に。随所で適時打も放ち、五回まで2―2と競り合った。

 六回には鳥栖工が打者一巡の猛攻で5点を奪い突き放したが、北陵もあきらめず追いすがる。終盤にはナイター照明がともり、最後まで熱戦が繰り広げられた。試合は鳥栖工が9―4で勝利を収めたが、両校の選手は背中をたたきあったり肩を組んだりして、互いに健闘をたたえた。

 兄の影響で小学2年から野球を始めたという北陵の内野手薩广(さつま)隼人選手(17)は試合後、チームでの思い出を聞かれて冬場の唐津での練習を挙げ、「きつかったが、みんなで声をかけ合って乗り越えることができた」「いい刺激をもらった」と振り返った。

 五回裏に同点に追いつく適時二塁打を放った外野手の甲斐蒼次郎(そうじろう)選手(17)は試合に臨んだ気持ちを「もしかしたら最後になるかもしれないとの思いで楽しんだ」と話したが、吉丸監督は、試合後にベンチ裏で一人泣くその姿を見ていた。

 涙の理由を問われた甲斐選手は「野球を始めた小3からの10年の思いがこみ上げた。夏はまだ終わっていない。勝って泣きたい」。顔を上げ、そう言った。

 スタンドに詰めかけた保護者らは試合終了後、グラウンドに降り、「笑って」「こっちみて」と選手たちにスマホをかざし、泥だらけのユニホーム姿を写真に収めた。(大村久)