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富野 まず先にお伝えしなければいけないのは、『富野由悠季の世界』展は僕の発信したものではないので、厳密な意味での当事者ではないということです。分厚い図録も作ってもらいましたけれど、実を言うとほとんどゲラに赤を入れていません、というより入れられなかった。だって昔のことは全部忘れているんですから。

――ええっ、本当ですか?

富野 だって、覚えていたら次の新作を作れないでしょう? だからものすごく「忘れる」という努力をしました。昔のインタビューだって、アニメ雑誌の月々の追いかけに反射神経で答えていただけです。だから、実は図録のゲラを読んで「アニメでこういう仕事をやってる人がいたんだ」ってビックリしましたけれど、自分としてはそういう風には思っていなかったということの方が多いんです。

――なるほど、展示や図録の内容はあくまでも「外からの評価」である、と。

富野 大人の回答をしなくちゃいけないと思ったけど、展示が終わった今も「感動しました!」「これぞ自分の集大成!」とか一切合切言う気はないですね。僕って本当に困った人だと思いませんか?(笑)

――ですねぇ(苦笑)。

富野 そういう風に思えるようになったのは、70歳過ぎてからなんですよね。というのも、僕は昔話ばかりして、周りの誰にも「あのジジイは……」って注意してもらえないような年寄りになりたくないんです。
「美術館を使わせていただいて、こんな展示をやらせてもらってるだけでも気持ちよくなれるんじゃないですか」って訊かれたら、ハイ、気持ちはいいです。だけど、このことで絶対に悦に入っちゃいけないって、本当に自戒しています。

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「富野由悠季が自身の展覧会で理解した「作家になれていない」という事実」の画像1 「富野由悠季が自身の展覧会で理解した「作家になれていない」という事実」の画像2