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米連邦最高裁 “中絶は女性の権利”だとした49年前の判断覆す

米連邦最高裁 “中絶は女性の権利”だとした49年前の判断覆す
アメリカで国を二分する議論となっている人工妊娠中絶をめぐり、連邦最高裁判所は「中絶は女性の権利」だとした49年前の判断を覆しました。
今後、全米のおよそ半数の州で中絶が厳しく規制される見通しで、秋の中間選挙に向け、アメリカ社会の分断が一層深まりそうです。
アメリカの連邦最高裁で争われていたのは、妊娠15週以降の人工妊娠中絶を原則として禁止する南部ミシシッピ州の法律が憲法違反にあたるかどうかです。

これについて連邦最高裁は24日、9人の判事のうち、保守派の6人全員の賛成で、州法は合憲だという判断を示しました。

そのうえで、「憲法は中絶する権利を与えていない。中絶を規制する権限を、市民やその代表者たちに返すべきだ」としました。

連邦最高裁は、1973年に「中絶は憲法で認められた女性の権利」だとする判断を示し、以来、半世紀近くにわたって判例となってきましたが、これを覆した形です。

中絶を支援する団体によりますと、今回の判断を受け、南部や中西部を中心に、全米の半数余りにあたる26州で今後、中絶が厳しく規制される見通しだということです。

アメリカでは、「中絶は女性の権利だ」というリベラルな考え方と、キリスト教の信者など保守層に根強い、中絶に否定的な考え方との間で、長く国を二分する論争となってきました。

今回の連邦最高裁の判断に対する賛否も大きく分かれていて、ことし11月の中間選挙に向け、社会の分断が一層深まりそうです。

バイデン大統領「裁判所と国にとって悲しい日だ」

アメリカのバイデン大統領は、連邦最高裁の判断を受けてホワイトハウスで演説し、「裁判所と国にとって悲しい日だ。この極端な判断のせいで、女性が性暴力によって妊娠させられた子どもを産まざるをえない状況になってしまう。保守派の判事が多数を占める最高裁判所がいかに極端で、いかに多くの国民の感覚からかけ離れているかを示している」と述べ、強く非難しました。

そして、「中絶の権利を守らなくてはならない。それを実現するための政治家を当選させる必要がある。中絶の権利は投票にかかっている」と述べ、秋の中間選挙で、与党・民主党への支持を訴えました。

一方で、抗議活動が過激化することを懸念して、「この判断について、どれほど憂慮していても、抗議は平和的に行ってほしい。暴力は決して受け入れられない」と呼びかけました。

トランプ前大統領は任期中の判事指名の功績を強調

連邦最高裁の判断を受けてトランプ前大統領は声明を発表し、「きょうの判断は、私が国民に約束した通り、高く評価されている3人を最高裁判事に指名し、承認させたからこそ実現したのだ」として、大統領の任期中に3人の保守派の判事を指名したのは、みずからの功績だと強調しました。

米連邦最高裁の構成 保守派が多数

アメリカの連邦最高裁の判断は9人の判事の多数決で決まるため、保守派とリベラル派の判事の構成比が大きく影響します。

判事は終身制で、死亡するか、みずから退任した場合のみ、大統領が後任を指名します。

現在の顔ぶれは、トランプ前大統領が任期中に保守派の判事3人を指名したことで、保守派6人、リベラル派3人と保守派が多数となっています。

今回の判断では、9人のうち保守派の6人全員が、妊娠15週以降の中絶を原則として禁止するミシシッピ州の法律を合憲とすることに賛成しましたが、このうちの1人は、中絶は憲法で認められた権利だとした判断を覆すことについては賛成せず、5対4の僅差となりました。

連邦最高裁の前で「容認派」と「反対派」がデモ

ワシントンの連邦最高裁判所の前には24日、アメリカ各地から中絶の容認を訴える人たちと反対を訴える人たちの双方が大勢集まりました。

裁判所の判断が出ると、中絶容認派の人たちは、「ショックだとしか言いようがありません。多くの女性が今後、どうすればいいのか途方に暮れると思います」と嘆いたり、「この国で今後、何が起きるのかとても恐ろしいです」と訴えたりしていました。
一方、中絶反対派の人たちからは、「最高裁の判断によって、どれだけ多くの命が救われるかと思うと、とても興奮しています」とか、「何年もの間、中絶の禁止を願って活動を続けてきたので感激しています」などと評価する声が聞かれました。

世論調査 中絶は「合法」が61%

世論調査機関「ピュー・リサーチセンター」が、1995年から行っている調査によりますと、アメリカでは人工妊娠中絶を「合法とすべき」だと考える人の割合が、「違法とすべき」だと考える人の割合を一貫して上回っています。

今月発表された最新の世論調査でも、「すべての場合で合法とすべき」と「ほとんどの場合で合法とすべき」を合わせると61%で、「すべての場合で違法とすべき」と「ほとんどの場合で違法とすべき」を合わせた37%を大きく上回りました。

支持政党別で見ると、「合法とすべき」と回答したのは民主党支持者では80%だったのに対し、共和党支持者では38%にとどまり、支持政党による違いがはっきりと表れています。

人工妊娠中絶めぐる49年前の判断とは

アメリカでは人工妊娠中絶をめぐって1973年、連邦最高裁判所が「中絶は憲法で認められた女性の権利」だとする判断を示しました。

きっかけとなったのは、南部テキサス州の妊婦が起こした訴訟で、「母体の生命を保護するために必要な場合を除いて、人工妊娠中絶を禁止する」とした州の法律は女性の権利を侵害し、違憲だとして訴えたものでした。

裁判は、原告の妊婦を仮の名前で「ジェーン・ロー」と呼んだことから、相手の州検事の名前と合わせて「ロー対ウェイド」裁判と呼ばれています。

最終的に連邦最高裁は、「胎児が子宮の外で生きられるようになるまでなら中絶は認められる」として、中絶を原則として禁止したテキサス州の法律を違憲とし、妊娠後期に入るまでの中絶を認める判断をしました。

根拠としたのは、プライバシー権を憲法上の権利として認めた合衆国憲法の修正第14条です。

憲法では、中絶について明文化されていないものの、最高裁は女性が中絶するかどうかを決める権利もプライバシー権に含まれると判断しました。

これが判例となり、以後およそ50年にわたって、中絶は憲法で認められた女性の権利だとされてきましたが、近年、特に共和党の支持者が多い地域で、女性の、みずからの体についての選択よりも、宿った命こそが大切だとして、人工妊娠中絶を厳しく規制する法律が相次いで成立していました。

米連邦最高裁の信頼度 過去最低

調査会社「ギャラップ」が、今週23日に発表した世論調査の結果によりますと、アメリカで連邦最高裁を信頼する人の割合はこれまでで最も低くなっています。

調査は先月、アメリカの一部メディアで、連邦最高裁が中絶の権利を認めた過去の判断を覆す見通しであることを示す文書が報じられたあとの今月1日から20日にかけて行われました。

それによりますと、連邦最高裁について「非常に信頼している」、または「かなり信頼している」と回答した人は、合わせて全体の25%にとどまりました。

これは去年に比べて11ポイント低く、1973年に調査を始めてから最も低くなったということです。

支持政党別で見ると、リベラル層が中心の民主党支持者の間で17ポイントと大きく下がった一方、保守層の多い共和党支持者では2ポイント上がっています。

調査では、連邦最高裁が中絶をめぐる過去の判断を覆した場合、アメリカ国民からの信頼がさらに下がる可能性がある一方、新たな判断の理由について国民が納得すれば、上がる可能性もあると指摘しています。

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