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アルテイシアの熟女入門

2022.06.18 更新 ツイート

ジェンダー知らなきゃヤバい時代がやってきた⑥ アルテイシア

モブおじさんとの対話、最終回です。

ラストもそれぞれ好きな声優さんの声に変換してくださいね。私はCV子安武人を貫きます。

モブ:この対話を通して、決意したよ。アクティブバイスタンダー(行動する傍観者)に、俺もなる!!

アル:すばらしい! 差別やハラスメントをなくすには、第三者の行動が鍵なんです。

 

たとえば上司が差別、セクハラ、イジリ発言などをした時に、大切なのは周りが同調して笑わないこと。周りが真顔でドン引きすれば、相手はそれ以上続けられなくなりますから。

モブ:偉い人に忖度しない勇気が大切だよね。

アル:もし可能であれば「それアウトですよ」と指摘してほしいです。

女友達から聞いたんですが、職場でおじさん上司が女性社員に「今日も旦那と子作りするのか? 笑」と言った時、男性社員が「それセクハラですよ」と指摘したそうです。

すると上司は二度とその手の発言をしなくなったんだとか。

彼女は「悔しいけど、私が指摘したら『〇〇さんは怖いなあ笑』と茶化されたと思う」と話してました。ミソジニー(女性蔑視)が染みついたおじさんは女の話を聞かないから。

だからこそ、男性が積極的に行動してほしいんですよ。

モブ:女性の話を聞かないおじさんは多いんだなあ。

アル:「女の話など聞く価値がない」「女は黙ってわきまえていろ」みたいなおじさんは多いですよ。

それで「それ女性差別ですよ」と指摘されると「俺は間違ってない! こんなに責められて被害者だ!」逆ギレするんです。

森喜朗氏なんかは、有害な男らしさのお手本みたいな人物ですよね。

有害な男らしさの典型は、間違いを認められない、素直に謝れない、反省できないことだと思います。

モブ:僕も反面教師にしないと……悪いお手本にはなりたくないもんね。

アル:ジェンダーの講演をすると「子どもにジェンダーの呪いを刷り込まないためにはどうしたらいいですか?」とよく質問されるんです。

子どもは周りの大人をお手本にして育つから、大人が良いお手本を見せることが大切ですよね。

たとえば「今のはママが間違ってた、ごめんね」と素直に謝るとか。

誰だって間違うことはあるし、間違った時に真摯に謝罪して改善することが大切ですよね。3回目の対話で紹介した、BTSの対応は良いお手本だと思います。

何より、大人が対等に尊重し合うコミュニケーションを見せることが大切ですよね。

たとえばパパがママの話をちゃんと聞かないとか、ママを見下すような態度をとると、子どもは男尊女卑を学んでしまいますから。

モブ:そうだよね。あと子どもはテレビやメディアからも影響を受けるよね。

アル:友人の太田啓子さんが『これからの男の子たちへ』に書いてました。

太田さんは二人の息子さんたちが見るテレビやアニメを制限はしてないそうです。

ただ一緒に見ている時にラッキースケベやゲイイジリみたいな場面があると「ママはこれは良くないと思う、なぜなら……」と説明するそうです。

モブ:子どもに説明できるように、まずは大人がジェンダーを学ばないとね。

アル:そうなんですよ。太田さんから聞いたんですが、みんなで遊んでる時に弟さんが泣いちゃったそうなんです。

それを見たお友達が「男のくせに泣くなよ」と言ったら、お兄ちゃんが「男とか女とか関係ないよ」と即返したそうです。

モブ:そうか、すごいな……。まずは僕自身が「男らしさの呪い」から解放されないといけないかも。その方が、自分も周りも幸せになると思うんだよね。

アル:モブさんの進化が止まらない……究極生命体に近づいているッ……!!

モブ:だが頂点に立つ者は常にひとり!!

アル:キャラ変わっとるがな。

モブ:そのためには、考えることをやめちゃいけないね。

アル:そう、考えずにすむことが特権なので、マジョリティ(多数派)は思考停止しがちなんです。

たとえば男性同士が仲良くしてると「あいつらデキてんのか」「ヤバいだろ笑」とか言う人がいますよね。この言葉に傷つく人がいるかも、と考えられないわけです。

私もかつては「どんな男子が好み?」とか職場の女子に聞いてました。相手のセクシャリティを無視する発言をしていたな、と反省してます。

ジェンダー感覚を身につけた今は「この場にも性的マイノリティがいるかもしれない、この言葉に傷つく人がいるかもしれない」と考えながら発言してます。

モブ:僕もうっかり誰かを傷つけないように気をつけよう。こちらに踏むつもりがなくても、踏まれた側は痛いもんね。

アル:おお~モブさんの進化が限界突破! そこにシビれる憧れるゥ!

モブ:ズキュゥゥゥン!!!

アル:遊んでる場合じゃねえわ。

何度も言いますが、差別はたいてい悪意のない人がするんですよ。むしろ「善意ハラスメント」をしてしまうこともあります。

たとえば、ゲイの知人男性は職場の女性から「彼女いないの? どんな女の子が好み? 紹介しようか?」とか言われて、うんざりしてます。

モブ:たしかに、相手が善意の人だと塩対応しづらいよね。

アル:相手は親切な良い人だったりするから「余計なお世話オブお世話やぞ」とは言えませんよね。

でも当事者は「またか……また胡麻化さなきゃいけないのか」とうんざりしたり、「ゲイだとバレたらどうしよう」と不安になったりしますよね。

こういうのは「マイクロアグレッション」にあたるんですよ。

モブ:マイクロアグレッション?

アル:主にマイノリティが受ける「小さな攻撃」を意味します。

発言する側に相手を傷つける意図はなく、むしろ「良かれと思って」「褒めるつもりで」言うことが多いため、わかりにくいのが特徴です。

たとえば、カナダ人の友達は30年以上日本に暮らして日本の大学院を卒業して翻訳の仕事をしていて、私よりよっぽど語彙力が豊富なんですよ。

にもかかわらず、「日本語上手ですね」と日常的に言われまくってうんざりしてます。

この「日本語上手ですね」には「外国人(に見える人)は日本語が下手なはず」というアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)があるんですよ。

モブ:言う側に悪意はないし、褒めてるつもりだろうけど……。

アル:「褒めてるんだからいいじゃん、そんなに気にすること?」と思う人もいるでしょう。でも、気にせずにいられることが特権なんです。

マイクロアグレッションを「蚊に刺されること」に喩えた動画があります。詳しくはこの記事を読んでください。

動画にはこんなセリフがあります。

『一日に何度も刺されることは、マジでウザい。蚊に本気で怒って焼き尽くしたくなる』

『たまにしか刺されない人からしたら、過剰反応してるように見えるかも』

『だから、次に誰かが過剰反応してるように感じたら思い出して。彼らは蚊にいっつも刺されてるってことを』

モブ:たしかに……蚊にあまり刺されない人には、蚊に刺されまくる人のつらさがわからないかも。

アル:そう、そうやって理解してもらえないこともつらいんです。

うっかり人を刺さないためには、自分のマジョリティ性を自覚することが大事だと思います。

マジョリティは自分をマジョリティだと思わずに暮らしてるから、特権に気づきにくいんですよ。

たとえば、日本人が日本で暮らしていればマジョリティ(多数派)だけど、海外に行くとマイノリティ(少数派)になります。

ドイツに住んでいた日本人の友達は「人種なんて関係ないよ」「私はアジア人に偏見がないから、あなたと友達になりたいわ」と善良なドイツ人たちから言われたそうです。

モブ:うーん、それはモヤるな……。

アル:そう、言われた側は「あなたは私とは違う、本来は差別されるマイノリティだけど受け入れてあげますよ」というマジョリティの傲慢さ、鈍感さを感じますよね。

「人種なんて関係ないよ」と言えるのは、人種を理由に差別される機会が少ないからです。

その友達がドイツ人の夫に「あなたとレストランに行った時と日本人の友達と行った時では、店員の態度が違うのよ」と話すと「気にしすぎじゃない? きみは敏感すぎるよ」と言われたそうです。

モブ:差別される側と差別されない側では、見えている世界が違うんだな……。

アル:「自分は偏見や差別意識がない」と思ってる人ほど、無意識に差別的な言動をしやすいんです。

だから「自分も差別するかもしれない」と気をつけて、差別しないために努力することが大切ですよね。

“多様性”ってキラキラワードみたいになってるけど、多様性社会とはみんなが気をつかいあう社会なんですよ。

それを「面倒くさい、窮屈な世の中になった」と言う人は「昔は人を踏みつけても怒られなくてよかったな~」と言ってるんです。

あと「多様性を認めよう」みたいな言葉もおかしいですよね?

社会はもともと多様なんです。マイノリティは既に社会で共に生きてるんです。

マジョリティにはマイノリティが見えてなかっただけ、見ようとしなかっただけなんですよ。

「マイノリティの権利を認めよう」みたいな言葉もおかしいですよね?

人はみんな生まれた瞬間から平等に人権があるのに、マイノリティはそれを奪われてるんですよ。

モブ:今ある差別をなくそうって話なんだよね。差別されてる側が怒るのは当然なんだよ。

僕もこの対話をする前は「なんでそんなに怒ってるの? 面倒くさいなあ」と思ってた。

でもこれからは、今まで見えなかった世界が見えると思う。

アル:アムロなら……見えるわ……。

モブ:アムロじゃねえから。

アル:ああ、アムロ……刻(とき)が見える……!

モブ:もうアムロでいいよ。

アル:フェミニズムは「みんな違って当たり前」が当たり前の社会、誰も排除されない、みんなが共生できる社会を目指すものなんですよ。

「人数が多い方が正しい」「みんな同じになれ」という同調圧力の強い社会は、生きづらいじゃないですか?

マイノリティが生きやすい社会は、みんなが生きやすい社会だと思います。

だって人はみんな年をとって体が弱って、助けが必要になるから。誰もがいずれは“弱い存在”になるんですよ。

モブ:そうだよね……僕も最近、膝が痛くて。

アル:私も重い荷物を持つと尿漏れします。

モブ:みんなで荷物を持ち合って、支え合える社会がいいよね。

アル:私もフェミニズムに出会う前は、見えない世界がありました。

ジェンダーを学ぶことは、視力が良くなることに似てるんです。

視力が悪かった頃は足を踏まれても誰に踏まれたかわからなくて、自分が悪いのかな? と思ってました。

でも今は踏む奴が悪いとわかるし、踏むなと言い返せるし、踏まれないように避けることもできる。

同時に視力が良くなると、見たくないものも見えてしまいます。道に落ちてるうんこも視界に入ってしまう。

でもうんこをうんこと認識できないよりは、ずっとマシじゃないですか?

ジェンダー感覚を身につけると、誰かの発言にモヤることが増えます。モヤることをしんどく感じることもあるでしょう。

でもモヤれるのは、感覚がアップデートできてる証拠なんですよ。だから胸を張ってほしいなと思います。

モブ:そうだよね、僕もモヤれる人間になりたい。そのために、耳に痛い言葉にも耳を傾けようと思う。

アル:性差別や性暴力の話になると、居心地の悪さを感じる男性は多いでしょう。

でもモブさんみたいに真摯に耳を傾ける姿勢があれば、人はわかりあえるんですよ。

モブ:こういう対話を通して変わる男性は多いんじゃないかな。

アル:人は変わっていくわ、私たちと同じように……。

モブ:ララァ、ヤツとの戯言はやめろ!!

アル:モノマネうめーな。完成度たけーなオイ。じゃあ焼き鳥でも食べに行きますか。

モブ:軟骨がうめーんだよ軟骨がァ~~!!

アル:ここまで読んでくださった皆さん、ありがとうございました。それでは、アリーヴェデルチ!

*   *   *

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アルテイシアの熟女入門

人生いろいろ、四十路もいろいろ。大人気恋愛コラムニスト・アルテイシアが自身の熟女ライフをぶっちゃけトークいたします!

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アルテイシア

神戸生まれ。現在の夫であるオタク格闘家との出会いから結婚までを綴った『59番目のプロポーズ』で作家デビュー。 同作は話題となり英国『TIME』など海外メディアでも特集され、TVドラマ化・漫画化もされた。 著書に『続59番目のプロポーズ』『恋愛格闘家』『もろだしガールズトーク』『草食系男子に恋すれば』『モタク』『オクテ男子のための恋愛ゼミナール』『オクテ男子愛され講座』『恋愛とセックスで幸せになる 官能女子養成講座』『オクテ女子のための恋愛基礎講座』『アルテイシアの夜の女子会』など。最新作は『40歳を過ぎたら生きるのがラクになった』がある。 ペンネームはガンダムの登場人物「セイラ・マス」の本名に由来。好きな言葉は「人としての仁義」。

Twitter: @artesia59

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