default
pixivは2021年5月31日付けでプライバシーポリシーを改定しました。詳細
この作品「百合の間に挟まる男を抹殺する百合」は「恋愛」「百合」等のタグがつけられた作品です。
百合の間に挟まる男を抹殺する百合/ライタ@百合小説の小説

百合の間に挟まる男を抹殺する百合

4,262文字9分

女子高二年の美空まふゆは、親友の識織雪に想いを寄せている。雪の異常な距離の近さに、まふゆは理性を抑える事ができるのか……?ギャグ7割、百合3割のどっちかというとギャグストーリー第二話。

2022年6月21日 09:09
1
white
horizontal

雲一つない晴天。
梅雨だというのに耳を澄ませば蝉の鳴き声を錯覚するような蒸し暑さの中、
花宮女子高等学校の正門横に背を預けながら、私は彼女である雪を待っていた。
どうやら、他のクラスのオタク仲間に借りていたマンガを返しに行っているらしい。
「暑いな今日…もう夏だろこんなん」
爛々と輝く太陽に絞り出されるように額から一滴、汗が流れた。
私がそうしている間にも、楽しそうに話す生徒達が正門を後にしていく。
もう20分程待っているが、雪は一向に現れる気配がない。
「アイツ、帰宅デートしよって言ってた癖に全然来ねぇし…早く帰りたい……」
愚痴をこぼしつつ、暑さに耐えかね校舎の日陰へ足を運ぶ。
入口の階段の端に腰を降ろすと、尻に違和感を感じた。
振り向くとそこには私の尻の下に掌を敷き、その圧力と弾力に恍惚としている雪の姿があった。
どんな登場の仕方をしてるんだコイツは。
「お待たせまふゆ、今日は一段と良い尻をしてるね」
「親友同士ならセクハラにならないと思うなよ、訴えたら勝てるからなコレ」
付き合い出して以降、コイツはそれはもう執拗に私の尻を触る。
週に3回程だろうか、大谷のホームラン並の高頻度で尻を堪能してくる。
「だってまふゆの外モモめちゃくちゃ触り心地良いもん。そりゃ触るでしょ」
「豚の部位の名前で表現すんな、煽ってんのかお前」
帰路に就きながら、いつもの如く(だいたい雪に非がある)口論に発展する。

「それに朝の星占いで言ってたよ、しし座のラッキーアイテムは女子高生の尻ですって」
「人の尻をアイテム扱いすんな、触られた側の気分は最下位じゃねぇか」
「いやホント気持ち良…待ってまふゆ汗かいてるじゃん匂い嗅がせて脇嗅がせて」
「だから唐突な異常性癖の発露をやめろっていつも言って……おい突っ込むな!頭を脇下に突っ込むな!割とハードに嗅ぐな!」
気持ち悪い方向にヒートアップした雪の頭をどうにか引っこ抜き、護身ができる最低限の距離を確保する。
危機感のあまりか、私の体は無意識に流水岩砕拳の構えを取っていた。
「第一私の汗の匂いなんて嗅いでどうすんだよ、気持ち悪い」
「まふゆの匂いって、200種類あんねん」
「アンミカかお前は!過去の自分を抱きしめて自分の匂い嗅いでろよ」
前回に引き続き雪の私に対するデリカシーが皆無に等しい。
果たして私は同じ霊長類として見られているのだろうか。
家の虫籠のカブトムシでももう少し良い待遇を受けられると思う。

割と本気で心配になっていると、何やらモジモジと視線を落とした雪が近づいてきた。
「まぁホントは…もっとまふゆに触れてたいだけ、なんだけど……」
こめかみをいじりながら、肩を寄せる。
陽に照らされた青いロングヘアーが、まるで蒼海のように輝いている。
さっきまでとは打って変わったその態度のギャップに、思わずドキリとしてしまう。
「折角、一緒に帰ってるんだし……」
消え入りそうな声で、呟くように頬を赤らめる。
(そういえばこいつ、美少女だった…ああもう、急にそんな事言われたら照れるだろうが)
私は何も言葉を返せず、少し気まずくなってしまった。
頬を赤くさせて俯いたままでいる雪に何か言おうと口を開いた時、
「ねぇちょっと君~」
知性のあまり感じられない男の声がした。
見るといかにもチャラそうな色黒のサングラスの若者が、雪に話しかけていた。
「君可愛いねぇ、女子高生?その制服花女だっけ?」
その言葉に、雪が私の制服の袖を握る。
(…ふむ。良く言えばナンパ、悪く言えばDQNの方だな)
誰が見ても美少女である雪は一人ならこういう事は珍しくはないだろうが、私がいる時にナンパされたのは初めてだ。
「ねぇねぇご飯食べに行かない?いいとこ知ってんだよねー、オレっちとクラブでバイブスブチ上げて
ヒアウィゴーしようぜ!」
こちらが黙っているのをいいことに男は畳み掛けてくる。
(…ダメだな。雪は間延びした喋り方する奴は嫌いだし、足の短い低身長より私くらいの高めの身長の方が好みだし、そして何よりそのテンションとその喋り方が許されるのはこの自然界においてDJKOOただひとりだけだ)
この男では雪の心はなびきもしないだろう。ここは私が代わりにキッパリ断って–––––––––
雪が右手で私を制する。『自分で断る』という事だろうか。
やはりこの手の誘いには慣れているようで安心した。私の出る幕は無いようだ。
男はヘラヘラとした態度でこちらの返事を待っている。
雪は神妙な面持ちで、満を持して口を開いた。
「……100 134 110 95 100 61」
『………………は?』
私と男の声が重なる。雪は表情を変えることなく続ける。
「100 134 110 95 100 61。この数字が何か分かりますか?」
「えっ?クイズ?…スマホのパスワードかなんか?」
男は如実に困惑している。ついでに私も困惑している。しかし、この数字は確か……
狼狽え続ける男に雪は残念そうに溜息をこぼす。
「この程度の質問にも答えられないなんて……正直ガッカリです」
蔑むような雪の表情に、男が嚙みつく。
「じゃっ、じゃあ正解は何だって言うんだよ!オレっちこんな数字今まで聞いたことも––––」
「バンギラスの種族値です」
「……!?」
こいつは何を言っている?
なぜここでバンギ?なぜよりによってこのタイミングでバンギ?この男を試したのか?バンギで?
訳も分からず絶句する男に構わず雪は続ける。
「私…咄嗟にバンギの種族値を答えられる人じゃなきゃ嫌なんです。相手がバンギを出してきた時に、隣でそっと『ダルマのばかぢからで1確取れるよ』って言ってくれる……そんな永遠の安心感を与えてくれる人じゃなきゃ嫌なんです」
なんて女だ。
こんな断り方をしたのは長きに渡る人類史においてもコイツをおいて他にいないだろう。
あと永遠の安心感はスタンド使い限定のサブスクだろ。
「最近は『低身長男子には人権が無い』などと言われる世知辛い世の中です」
しかも何か説教が始まった。何がしたいんだコイツは。
放心する男をよそに、雪は続ける。
「一理あります」
あるんだ。そこはフォローするところじゃないんだ。
炎上するぞお前。
「でもだからこそ、しぶとく頑張ってくださいね。私はあなたを応援します、ACジャパンはこの活動を支援しています」
ただ応援するだけかよ。説教の内容が浅いよ。男ただ低身長をディスられただけだよ。
話を満足げに締めくくる雪に(全然締めくくれてはいないが)、
男はもはや自分が何をされたのか分かっていないようだ。
大丈夫、お前は悪くないよ。変なのに絡んじゃったね。
高級低層マンションかと思ったらとんだ事故物件だったね。なんかゴメンね。
男に同情していると、話が終わった事に気づいたのか男は感情を取り戻したようだ。
雪を見限り、私の方を吟味するような視線に悪寒が走る。
「じゃ、じゃあ隣りの君!よく見るとスタイル良いしクールビューティーだね!良かったら今からオレっちとお茶でも–––––」
「あげません!!!!!!」
意外としぶとくガッツを見せる男を、雪が物凄い形相で一喝する。
一切の容赦なく切り捨てた。
私が言うのもなんだけど、お前さっき応援するとか言ってなかった?
「まふゆはダメ!あたしのだから!あたしのなの!!!」
私の左腕をがっちり抱き締め、先ほどとはまるで別人のように怒鳴り散らす雪に、
男はただ立ち尽くすしかできない。なんか可哀想になってきた。
「まふゆの尻も触った事ない癖に分かったような口きかないで!凄いんだから!!
Yogiboよりモチモチでスベスベでフワフワなんだから!!」
やめろ、公道で私のケツの触り心地を大公開するな。
ていうかこいつケツに対しての執着が強すぎるだろ、これ私が取られるってより私のケツが持ってかれるのにブチギレてない?
もっと他になんかあるだろ。私にはケツしか能が無いのか。
「も、もういいです……僕帰ります…都会怖い……」
とうとう男は半ベソをかいてしまった。完全にオーバーキルである。
「うぅ…今朝の星占いで『ラッキーアイテムは女子高生の尻』って言ってたのに……」
あの星占いのくだり本当だったのかよ。何の伏線回収してんだよ。
その言葉を最後に男は去っていった。
その切なげな背中を見ていると謎の罪悪感に襲われる。
「……今度あの人に会ったら、ちゃんと謝っとけよ」
「え、やだ」
男が去ってからも、雪は私の左腕を抱き締めたままだ。
あんな事があった直後だというのに、彼女はなんだか楽しげにこちらを見上げてくる。
このまま帰るつもりらしく、腕を引っ張られる。
「ていうかお前、ナンパしてくる奴に毎回ああいう対応してんの?」
「うん、この前は遊戯王のスペルスピードの話したら離れていったよ」
「恐ろしい女だなお前…ああいうのは、一言ズバッと断るだけで十分なんだよ」
「あの程度の質問にも答えられない人に興味無いし、しつこい人は家の近くまでついてくるもん。まふゆだってよくナンパされるんだしわかるでしょ?」
「じゃあ私がいる時は『私の彼女なので』って言って断ってやるよ」
つい気持ち悪いセリフを口走ってしまい、しまったと思う。
「い、いや雪は嫌だよな、ごめん…」
恐る恐る見ると、雪は大きく目を見開いて「べ、別に……」とそっぽを向いてしまう。
気を遣わせてしまっただろうか、私が黙っていると、
「心配しなくていいよ。私はまふゆのお尻だけじゃなくて、ぜんぶが大好きだから」
真っ直ぐ前を向いたまま、雪は言う。顔は見えないが、耳は赤くなっているのがわかる。
それは友達としてだろうか、それとも恋愛的な意味でだろうか。
それはわからないが、何故か雪に確認を取ろうとは思わなかった。
今はこれで……このままで良い。
「……私も。雪といる時が一番幸せだよ」
後で調子に乗りそうだが、ついつい口に出してしまった。
照れ臭いが、紛れもない私の本心だ。
「……ふふ。ねぇまふゆ」
ふと雪がこっちを見上げてきた。
「何?」
こうして見ると、やっぱり可愛いなと思う。男が寄ってくるのも無理はない。
しばらく見つめ合ったのち。
うっとりとした表情で、雪は告げる。
「660」
「キュレムの合計種族値」
「えへへ、大好き!」
即答で正解した私を、雪はより一層強く抱き締めた。

コメント

コメントはまだありません
センシティブな内容が含まれている可能性のある作品は一覧に表示されません
人気のイラストタグ
人気の小説タグ