黒王国物語
夢に見た世界(4)
先のノールオリゾン国との戦争から幾日か。
シュヴァルツ王国は無事、ノールオリゾン国から領土を取り返したのだ。
シュヴァルツ王国の勝利に、皆は心から喜んだ。
「シュヴァルツ王国が無事、元に戻るわね。これも、ラルフやレオンのおかげかしら?」
「えー、俺様の武器製造の技術が無けりゃ、シュヴァルツ王国は負けてたぜ?」
「まあ、お前のおかげでもあるし、俺のおかげでもある。レオン、独り占めは良くない」
「えー、なんだよ、ラルフのケチ!」
「ケチなのはレオンだろ、全く……」
勝利したのは、この国が勝利のため祈り続けた――その事も忘れてはいけない。
「ジュリア、どうしたんだ?」
「いや、ちょっとね……少し、弟の所へ行ってくるわ」
「弟? 弟なんているのか?」
「ええ。邪教の神子だけど、生き別れの……あんな風に死んで、可哀想だから」
そう言い、ジュリアはユウの墓のある場所へ向かった。
ユウ・アレンゼ、ジュリア・アレンゼは、生き別れた姉弟だ。
修道院の方針が嫌になりジュリアは抜け出した。そこで、レオン達に出会ったのだ。
ジュリアは弟である神子・ユウに祈りを捧げた。
邪教の神子、ユウの命の灯火は潰えたが、まだ確かに祈りはあるのだ。
セシルと再び暮らし始めて、幾日か経った。
アリスは今、最愛の人物であるセシルと二人の子供と忙しい日を過ごしている。
「セシルさん、そうじゃないです! ミルクは、こうやってこうしてあげるんですよ!」
「悪い、アリス……何分、子育ては慣れてないのだ」
「セシルさん、貴方は、買い物へ行ってきて下さい」
「アリス、私はこの子達の面倒を見たいのだ。買い物なんかより、子供の面倒を……」
そう言い、セシルは慣れない手付きで、子供をあやしていく。
そんな子煩悩な父親を見て、アリスは思う。
やはり、この人と一緒に暮らす事が出来て良かった――今はその幸せを享受しよう。
そう、アリスは、セシルに、二人の子供に誓いを立てた。
「つまり、ソレイユ家とグローヴァー家は、我々に付くと……」
「その通りですわ」
「一度失った信用を、取り戻す所存です」
エレン達の元に、ルイスとエイミーが謁見を申し出た。
ソレイユ家とグローヴァー家が、エレン姫に忠誠を誓うというものだった。
「分かりました。それを認めましょう」
「エレン姫様、この者達は我々を……」
ウィルはエレンを制止したが、エレンの言葉も意味が分かる気がした。
ウィルは思うのだ――エレンはこれから先慈悲深い王女になっていくだろう。
「もう一度、もう一度だけ、チャンスをあげます。どうか、私に忠誠を誓って下さい。貴方達を信じます」
「有り難き、幸せですわ……!」
こうして、シュヴァルツ王国三大貴族として、ソレイユ家とグローヴァー家は道を歩んでいく。
全ては、領民のため、自分を守って死んでいった者の為――生き残る為、歩んでいく。
「真理奈姫様、どうやら、シュヴァルツ三大貴族が復活するらしいです」
「そうですか。それはシュヴァルツ王国にとって良いことですね」
ツツジの里の復興が終わり、一息を吐いてた時、真理奈はカイから報告を受けた。
「それより、カイ様……、そろそろ、一緒になりませんか?」
「え、それは、どういう意味でしょう?」
真理奈の結婚の申し出とも取れる申し出に、カイは照れていた――その時だ。
「お前との結婚は認めぬ!」
「って、玲様。いたんですか?」
「兄様、私もいい加減、いい歳です。結婚を認めて下さい」
「可愛い真理奈を嫁には出さぬぞ?」
「兄様!」
玲もどうやら、アニタの死を乗り越える事が出来た。
真理奈は思う――この先、きっと、上手く行く。
自分達は、シュヴァルツ王国の忠義を守って行こう――そう誓った。
「七瀬ちゃん、無事、シュヴァルツ王国は再建されたよ。僕の、君の願いが叶った」
ダニエルは七瀬の眠る墓へ来ていた。
ダニエルはそっと、ツツジの里に咲く花を供える。
最愛の相棒である七瀬は今、どう思っているのだろう。
きっと、それを喜んでいてくれると信じて。
「僕は誓うよ。エレン姫様の闇になる。それが、僕の使命だ」
これから先、きっとまた、シュヴァルツ王国を揺るがす事が起こるだろう。
歴史とはそういう物だ。歴史は奪い奪われ、紡がれていくのだ。
「君はそっと、僕を見守ってて欲しい。僕一人じゃ、やっぱり何も出来ないけどね。それでも、シュヴァルツ王国の為頑張るつもりだよ」
そう言い、ダニエルは最愛の相棒である七瀬に祈った。
「セレナ姫、ニコラ、俺は意味があったんだって今では思う。大事な二人を亡くしたけど」
アレックはシュヴァルツ王国が見渡せる丘の上に来ていた。
ここから見える景色は、とても綺麗だ――エレン姫の国が戻ってきた。
それは、シュヴァルツ王国の為に死んでいった二人の願いでもある。
そっと、アレックは空を仰いだ――空は微笑んでいる。
セレナ姫、セレナとの思い出が、ニコラの罵声が、思い起こされ、自分を鼓舞する。
「そうだね。セレナちゃん、ニコラ君……俺は、生きるよ。生きて、生きて、この国を守る」
自分はこれからも、シュヴァルツ王国の為、歩いて行こう。
アレックはその後、剣の腕を買われ、シュヴァルツ王国軍に入隊した。
「この国に、再び、災難は起こるんだな。でも、それも、乗り越えていく事が出来るんだな」
見事、エレン姫の国の再建は果たされた。
そう予言し、実現出来たのは、きっとエレン達や、エレン姫を思う者達のおかげだ。
「ニコラ殿、ワタシは、真実で有り続けるんだな」
それが、予言者であるエルマの、使命だ。
そよ風が、頬を撫でる。
エレンはそっと呼吸し、無事、シュヴァルツ王国の大地を踏みしめる。
「フーくん、これからも、私の騎士であって下さい」
「ああ、エレン。この国の為に、お前の為に、俺はあり続ける」
エレンとフェイは誓う。
この国を、これから先もずっとずっと皆で守って行こう。
それが、この国の再建を果たした者の勤めだ。
こうして、エレンのフェイの国再建の物語は、幕を閉じる。
歴史は紡がれ、これから先を生きていくだろう。