黒王国物語

夢に見た世界(3)

 シュヴァルツ王国軍陣営。
 勝利はもうすぐ手に入れられる――エレンはそう、騎士団長のセシルから聞いた。
 ようやく、自分の王国を取り戻せる。
 エレンはその実感を、少しずつ、少しずつ手に入れる感覚を得る。
 その為に、亡き姉と似たロボット――セレナを失わなくてはならなかった。
 それだけが、胸の奥を痛ませる出来事だった。
 国の為とは言え――エレンは心の中で嘆いた。
 ウィルとセシルは話があるからと言い、その場を離れた。
 護衛兵のフェイのみがエレンの側にいる。
 それが、命拾いとなった。
 突如、ノールオリゾン国軍数人がエレン姫達を囲む。
 いきなりの事に、エレンは驚き、フェイは剣を咄嗟に抜く。
「一体、エレン姫様に何のご用で……」
 このままでは、エレンを守り切れないだろう。
 フェイは、そう自負し、エレンを守ろうとした。
 しかし、エレンを殺す為に来たと思われたが、ノールオリゾン国の目的は別にあった。
 兵達はフェイを取り押さえる。
「フェイ・ローレンス……、彼をどうするつもりですか?」
「エレン姫様、貴方直々に、ノールオリゾン国城まで来て、降伏の宣言をして下さい。来なければ、この者の命は無いですよ」
 無茶苦茶だ――エレンもフェイもそう思った。
 勝ち戦なのに、負けを宣言するなど、我が軍の頑張りを裏切るに等しい行為――そんな事は出来ない。
 ならば、フェイを見捨てる――それも、エレンは出来ずにいた。
「明日の午後一二時までに、ノールオリゾン国城まで来て下さい」
「エレン姫様、どうか私など、気にせず、我が軍を勝利に導いて下さい」
 フェイはエレンを見据え、そう告げる。エレンを守る為なら、命など要らない――フェイはそう思った。
 フェイはそれだけ言うと、ノールオリゾン国兵に連れて行かれたのだった。
 暫くすると、ウィルとセシルがやって来る。弟のフェイがいない事に、ウィルは焦りを感じていた。
「エレン姫様、どうしましょう……」
 二人が焦り、セシルがエレンに答えを問うと、エレンは胸が苦しくなり、泣き始めた。
 その時だった。
「奇襲作戦でもやろうか、エレン姫様?」
 そう言い、姿を現したのは、アレックだった。
 かつての仲間――ウィルはアレックがノールオリゾン国兵の姿で現れた事に驚いたが、相手は敵兵だ。
 威嚇するように、睨み付ける。
「奇襲作戦、とは?」
「エレン姫様にまずは来て頂いて、フェイ君を解放する。そして、そのまま、ノールオリゾン国王・フェルナンドの首を取る。それだけだよ」
 セシルが尋ねると、アレックは自分が考えた作戦を告げる。
 エレンはその作戦で、フェイが助かるなら――決意した。
「分かりました。その作戦で行きましょう」
「エレン姫様、正気ですか? 相手はかつての仲間とはいえ、敵ですよ。裏切られる可能性が……」
「ウィル様、俺は、もう、自分のことを意味の無いように思わない。だからこそ、必ずや、エレン姫様にはセレナ姫の願いを叶えて欲しいと思ってる」
 アレックの真っ直ぐな目に、ウィルはアレックの真意を見た。
 彼は、自分達を助けるために、わざわざ寝返ったのだ――意味が無い存在ではない。
 ならば、その心意気を、認めるのが、この国の両腕である自分の役割だ。
「分かりました。アレック、貴方を信じましょう」
「ありがとうね、ウィル様。ならば決まり、急いで行こう」
 そう言い、エレンはアレックと共にフェイを解放する為、ノールオリゾン国城へ向かった。





 午後一二時。
 いよいよ、タイムリミットはやって来る。フェイはそう察した。
 エレンには、自分など見捨てて、勝利し、国を治めて欲しい。そう思っていた。
 やがて、フェイの首に刃が宛がわれる。
 そろそろ、自分は故郷でも無い地で殺される。
 思えば、自分の命を、エレンを守る事に費やしたかった人生だった。
 それは、果たされようとしているのだろうか――フェイは目を瞑り、死を覚悟した。
 その時だ。
「今すぐ、フェイ・ローレンスを解放しなさい」
 現れたのは、エレンとアレックだった。
 エレンはフェイの前に立ち、彼を守った。
「エレン、どうして、俺を……」
「思うのです。私は、国を担う者――側にいる者を守れなくては、それは出来ないと」
 一番側にいてくれた人を守れなくて、自分は王女として勤まるのだろうか。
 エレンはフェルナンドを睨み付け、告げる。
 負けを、認めるか――誰もが、そう思った時だった。
 アレックはフェイの手首に巻き付けられている縄を剣で解く――晴れて、フェイは自由の身になった。
「我が軍は勝利します。皆、かかるのです!」
 エレンがそう言うと、ぞくぞくシュヴァルツ王国軍がノールオリゾン国城を占拠していく。
 まずい状態になった。守りの兵は何処へ行ったか、フェルナンドの近くから逃げ出している。
 その慌てふためいている様子を、フェイも、アレックも見逃さない。
 フェイは落ちてる剣を拾い、フェルナンドの首を斬った。
 アレックも、同じように、フェルナンドの体を切り刻む――フェルナンドは絶命した。





 こうして、ノールオリゾン国との戦争は勝利に終わった。
 エレンは、ノールオリゾン国から奪われたシュヴァルツ王国の大地を取り戻したのだった。
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