黒王国物語

夢に見た世界(2)

 シュヴァルツ王国軍は、レオンの作った武器――銃の訓練を受け、無事、軍の革命を起こした。
 これなら、あのノールオリゾン国の技術にも打ち勝てるだろう。
 いよいよ、ノールオリゾン国に奪われた大地を取り戻す為の戦いが始まる。
 その戦には、シュヴァルツ王国軍やツツジの里の兵、そして何より、エレン姫達の姿があった。
 エレンはウィルに聞かされた事を心に得てから、シュヴァルツ王国の民と共に戦おうと決意したのだ。
 実際には戦いはしないが、少しでも軍を鼓舞し続ける存在でありたいと、エレンは思っていた。
 出兵の時間。
 エレンは、集まった兵達に告げる。
「皆さん、今まで、私と父の為、尽力して頂きありがとうございます。今までは、私は皆さんのお荷物でしかありませんでした。だけど、これからは、私も皆さんと共に戦いたい、そう思っています」
 そして、エレンは一息吐き、兵達にこう伝えた。
「皆、必ずや、シュヴァルツ王国を取り戻しますよ!」
 すると、皆は勝利を祈り、雄叫びを上げる。
 その兵達の姿を見て、エレンはとても誇りだと思ったのだった。
 こうして、シュヴァルツ王国の土地を取り戻す戦いが始まる。





 一方、ノールオリゾン国も、出兵の準備が行われていた。
 先日、相棒のニコラを亡くしたばかりのアレックは、気持ちが有耶無耶になりそうだった。
 罵声を浴びせてくる相棒はもういない。
 相棒がいない今、自分だけで、事をなし得る事が出来るのだろうか。
 そっと、側で恐らく人質にされるセレナを見た。
 セレナの目は真っ直ぐを向いていた。ただ前を向いていた。
「アレック、一緒、戦う」
「セレナちゃん……、そうだね。俺は戦わなきゃならないんだ」
 セレナを守る為に、アレックは亡き友に誓う――もう、後ろは向かない。
 ただ、彼女の思いを守る為に。





 こうして、シュヴァルツ王国軍とノールオリゾン国軍の戦いの火蓋が上がった。
 ノールオリゾン国軍は、勝利すると信じて戦った――が、シュヴァルツ王国軍の新しい技術に苦戦をしていた。
 王・フェルナンドは苛立ちを隠せなかった。
 何か、シュヴァルツ王国軍の士気を下げれないものか――シュヴァルツ王国軍の勢いは、首都を陥落させようとする勢いだ。
「セレナ姫、お前を人質とする」
 フェルナンドはそう言い、セレナを人質に、シュヴァルツ王国軍に文を送った。





「お姉様が、人質に?」
 シュヴァルツ王国軍陣営で、エレンの悲しい声が告げられる。
「ええ。セレナ姫の命と引き替えに、占拠している都市から軍を引いて欲しいとの事です」
 ウィルは、エレンに人質解放の条件を告げる。
 今、シュヴァルツ王国軍は勢いが良い――もし、こんな事になれば、軍の士気が下がるだろう。
 仮初めの姫の為に、そんな事は出来ないと、ウィルは告げる。
 もともとセレナは、エレンの替え玉だったのだ。
「ええ。お姉様を、諦めるしかありません……」
「エレン姫様……」
 側にいたフェイはエレンの決意を知った。
 例え、セレナ姫と言っても、どんなに似たとしても、彼女はロボットにしかない。
 命無きロボットを守るなど、この国の上に立つ者としてあってはいけないだろう。
 この国の上に立つには、綺麗な事も汚い事も知っていかなければならないのだ。
 フェイもウィルも、エレンも、セレナを見捨てる決意をした。





「人質を、殺す、だって……?」
 アレックは兵達の話でそれを知った。
 最前線で戦っていたアレックは、焦りを感じていた。
 このままでは、セレナが殺される――それだけは、それだけは、避けなければ。
 アレックはセレナのいる陣営まで、急いで向かった。
 アレックが来た時、セレナは壊される寸前だった。
「アレック、来ちゃ、駄目……」
 セレナは、アレックを確認すると、そう告げる。
 だが、アレックはフェルナンドに懇願する。
「フェルナンド様、セレナを、セレナを殺さないで下さい! どうか、命だけでも……」
「ふん、所詮、セレナ姫など、仮初めの姫でしかないのだ」
 そう、フェルナンドは吐き捨てる。
 仮初めの姫――セレナの存在を否定するその言葉に、アレックは狼狽える。
 やがて、フェルナンドの命によってセレナは壊されていく。
「セレナちゃん、セレナ……くそうっ……!」
「アレック、ありがと……、一緒に、いれて、幸せ、だった……」
 そして、最後に一言、セレナはアレックに告げる。
「アレック、エレン、姫、助けて……」
「セレナ――――くそうっ!!」
 自分は一体、何をしてきた。
 親友を亡くし、守るべき存在も亡くし、まるで、それが自分の存在まで否定されるように思えてくる。
 自分の行動は、正しかったのだろうか。
 自分の行動は、意味のあるものだったのだろうか。
 アレックは既に体をバラバラにされたセレナを抱きしめ、告げる。
「俺は、意味のある物になる。セレナちゃんの為、ニコラ君の為、俺は……」
 ならば、答えは一つだ。
 それすら、否定し、生き続ける――セレナの最後の願いを無駄にはしない。
 アレックは立ち上がった。
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