黒王国物語

墜ちた先へ(3)

 フェイはエレンにシュヴァルツ王国軍が、ツツジの里でノールオリゾン国で勝利をした報告をしていた。
「エレン姫様、どうやら、我が軍は勝利したとの事です」
「分かりました。フェイ・ローレンス、報告ありがとうございます」
 こう、姫の立場になるとエレンの目付きが変わる。
 いつものほわほわとした雰囲気が嘘のようだ。





 フェイは兄――ウィルに、今までの事を知りたいと思い執務室へやって来た。
 ウィルはついに離す時が来たとばかりに、今までの事をフェイ、そして側にいるエレンに伝えた。
 今まで、シュヴァルツ王国の立て直しの為、ウィルはダニエルに指示し、あくどい事までやって来たという事。
「ウィルさん、シュヴァルツ王国の為にありがとうございます」
 ウィルはシュヴァルツ王国の為を思い、動いていた。
 ダニエルはシュヴァルツ王国の為を思って、七瀬を使ってまで汚い事をしてきた。
 自分の周りで、皆はエレンの治めるだろうシュヴァルツ王国の復活を夢見て頑張ってきたのだ。
 それを知り、エレンは思う――その人達の為にも、亡き父の為にも、シュヴァルツ王国の道筋を歩こうと。
 そう誓った。





 リーフィ村総本山で産声が上がった。
 ユウの妾のアリスは双子の男女を産んだのだ。
「おめでとうございます、アリスさん。双子の女の子と男の子ですよ」
 そう言い、天使教会の者から、赤子を渡される。
 どの子も、とても、可愛い――アリスはそう思い、眠った。二人の出産で疲れたのだろう。





 天使教会から聞こえる怒号で、アリスは目覚めた。
「火事だ、皆逃げろ!」
 辺りは慌てふためいている。誰かが火の始末を怠ったのだろうか。
 とにかく、自分はこの二人の子供を連れ、ここから逃げなくては――そうアリスは思い、二人を抱えた時だ。
「アリス、無事か!」
 愛しい、愛しい声が聞こえる。
 アリスはそっと、目の前を見据えた――目の前に、セシルがいた。
 何故、セシルがいるのだろう。何故、この場に――いや、そんな事を考えている暇はない。
 早くここから逃げなければ。
「アリス、その子達は……?」
「先程、出産したのです。セシルさん、私はこの子達の為にも、逃げなければ……」
 母は強いというが、アリスは子供の為に強くなっていた。
 強くならなければ、この子達を育てられないとでも思ったのだろう。
「ああ。アリス、歩けるか?」
「はい。セシルさん、この子をお願いします」
 アリスは男の子の方を、セシルに抱いて逃げて欲しいと言う。
 セシルは分かったとばかりに、男の子の方を抱く――その時、セシルはふと何かを感じた。





 無事、アリス達は逃げる事が出来た。
 セシルはアリスに全てを話した。この火事は、シュヴァルツ王国が起こしたという事を。
「そう、だったんですね……」
 自分も、ダニエルも、天使教が憎かった。
 何としてでも、邪教を滅ぼしたい一心で天使教会を火に掛けた。
「すまない。お前がいるというのに、俺は……」
「いえ。私は貴方に酷い事をしました。死んで同然です……、でも、それでも……」
 セシルは自分を助けてくれた。
 その事が余計、嬉しく、余計、辛い。
 セシル――彼は健気だ。自分をこんなにも思っていてくれている。
 ふと、アリスは男の子、女の子の方を見据える。
「あれ……?」
「アリス、どうしたのだ?」
「いや、男の子の目元や女の子の産毛の色……貴方そっくりだなって」
「もしかして、この二人は……」
 その時、アリスは気付いた。
 自分が産んだのはユウの子ではない。セシルの子であると。
 そう思うと、何か、アリスは救われた気分になった。
「セシルさん、貴方の子ですよ」
 アリスは微かに笑い、言った。
 セシルはアリスにそう事実を告げられるや、微笑んだ。
 新たな命に、感謝した。





 シュヴァルツ王国軍によって、天使教会は滅ぼされた。
 各地にいる天使教会もやがて、滅ぼされるだろう。
 教皇・セラビムは炎に包まれ死に、神子達もシュヴァルツ王国軍に連行された。
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