黒王国物語

再起を懸けた戦い(2)

「セシル騎士団長、少しよろしいでしょうか?」
 先日、ツツジの里と軍事同盟が結ばれた。
 それを受け、セシルは騎士団の特訓を強化していた。
 今度こそ、あのツツジの里襲撃のような醜態は晒したくない。
 それは、襲撃で死んでいった仲間達の為でもある。生き残った者であるセシルの役目。
「なんだ、ラルフ」
「ダニエル様が、来られています」
 そっと、ラルフは視線でダニエルの方を見た。
 一体、何の用だろう――疑問に持ちながらも、セシルはダニエルの方へ向かった。





「ダニエル様、一体何のご用で?」
 ダニエルの執務室――そこは、いつも使用人のモニカによって、綺麗にされている。
「実はね、一緒に敵討ちをしたいと思って」
「それは、どういう意味で……?」
「君、奥さんを奪われたとか」
 いつの間に、アリスと別れた事を知られたのだろうか。
 きっと、何も関係の無いダニエルにも知られているぐらいだ。騎士達の間でも噂が立っているのだろう。
 神子・ユウに最愛の妻を奪われた事を――あまり公にはしたくなかったが、こう噂が立っている以上、仕方の無い事かも知れない。
「僕もね、子供を失ったんだ。エレン姫様が、可哀想でやれない」
「それはお気の毒に……。それと私の事と何か関係があるのでしょうか?」
「どうやら、天使教が関わっているみたいなんだ」
 天使教――セシルの逆鱗に触れたあの邪教。
 あの邪教は自分の妻を奪っただけでなく、エレン姫の子供まで殺したのか。セシルはダニエルの物言いから感じる怒りを察した。
「どう、仕返しをしようか悩んでいる。良い策があったら、教えてくれると嬉しい」
 ダニエルは真剣な物言いで、告げる。
 最愛の者を奪われた悲しみは、計り知れないものだ――セシルはそっと考えを張り巡らせた。





 フェイはあの一件から、エレンと距離を置くようになった。
 エレン姫に申し訳ない気持ちでいっぱいだからだ。
「エレン姫様、あまりはしゃがれると、転ばれますよ?」
「フーくん……」
 エレンは立ち直っているとは言えないが、少しずつ元気を取り戻している。
 その強さがとても儚く思う。自分は当事者じゃないのに、こんなにしょげている。
 これも国を担う者の強さだろうか。
「あんさん、どうしたん? 元気ないで?」
「七瀬、いや、ちょっと色々あって……」
「あんたが元気ないと、エレン姫様も元気なくなるで?」
 七瀬はそう言い、肩を叩いた。
「無茶言うな。エレンになんて顔向けすれば良いのか分からないんだ」
「いつも通りでええと思うで?」
 いつも通りで良いと言われても――どうすれば、そう考えてた時だ。
 エレン姫が不思議そうに自分を見つめている。
「あのフーくん、その……、貴方がそんな風に私を避けると、どうして良いのか分からなくなるよ」
 そうエレンは言い、悲しく笑う。
「私のこと、避けないで……。お願いだから、避けちゃ嫌だよ」
「エレン姫様……」
 じゃあ、どうして悲しく笑うのだろう。
 エレンの言葉の意味を、フェイは未だくみ取れないでいた。





 ツツジの里。
 真理奈は、ノールオリゾン国がツツジの里へ進軍している知らせを受けた。
 シュヴァルツ王国軍もこちらへ向かってきているという。
「皆、必ずや、ツツジの里を死守しますよ」
 新首領の真理奈が声を荒上げると、ツツジの里の兵達は士気を高める。
 こうして、ツツジの里を守る戦いが火種は切られたのだった。
Back← →Next
top