黒王国物語

暗雲を切り裂いて(3)

 ミーアはとある占い師を尋ねた。
 最近、有名なマクスウェル領の占い師――エルマ・エッカートの元に。
「ねえ、エルマ。貴方、予言したのでしょ? シュヴァルツ王国は復活するって。どうすれば復活するの?」
 ミーアはシュヴァルツ王国の復活に自分も力になりたかった。
 今はごく一般の主婦であるが、昔は騎士団にいた事もある。
 その伝手もあり、ラルフも騎士団に所属している。
 騎士団は国を思う者達が集まる集団でもある。
 あの騎士団員達は、国を守りたいという思いが強い、純粋に思っている人達ばかりだ。
「それを言ってしまっては、面白くないんだな。でも、時期にシュヴァルツ王国は復活するんだな」
「ねえ、具体的な事を言ってよ」
「そうだったんだな……、シュヴァルツ王国軍の革命が必要なのかもしれないんだな」
「革命? どうするの?」
「それを言っては、面白くない……けど、ヒントをあげるんだな。貴方の近くにいる人、その人が復活の鍵になるんだな」
 鍵になる人物――一体誰だろう。近くにいるというが、ラルフは一端の騎士だ。
 レオンに至っては鍛冶屋だし、ジュリアに至っては情報屋――どの者も可能性は無くは無いが低いだろう。
「一体、誰なのかしら? 革命の鍵を握る人って?」
 ミーアは、エルマの言葉に首を傾げながら家に帰宅したのだった。





 マクスウェル領牢。
 そこに、イオン・カルロス、ノエル・クレイが閉じ込められている。
 自分達が、ダニエル・フォン・マクスウェルを殺害しようと企てた。
 今や、ソレイユ家、グローヴァー家への人質になっている。
「ねえ、ノエルさん。僕達、一体なんだったのでしょう?」
「イオン、それはどういう事だろうか?」
 ノエルがイオンに相づちを打つと、イオンは虚無を抱いた。
 結局、自分はルイスのお荷物にしかなれなかった。ルイスの命とは言え、ダニエルを暗殺し失敗した、グローヴァー家元領主を殺した。
 ルイスの望まぬ事をしたのだ。荷物以外の何物でもない。
「一体何だったのだろうな……私は欲に駆られて、空回りだ」
 思えば、エイミーの姉であるローゼと上手く行かなくなってから、人生が狂ったように感じる。
 ローゼを利用し、研究所を盛り立てようとしたが、それが間違いだった――今では全てが悔やまれる。
 ローゼの事は利用していたが、好意を抱いていたのは事実だ。
 二人が虚しさに襲われていた時だ。
 誰かがこちらへ向かって来る。
「貴方は、香月七瀬……」
「どうやら、タイムリミットみたいだな」
 タイムリミット――人質を解放する為の身代金を、ルイスもエイミーも準備出来なかった。
 あんな莫大な金額を払う方が馬鹿馬鹿しい。
 善意のためならお金より命の方が大事というが、そう簡単に果たされる物ではない。
「あんさん達、この毒を飲むんや」
 七瀬が提示したのは、奇しくもノエルが作った人を殺す為の毒だった。
 これを飲むと言うことは、死を意味する。
「分かりました。それが僕の末路なら、定めなら、飲みましょう」
「イオン……」
「ノエルさん、僕はもう、ルイスのお荷物になるのは嫌です」
 イオンは微笑し、七瀬から毒の入った瓶を受け取る。
「そうだな。もう惨めな生き方をするのはごめんだ」
 そう言い、ノエルも毒を受け取った。





 二人はマクスウェル領の牢で、息絶えた。
 二人の死は関係者にすぐさま、報告された。





「ノエルが、そう……」
 ミーアの元にソレイユの兵がやって来た。
 ノエルがローゼを殺したと聞いた時から、嫌な予感はしていたが――命とはなんと簡単に果ててしまうものだろう。
「あいつは、馬鹿だ。でも、俺達はあいつの痛みを分かってやれなかった」
 ノエルは自信家だが、繊細な人物でもある――何故、彼の気持ちを分かってやれなかったのだろう。
 だが、彼は命とはいえ、人を殺めたのだ。人を殺めたように、ノエルも罪を償うべきなのかもしれない。





 ルイスの元にも、イオンの死を知らせる伝書が来た。
 それを聞くや、ルイスは泣き崩れ力が抜けたように、膝を付く。
「イオン、ごめんな……、一番側にいて欲しい人を、俺は守れなかった」
 ダニエルも憎い。だが、何より、ルイスは自分が憎かった。
 家が傾いても、イオンを――かけがえのない友を、助けるべきだった。





 二人の死は、やがて、グローヴァー家、ソレイユ家に暗雲が立ち込む事になる。
 ノールオリゾンの両腕は、やがて朽ちるだろう。
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