黒王国物語
幸せの綻び(1)
セシルと別れて、幾日経った。
アリスは天使教会で、ユウの侍女として住み込みで働く事になった。
名目は侍女だが、実質は雇い売春婦でも間違いないかもしれない。
あれから、何度もユウに抱かれた。ユウが与えてくれる快感を何度受けただろう。
体はユウを覚えるようになっている。
抱かれる最中、ユウが愛していると言う度に、自分の体が、精神が興奮していく。
その事に、嫌気が差している。ユウにも、自分にも。
アリスはユウの部屋の掃除をしていた時だった。
一通の手紙がゴミ箱に捨てられていたのだ。思わず、アリスはその手紙を拾い、封を切った。
それは、アリス宛の手紙だった。
宛名主は――セシル、かつて愛していた男である。
手紙には、アリスの心配をしている文が綴られていた。
やれ、食事はしているか、体は壊していないか、些細な心配をセシルはしている。
あんなに酷い事を言ったのに、セシルは尚、自分を愛してくれている。
その事がアリスは純粋に嬉しかった。
ノールオリゾン国で、機械人形であるセレナは国王・フェルナンドの寝室にいた。
まさか、本当に娶られる事になるとは――セレナは思考が付いていかなかった。
フェルナンドは寝息を立てて、眠っている。
セレナはそっとその場を離れた。
「あれ、貴方、アレック、ニコラ……?」
すると寝室の外で、アレックとニコラが待ち伏せていたのだ。
二人は最近、ノールオリゾン国の新米兵士として、働いている。
実質、二人に会うのは幾日振りだ。
「セレナ姫様、少しよろしいでしょうか?」
アレックはそう言い、セレナを人気の無い部屋へ連れ込んだ。
「アレック、ニコラ、何故、いる? 私、貴方達、逃がした」
「うーん、あのね、戻ってきちゃった」
「こいつがよォ、どうしても、セレナの元を、離れたくねェみたいでなァ」
「なんで、逃げない? ここ、来ちゃ、駄目」
「もう、ノールオリゾン国の兵として採用されたからね、逃げないよ。俺は」
そう言い、アレックはセレナの目を見据える――セレナの虚ろな目が潤んでいる錯覚を覚える。
「俺はね、セレナちゃんを守るよ。側にいさせて。君の望む事を叶えるためなら、なんだってする」
「アレック……」
アレックはそう言い、セレナに笑ってみせた。
「セレナァ、お前は何が望みなんだァ?」
さりげなく、ニコラはセレナに尋ねる。すると、セレナは告げる。
「エレン、守る。エレン、願い、叶える。シュヴァルツ王国、復活、させる」
この機械人形は心は無いはずなのに――そう組み込んだ覚えはないのに、いつの間にか心を覚えたのだろうか。
「分かった。その為に、俺はセレナを支えるよ」
「まァ、泥船だというのは、知って乗ったもんだァ。セレナ、俺らが付いてる。一人じゃねェ」
セレナの願いを叶える為なら――アレック、ニコラはセレナに誓う。
ノールオリゾン国を必ずや、崩壊させる。セレナの願う、シュヴァルツ王国復興の為に。