黒王国物語

運命が近づく(2)

 それは昼時だった。
 ミーアは急いで買い物から帰ってきた。ある噂を聞いたのだ。
「ねえ、ラルフ、レオン。嫌なお知らせがあるわ」
 自分の息子であるラルフと、その息子と遊ぶためにやって来たレオンは慌てて帰ってきたミーアに驚く。
「実は、ジュリアがツツジの里で拷問を受けているって話よ」
「は、ジュリアがか? なんで、ジュリアが……あいつ、危ない話に乗っかりでもしたか?」
 ジュリアに少し好意を抱いていたレオンは、ショックを隠しきれない様子だった。
「実は、母さん。俺も、言わなきゃならない事があるんだ」
「ラルフ、どうしたの? そんなに改まって……」
 ミーアは、そう言い息子を見据えた。すると、ラルフは重い口を開いた。
「シュヴァルツ王国騎士団から招集礼状が来た。俺は戦場に行かなきゃならない」
「はああああ? お前、ケーキ屋になるつもりじゃなかったのかよ!」
「どうやらケーキ屋にはなれないみたいだ。ツツジの里を襲撃するとの、元帥閣下の命だ」
「ラルフ……、そんな、やっとずっと一緒に暮らせると思ったのに……」
 まさか、こんなに早く、シュヴァルツ王国復興の狼煙が上がるとは。
 しかも、ツツジの里は元シュヴァルツ王国の領地だったではないか。今は、何やらノールオリゾン側に付いているが。
「セシル騎士団長には良くして貰った身だ。裏切ることは出来ない」
「ラルフ、分かったわ。それが貴方の選ぶ道なら私は応援するわ」
 ミーアはそう言いながらも、自分の偽りの言葉に吐き気がしてしまいそうだった。
 本音を言えば、大事な一人息子を戦場に行かせたくない。養子のノエルはノールオリゾン国に捕まったままだし、不安を抱えたまま一人になるのはもう嫌だ。
 民衆の言葉は無力にしかないのか。ミーアは無念を抱いた。
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