黒王国物語

運命が近づく(1)

 朝の鳥が悲鳴を上げ、飛んでいく。
 その様を、ずっと、ずっと、エレンは見ていた。
 先日、ミツル・カヅキが自分を殺そうと毒入りの饅頭を拵えて来た。
 事無きことを終えたが、その事にエレンは胸を痛めていた。
「エレン姫様、ここへいらしていたのですか」
「あ、ウィルさん」
 そこに、シュヴァルツ王国の元帥だったウィルがやって来る。
 ウィルの目にはまたもや隈が出来ていた。
「ずっと最近、ウィルさんは考え事をしていらっしゃいますが、どうされたんですか?」
「エレン姫様、貴方様はただ、シュヴァルツ王国の事を考えていて下さいね」
「ウィルさん、私は考えています。必ずやお父様の遺言を果たすつもりです」
「エレン姫様。私達は、その為に動いているのです。貴方はただ前を見据えていて下さい」
 ウィルはそう言い、振り返る。すると、自分の弟――フェイが自分とエレンを見据えていたのを知った。
「あ、フーくん!」
「兄上の前だ、エレン姫様。全く、勝手に出歩くのはいい加減にしろとあれ程言ってるだろ!」
「あ、ごめんごめん」
「本当に思ってるのか? 全く、俺の苦労も分かってくれよ」
 フェイが苦言をするや、エレンは大丈夫とだけ言って、フェイとウィルから少し離れた場所で朝の空気を吸った。
「兄上、私は思うのです。エレン姫はこのまま、何も重みを持たず生きて欲しいと。それは、姫護衛騎士として間違った考えなのでしょうか?」
「フェイ、そうですね。私が行っている行動からすれば、それは裏切りに等しいです。でも、その気持ちも分かりますよ」
「兄上……、私は、エレン姫様には普通の幸せを抱いて欲しい。本音を言うと。だけど、だけど、シュヴァルツ王国を復興して欲しいのも事実なのです」
 それは護衛騎士として悩ましき思いだった。兄も周りの者も、シュヴァルツ王国の為に動いている。
 やはり、これは、裏切りなのだろうか。
「フェイ、貴方は変わらないで下さいね。純粋に、エレン姫様を守るのです」
「兄上……」
 ふと、フェイは頭を過ぎる事があった。
 自分の兄は、まさか、倫理的に良からぬ事をしているのではないかと。
 いや、それは間違いだ。兄が国の為に下の者に命じ、間違ったことをしているのではないかと。
 まだ、フェイは知らない。純粋に姫と国を思うフェイの裏側で、行われている数々の出来事を未だ知らぬままでいた。
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