黒王国物語

動き出す者達(2)

「ミツル、それは本当か? アニタさんが……、ここに来たって」
「本当だよ」
 リーフィ村の一室。
 ミツルが帰ってきて柚に零したのは、ツツジの首領の妻が来たという事実だ。
 アニタは脅してきたのだ。エレン姫を殺せ。
 さすれば、ツツジの里に帰れるという。
「そんなこと、出来るか。エレン姫はとても良い人だ。俺にでさえも、笑顔を向けてくれたじゃないか」
 ツツジの里ではいつも肩身の狭い思いをしていた柚にとって、エレンの笑顔は眩しいものだった。
「じゃあ、姉さんは、ツツジの里を裏切るの?」
「ツツジの里は何をしてくれた。親や俺達を蔑ろにしてたじゃないか。裏切るも何も、あの場所に俺達の居場所はもう無いよ」
 それを聞いて、ミツルはそんな柚に憤りを感じた。
 自分はツツジの里に帰って、暮らしたい。それなのに。
「姉さんは裏切るんだ」
「ミツル、エレン姫を殺すのは止めろよ。そんなこと俺が許さないぞ」
「ボクは、ツツジの里に帰りたいよ、帰りたいんだよ! 姉さんの分からずや!」
 そう言い、ミツルはその部屋から立ち去った。





 その夜。
 ミツルは、エレンが身を寄せている家へ向かった。
 毒の入った、饅頭を手にして、向かった。
 しかし勿論、そんな容易く、エレン姫を殺される訳がなく。
 ミツルは、その場で捕まり、柚と一緒に、親シュヴァルツ王国派のマクスウェル家の牢屋に収監されたのだった。
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