#282 【一塔両断】逓信建築の残香、ソフトバンクテレコム千葉ビル | 関東土木保安協会

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ていぱーくでお馴染み、先月閉館した逓信総合博物館を設計したのは、小坂秀雄氏です。
小坂氏は逓信省出身の建築家で、逓信建築直系のアイデンティティを持つ作品を数多く生み出しています。
ホテルオークラなどは代表例で、他には郵政省、国際電信電話等のビルの例が多く見られます。

そんな小坂氏が、独立して立ち上げたのが「丸ノ内建築事務所」です。
公式HPはこちらです → http://www.maru-arc.co.jp/13.html


公式HPのWORKS(作品集)では、生み出された数多くの美しいビルを閲覧することができます。
逓信省出身ならではともいえる、鉄塔を有する通信ビルの作品もいくつかみられます。
そんな中、通信・交通施設のなかで最初に出てくるビルが「ITJ新中央局」という建物です。
ITJなんて聞き慣れませんし、中央局と言い鉄塔が載っているからには通信ビルなのでしょう。

何だろうと思い起こしてみると、数年前に夕暮れの千葉ニュータウンで見たとあるビルを思い出しました。
そうそう、開発が思うように進まなかった千葉ニュータウン、今でこそショッピングモールなどが建ち並んできましたが、駅前には広大な敷地が未だに残っているのです。
そんなところに、謎の通信ビルが建っていたのを思い出しました。

保安協会としては、是非このビルの今を見てみたい、そして公式サイトと同じアングルで正対写真を撮ってみたい、と思うのでした。
早速現地に行ってみると、ありましたありました、そこには逓信建築の流れを汲む凛々しい通信ビルが建っていたのです。


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▲ビル外観。規模、姿共に迫力がある


ビルは「ソフトバンクテレコム千葉ビル」です。
旧称は「日本テレコム千葉ビル」で、それ以前の俗称が「ITJ新中央局」というようです。

ITJというのは日本国際通信株式会社です。
80年代後半、通信事業の民営化と開放を受けて、全国に多数の第一種電気通信事業者が立ちあがりました。
新電電と呼ばれるこれらの会社は、それぞれが持つ独自の通信ネットワークや資本を糧に、競争社会の波から外れていた旧電電公社に戦いを挑みました。


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▲正面より。入り口の庇が格好良い


バブルが膨らんでいた当時、新電電各社は企業の連合体をバックにいくつか設立されましたが、バブルがはじけた90年代、待っていたのは吸収・合併です。
KDD・DDI・IDOの3社合併も有名ですが、ITJこと日本国際通信も、日本テレコムと合併を行いました。
合わせて、このビルも資産元を変え日本テレコム千葉ビルとなりました。
合併した各社は、当然各々が残してきたインフラネットワークを取り込んでいきました。
その後、日本テレコムは写メールでお馴染みJ-PHONEを携え、ボーダフォン、ソフトバンク社名がコロコロ変わっていったのは記憶に新しいかと思います。


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▲旧日本テレコム館跡


このビルの脇にも日本テレコム館という施設があったようです。
地図上では残存していますが、現地に行くと廃墟同然の空き家となっていました。
丸ノ内さんの写真を見る限り、竣工時からあるようですので、広報施設的な用途で建てられ、その後日本テレコムの広報館となったようです。


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▲鉄塔部拡大。下の2段は後付けで、架台が骨組みだけである


鉄塔から見てみると、電電公社のパイプラーメン構造と呼ばれる鋼管組みの鉄塔に酷似しており、マイクロアンテナが載っていた当時は、それこそ通信ビルとして気高く建っていたのかなと感じます。
現在では、恐らくソフトバンク系列と思われる携帯電話の基地局が載っているだけで、無用の長物となっている感が否めません。
前と同じように竣工時からの写真と比較すると、下2段の架台は後付けの様です。
グレーチングの足場もなく外側のフレームだけで、なぜ増設したのかはいまいち理解できません。


さて、ここ千葉ニュータウンは郊外への大規模開発により形成された住宅地であると前に述べましたが、現在でも、このビルの前の敷地は空き地であり、その奥の区画は真新しい住宅が並ぶというような光景が広がっていました。

丸ノ内さんのサイトにある様な正対写真が撮れないかと思いうろうろしてみると、長年ほったらかしにされた土地には雑草が生えまくり、思うように真正面のアングルに進めません。
というわけで、真正面の空き地の先に広がる住宅地側からアプローチしてみことにしました。
住宅地内を不審者の如く徘徊してみます。このような住宅街では、家と家の隙間に、隣接する道路同士を結ぶために設置された路地がある筈なのですが・・・

・・・と探していると、ありました、例の細い路地です。その先には、ビルの鉄塔がドカーンと待っていました。
おおお、これは行けそうです。


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▲住宅街の細い路地から、鉄塔が顔を出す


という訳で、目的の一つであった、丸の内さんの公式写真と同じアングルから正対写真を撮ってみました。
当初は植えたての木々も、後から植えた木々も、ビルを隠すくらい大きくなりましたが、鉄塔と横に繋がった窓は当時と全く変わらない姿です。
なんとも知的でかっこいいビルです。
惜しむべきは先ほども言ったようにマイクロアンテナがない所でしょうか。


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▲正対写真で収めるソフトバンク千葉ビルの現在の姿


事あるごとにマイクロマイクロ五月蠅い私でありますが、そのために建てた鉄塔です。
アンテナがなくなった現在の姿を見ても、無用の長物としての無残な姿を見せつけられているようで、悲しい限りです。
意匠的にも鉄塔が載った状態が完成系であることを考えると、鉄塔が撤去されていないだけ喜ぶべきでしょう。


90年代のマイクロ通信網がまだ主流で残っていた時代に建てられた、新電電系列の立派な通信ビル。
クラウドサービスやデータセンターといった単語が主流の現在では、箱だけあれば充足するので、赤白の巨大な鉄塔は寧ろ時代遅れとも言えます。
しかしそれは、時代の流れを感じさせる当時のビルとしてのアイデンティティであって、社名がいくら変わろうとも、建物だけは不屈の精神で残ってきたという主張をも感じさせてくれます。


丸ノ内建築事務所が残した、逓信建築の残香を感じさせるITJ新中央局ことソフトバンクテレコム千葉ビル。
社名が変わろうとも、内部の機械設備が変わろうとも、その気高くそびえ立つ鉄塔と共に、末永く残って欲しいものです。