ベストショット
EOS-1D X Mark III, EF400mm F2.8L IS III USM, F3.5, 1/1000sec, ISO4000
©Kiyoshi SAKAMOTO
文・野口美恵(スポーツライター)
国内外の個性豊かな選手たちの活躍を15年余にわたって撮影してきた坂本清氏。全日本フィギュアスケート選手権での全選手写真のウェブ掲載にも定評がある。フィギュアスケート撮影の魅力について、思いを尋ねた。
坂本清さんというと、全日本フィギュアスケート選手権で全選手の写真をウェブ掲載してくださることで知られていますね。
10年ほど前から、全選手をウェブ掲載するようになりました。選手の方々からも「全員の写真を掲載してもらえるので嬉しい」と好評なので、かなり大変ですが速報を続けています。手法としては、撮影しながらダイレクトにパソコンへデータを送り、選手がキス&クライで得点を待っている間に、写真を送信しています。選手の演技直後にはもうウェブで掲載されているという速報スタイルを早い段階で確立しました。
それではフォトグラファーになったきっかけから、お話を聞かせてくだい。
僕の場合は、父親がカメラ好きだった影響ですね。小学校6年生の時には父と一緒にスーパーカーショーを撮影に行ったりしていました。中学3年生の時に一眼レフカメラを買ってもらい、90年代にニューF-1、T90を発売してすぐに購入したのがキヤノンの始まりです。写真を撮れる仕事をしようと思い、アマチュアスポーツや演奏会の撮影をする会社にアルバイトで入り、そのまま正社員に。小中学生の吹奏楽コンクールやバレーボール大会などを撮影していました。
坂本さんというと、春高バレーでも有名ですね。
バレーボールは今でもずっと撮影を続けています。1998年にバレーボールの世界選手権が日本で開催され、その時にバレーボール雑誌からお仕事をいただいたことがきっかけで、フリーランスに転向しようと考え始めました。2000年にデジタル一眼レフカメラのEOS D30が発売されたので、退職金をつぎ込んで購入し、自分の機材をデジタル化してフリーランスに転向しました。
フィギュアスケートの撮影はいつからでしょう?
2005年の全日本選手権が最初でした。浅田真央さんの撮影を頼まれたのがきっかけです。当時の浅田さんは15歳。GPファイナルで優勝して、注目の人でした。すごい子がいると聞いていましたが、可愛らしい女の子が、お姉さんの選手たちに混ざって楽しそうに演技する姿が印象的でした。
フィギュアスケートの第一印象はどんなものでしたか?
それまでは採点競技はスポーツではなく芸術分野だと思っていたので、あまり興味を持っていませんでした。でも真央ちゃんを見て「この子を追いたいな、このスポーツを撮りたいな」と思い、スケートにハマリました。2007-2008シーズンから海外取材を始め、2008年の四大陸選手権でキム・ヨナを初めて撮影し、彼女のスピード感に驚かされました。2人が競っていた時代に、それぞれが違う魅力があって、本当に撮影が楽しかったです。
全日本フィギュアスケート選手権での全選手撮影はいつごろから?
2012年にEOS-1D Xが出たことが1つのきっかけでした。この機種で初めて、撮影中にカメラからパソコンへダイレクトに写真の転送が可能になり、リンクサイドから次々と写真を編集部に送れるようになったんです。全日本選手権での全選手掲載は、選手や親御さんにすごく喜ばれます。今は、東日本選手権や西日本選手権などの地方大会も撮影に行くようになりました。
アイスショーの撮影も多く手がけていらっしゃいますね。
僕自身は、プリンスアイスワールドが大好きです。地方大会や全日本選手権で撮影していた子たちが、いずれプロに転向し、プリンスのキャストになっているんです。選手たちが成長し、それぞれの地方でコーチ業もやりながら、プロスケーターとしても練習を続け、輝き続けている。そんな姿を追い続けられるのが嬉しいことですね。
プリンスアイスワールドは、多くの日本人スケーターが活躍していますね。
2018年は40周年で、とても演出も凝っていました。全国を回り、18公演撮影しました。他のアイスショーはトップ選手が交互に滑る形式が多く、エキシビションとあまり変わりませんが、プリンスアイスワールドは違います。毎年テーマ性のある演出やストーリー仕立てのプログラムなど、見せ方に面白味があって、夢中で撮影しています。特に群舞が好きで、クオリティも年々上がっていると思います。プリンスアイスワールドを最初に撮影に行った時は、トップ選手の写真を頼まれてだったのですが、群舞の魅力に引き込まれて、使う機会がなくても撮影し続けていました。今ではネットメディアで扱っていただけるようになり、嬉しいです。
羽生結弦選手の撮影でも人気のフォトグラファーの1人ですが、いつ頃から撮影していますか。
2008年の全日本選手権からです。全日本ジュニア王者として出場した時で、やはり浅田さんの時と同じで「すごい選手が出てきた」と噂になっていました。第一印象は「とうとう男子でも絵になる選手が出てきた」というもの。どんな場面でも美しく、絵になるんです。
羽生選手の撮影で印象的だった試合は?
何と言っても2012年、ニースで行われた世界選手権ですね。本当に感動しました。途中で体力がなくなって転んだところとか、全力で演じてるのが伝わってきました。そして後半のステップの前に雄叫びを上げる場面は、ちょうど僕の真っ正面だったので、気迫のこもった表情を押さえることができました。本当に感動しました。
羽生選手の撮影で心がけていることは?
羽生選手の場合は、動きが複雑で難しく、スピードもあるので、プログラムをしっかり頭に入れていないと撮影は難しいです。一発で撮ることは無理ですね。事前にプログラムの動きを見て、どの角度からどの場面を撮れるのか考えて、撮影ポジションを選びます。実は2020年の四大陸選手権では『SEIMEI』を再演しましたが、平昌五輪シーズンの4分半から4分に変更していることで、どんな風にプログラムを変更しているか本番までわかりませんでした。そのため、どの動きがなくなるのか、どんな振付が加わるのか、わからない。四大陸選手権のメディアルームで、フォトグラファー仲間で映像を見ながらあれこれ想像して、本番に挑みました。『SEIMEI』は本当に好きなプログラムで、撮り所がいっぱいあるので、再演はすごく楽しみでした。
四大陸選手権では、キヤノンの新機種で撮影されたそうですね。
2月14日発売のEOS-1D X Mark Ⅲを試験的に使わせていただきました。前機種のEOS-1D X Mark Ⅱに比べて、ピントの水準と、高感度が良くなった感触でした。感度は1、2段は上げても綺麗に撮れる印象です。今回は練習リンクがかなり暗かったのですが、ISO25600でも綺麗に撮れました。スマートコントローラーという機能が付いて焦点位置が楽に変えられるようになったことや、液晶画面をタッチして写真を選べるのでスマートフォンのように操作できます。全体的に使い勝手が良くなった印象です。
エキシビションの写真も綺麗でしたね。
エキシビションやアイスショーでは、逆光で選手が美しく浮き上がるような写真を狙うのですが、やはり感度を上げられることで、髪の毛1本1本が綺麗に散っている感じが出せました。撮影初日は、新しいカメラで最適な設定がわからず、ちょっと髪の毛1本1本のエッジが太くて(髪の毛の輪郭がぼやけて)、束になった感じの印象でした。その後ピクチャースタイルで、コントラストやシャープネスをちょっと変更したら、すごく良くなりました。こういった細かい調整もやりやすくなったと思います。
四大陸選手権で印象的だったシーンは?
男子の表彰式です。羽生選手、ジェイソン・ブラウン選手、鍵山優真選手の3人がそれぞれ国旗を持って撮影したあと、その国旗をフォトグラファーに手渡した場面です。始めにブラウン選手が星条旗をフォトグラファーに渡したので、羽生選手はその星条旗の上に日の丸を置く流れになったのですが「それはダメだ」とつぶやいて、星条旗を畳んで横に避けて、その隣に日の丸を置きました。「上に乗せたら失礼」ということを考えていた様子です。あんなに気を遣い、礼儀正しい子はいませんよね。
四大陸選手権で銅メダルの鍵山優真選手に感動したそうですね。
2019-2020シーズンの東日本ジュニア選手権から始まり、全日本ジュニア、全日本、四大陸と4大会を撮影しました。「間違いなく、シニアになっても表彰台に乗る子」という勢いを感じましたが、早くも国際大会で活躍したので嬉しいです。とってもジャンプが綺麗な子だなという印象でした。またエッジワークに定評があるということで、ステップをしている時に氷が削られて飛び散る様子なども写真に収めることができました。表情だけでなく、足元や身体の動きでも躍動感を表せる選手だと思います。
宇野昌磨選手の撮影でも活躍されていますね。
宇野選手も新しいコーチの元でどう変化するのか、世界選手権での撮影が楽しみです。「スケートを楽しむ」と話していたので、彼の輝く笑顔を収めたいですね。アイスショーとしては『ザ・アイス』も好きで、宇野選手の個性が輝く舞台になっていると思います。
この2年は髙橋大輔選手が復帰し、注目されていましたね。
髙橋選手はやはり色気がありますよね。アイスダンスで現役続行とのことで、撮影の楽しみが続きます。もともとアイスダンスは興味があって、頼まれていなくても撮影していたくらい大好きです。特に米国のシブタニ兄妹が好きで、ボストンの2016年世界選手権でのフリーダンスに痺れました。コールドプレイの『フィックス・ユー』の音楽に乗せて、ツイズルで観客がワーっと盛り上がる熱感がすごく、夢中でシャッターを押しました。なので日本選手がアイスダンスで活躍してくれると嬉しいです。アイスダンスといえば、ジュニアの吉田唄菜、西山真瑚カップルの活躍にも注目しています。今後はアイスダンスもチケットがなかなか取れない種目になっていくでしょうね。撮り手としては楽しみが増えました。
それでは今後の抱負を。
羽生選手については、2年後の北京五輪まで現役を続けてくれるならば、どんなプログラムが見られるのか、またどんな熟成された演技を見せてくれるのか、楽しみです。羽生選手は衣装もとても素敵で、デザインやスワロフスキーのあしらいも美しいので、撮り手としては衣装も楽しみです。そして人類初となる4回転アクセルの瞬間を捉えたいですね。また羽生選手に限らずですが、選手の表情を大切にしています。それぞれの選手の個性が表れるような良い表情を捉えていきたいと思っています。
ありがとうございました。
■坂本 清(さかもと・きよし)
1968年生まれ。1998年バレーボール世界選手権の取材をきっかけに2000年よりフリーランスとして活動。現在、バレーボール、フィギュアスケートを中心に、国内外における世界大会を取材中。
日本スポーツプレス協会(AJPS)、国際スポーツプレス協会(AIPS)会員
坂本 清氏 「飛び散る氷と照明のコントラストが合致した瞬間を捉えた1枚。」