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分光蛍光光度計の基礎

分光蛍光光度計の基礎(6) りん光測定

りん光とは?

基底状態にある分子にエネルギーを与えると、励起一重項状態に遷移します。そして、励起された分子は、内部転換や振動緩和により第一励起一重項の最低振動準位へとエネルギー減衰した後、光を放出して基底状態へ戻ります。ここで放出される光は蛍光と呼ばれています。一般的に、蛍光放射は、励起後数ナノ秒から数マイクロ秒の間に急速に起こります。一方で、分子が励起状態にある間に項間交差が起こると、エネルギーの低い第一励起三重項状態に転移し、内部転換と振動緩和を通して第一励起三重項の最低振動準位に達し、光を放出して基底状態へ戻ります。ここで放出される光はりん光と呼ばれています。励起三重項状態から基底状態への遷移は禁制なので、許容遷移である蛍光に比べ長い寿命を持ち、りん光寿命は数ミリ秒以上と言われています。りん光は寿命が長いため、ほとんどの場合において酸素による消光や溶媒の運動、衝突によって熱的に失活し、室温で観測することができません。従って、試料を液体窒素温度に冷却し凍結し測定します。例外として、近年研究されている有機EL用色素などに室温でりん光を発するものもあります。
りん光過程
図1 蛍光およびりん光過程

測定原理

分光蛍光光度計でりん光性物質を測定する場合、励起光を照射してその光をカットした後の光を観測します。励起光を照射した状態では、蛍光とりん光が混ざってしまい、りん光のみを純粋に観測することができません。そこで、りん光の方が蛍光よりも寿命が長いことを利用して励起光をカットすることで、りん光のみを観察できます。
日本分光の分光蛍光光度計はりん光を測定するために、励起側分光器にシャッターを搭載しています。図3には時間に対して連続的にシャッターが開く、閉じるを繰り返す様子と、その時に観測される試料からの蛍光とりん光の信号を示します。シャッターが開いた状態では励起光が試料に照射しており、観測される信号は蛍光とりん光が混ざっているのに対し、シャッターが閉じた状態ではりん光のみが観測されます。
シャッターの状態と観測信号
図2 シャッターの状態と観測信号
図4はベンゼンのりん光のみを観測した例です。日本分光ではりん光測定のために、スペクトル測定、定量測定、時間変化測定、固定波長測定、りん光寿命測定を用意しています*1
*1 一部の機種を除く
ベンゼンの冷却発光スペクトル
図3 ベンゼンの冷却発光スペクトル

液体窒素温度で用いる溶媒

液体窒素温度に冷却してりん光測定する際に使用する溶媒には、以下の性質が求められます。
  • 励起光の吸収や発光をしない
  • 低温でも高い溶解度を持つ
  • 透明なガラス状に凍結し、ひび等が生じ難い

エタノール単体や、エタノール・メタノール1:1溶媒を用いることもありますが、低温で使用しやすい溶媒として以下の混合溶媒が知られています*2
  • EPA: ジエチルエーテル、イソペンタン、エタノールの体積比が5:5:2の混合溶媒
  • EP: ジエチルエーテル、イソペンタンの体積比が1:1の混合溶媒
  • EET: ジエチルエーテル、エタノール、トルエンの体積比が2:1:1の混合溶媒
*2 溶媒のグレードは、不純物の混入の少ない蛍光分析用、HPLC用、特級グレードが望ましいです。
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