成人年齢の引き下げを機に提出された「AV(アダルトビデオ)出演被害防止・救済法(AV新法)案」を巡り、対立の議論が白熱している。AVを含めた性産業そのものを「性搾取・性暴力」とし、より強い規制を求める声がある一方で、これに対し、性産業で働く当事者たちが差別や偏見への抵抗のために声を上げた。平行線にもみえる議論を追った。
5月26日、衆議院第一議員会館で、AVに出演する女性がマイクを握った。
「規制を強めると産業全体の待遇悪化につながり、地下に潜ることは想定しているのか。個人撮影のAV、違法なAVに流れてしまう」
集会の翌日、現場で働く当事者たちの声が聞かれることのないまま、法案は衆院を通過した。
働く女性たちの労働環境をよりよいものにしたいと、AV業界や性産業で働く当事者団体が議員を前に初めて集まった。
彼女たちの懸念は、法案策定において被害者以外の当事者が不在だったことだけでない。政治家やメディア、被害者支援団体から性産業それ自体への「スティグマ」(負の烙印(らくいん)を強化する発信がなされたことで、業界全体の労働環境が悪化することに対する危機感があった。