成人年齢の引き下げを機に提出された「AV(アダルトビデオ)出演被害防止・救済法(AV新法)案」を巡り、対立の議論が白熱している。AVを含めた性産業そのものを「性搾取・性暴力」とし、より強い規制を求める声がある一方で、これに対し、性産業で働く当事者たちが差別や偏見への抵抗のために声を上げた。平行線にもみえる議論を追った。
夕暮れ時のJR新宿駅東口駅前広場にはセックスワーカーの権利を象徴する「赤色の傘」が高く掲げられていた。5月22日、性産業の従事者たちが当事者差別への抵抗を表すために、路上に繰り出した。
今国会で成立が見通される「AV(アダルトビデオ)出演被害防止・救済法(AV新法)案」の議論を巡り、性産業全体を「性搾取・性暴力」の温床とみなし、スティグマ(負の烙印(らくいん))を強化する言説がネット上で増幅していることへの抗議だ。
声の先には、AV出演被害者の支援団体がより強い規制を求める「AV業界に有利なAV新法に反対する緊急アクション」を開いていた。
「セックスワークはお仕事だ」「セックスワーカーを危険にさらすな」─。
抗議を呼びかけたのは大学生の藍さん(仮名)。自身も性産業で働いているという。スピーチ原稿を持つ左手は、かすかに震えていた。
仕事中に暴力などの危険にさらされても「そんな仕事しているから」と言われるのではないかと不安に駆られ、口をつぐむ。黙らされることが、悩みを相談したり、公的なサポートにアクセスしたりする機会を奪っていく。こうして当事者たちは、性産業に対する差別や偏見を自らに向けられたものとして内面化していく。
藍さんは怒っていた。
「私たちを規範から外れた周縁に追いやることで、どうやってこうした問題が解決されるでしょうか。私が望むのは、私が社会で共に暮らす一人の個人として、労働者として保護されることです」
行動へ駆り立てたのは「私たちが存在しているということを可視化したかった」という切実なる思いだ。
新宿は性風俗店が多数存在する、慣れ親しんだ居場所でもある。「私たちの存在、顔、意思が抹消されているかのようだ」
そして言った。
「フェミニストとして、立場を表明する場をつくりたかった」
フェミニズムは「セックスワーク」をどう考えてきたのか-。