渓流詩人の徒然日記

知恵の浅い僕らは僕らの所有でないところの時の中を迷う(パンセ) 渓流詩人の徒然日記 ~since May, 2003~

リチャード・ブラック

2022年06月21日 | open



1980年代の20代の頃、リチャード・
ブラックの「ブシュカ」という
モデルを持っていた。
国内販売は定価57万円だった。


リチャード・ブラックは、ホール・
オブ・フェイム=殿堂にも入った
アメリカを代表するビリヤード
キュー製作者の名士だ。ただの
製作者は選ばれない。合衆国の
歴史に名を刻む歴史上の功績を
持つ人が殿堂入りする。


今現在、1960年代~1990年代に
かけて活躍したキュー作りの名人
たちが、どんどん高齢となり、
鬼籍に入りはじめた。
アメリカンビルダーの第一世代と
もいえるジナキューのアーニー
ギュテレスはまだ健在だが、まず
最初にバラブシュカが1975年に
亡くなり、ガス・ザンボッティが
80年代後期に亡くなり、バートン・
スペインもサウスのフランクリン
も死亡した。
しばらく名だたる名人たちの健在
期間が続いたが、今世紀以降、
ジョス・ウエストのビル・ストラ
ウドが亡くなり、バート・シュレ
ーガーもTADコハラも亡くなった。
どんどんこの世からいなくなる。

6年前にはジョスの職人で独立
して名を馳せたティム・スクラッ
グスも死んでしまった。ティムは
亡くなる前に生涯の相棒職方も

奥方も亡くなってしまい悲嘆の
うちに自分も後を追うように鬼籍
に入ってしまった。
まだ、生きている名人ポール・
モッティはとうに引退している。


もうほとんど第一世代後半~第二
世代全盛期に活躍したキュー・
ビルダーたちはいない。
そんな中、リチャード・ブラック
とジナのギュテレスとJOSSのダン・
ジェーンズだけは健在だ。他にも
何人かはかろうじてこの世にいる。


リチャードはテキサンだ。
テキサス生まれのザ・アメリカ
というような頑固で古風なカウ
ボーイのような土地柄で育った
「大西部の男」。

若い時にはまるでハリウッド西部劇
の映画スターのような風貌だった。

今。
晩年のTADコハラがそうであったよう
に、何か神がかっているオーラを放つ。


どうか、元気な限り、ずっとキューの
世界に関わっていてほしい。

リチャード・ブラックのキューは
手玉が真っすぐに進まず、よく
ずれて難しいキューであるのは有名
だ。
ナインボールには向かないとも
言われたりもする。
だが、私はそれでマスワリをポン
ポン出していた。
やり方がある。
これはキューを深くよく知る人は
理解できるだろうし、当然の見識
であるのだが。
「中途半端な撞点は使わない」の
である。解決法は。
半タップどころか1/4タップだろう
がイングリッシュが過敏に乗って
しまうのがリチャード・ブラック
のキューだ。ストレート・プール
では最大の武器になるのだが。
ただし、その分トビが大きいので
見越し具合の度数が上がる。
そこで、キューの動態の知悉が
至らない者は「手玉の真ん中付近」
に撞点を寄せようとする。
それは間違いなのだ。
どうせ最初からズレるのである。
きちんと正確に個体ごとのリチャー
のキューの特性を把握して、しっ
かりと見越しを取り、そして重要な
のは「中途半端な撞点を撞かない」
という事なのである。
中途半端な撞点による見越し間違

いというのは今のキューでもよく
プレーヤーがやらかす。プロでも。
それの自己補正ができない能力が

低い人間が大量に増えて、手玉が
やたら直進だけするシャフトが
好まれるようになる時代が来たの
が2005年あたりから。

以降は雨後の筍、金太郎飴で、
「どこを撞いても手玉が直進する
キューが優れている」などという
とんでもない珍理論と見識が
世の中を制圧した。
だが、見識の上で間違いは間違い
だ。どちらを好むかなら話は別
だが、こちらが優れていると

断定論調は間違い。マニュアル車
とオートマ車を比較するのでは
なく、オートマこそが優れた
自動車だ、とするのと同じだか
らだ。
手玉は直進しようが、イングリッ
シュを入れたら物理的に的玉にも
ヒネリの外力がかかる。
結果、手玉は直進するが的玉が
ズレるので見越しという補正は
必要になってくるのである。
今の多くの人がやるのは、手玉の
中心に撞点を寄せて、撞き方も玉
転がしを
する事で自分の撞けない
未熟をごまかそう
としている。
世界のトッププロにはいないが、

アマなどには見当違いが多い。
それ、撞球の正道からは外れて
いる。物理的にも。
精神論などはどうでもいいが、
そのような視点と撞き方をする
人たちは、ノーマルスタンダード
のソリッドシャフトが全く使え
ない。
つまりギヤ付きマニュアルの二輪
や四輪車を運転する事ができない。
これは事実だ。

一方、ソリッドシャフト遣いたち

は、ハイテクシャフトだろうと
使える。「動態把握」と「合わせ」
の能力を持っているからだ。そこ
らあたりに不備は無い。
だが、ハイテクシャフトしか使わ
ない人たちは、ハイテクシャフト
以外は使えない。オートマ車限定、
そのごく限られた道具でしか玉

撞きができないのだ。
例えば土方隼斗プロ。

今はスポンサードの関係から最新
キューを使うが、少年の頃に最初
に手にしたキューはTADだ。
彼はソリッドだろうがハイテクだ
ろうがカーボンだろうが何でも
使いこなす。それは識別把握能力
と道具に合わせての最適使用法を
瞬時に掴む高い能力があるからだ。
台のコンディション把握と撞き方

の適正化を選べるように。
なので、初めて行った温泉宿で
ノーマルシャフトの置きキュー
でマスワリをポンポン出す。
ああいう人が本当本物の撞球者
なのである。
「この鉛筆でないと文字書けない」
というような事にはならないのだ。

リチャード・ブラックのキューの
扱い方のストロークは、しばき叩き
は駄目で、しなやかなエフレン・
レイエスのようなストロークが
必要になる。
あるいはスリー・クッションの
世界トップレベルのプレーヤーの
ような滑らかなストローク。
すると、一般的に云われている
「使えないダメキュー」とされる
リチャード・ブラックでもスッポコ
ポンと玉が入る。これホント。
私はリチャードのキューに育て
られた。
今は、ややスタン気味の撞き方も

今のメインキューの関係から多用
する
が、元々は柳のようなストロ
ーク
が私の撞き方だ。
これはカナダ人の友人がよく言って
いた。しなやかでとても柔らかい、
と。
私が使う剣法での私の納刀のよう

なキューの使い方を私はしていた。

私のリチャード・ブラックは、それ
にほれ込んだ友人に懇請されて
譲った。正確には交換。
そして私の手元にはそのA級の友人
の83年製のボブ・
ランデが来た。
今でもそのランデは大切に持って
いる。というか完璧なメイン・プレー
キューのうちの一つだ。音は透明感
あるスキューンという澄んだ音。
リチャードはカンカンいう音だった。
象牙の音が前面に出るような風の。
その音に幻惑されてしばくと跳ぶ。

決して転がし玉ではなく、しなやか
にジェントリーに撞くのがリチャード・
ブラックの使い方なのだ。
私のブシュカは、造り込みは芸術品
のように美しかった。
優美で優雅なビリヤードができる

のがリチャード・ブラックだった。

ただですね・・・。
リチャブラって、タッドと同じく、
本ハギではなくて、本ハギそっくり
なインレイハギなんだよね(笑)。
それの効能、メリット・デメリットは
いろいろある。
キューに詳しい人は、そのあたりの
実情をよく知っている。

フローティングのティアドロップは
完全にインレイだが、剣ハギについ
ても本ハギではないインレイハギ
には、それの狙いがある。決して
装飾性だけの事ではない。
概して、本ハギのほうが打感はソ
リッドだ。インレイ系はストレート
(プレーン)の坊主キューと同じ
傾向性の動態を示す。そこにジョイ
ントの種類による振動関与が絡んで
来る。ゆえに木の本来の自然な動き
を活用するプレーンキューでは、
フラットフェイスのほうがソリッド
感を付与させる事に貢献する。
だが、あえてプレーン坊主でも
ステンレスカラーにしたり、パイロ
ッテッドにしたりする手法もある。
要は「どのような動き方を狙うか」
というキュー製作の設計の方向性
の事項としてそのあたりは出てくる。

シャフトもバットも両方とも完全
フラットにすることにこだわった
のはメウチが有名だ。
TADなども荒ネジと呼ばれる太ネジ
物のプレーンではフラットジョイン
トを採用した。
それらは設計思想に類する。
ただし、いわゆるナンチャッテ
パイロッテッドというような
シャフト側にデベソ程度に出っ張り
が申し訳程度に出ているキューも
ある。アダム等が80年代に作って
いたヘルムステッターなどはそれ
だ。
これは厳密には、ジョイントの
窪み内壁を互いに密着させる
パイロッテッドジョイントでは
ない。フラットと同じ動きが
出る。デベソはパイロの役目は
果たさない。デベソナンチャッテ
が果たす役割は「パイロッテッ
ドの空間部分に金属部を突出
させて重量配分をやや後部に
移動させる」というものだ。
だが、この構造の連結がとても
良い動きをもたらすケースがある。
それは、完全フラットフェイスの
シャフトを本式パイロッテッド
バットに繋いだ時に同じ動きが
出る事がある。完全に同一では
ないが、動きの傾向性の類別と
しての識別、「違いの感知」に
おいて。
しかし、メーカーにおいて、ステン
レスカラーのパイロッテッド
構造の中グリ物でシャフトを
完全フラットにしているキュー
は存在しない。
なぜ良いケースが発生するかは
まだ不明。
金属カラーの外周部が平面と
密着して連結を成し、内部に
は空間容積を有するという構造
が、何らかの打突振動発生時に
おける振動収束の良好性の要因
を構成しているだろう事は推測
できる。

それでも、その組み合わせが良好
な動きをする事があるのはなぜか、
という問題が現実に未解決問題
としてある。
これはメーカーさんたちは気づいて
いるのかいないのか分からない。
ただ、実質的には事実上は80年代
のナンチャッテのデベソパイロッ
テッドに実在の事実がある。
それらの中で、時々優れた動き
を見せる個体があったのは、それ
は木材や接着度が良好だった事
だけに規定されるものではない
だろう。

私は今、パイロッテッドステン
ジョイントバットに完全フラット
シャフトを連結させる事を多用
している。
振動収束性が飛躍的に向上する
からだ。シュンと収まる。
パイロッテッドの完全密着連結
の場合、キューが総合的にトー
タルバランスが良くないと、不正
振動がいつまでも収束しないのだ。
かといって両面フラットフェイス
にした場合も、キュー特性が画一
的というか一方向性の性格付け
しか実現しないという限界性を
具備してしまう。フラットで
失敗すると振動がいつまでも
収束せずにベナンベナンと動い
てしまう。
また、これはパイロッテッドも
同じ動きをする事があるが、その
原因は両面フラットとは別な
ファクターが原因である事が
十分推測できる。

キューは細い棒なので、玉を撞く
としなります。
そのしなりは振動となってキュー
先からどんどんキュー尻に伝達
される。
その振動収束がキューの中心
のコア部に集まるようにシュン
となってキュー尻に抜けるキュー
がキューという「撞球棒」として
は高い能力を持つといえる。
強く撞くとキューの揺れは高速度
カメラで捉えられますが、優しく
撞いても程度の差こそあれキュー
は振動するんです。
その振動をどのように収束させる
かが撞球棒としてのキューの性能
の一翼を確実に構成している。
手玉がただ真っすぐにどれだけ
進むかだけを研究してもダメな
んです。

極論すると、丸い棒の外側が硬く
て中が柔らかいのと、その逆では
まるで棒の動きは異なる。
そうした要素、案件にインレイや
ハギ等が関与してくる。硬質材を
ハギには使いますし、インレイは
かなり深く掘って入れ込みます
ので、「骨」の役目をいやがおう
にも担ってしまうから。
つまり、木の本来の動きをどの
ように制御して道具として狙った
動きに沿わせるか、というのが
キュー作りのキモになってくる。
そういうことだと思います。

実用性を第一義として、装飾性を
持たせながら実用性を促進させる。
ビリヤードキューのインレイや
現代のインレイハギ、セミスプ
ライスのハギ等は、そうした位相
を有している。本質的な部分で。
そういう持って行き方というのは
実は日本人は大得意で、日本刀の
刀装具などにその思想性が見られ
ます。
典型例が刀の透かし鍔ね。
鍔の透かしの最大獲得目標は軽量化
です。
ところがただ穴をあけて軽くする
だけではなくて、そこに透かしの
意匠を大胆にあるいは緻密にくり
抜く事で装飾性と実用性を高次に
融合させた。それが刀の透かし鍔。
そのような見事な着眼点は、実は
ビリヤードのキューでも事実上
実行されているんです。
見た目だけの見てくれのために
キューの装飾はあるのではない
のよね。キューの面に絵を描いて
いるキュー以外は。
その筆頭が木材の選択と組み合わ
せで、製作者は誰もがその思想
性に則って製作にあたっている。
「この木の杢目が好きだから」
だけでは選ばない。気乾比重や
硬度や粘り具合、音質等をすべて
勘案して作る物の射程圏内に置く
のがキュー製作者なんです。
とても日本刀の世界と通じるもの
があるのよね。


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