東邦大学医療センター大橋病院循環器内科の粟屋徹氏らは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチン接種後に見られる副反応の原因と予防策について、国内外の報告に基づき検討した結果をVaccines2022 ;10 :866)に発表した。副反応を引き起こす有力なメカニズムの1つがインターロイキン(IL)-6などの炎症性サイトカインの増加であり、激しい運動や飲酒、喫煙、日本では一般的な習慣であるお湯に浸かる浴槽入浴は炎症性サイトカイン放出を促進して副反応を悪化させる可能性があり、ワクチン接種後の数日間はこれらを避けるよう推奨している。特に入浴に関しては接種翌日に死亡例が多く、注意を促している。

最も有力な副反応の原因は、炎症性サイトカイン増加

 粟屋氏らは、ワクチン接種後の副反応を引き起こす可能性があるメカニズムとして、①炎症性サイトカインの増加、②自己免疫の関与、③好酸球増多、④アンジオテンシン変換酵素(ACE)2のダウンレギュレーションーを挙げ、現時点で報告されているワクチン関連疾患に関しても以下のようにまとめている()。

表. ワクチン関連疾患(各分野別疾患を五十音順に記載)

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(Vaccines 2022; 10: 866より改変)

 ①mRNAを取り囲む脂質ナノ粒子(LNP)やmRNAワクチンによって産生されたスパイク蛋白質が炎症性サイトカインの放出を促進すると報告されているという。特に2回目接種時は1回目よりも炎症性サイトカインが分泌するため、心筋炎や死亡を含む有害事象も2回目に多く、また炎症性サイトカインは血栓を助長するため急性冠症候群(ACS)や脳梗塞などの心血管/脳血管疾患を引き起こす可能性があるとのことである。

 ②自己免疫は、IL-6の過剰産生による制御性T細胞の阻害およびヒト組織とmRNAワクチンによって産生されたSARS-CoV-2スパイク蛋白質との交差反応により自己抗体が生じる可能性が示唆され、ワクチン接種後に自己免疫性脳炎やバセドウ病など各種の自己免疫性疾患が報告されている。

好酸球増多に関してはヘルパーT細胞(Th2)によるIL-4、5などのサイトカインの関与が疑われており、SARS-CoV-1ワクチンの研究の際にも好酸球性肺炎が報告されていたという。疾患としては、好酸球性心筋炎、好酸球性脂肪織炎、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)などが報告されている。

 ④ACE2のダウンレギュレーションは、細胞内でmRNAワクチンにより産生されるSARS-CoV-2スパイク蛋白質がヒトの受容体であるACE2に結合することにより引き起こされ、血管収縮や心血管イベントにつながる可能性があるとされる。

副反応予防のため避けるべきは運動、飲酒、喫煙、入浴

 粟屋氏らは「激しい運動、飲酒および喫煙、入浴はIL-6などの炎症性サイトカインの放出を促進し、ワクチン接種後の副反応を悪化させる可能性がある」と指摘。また、ワクチン接種後の死因1位は心血管疾患、2位は脳血管疾患であり、「死亡を含む重篤な副反応を予防するために、ワクチン接種後の数日間はこれらを控えることを推奨する」と述べている。

 運動について、シンガポールでは若年者に対し、mRNAワクチン接種後2週間はランニングやウェイトリフティング、競技スポーツ、球技などの激しい身体活動を避けるよう推奨しているという。

 飲酒および喫煙は、アセトアルデヒド分解酵素活性が弱い日本人においては、特に不整脈や冠攣縮を助長しやすいとされている。また、ワクチン接種後の抗体価低下の因子でもあり、ワクチンの有効性を高め、かつ副反応を減らす観点からも、接種直後は飲酒および喫煙を控えるよう、同氏らは推奨している。

 入浴については、国内ではワクチン接種後の入浴死が多いという。計50例〔女性29例(58%)、男性21例(42%)、年齢中央値80歳〕が報告されており、その大半(50例中44例)がワクチン接種後1週間以内に発生していた()。一方、2019~20年にインフルエンザワクチン接種後の入浴死は報告されていない。

図. mRNAワクチン接種後の入浴中の死亡と接種後日数との関係

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(Vaccines 2022; 10: 866より改変)

 入浴は外国では一般的ではなく、同氏らは「日本固有の問題として、ワクチン接種後の数日間は入浴ではなくシャワー浴にすべきである」と提案している。

(太田敦子)