日本とアメリカの高校中退率-高校中退を考える(5)
アメリカの高校中退率は高く、1970年は15%だったが、その後減り続け、2007年では8.7%であった。*1 日本の高校の中途退学率は、ここ30年ほど、2、3%を行き来しており、2008年度で2.0%であった。
アメリカは、日本の高認にあたるGEDの資格を取得した者は、高校卒業としてカウントされるので、実際の高校中退率はもっと高いと思われる。そんなアメリカにとって、日本の2、3%の高校中退率は、いわば夢のような数字と言える。逆に日本は2、3%でも大きな社会問題となっている。
日本もアメリカも、高校中退はリスクの非常に高い選択だ。高校中退した時点では、何も手に職がついていない状態であり、その状態で社会を渡っていかなければならない。日本の新規一括採用の雇用形態は、今だ一般的だ。実力主義の企業も増えてきて、学歴は関係ないと言ったところで、工業高校で実習を積み重ねて地道に専門性を高めていった生徒や、商業高校で簿記やパソコンの資格をとって社会人の即戦力として力をつけてきた生徒などの高卒生に、同じ土俵で勝負できるだろうか。高校中退後の成功者の語りは、恵まれた環境や運を得ることのできた、ごく一部の事例に過ぎないのではないか。
自分自身、高校中退して働こうとしたとき、中卒の求人の厳しさをリアルに感じた。幸い知り合いのつてで、工場の正社員として半年ほど働くことができた。真面目に働いたので、続けていれば責任ある地位につけたかもしれない。だがそうしたチャンスはやはり圧倒的に少ないし、16や17の子どもたちに、競争社会にいる大人と同じ土俵で、実力で生きる厳しさを要求するのは、あまりに酷なことではないだろうか。
アメリカでは高校中退率が高く、特にヒスパニックや黒人の中退率が高い。しかし、日本と異なることは、大きなセーフティネットが準備されていることだ。それはコミュニティカレッジやジュニアカレッジといった職業能力を身に付けることのできる2年間の高等教育機関の存在だ。2年間の高等教育機関として、日本には短大がある。しかし短大は、戦前の女子専門学校から四大に移行する際、基準を満たさないため暫定的な措置として短大が設立された歴史的経緯があり、英文や国文、家政中心の女子向けの教育機関となっている。そのため、アメリカのように職業訓練的要素をもった、男子も専門性と高めることのできるような教育機関となっていない。一方アメリカでは、入学の緩やかなコミュニティカレッジが、一度ドロップアウトした人に、もう1回学校に行く機会を与え、職業生活の橋渡しとなって、確かなセーフティネットの役割を果たしているのだ。
英国では、2001 年から「コネクションズ」という若者支援組織が、13~19 歳のすべての若者を対象としてPA(パーソナル・アドバイザー)が一括した窓口となり、若者の抱える問題について、相談、情報提供等の支援を行っている。オーストラリアの「ユースパスウェイ・プログラム」、フランスの「PAIO」など、高校を中退して学校を離れた後の支援の確かなあり方も、参考になる。
高校中退を否定したいのではない。自分自身、高校中退は自分にとってよかったと心から思う。だが、7万人近くの日本の高校中退者の「その後」を考えるとき、日本の支援体制の弱さを感じざるを得ない。高校中退者を支援の枠組み外に放置し、「自己責任」としていいのだろうか。一部の成功者の語りだけで、むやみに中退を肯定し、社会的支援を考える視点を見失ってはいけない。諸外国の若者支援を参考に、日本においても、中退者を支援する確固とした仕組みを整備する必要性を強く感じる。
*1 National Center for Education Statistics (NCES) Digest of Education Statistics 2008 Table109.
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