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違法でなくとも重大なコンプライアンス違反を犯したサントリー

酒類とともに安倍氏側へ「隠れ蓑」を提供した真の理由を説明せよ

郷原信郎 郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士

違法な「寄附」と認定するのは難しい

 「桜を見る会」前夜祭への酒類の提供は、上記のような政治資金規正法の趣旨に反する「企業としてのコンプライアンス問題」であるが、それは、必ずしも、同法違反の犯罪が成立することと一致するものではない。

 政治資金規正法は、「政治資金の寄附」について様々な制限を規定しており、企業団体献金の禁止もその一つであるが、「政治資金の寄附」と認められるには、特定の政党、政治団体、政治家個人等に帰属させる意思で行うことが必要になる。

 安倍晋三首相主催の「桜を見る会」の前夜祭の夕食会に酒類が提供された事実があっても、サントリー側で「安倍議員事務所から多くの方が集まると聞き、製品を知ってもらう機会と考え、夕食会に協賛した」と説明する以上、それが、安倍晋三に関する多数の政治団体のうち、どの政治団体に帰属させる意図であったのかが明確にならないし、「単に、夕食会という催しに、飲食物を提供したもので、政治団体に帰属させる意図はなかった」ということであれば、サントリー側の酒類提供を安倍晋三後援会に対する寄附と認めることは困難だ。そうなると、同後援会の収支報告書に収入として記載すべき事項には該当せず、後援会側の虚偽記入罪も成立しない。

 むしろ、ホテルニューオータニが、一般的に、宴会場への飲食物の持込みは、所定の「持ち込み料」を支払った場合にだけ許可するという取扱いにしていたのだとすれば、桜を見る会前夜祭での「持ち込み料の免除」は、その金額分の「利益の供与」になる。ホテルニューオータニ側が、前夜祭夕食会の打合せややり取りの過程で、夕食会の主催者が「安倍晋三後援会」であることを認識し、同後援会の利益を図る意図で免除したのであれば、ホテルニューオータニから後援会への寄附ということになる。

配川博之・公設第1秘書=2020年1月、山口県下関市拡大配川博之・公設第1秘書=2020年1月、山口県下関市
 ただし、これについても、検察は、このような事実関係も把握した上で、安倍晋三後援会の収支報告書の虚偽記入について、安倍氏の秘書の配川博之元公設第一秘書を略式請求し、安倍氏本人を不起訴として刑事処分を終えており、寄附制限の違反については、3年の公訴時効が完成しているので、刑事事件として取り上げられることはない。

 もっとも、ここで重要なことは、政治資金規正法違反に違反するかどうか、摘発されるリスクがあるのかどうかの問題ではない。サントリーの酒類提供は、同法の趣旨を踏まえた企業コンプライアンスという面で問題になるのである。

 そういう意味では、本来、同業他社と同様の「常識」をわきまえたコンプライアンス対応をするはずのサントリーが、なぜ、特定の政治家側に無償で酒類を提供するようなことをしたのか、安倍氏側に公選法違反の外形を回避させる「隠れ蓑」を提供するようなことに加担したのか、それらの点を明らかにすることが、今回のような問題の再発防止を図るために不可欠である。

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筆者

郷原信郎

郷原信郎(ごうはら・のぶお) 郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士

1955年、島根県生まれ。東京大学理学部卒。東京地検特捜部、長崎地検次席検事、法務省法務総合研究所総括研究官などを経て、2006年に弁護士登録。08年、郷原総合コンプライアンス法律事務所開設。これまで、名城大学教授、関西大学客員教授、総務省顧問、日本郵政ガバナンス検証委員会委員長、総務省年金業務監視委員会委員長などを歴任。著書に『告発の正義』『検察の正義』(ちくま新書)、『「法令遵守」が日本を滅ぼす』(新潮新書)、『思考停止社会─「遵守」に蝕まれる日本』(講談社現代新書)など多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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