違法でなくとも重大なコンプライアンス違反を犯したサントリー
酒類とともに安倍氏側へ「隠れ蓑」を提供した真の理由を説明せよ
郷原信郎 郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士
金銭的「利益供与」を周到に避ける工夫か
安倍氏は、辞任表明の際も、第一次安倍政権の際と同様、表面上の首相辞任の理由は「健康上の理由」とした。しかし、それが全くの口実に過ぎなかったことは、首相辞任後に、検察捜査で、国会等でつき続けてきた数々のウソが発覚した際に会見でさらなる虚言を重ね、国会議員の地位に居座り続ける「十分な体力、気力」を維持していたことからも明らかであろう。
その「桜を見る会」前夜祭に関して、安倍事務所側も頭を悩ましたのが、多数の地元有権者等を集めた食事会をホテルの大宴会場で盛大に挙行することが、どう考えても、公職選挙法の寄附禁止に抵触せざるを得ないという「違法リスク」だった。
安倍氏は、それまで、「加計学園」「森友学園」等の問題で追及を受ける度に、「関係法令に基づき適切に実施している」という「法令遵守」の強弁で、実質的な説明を拒絶して乗り越えてきた。「安倍一強」の絶対的な政治権力に対して、官僚側で「忖度」し、実質的に問題があっても、形式上は、法令に違反しないように事を進める、「法令遵守」の上では問題がないのは当然だった。そういう安倍氏の側にとって、自分や安部事務所の「公選法違反」のリスクは、重大問題だったはずだ。
「桜を見る会」自体も、その前夜祭も、全体として、安倍首相の地元の有権者に対する、過度の接遇であったことは間違いない。問題は、それに要する金銭をどこがどのように負担するかだった。それを、安倍氏や安倍後援会等の政治団体が負担すると、「選挙区内の有権者に対する利益供与」として公選法違反となる。

「桜を見る会」であいさつする安倍晋三首相(中央)=2019年4月13日、東京都新宿区の新宿御苑(代表撮影)
公式行事の「桜を見る会」は、内閣府等の担当職員の「権力者への忖度」によって国の負担で行われ、それが年々膨張していった。一方で、前夜祭は、同じく日本を代表する一流ホテルを経営するホテルニューオータニと、同じく日本を代表する酒造メーカーであるサントリーが協力していたことが、今回、刑事事件の確定記録の閲覧で明らかになったのである。
同業他社の「常識」から大きく乖離
サントリーの桜を見る会への酒類提供は、本来、適法に行えるわけがない「桜を見る会」前夜祭を、外形上公選法違反の疑いを持たれないよう開催することを可能にしたものであり、僅か年間15万円相当の現物支給という金額以上に大きな意味を持つものであった。
東京新聞の取材に対して、同業のキリンホールディングスは「たとえ要請があっても政治家に無償で製品を提供することはない」と説明。アサヒグループジャパンも「お客さまにお金を支払って購入していただくものなので、政治家のパーティーなどに提供することはない」と回答したとのことだが、政治資金規正法が、企業団体献金を禁止している趣旨も踏まえた、上場企業としての「常識的なコンプライアンス対応」と言えよう。
それにもかかわらず、サントリーは、このような「桜を見る会」前夜祭の開催に、実質的に大きな貢献をしたことが明らかになり、日本を代表する大企業としてのイメージをも損なうことになった。
サントリーという企業は、決してコンプライアンスを疎かにする会社とは思えない(私自身も、10年以上前だが、同社でコンプライアンス講演を行ったことがある)。コンプライアンス部門が意見を求められれば、上記の同業2社と同様の意見を述べたはずだ。
サントリーの「桜を見る会」への酒類提供が、同業他社の「常識」に反して行われたのは、同社が説明しているような「自社商品を知っていただく良い機会だと考えて無償で協賛した」などという営業上の判断によるものとは思えない。コンプライアンス問題として、社内での意思決定の経過等を調査し、再発防止に努めるべきであろう。