人を惹きつけた「生きた悪役」
映画に限らず、もう一つの主戦場である舞台でも、金子の奔放な芝居は異彩を放っていた。次男の金子こうじろう氏はこう語る。
「'75年に上演された『喜劇にぎにぎ』で、父は植木等さん演じる選挙屋に振り回される議員に扮しました。
楽屋で、植木さんが私にニヤッとしながら『お父さん、悪いよぉ』と声をかけてきたんです。どうやら父は舞台上でアドリブやイタズラをし、ずいぶん暴れまわったようです」
その『喜劇にぎにぎ』で、急病で降板した藤岡琢也の代役として、急遽舞台に立ったなべおさみ氏が言う。
「ポッと一座に入った私に、『こう演じなきゃ、と力んで考えなくていい。主張しようとせず、他の役者との調和を大事にすればいい』と助言して下さいました。
その後も共演する度に、金子さんのような、役になりきる『脇役』が、作品の濃度を高めるのだと感じ入りました」
こうじろう氏が振り返る。
「結局、生身の人間がいちばん面白い――それが父の口癖でした」。金子の演じる憎まれ役は現実にいそうな「生きた」悪役であり、それが人を惹きつけた。