WASEDA Lab 上田路子准教授

WASEDA Lab

研究者たちの挑戦

さまざまな国で大きな社会的課題となっている自殺。
普遍的な予防策は存在するのでしょうか。
実証政治経済学の視点から自殺予防へのアプローチを紹介します。

実証政治経済学が挑む
自殺予防のメソッド

人身事故に疑問を持ったことが自殺予防に取り組むきっかけに

政治学を専門とする私が、自殺予防の研究に取り組むようになったのは、当時暮らしていたアメリカのボストンから日本に帰国した際、首都圏では毎日のように電車が人身事故で止まることに疑問を感じたからです。15年間過ごしたアメリカでは見聞きしたことがないのに、なぜ日本では人身事故が多発するのか。政府の自殺防止政策はどうなっているのか。効果のある対策として何が求められるのか。さまざまな疑問が浮かぶ中で、社会的な背景を探ることが必要である、との結論に行き着いたのです。
自殺に関する研究は、これまで医学の分野が中心で、うつ病などとの関係の解明が進められてきました。しかし、政策の効果検証や原因となる社会背景の解明となると、私たち社会科学者の出番です。自殺は家族や友人など周囲の人間だけでなく、社会にも大きな影響と損失を与えます。ですから、社会科学、なかでも実証政治経済学の面からの研究は意義があり、有用なのです。

研究にあたって重要なのはデータとエビデンス

研究にあたって私が行っているのは、自殺に関係するさまざまなデータを集めて分析することです。そこから導き出されたエビデンスに基づいて、自殺の背景やメカニズム、予防法などを探っています。例えば、ツイッターに投稿された膨大な数の「つぶやき」を集めて分析することで、自殺を連想させるつぶやきと、つぶやいた時間、そして実際の自殺時刻に関連性があることを明らかにし、予防に役立てようとしています。
また、駅のプラットホームにホームドアを設けることで、自殺をほぼ100%防止できることや、プラットホームの端に青色の照明を設けることで、自殺が80%以上減少することを、厳密なデータ分析によって明らかにしました。青色の照明は、もともと防犯対策として用いられたものですが、自殺予防にも役立っていることが分かったのです。
日本の自殺者数は2012年以降、急激に減少し、最も多かった2003年に比べて35%以上も少なくなっています。この減少には多くの注目が集まっており、国の対策の成果だとする意見もありますが、私は、景気回復の影響が大きいと考えています。データ分析によると、自殺対策の影響よりも、経済指標の影響のほうが強く現れているからです。
減少したとはいえ、日本の自殺者は年間2万人を超えます。自殺には社会や経済だけでなく、宗教や文化、歴史なども関係してくるので、複雑かつ奥行きのある問題といえます。その要因の解明と対策には、多角的なデータ分析がまだまだ必要です。

世界で活躍するためのデータサイエンスと多様性理解

社会科学的見地からの自殺に関する研究が海外でも注目を集めているのは、データとエビデンスが国を越えて信頼されるツールだからです。つまり、データ分析の手法はグローバルに通用する技術なのです。そのため、私が所属するスーパーグローバル大学創成支援※1の実証政治経済学拠点では、原因と結果のつながりを探る因果推論的な分析手法に加え、データサイエンスの手法の取得を積極的に学生に勧めており、本年7月にはそのための学内コンペティション※2も開催します。
さらに、もう一つ大切な要素として、留学などを通した異文化交流を勧めています。異文化に触れて多様性を理解することで世界基準が分かり、推論や分析における想像力も膨らんでいくのです。
早稲田大学の場合は、海外からの留学生や外国籍の教員が多いので、海外に行かずとも学内で多様性を学ぶことができます。学生の皆さんには、ぜひその環境を生かしてほしいと思います。


※1 スーパーグローバル大学創成支援

文部科学省が高等教育の国際競争力の向上を目的に、世界レベルの教育研究を行うトップ大学や国際化を牽引するグローバル大学に対し、制度改革と組み合わせて重点支援を行うもの。本学では実証政治経済学拠点をはじめ、七つの拠点があり、地球規模の課題の解決と未来を創造する研究・人材の創出および育成を実現します。

※2 データサイエンスコンぺティション

データ科学総合研究教育センター(DSセンター)政治経済学術院の主催で、参議院選挙の選挙結果を予測する学内コンペティションを7月に開催。DSセンター初のコンペティションです。


政治経済学術院 准教授
上田路子

マサチューセッツ工科大学(MIT)Ph.D.取得後、カリフォルニア工科大学Assistant Professorなどを経て、2016年より現職。著書に『自殺のない社会へ』(共著、2013年、第56回日経・経済図書文化賞受賞)など。2018年度早稲田大学リサーチアワード受賞。

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