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※クリスマス話。
12月末。 世間ではクリスマスで賑わっていた。 東方司令部では勿論、イベント事に関係なく、事件が起これば対処出来るよう、何人かは待機していなければならない。 勿論その司令部を実質指揮するロイもだ。 だが。
「中尉、すまないが後は頼んだ」 「はい。お気になさらず楽しんできてらしてください。エドワード君も、美味しいもの食べてくるのよ?」 「おう!」
イーストシティ駅のホームで。 ホークアイに見送られるよう、ロイとエドワードはセントラル行きの汽車に乗った。 何も無ければ昼過ぎには到着するだろう。 軍服ではなく、私服を着用し、ロイの手には二人分の正装が入った鞄。 そう、先月、大総統直々に招待されてしまったクリスマスパーティーに出席する為だ。 エドワードは随分と伸びた髪を一つに括って、セリムに渡すクリスマスプレゼントを大事に持っている。
「でも、大佐、本当に良かったのか?」 「良くも悪くも、君一人に行かせる訳にはいくまい。それに、私も招待状に名前が書かれているしね」 「あー…まぁ、そっか…」
肩を竦めるとエドワードは苦笑いを零した。 セントラルへ向かうのは約二ヶ月ぶりぐらいだろうか。 今晩は、ヒューズの家に泊まることになっている。 向こうから、折角戻ってくるなら泊まれと強引に誘われてしまったのだ。 エドワードもヒューズに少なからず懐いているから、ロイとしては何とも微妙ながら承諾したのだが。
「そういえば、セリム君へのプレゼントは何にしたんだい?」
久々の汽車に揺られながら、ふと気になったので聞いてみた。 エドワードにプレゼントを買いたいと強請られお小遣いをあげたのは先週のこと。 丁度話を聞いていたホークアイと買出しに出掛けたのだ。 だから、ロイはエドワードがプレゼントに何を選んだのか知らないのである。
「ん?これ?クッションだよ」 「クッション?プレゼントに?」 「そー。抱き枕にもなるヤツ。めっちゃ手触り良くてさ、これにした」
エドワードがモフモフとそれを触るから少し触らせてもらったが、確かに抱き心地は良さそうだ。 にしてもクリスマスプレゼントにクッションを選ぶとは、エドワードらしいと、思わず笑ってしまう。
「エドワード、私にはクリスマスプレゼントは無いのかい?」 「へ?」
あまりにエドワードが大事にソレを抱えているものだから、何となく意趣返しにそう問うたら。 きょとんと素っ頓狂な声が上がった。
「………大佐にはこの間カップあげたじゃん」 「…………アレはクリスマスプレゼントも兼ねていたのかい?」 「悪いかよ…?」 「いや、悪くは無いのだがね…」
つい、子供のように不貞腐れてしまう。 少し期待した自分が馬鹿だった。 残念そうに肩を落とせば、この子供は途端に不安そうに見上げてくる。 それが少し優越感にもなって。 ロイはふ、と笑った。
「冗談だよ。気にしないでくれ」 「………ん、」
頭を撫でたら子供は眼を細めて甘受する。 そういう自分もクリスマスプレゼントを用意してなかったと気づいた。 エドワードに指摘されなくて良かったと思いつつ、今日中に何か用意出来るだろうかと考えを巡らせた。
昼過ぎ、セントラルに到着したロイとエドワードは軽めの昼食を取り、パーティーの時間までどうするか話し合った。 結果、エドワードの熱意により、中央図書館の指定蔵書館で過ごす事に。 此処は特定の許可証が無ければ入れない場所である。 置いてある本は全て貴重な蔵書であり、古い文献なども多々置いてある。 エドワードの興味を引くものばかりだ。
「大佐、自由に読んでいい?」 「あぁ、構わないよ。私は少し外に出てくる。君は此処から勝手に出てはいけないよ?」 「わーってるって!」
言わずともエドワードならば、引っ張って出さなければならないぐらい此処に引き篭もるだろうが。 ロイは苦笑いを浮かべて、図書館を後にした。 向かうは、失念していたエドワードへのクリスマスプレゼントの用意の為である。 だが、何を買ったらいいのか。 基本的にエドワードと暮らすようになってから必要な物は買い与えてきた。 その為、さぁ、プレゼントを、となっても全く思いつかない。
「好きな物…は、お菓子か食べ物、後は錬金術関連の蔵書か……。何とも味気ないな…」
一人ブツブツと思考を巡らせながら、クリスマスで彩られた街を歩く。 さすが、イーストシティより賑わっている。 そこでハッとして、久々に戻って来たのだから養母の所に挨拶ぐらいは行っておいた方がいいだろう。 ついでにエドワードへのプレゼントのアドバイスなどを聞いてみよう。 そう思って、方向転換し、足早に養母の店へと向かった。
「久しぶりだね」 「何だい、ロイじゃないか。アンタ、イーストに行ったんじゃなかったのかい?」 「今日はクリスマスパーティーで大総統にお呼ばれされてね。ついでに此処にも顔を出しに来たんだ」 「そうかい。そういえば、あの子は元気かい?」
店に着いてカウンター席に座った。 まだ開店前だった所為か、養母しか居らず、これならばゆっくり話が出来そうだ。 養母にはエドワードを弟子にとって世話をする、と言う旨は伝えていた。 会わせた事はないが、いつかは会わせたいと思っている。
「エドワードは元気だよ。今日も本当はあの子が大総統にお呼ばれされてね。私はただの保護者さ」 「成る程。良い子そうだからね。周りに好かれるんだろうさ」 「…確かに良い子だよ。私が師匠では申し訳ないぐらいにね」 「…………いや、アンタにも好影響を与えてるようだ」 「?何か言ったかい?」
養母の呟きが聞こえず、聞き返すと、
「一度は私の所に見せにおいでと言ったんだよ」 「…そうか。そうだね。私も一度は連れてこようと思ってるよ。楽しみにしていてくれ」
ロイの言葉に養母は僅かに微笑んだ。 その理由が、ロイの表情にあったなど、当の本人は気づいてない。
「あぁ、そうだ、そのエドワードにクリスマスプレゼントを用意したいんだが、何かオススメなものはないかな?」 「………アンタね…。私はまだ一度も会った事がないんだよ。アンタの方が判るだろう?」
苦笑い気味にもう一つの用事を伝えたら、呆れ口調で返されてしまった。 全くその通りの言葉にぐうの音も出ない。
「いや、あの子の好きな物は判るんだよ。お菓子や食べ物、錬金術の蔵書とかね」 「…他には無いのかい?興味のある物は?」 「それがね……基本的に生活に必要な物は全て買い与えているから、今更となると中々…。それに、本当に錬金術にしか興味のない子なんだ」
良くも悪くもね、と。 かれこれ数ヶ月、エドワードと衣食住を共にしてきたが、食べるか寝るか、本を読んでるか。 後は軍人達と身体を鍛えるか、トラブルに巻き込まれているか…。 そんな事しか思い浮かばない。 プレゼントして喜びそうなもの、というのが思い浮かばない自分が情けなくなる。 女性などであれば、花や貴金属、鞄や服など身に付けるものを渡せば大抵喜んでくれるのだが…。 と、其処まで考えて何かが浮かんだ。
「…マダム、一つオススメの店を紹介してほしいんだが、」 「ん?何か思いついたのかい?」 「まぁね。髪留めやゴムなど、ヘアーアイテムを売っている店を教えてくれ」 「??構わないが、アンタ、あの子にプレゼントを探してるんじゃなかったのかい?」 「勿論だとも。実はね、エドワードはお父上の影響で髪を今伸ばしてるんだ。だからその髪を縛るゴムは沢山あってもいいんじゃないかと思ってね」 「成る程。いいさ、女の子達に人気の店を紹介してやるよ」 「すまない」
紙に店の名前と住所、簡単な地図を書いてもらった。 そして、次はエドワードも連れて来るよ、という約束をして店を後にした。 あまりエドワードを一人にしておくのも気になって。 ロイは、教えてもらった店に急いだ。
夕刻頃。 図書館でエドワードと合流後、ある程度まで時間を潰して。 知り合いのサロンで着替えた。 エドワードには黒を基調としたベストと半ズボンのチャイルドスーツを用意しておいた。 冬なので長ズボンの方が良いか迷ったのだが、エドワードはいつも半ズボンなので其方を選んだ。 そしてコートには白をベースに、エドワードの好きな赤で細かい刺繍が施された物を用意。 フードにはファーも着いていて子供の身体が冷えるのを防いでくれる。 ロイは、元々持っていた自前のスーツとコートだ。 いつもは降ろしている髪をざっくりと上げてセット。 エドワードも髪を一度綺麗に結い直そうと言う事で、ロイ自らブラシで梳いた。
「エドワード、髪を結うゴムにコレはどうだい?」 「え?」
鏡越しに視線が合う。 少し驚きの眼で見る子供に、ロイは笑みを浮かべてポケットから赤いゴムを取り出した。 シンプルなデザインだが、よくよく見ると金糸で螺旋模様が描かれている。 職人の細やかな細工らしく、ゴムの結び目には真っ赤な柘榴石が填められていた。 店で見て、一目で気に入ったので予備を含めて購入したのだ。 コレはその一つなのだが、エドワードが気に入らなかったらどうしようと思いつつも、笑顔を浮べて問う。 すると。
「ちょっと見せてくれよ」 「構わないよ」
髪を押さえているので頭は動かさないまま、手を伸ばして来たのでその小さい手のひらの上にゴムを乗せた。
「すげぇ、コレホンモン?」 「あぁ。柘榴石だがね。何でも職人の細工らしい」 「めっちゃ綺麗じゃん!気に入った!!」 「…本当かい?」
鏡越しに満面の笑みを見てロイは安堵した。 エドワードは自分の好みには五月蝿い。 気に入らないものは絶対に使わないと知っている。 だからこその言葉に嬉しくなった。
「良かった。コレは私からのクリスマスプレゼントだよ」
そう言うと、エドワードの手からゴムを取り、手早く髪を結んだ。 柘榴石がトップに来る様に調整して。 金の髪に赤いゴムは良く映える。
「似合うよ」 「………サンキュー…」
少し頬を赤らめたエドワードが小さく礼を述べた。 髪をどのぐらい伸ばすのか判らないが、綺麗な金髪だからどんな髪型でも似合うだろう。 そこに自分の贈ったこの赤いゴムが付けられていれば、何も言う事は無い。
「………大佐、ちょっといい?」 「うん?何だい?」
鏡の前から身体を反転させ、少し俯き具合に呼ばれて。 ロイは何だろうか、と思っていたら、徐に右腕を取られた。 そして、スーツの袖口から覗いていたシャツの袖ボタンを外した。
「エドワード?」
一体何をしてるんだい?と不思議そうに見ていたら。 ポケットから何かを取り出して、外したボタンホールを合わせるようにして何かを付けた。 此処まで来たらロイにも判る。 エドワードはカフスボタンを付けているのだと。 ロイも個人的に幾つか所持はしているが、殆ど付けた事は無い。 何故なら、所持している物は自分で購入した物ではなく、仕事柄貰った物が多いからだ。 勿論女性からの物もある。 こういった物は捨てて後で何かあっては困ると、一応は保管している。 だが、自分で選んだ物ではないのもあって、くれた相手と会う時以外は付けたことが無いのだ。 それを、エドワードが知っていたとも思えない。
「大佐、あんましこういうの興味ないかもだけど、やっぱり立場上こういう場に出る事も多いだろ?だから中尉に相談してコレにしたんだ」 「…成る程、」 「でも、市販品じゃないぜ?」 「………そうなのか…?」
右手首のシャツの袖に付けられたカフスボタンは、丸く平たい形をしている。 大きくも無く小さくも無いほど良いサイズだ。 そして、色も艶やかな赤。 炎を連想させるような燃える様な赤であり、エドワードの好きな赤でもある。 腕を持ち上げて良く見た。 しっかりと眼を凝らさないと判らないが、中に何か描かれているようにも思える。
「エドワード、コレは何か絵が描いてあるのかな?」 「ご名答。よーく見ないと判んないと思うけど、“焔の錬成陣”が描いてあるんだ」 「何…?」
ニヤリ、と悪戯が成功したような顔で答えたエドワードに、ロイは目を見開いてより良く確認した。 すると確かに自身の良く知る錬成陣が其処にあった。 赤く輝く光沢の下に黒の細い線で描かれている。 こんなに小さいのだから、良く見ない事には誰も気づかないだろう。
「元は唯の赤い石が填め込まれたカフスボタンだったんだ。だけど何か面白くなくてさ、それでちょちょっと手を加えた」 「……簡単に言ってるが君しか出来ない芸当なのではないかね?」 「かもな。でも、大佐にあげるヤツだし、妥協したくなかったから…」
唇を尖らせるように零すエドワードに頬が緩む。 だが。
「君は私にクリスマスプレゼントは用意してないと言ってただろう?」 「……だって、あのタイミングでまさか聞かれるとは思って無くてさ…。どうせ今日のクリスマスパーティーに出るのに着替えるのは知ってたし、そこで渡したかったから…」
だから嘘吐いた、ゴメン、と謝られた。 そんな可愛い嘘ならいくらでも大歓迎だ。 ロイはポンとエドワードの頭に手を置く。
「エドワード、有り難う。嬉しいよ。だから謝らないでくれ。それに、カフスボタンは両袖に付けないと意味ないだろう?」
それにもうそろそろ出ないと遅刻してしまうよ、と。 すると、エドワードはハッとして慌ててポケットからもう一つのカフスボタンを取り出して、ロイの左袖に付け出した。 少し慌てて付けている姿が可愛くて。 ロイは微苦笑を零す。
「よっしゃ!完璧!」 「ん、有り難う」
スーツの袖口から目立たない程度に見え隠れする赤いカフスボタン。 腕を上げれば見える品の良さに、ロイの機嫌も上がる。
「コレ、錬成し直す時、すっげぇ苦労したんだ」 「そうなのかい?」 「まぁ、構築式とかそう言うのは全然問題ないんだけど、俺、気を抜くとすっげぇ奇抜なデザインにしちまうから…」
だから、前のマグカップだって、すっごい気を使った、と零す。 苦笑い気味にそう説明したエドワードの言葉だが、ロイにとってみれば可愛いものだ。 エドワードの奇抜なデザインは何度か見た事があるが、確かにセンスはどうなのだろうと思った。 だが、こうしてカップの時といい、今回のカフスボタンといい、ロイにプレゼントしてくれる物は使って可笑しくないようデザインが考えられている。 それだけロイの事を想ってのことだろう。
「マグカップも、このカフスボタンも良いセンスだよ。特にこれなら私も付けたくなる一品だ」 「……ホント?」 「あぁ。他にも持っているがあまり気に入らなくてね。仕方なく付ける事はあっても好きで付けていた訳じゃない。でもこれならいつでも付けていたい気分だ」 「そっか…!」
へへ、とエドワードが嬉しそうに笑う。 互いにクリスマスプレゼントを渡し終えて、身支度を確認した後サロンを出た。 事前に連絡しておいた車に乗り込み、大総統宅へ向かう。 その車中で、ロイは驚く事を聞いた。
「あぁ、そうそう。そのカフスボタンに描いてある“焔の錬成陣”、ちゃんと使えるか確認してくれよな」 「………は?」 「は?って……。当たり前じゃん。いざって時に不備があったら意味ないだろ?」 「…いや、そうじゃない。…使えるってのはどういう事だ?」
ロイが僅かに怪訝そうに問うと、エドワードはきょとんと小首を傾げた。 そしてハンドルを握るロイの袖口を指差す。
「や、だからさ、その錬成陣、デフォってるヤツじゃなくて、マジもんだから。とはいっても、俺も“焔の錬成陣”を完全に理解したわけじゃないからさ。実際に理解している大佐じゃないと確認出来ないんだ」 「………ちょっと待て…。つまり、これは錬金術が使える錬成陣なのか?」 「だからそう言ってるじゃん。ほら、大佐って発火布に錬成陣描いてるだろ?白地に白糸のヤツもあるけどさ。でも雨の日は無能じゃん?」 「無能…」
ケロリと酷い事を言うエドワードにロイはガックリと肩を落とす。 確かに雨の日に濡れたり、湿気の多い日だと発火布から摩擦熱が生まれず火花が出せない。 よく有能な部下が言ってるのだがそれを子供も知っていたようだ。
「だからさ、ちょっと細工してあるんだ。雨の日でも発火布が湿気ちゃってる時でも使えるようにさ」 「……というと?」 「大佐、火打石って知ってる?」 「当たり前だろう?古代では着火に用いられて、いた………まさか…?」 「そ。コレ、台座は“鋼の火打金”、赤い石は“ジャスパーの火打石”で作ってんの」
にやん、と笑う子供が恐ろしく見えた。 ロイはサッと顔を青くする。 言葉で聞く分には簡単に聞こえるが、元々がどうだったのかは兎も角、それだけの材質と錬成陣を実際に組み込む構築式がどれほど難解か。
「…………エドワード…」 「だからさ、発火布が使えなくなったら、こうやって、カフスボタンを軽く打ち鳴らしてくれたら多分火花が飛ぶと思うんだよねー」
一応飛び易くは加工してるつもりだけどさー、とあっけらかんと答える子供に。 ロイは、頭を抱えたくなった。 袖口を擦り合わせるような動作を見せるエドワードを横目に、ロイは吐きたくなるため息を飲み込んだ。
「……司令部に戻ったら試してみよう」 「うん、そうして」
もし火花出なかったら、もうちょっと手を加えるからさ、と。 何でもないかのように答えるエドワードだが、到底ロイには真似出来そうもない事だった。
「まぁ、ぶっちゃけ、指パッチンするより不恰好だからさ、本当に万が一の時用だけどな」 「…………確かにそうだな…」
思わず袖を打ち合わせる自分を想像し、ロイは何とも言えない気持ちになった。
**
クリスマス当日の夕刻頃。 既に外は暗くなっていて、大きな大総統邸は電飾で彩り良く飾られていた。 大総統から招待状を貰った時に聞いたのだが、毎年セリムと夫人と共に一日掛けて飾りつけするのだという。 そして庭の一番目立つ場所に、クリスマス仕様になったモミの木が目を引いた。
「あ、大佐、アレアレ!ほら、天辺のオーナメントとか、モミの木に吊るされてる丸いヤツとか、俺があの時お使いしたヤツ!」 「……あぁ、成る程…そういう事か…」
立派な門を潜り、モミの木が客人を出迎える。 彩り良く飾り付けられていたソレには、エドワードが見知っている物も飾り付けられていた。 以前、アリーガに取りに行った陶芸品のオーナメントだった。 それをロイに指差して教えると、ロイもまた納得したように頷く。
「エド!」
二人で並んで中に入ると、直ぐ様呼ばれた。 声の主は大総統の愛息子であるセリムだ。 見た目は、前の世界と同じだが、中身は本当の子供で。 まだ色んな事に興味を持つ年頃のようだった。 歳はエドの一つ上だ。 これもまた前の世界とは違う所である。
「セリム、元気だったか?」 「勿論だよ。エドも元気そうで何よりだね。お父様からも様子は伺ってたけど、実際に会えて安心したよ」
ニコリと笑顔を浮べる。 ちなみに身長はセリムの方が10センチほど高い。 もう気にしないが。
「マスタング大佐もお久しぶりです」 「やぁ、セリム君。久しぶりだね。元気そうで何よりだ」
ロイもまたニコリと笑みを浮かべ挨拶を交わす。 そんな二人を尻目に、エドワードは視線を巡らせると直ぐに見つけた。 大総統と夫人を。 今は他の客人相手に挨拶をしている。
「大佐、大総統居たぜ」 「あぁ。挨拶しないと…」 「ちょっと待ってて。お父様達を呼んでくるよ」 「いや、そこまでは…」
必要ない、と言い掛けたが、ロイの言葉を振り切るようにセリムは行ってしまった。 苦笑いを浮かべる。
「あ、気づいたみたいだぜ」 「…そうだな」
セリムに言われ、自分達が来た事に気づいたのだろう。 話を切り上げて大総統と夫人が歩み寄ってきた。 勿論エドワードとロイも歩み寄る。
「大総統、本日はお招き有り難う御座います」 「こんばんわ!」 「こんばんわ。良く来てくれたね。今日は堅苦しい挨拶は無しだ。クリスマスパーティーに無粋だろう?」
片目を瞑って言うお茶目な好々爺に、ロイは苦笑いを浮かべて頷く。 エドワードは夫人にも挨拶を交わし、忘れない内にとセリムにプレゼントを渡した。
「そうだ、セリム。コレ、クリスマスプレゼント。クッションだけど、めっちゃ良い感じの抱き心地なんだ」 「いいの?有り難う!大事に使うよ!」
綺麗にラッピングされたプレゼントを手渡すと、セリムは満面の笑みで受け取ってくれた。 リボンを解くと、中に入っていたのは虎猫の顔のクッションだった。 愛嬌のあるデフォルメされた顔は何だかエドワードにも似ている。 それを見てセリムはクスリと笑った。
「何だかエドっぽいね」 「だろ?何か、ピンと来てさ!これにしよって思ったんだ」
ニィッと笑うと、再度有り難うと言われた。
「あ、僕もプレゼントを用意してるんだ。ちょっと待ってて!」 「おう」
セリムはロイに一礼し、大総統と夫人に断って駆けて行った。 部屋に戻ったのだろう。
「エドワード君、あの子にプレゼント有り難う」 「んーん。俺とセリムは友達だし!」 「ふふ」
夫人に微笑まれ、首を横に振りながら笑って述べた。 セリムとは前の世界では色々あったが、此処では別だ。 歳の近い本当の友のようで、エドワードも大事に思っている。
「私達も君にプレゼントを用意しているからね、後で楽しみにしているといい」 「え、ホント!?」 「大総統!?そんな、滅相もない…!」 「何を言ってるんだね。エドワード君は可愛いもう一人の息子のようなものだよ。クリスマスプレゼントぐらい用意させておくれ」 「そうですよ」
大総統と夫人に其処まで言われては、ロイとしても恐縮するのみで、そうですかと頷くだけだった。 そんなロイを見てエドワードは苦笑いを零しつつも、自分にもプレゼントがあると聞いて嬉しくなる。
「エド!!」
お待たせ!と少し息を切らせて戻って来たセリムの手には、手頃なサイズのラッピング袋が。
「エドはいつも大佐の執務室に居るんでしょう?残業の時でも待ってるって言ってたから、」
本当は部屋用のモノなんだけど、と言いながら渡されたソレ。 中を開けてみると、入っていたのは膝掛けのような物だった。 不思議そうに取り出して広げてみると、何だかフードっぽいのまで着いてる。
「それはね、肩を冷やさないようにする為のショールよ。此処にボタンが付いてるでしょう?」
詳しく説明してくれたのは夫人で。 どうやら、夫人のアドバイスでコレを選んだようだった。 薄手のソレは冬場でも夏場でも使えそうな物で。 フードには何だか猫耳のようなものが付いている。
「偶然なんだけど、やっぱりエドは猫っぽいかなと思ってコレにしたんだ。可愛いでしょう?」 「…うん、可愛いけど……女の子用、じゃないよな…?」
恐る恐る訊ねるが、セリムはきょとんと小首を傾げた。 そしてクスクスと夫人が笑いながら尚も答えてくれる。
「大丈夫よ。別段女の子用、というモノではないわ。子供用よ」 「そう、なんだ…。うん、有り難う」 「エド、気に入らなかった?」 「や…別にそういうわけじゃねーよ!司令部も結構夕方になったら冷え込むから、有り難く使わせてもらうよ。サンキュー!」
エドワードがイマイチ微妙な顔をしていたからだろう、セリムが不安そうに聞いてきて。 だが、別に嫌なのではない。 それに夫人の言葉が本当ならば、別に可愛くても女の子用なのではないのだろう。 唯単に、女の子用を使う自分を想像して嫌だっただけだ。 最後は本当にニコリと笑顔を浮べて礼を述べた。 それに安堵の表情を見せる。
「マスタング君もあまり残業してエドワード君を待たせないようにしたまえよ」 「え゛…や、はい…。それは重々判ってはいるのですが…」 「いやいや、判っているとも。私も同じようなものだからねぇ」
はっはっは、と笑う大総統に、ロイは頭を掻いた。 好きで残業をしている訳ではない。 ロイも判っているし、エドワードもその点に関しては何も言いようが無いのが正直な所だった。
「今日はご馳走も用意しているからね、沢山食べていってくれたまえ」 「私お手製のケーキも用意してますのよ。エドワード君、食べていってね」 「ホント!?俺、おばさんのケーキ、めっちゃ好きだから楽しみ!!」 「あら。嬉しい事言ってくれちゃうわ。沢山用意してますからね、もし残ったらお土産に持って帰るといいわ」 「有り難う!」 「………エドワード、君ねぇ…」 「ん?」
夫人の作るケーキは本当に美味しいのだ。 この間大総統が手土産に持参してくれたチーズケーキも美味しかった。 セリムはいつも美味しいこのケーキが食べられるのかと羨ましく思うぐらい。 だが。
「いいのよ。だって主人もセリムもあまり食べてくれないんですもの。エドワード君は沢山食べてくれるから嬉しいわ」 「いやぁ…嫌いではないのだがね、こう毎日となるとね…」 「………」
頬に手を当てて悩ましげに零す夫人に、大総統は頭を掻き、セリムはスッと視線を逸らした。 大総統は元々嫌いではないし、仕事中もティータイムを設けるぐらい甘いものは食べる。 だが、セリムはどちらかと言うとロイのように甘い物が苦手な方だったのだ。 だから、セントラルに居た時、何度か遊びに来た時など、いつもエドワードばかり食べていた。
「勿体無いよなぁ。俺なら毎日三つぐらい食っちゃうのに…」 「…君は食べすぎだよ。いつもいつもおやつばかり…。執務室が甘い匂いで充満してるじゃないか」 「別にいいじゃん?糖分は頭に良いんだぜ?お陰で大佐の仕事も毎日捗ってるじゃん」 「………別に甘い匂いで捗っている訳ではないよ…」
ため息混じりに零すロイにエドワードが小首を傾げると。 大総統が、まぁまぁ良いではないか、と止めに入ってきた。
「エドワード君が美味しそうに食べてくれるのを家内も喜んでいるんだ。それに子供は食べる事も仕事だよ」 「そうですよ」
ふふふ、ははは、と笑い合う大総統と夫人にロイは苦笑い気味に脱力していた。 そんな和気藹々とした会話に切りが付いた所で、改めて会場となる広大なフロアまで案内された。 そこには既に沢山の客人が居て。 エドワードには判らなかったが、ロイにしてみれば大将から准将までの自分より格上の将校が居たり、格式のある家柄の御仁が居たりと中々に凄い場だったようだ。 とはいえ、元々格上だろうがなんだろうか気にしないのがロイである。 それを知っているエドワードもまた、そういった立場の者達に畏怖するような肝ではなかった。 なので二人は別段気にする事なく、自由に食事を楽しんでいる。
「これ、めっちゃ美味い!」 「さすが大総統の御宅だな…。良い材料を使ってらっしゃる…」
それなりに色んなレストラン等で食べてきたロイの舌も唸らせるほどのメニューが所狭しと並んでいた。 エドワードは全部食べたい!とちょっとずつ皿に取り食べていく。 気に入ったものはお代わりもして。 夫人お手製だというケーキも沢山食べた。
「エドワード、満足したかい?」 「おう!すっげぇ満足!」
コートを脱いでいる為、子供の細い体躯は誰の目から見ても確かなのだが、食した量はかなりのものだった。 あのロイが目を見張るほど。
「そういや、大佐は酒飲まねぇの?」
満腹を感じる腹部を擦りながら、ロイを見上げて小首を傾げた。 何故ならロイの手には皿はあれどワイングラスは無いからだ。 エドワードは兎も角、ロイは勿論大人で、周りと同様にワインなりシャンパンなり飲んでいても可笑しくはない。 だが、酔った様子もないし、今日は飲んでいる所も見てなかった。
「今日は飲まないよ。どうせヒューズの所に行くからね。それに上司の前で下手に醜態は晒せまい?」 「なーに言ってんだよ。めっちゃ酒強いくせに!」 「だからと言って全く酔わないわけではないよ。今日は君も居るし、車で来てるからアルコールは遠慮してるんだ」 「ふーん?まぁ、俺は別にどっちでもいいんだけどさ」
どうせ俺には関係ないし、とオレンジジュースを煽った。 そんなエドワードにロイが苦笑いを零しているなんて露知らず。 二人がそんな会話をしていると、特設されていた壇上に大総統が上がるのが見えた。 自然と二人の視線も其方へ向かう。 マイクを持って大総統が話し出す。
“今日は我が家のクリスマスパーティーに来てくださり有り難う御座いました。家内も息子も嬉しく思っております”
大総統というトップの立場に居ながら、キング・ブラッドレイは本当に腰の低い男である。 だからこそ、多少の思惑はあれど、これだけの立場の者達が集まったのだろう。 差しさわりの無い挨拶と、年末の挨拶も含めて行われた。 そして最後に。
“本当は雪が降ってくれれば一番最高でしたが残念です。白い雪が積もってこそ、あのクリスマスツリーが映えたんだがね…”
と、とても残念そうに零していた。 今日の天気は晴天で。 雪は降りそうも無い。 雪が降るクリスマスは、ホワイトクリスマスと言われ、とてもロマンチックに感じられる。 勿論、緑のモミの木に白い雪が降り積もれば更に見栄えは増すだろう。
「あ、大佐、大佐、」 「ん?何だね?」
エドワードはそこでふと良い事を思いついた。 傍らに立つロイを引き寄せる。 腰を曲げて顔を近づけるロイに小さく耳打ちした。
「……ほぅ……成る程、君にしては良い案じゃないか」 「だろ?だから手伝ってくれよ」 「良いだろう。私も美味しい料理をご馳走になったからね」
ロイの了承を得て、エドワードはニヤリと笑うと。 徐に人波を掻き分けて壇上の方へ向かった。
「大総統」 「ん?エドワード君、何だね?」
ニコリと笑って大総統を呼ぶ。 壇上の傍に立つセリムや夫人も不思議そうに見ていた。
「その雪、俺が降らせてあげるよ」 「……何だって…?そんなこと…」 「俺は錬金術師だぜ?庭のプールの水、使っていいかな?」 「それは構わないが……。そんな事は可能なのかね?」 「勿論。錬金術は等価交換だから」
顔を見合わせる大総統達を他所に、エドワードはまた人波を掻き分けてバルコニーに出た。 其処から見える景色には、庭のメインとなっている大きなクリスマスツリーのモミの木、そして水の張られた大きなプール。 夏になったら一緒に泳ごうと言われたのはいつだったか。 来年の夏な、とセリムと約束している。
「大佐」 「うむ、」
エドワードとロイ、大総統に夫人とセリム。 バルコニー付近には他の客人達がどよめきながら集まっていた。
「エドワード、沢山の将校達も見ている。失敗は許されないぞ?」 「んなこと判ってるって。誰に言ってんだよ?」
発火布の手袋を填めながら、小さく耳打ちしてきたロイにエドワードは自信満々に笑った。 そして、皆よりも数歩前に出る。 全員の視線がエドワードに集まっているといっても過言ではなかった。
「大佐、良いぜ」 「……行くぞ、」
言葉の直ぐ後、パチンっと音が鳴る。 同時に錬成光を発してプールの水が一瞬で蒸発した。 それだけで客人の驚きの声が上がるが、まだまだこれからだ。 水が蒸発し辺りに飛散しているのを見て、エドワードは同じようにパンッと手を打ち鳴らした。 そして、エドワードを中心に大きな錬成光が散らばる。 すると。
「あっ!!!」
セリムの声だろう、驚きの声と共に、客人からも歓声の声が上がった。 蒸発していた目に見えない程の水を、エドワードは一瞬で凍らせ雪に変えたのだ。 辺り一面真っ白だった世界が、白い結晶に姿を変え、ふわふわと夜空に舞う。 それは、モミの木をも白くさせていた。 おまけに、飾り付けられていた電飾の光りを反射させ、キラキラと輝く様は、ロマンチックとしか言いようがない幻想的な世界だった。
「スターダストってヤツだな」
完璧じゃん?とブイサインするエドワードに拍手が巻き起こる。
「素晴らしい!!!本当に素晴らしい!!錬金術というのは凄いものだね!こういうことも出来るのか…!」 「マスタング大佐との息の合い方もぴったりでしたわ」 「エド、凄いよ!!僕、こんな綺麗な雪見たの初めてだ!」
大総統と夫人、セリムに大絶賛され、エドワードは照れ臭そうに頭を掻いた。 ロイに労うよう頭を撫でられる。 クリスマスパーティーの締めには丁度良いパフォーマンスになった。
**
翌朝、僅かな頭痛と共に目が覚めた。 一瞬此処が何処だか判らなかったが、昨夜9時過ぎにヒューズ宅に来たのだと思いだす。 そして、持ち帰りした料理をつまみ代わりに、ヒューズをワインを飲み交わしたのだ。 寝たのは深夜も回ろうかという時間帯だったように思う。 僅かに痛む頭は十中八九二日酔いだろう。 小さくため息を吐いた。
「…何時だ…?」
サイドテーブルに置いてある銀時計を確認すると、時刻は7時を少し過ぎた所。 寝すぎでもなく早すぎでもない時間に少し安堵する。 視線を下げればエドワードはまだ寝ていた。 昨夜は大分ヒューズにからかわれていて、自分達に付き合うようにギリギリまで起きていたからまだ起きはしないだろう。
「………」
息を潜めるように、ソッとベッドから抜け出した。 毎度の事ながら、しっかりとシャツを握られているのでそれを起こさないよう指を解くのが大変だったりする。 額に掛かる髪を少し払ってやり、きちんと布団を被せて客間を出た。 階段を降りると、既にヒューズは起きていて新聞を読んでいた。 どこぞのおっさんか、とツッコミを入れてやりたくなったが、そんな事を言えば同い年の自分にも降りかかってくる為寸前で飲み込む。
「よぉ。割と早かったな」 「…あぁ、」
顔洗って来いよ、ついでに髭もな、と言われ、顎を擦りながら洗面所へと向かった。 さっぱりと洗ってから、再度リビングへと向かう。
「エドは?」 「まだ寝てるよ。もう暫く起きないだろう。此処を出る前に起こすさ」 「そうか」
昨夜、あのパフォーマンスを行ってからは大変だった。 格上の将校達は、自分達の錬金術に苦虫を噛み潰したような顔をしていたが、上機嫌な大総統にどうだったかと問われては素晴らしいとしか答えようがないだろう。 その様子が面白くて、その話をヒューズにも笑って聞かせた。 一方、他の客人達は手放しにエドワードを賞賛していた。 ロイの錬金術師としての腕前は先の内戦等である程度知れ渡っているものの、エドワードに関しては巷の噂程度だ。 それを目の前であんな凄いパフォーマンスとして見たのだから殆どの者が興奮状態だった。
「そういやお前、何時の汽車で帰るつもりなんだ?」 「はっきりとは決めてない。元々今日も休みにしてるからな。気ままに帰るさ」 「おーおーいいねぇ。まぁ、俺も今日は非番だけど、ネ!」 「ウインクするな。気持ち悪い。だが、お陰でもう年末年始休みなしだからな。大晦日も正月も司令部で缶詰だ」 「………それはそれで嫌だな…」 「だろう?」
ロイはため息を吐いた。 哀れみの篭った視線も今は辛い。 クリスマスとその翌日に丸々二日も休みを取ったお陰で、休み希望が多い年末年始に司令部で過ごす破目になったのだ。 とはいっても特にこれと言って用事はないし、家に居ようが司令部に居ようがエドワードも一緒だ。 特に代わり映えはしない。 だが、年末年始ぐらいは実家に帰すべきかと迷っているのも本音で。 エドワードの事だから何やかんやと理由を付けて帰らなさそうだが。
「あなた、中央司令部からお電話よ」 「あ?」
こんな朝早くに?と思わずヒューズと視線を合わせた。 ヒューズは立ち上がり受話器を耳に当てる。 幾つか言葉を交わした後、僅かに驚いた表情で此方を見てきた。
「えぇ、はい、確かにマスタング大佐はウチに居ますが………代わりますか?」 「??」
自身の名が出て眉根を顰める。
「ロイ、」
指先で来い、と呼ばれてロイは立ち上がり電話の元に。
「大総統からだ」 「はっ!!?」
耳元に潜めるよう言われて驚愕した。 慌てて受話器を耳に当てると、昨夜会ったばかりの大総統の声が聞こえてきた。 何か粗相でも犯していただろうか、と慌てふためく。
「もしもし、マスタングですが…。大総統、お早う御座います」 『あぁお早う。朝早くにすまないね』 「いえそれは構わないのですが、何かありましたでしょうか?」 『いや、そうではないよ。むしろ昨夜の事は大変楽しませてもらった。逆に礼を言う。有り難う』 「いえいえ、それほどのことでは…。エドワードの技術ですので…」
一体何の電話なのだろうか、と内心で冷や汗を流しながら、大総統の言葉に耳を傾けた。
『そうそう、それでだね。昨夜君達が友人宅へ泊まると言う話をしていたのでね、司令部を経由して電話を掛けてもらったのだよ』 「そうでしたか。それで何か…?」 『エドワード君は起きているかね?』 「いえ、まだ寝ております。昨夜は随分と元気良く起きていたもので、まだ当分寝ていると思いますが…」
思わず苦笑い気味に答えると、そうかね、と笑い声が聞こえてきた。
『では君に話しておこう。昨夜考えたのだがね?エドワード君の錬金術を見せてもらっただろう?丁度将校達も居たからね、国家錬金術師としてどうかと訊ねてみたのだよ』 「………はい?」 『それで殆どの者が年齢がまだ幼いという点を差し引いても、実力的には問題ないと評価していたよ』 「そう、ですか……。それは、あの子も喜ぶでしょう」 『それでだね、どうだろうか。今日、そのまま試験を受けてみては。実技は昨日見せてもらったから、残る筆記と精神鑑定を済ませてみては、と思ってね』 「は、いぃ!!?」 『おぉそうかそうか!君も乗り気になってくれたかね!では、そうだな。子供を無理に起こすのも忍びない。13時にまた大総統府の方へ来てくれるかね?』 「………あ、はい……判りました…」 『二人とも私服で構わないから、気軽に来たまえ。ではまた後ほど。失礼するよ』 「は、失礼します!」
ガチャンと受話器を置いて。 はぁぁぁ……と重く長いため息を吐いた。 肩をガックリと落とし、暫しその場で項垂れる。
「……おーい…ロイ?どうしたんだ?」
ヒューズが怪訝そうな顔で近づいてきた。 漸く顔を上げて心底脱力したように答える。
「……昨夜、エドワードがパフォーマンスをした、という話はしただろう?」 「あ?…あぁ、それがどうかしたのか?」
収まっていた二日酔いの頭痛がぶり返しそうだった。 額を押さえて、項垂れるように告げる。
「それを見ていた大総統が気を利かせてくれたようでね、今日そのまま国家錬金術師の試験を受けてはどうかと。実技は昨日ので構わないから、残る筆記と精神鑑定を今日済ませよう、という話だそうだ」 「…………………はい?」 「そう、そういう反応になるよな!?けどな!?何故か大総統はそれを了承に取るんだ!お陰で私が了承したと思われてしまったよ!」 「…落ち着け」
あぁっ!と頭を掻き毟りそうになる。 以前にも似たような事があった気がする。 もう思い出したくは無いが。 またため息を零して、
「という訳で、13時頃にエドワードを連れて大総統府に来るように、との事だ。……あの子に何て言えばいいんだ…」
目頭を押さえる。 実技は兎も角、筆記や精神鑑定は出来ればもっと事前準備して受けさせたいと思っていたのに。 筆記はまだしも、特に精神鑑定についてロイは心配だった。 たまに情緒不安定な所を目にするからである。 それは目下、故郷の事だったり、ロイが何も言わずに傍を離れる、といったような事柄に関係するのだが。
「……まぁ、エドの事だ、大丈夫じゃねぇのか?」 「大丈夫かもしれないが、まだ11歳の子供なんだぞ?」 「そうは言っても、元々国家錬金術師になるのはアイツの目標でもあるんじゃないのか?」 「…そうだが…」 「なら、それ相応の自覚ぐらいはあるだろ」
ぽんぽん、と肩を叩かれた。 そして、一先ずエドワードを起こすべきかどうか悩む。 今起こしてもまず半分寝ているのが落ちだ。 それはいつもの事で判っている。 かといって、時間ギリギリまで寝かせておいては試験に差し支えが出るだろう。 どのタイミングで起こすべきか。
「とりあえず、お前が落ち着け」
背中を押され、椅子に促される。 座ってコーヒーを一気に飲み干した。
結局エドワードを起こしたのは9時過ぎだった。
「エドワード、そろそろ起きなさい」 「ぅんんー…」
ベッドの枕元に座り、身を丸めるようにして寝ているエドワードを揺り起こす。 だが、反応はするものの目は開かない。 思わず苦笑いを零し、頬をペチペチと叩くと、その手を小さな手に握りこまれてしまった。
「……やれやれ…」
小さく嘆息し、ロイは布団を引っぺがして、子供を抱き上げた。 布団を剥がされて寒いのだろう、暖を取るようにぎゅぅっと抱きついてくる。 その様子は幼く可愛らしい。 日頃、大人顔負けの錬金術や体術を見ているだけに、このギャップは凄い。 仕方なくロイはエドワードを抱っこしたまま階下へ。
「エド、起きたか?」 「いや…この通りだ」
階段を降りると、ひょこっとヒューズが顔を覗かせた。 その言葉に抱っこしている子供を見せれば苦笑いを零す。 だが、このまま寝かせているわけにもいかず、洗面台の前で無理やり起こした。 さすがに冷たい水で顔を洗えば目が覚めたようで。
「おはよ…」 「おはよう。目は覚めたようだね」 「…うん、」
僅かにまだ眠たげだが、背中を押してリビングへと促した。
「エド、おはよう」 「はよ」 「よく寝てたなぁ、お前」 「んー…」
緩慢な動作で椅子に座ろうとするものだから気が気でなく、ロイはつい抱えて座らせてやった。 その様子が親友に微笑ましく見られようと関係なく。 そこに、遅い朝食を持ってヒューズの妻であるグレイシアが現れた。
「エドワード君、お早う。朝食、サンドイッチで良いかしら?」 「おはよ。…うん、いいよ、」
少し目を擦りつつ、欠伸をする様子に、まだ寝足りないのか、と呆れた。 頂きます、と手を合わせてもそもそと食べだす。 その様子を眺めつつ、ロイは大事な事を伝えた。
「エドワード。先ほど、大総統から電話があってね」 「……うん?」
かぷり、とサンドイッチに齧り付いていたエドワードがロイを見上げる。 目をぱちくりさせて小首を傾げていた。
「まぁ、単刀直入に言うとだな、昨夜の錬成を見て、来年まで待たずに今日国家錬金術師の試験を受けてはどうか、という旨だ」 「…………………ごほっ…!!?」
エドワードの様子に苦笑いを零しつつ、簡潔に述べたら、咽た。 それはそうだろう。 何とかサンドイッチを飲み込み、ジュースで流し込む。 咳が落ち着いた所で、エドワードは目をパッチリと開けてロイに詰め寄った。
「今日試験を受けるって何だよ!?聞いてねぇぞ!」 「そんなもの、私も聞いてない。今朝電話があったと言っただろう?大総統はかなり君の腕を評価されていてね。丁度将校達が居た事も大きかった。実力的に問題ないと判断し、残る筆記試験と精神鑑定を今日済ませてしまおう、という計らいだそうだ」 「…………えぇ……そんなのでいいのかよ…?」
呆れ眼を浮べるエドワードに、ロイもヒューズも苦笑いを零すしかない。 言いたい事は判る。
「大総統がそう仰ってるんだ。断る理由はないだろう?それにいずれにしろ君は試験を受ける予定だったのだし…」 「……そりゃそうだけどさ……。急展開過ぎるだろ…」 「まぁ、エド。頑張ってこいや」 「いや…まぁ、今日受けても大丈夫だけどさ…」
眉根を寄せて、エドワードはブツブツと文句を零しながら残るサンドイッチを頬張った。
「そういや、中佐、仕事は?」 「俺は今日は非番だよーん」
朝食を終えて、一息吐いていると、徐にエドワードはヒューズに問うた。 ピースしてわっはっは!と笑っている。 別に笑う必要も無いだろう、と思いつつ、時刻を確認すれば既に11時なろうという所だった。 大総統府まではそんなに距離は無い。 昼食を食べてからでも十分に間に合うだろう。
「エドワード、一応確認するが、筆記試験と精神鑑定、大丈夫なのかね?」 「ん?あぁ、大丈夫大丈夫。筆記は、どうせ錬金術関連の事だし、精神鑑定は要は軍に逆らいません、って感じだろ?」 「「…………………」」
あっけらかんと答えたエドワードに、思わずロイもヒューズも黙り込む。 確かにその通りなのだが、11歳の子供の口からソレをズバリ指摘されてしまうと軍人としてはどうも困る。
「…それはそうなのだがね…」 「心配すんなって!」
眉間に皺を寄せて言葉を濁せば、エドワードはニヤリと笑って言い放った。
「俺を誰だと思ってんだよ?焔の錬金術師の弟子だぜ?試験なんて余裕余裕!史上最年少で受かってやんぜ!」
グッと拳を握ってメラメラとやる気を漲らせていた。 その様子に自分の心配が杞憂であると悟る。 ロイは、ポンッとエドワードの頭に手を置いた。
「まぁ、君なら大丈夫だろうがね。凡ミスしないよう頑張りたまえ」 「おうよ!」
そして、昼食もウチで食ってけ、というヒューズに言われ、出発までそのまま過ごした
**
12時半過ぎ、エドワードはロイと共に大総統府へと来ていた。 昨夜は、此処の直ぐ隣の邸宅に来たのだが、まさか一晩経って直ぐに此処に来ることになろうとは思いもしなかった。 おまけに来年受験予定だった国家錬金術師試験を受けさせてくれるのだという。 ロイの話では、実技に関しては昨夜のパフォーマンスでOKらしい。 いいのか、と思ったが、大総統直々の言葉らしいので、甘んじて受ける事にした。
「エドワード、もう一度確認しておくぞ。まずは筆記試験だ。その後にそのまま精神鑑定が行われる。私は試験会場には入れるが、傍には居てやれない。大丈夫だね?」 「大丈夫だってば。もう心配し過ぎ!ちゃんと受かってやるから、大佐は大船に乗ったつもりで待ってろよ!」
あまりの心配具合にエドワードはビシッと指差して言い放った。 その言葉にロイは苦笑いを零し、でもね、心配なのだよ、と。
「実技は昨日のでOK出てんだろ?だったらもう受かったも同然だから」
胸を張って言い切れば、そのタイミングで大総統が現れた。 試験官を伴って。
「エドワード君。すまないね。昨日の今日で」 「ううん。大総統が試験を受けさせてくれるようにしてくれたんだろ?むしろ有り難う」
ニッと笑って言うと、大総統はニコリと笑った。
「君の見事な腕前は昨夜見せてもらったからね。来年まで待たせるのが惜しいと思ったのだよ」 「あ!そうそう!昨日貰ったプレゼント!丁度良いから、今日の試験で使うよ!」
エドワードはコートの内ポケットに入れていた万年筆を取り出して見せた。 黒い光沢に金細工が施してあるソレは、昨夜大総統から貰ったクリスマスプレゼントである。 立派な造りで高い一品だと知れる。
「おぉ、そうか。筆記試験があるから、丁度良かったね。君も研究熱心だと聞いていたから筆記用具がいいと思ってね」 「うん。昨日ちょっと試しに使ってみたけど、すっごい書き心地良かった」 「気に入ってくれたなら何よりだ。試験、頑張りたまえ」 「うん!有り難う!」
そう言うと、大総統に着いてきていた試験官から、こっちに来るように、と言われ、試験部屋へと向かった。 ロイは私はこのまま待っているから、と言い、安心して受けてきなさいと言われた。 それに手を振って、記憶の中の数年前と同じ試験部屋へと入る。
「では筆記試験を始める。錬金術師としての基本的な知識があれば問題ない」
用意されていた机を前に座り、用紙を貰った。 前の世界で一度受けているし、元々錬金術関連の知識なら誰にも負けるつもりは無い。 一度息を吐き出し、精神を集中させて試験に取り掛かった。
数時間後、精神鑑定も受けて、エドワードは試験会場を出た。 ロイを探そうと思っていたが、言葉通りロイはそのまま待ってくれていた。
「大佐!」 「!」
声を掛ければパッと振り返る。 エドワードの姿を見て安堵の表情を見せていた。
「筆記試験と精神鑑定の結果は一時間ぐらいで出してくれるらしいぜ」 「そうか。問題はなかったようだね」 「おう!」
傍まで駆け寄ると、労うように頭を撫でられた。
「大総統から、試験が終わったら執務室に来るように仰せつかっている」 「大佐、私服だけど中に入っても大丈夫なのか?」 「大丈夫。話は通してあるそうだ」
さぁ、行こう、と促される。 道すがら、試験内容はどうだったか事細かに聞かれた。 一度受けた事があるエドワードにとっては楽勝以外の何物でもなかったが、それを知らないロイには苦笑いを零すほどだったらしい。 精神鑑定も前回受かったような事を言っておいた。 むしろ更に有益になりそうな感じで。
「全く、将来が末恐ろしいな」 「うん?何でだよ。大佐にとって優秀な弟子の方が良くない?」 「優秀すぎるのも困るがね。まぁ、君は自慢の弟子だよ」
肩を抱き寄せられて言われ、エドワードは見上げるように笑った。 ロイに必要とされてるようで嬉しかったから。
「にしても、大総統、何の用なんだろうな?」 「試験の事を聞きたいんじゃないのか?」 「かなー?」
結果はエドワードがあえて言わずとも試験官から伝わるはずで。 どちらにしろ、来年受ける予定だった試験を前倒しで受けさせてもらえたのだ。 改めて礼を述べるのもいいだろう。 二人で大総統の執務室に向かう。 扉の前では補佐官だろう、一人の軍人が立っていて。 エドワード達を見るなり、頭を下げて扉を開けてくれた。
「失礼します。大総統。マスタング大佐、入ります。エドワードをお連れしました」 「失礼します!」
何度か来た事があるエドワードは、久々の執務室である。 何ら変わった様子の無さに少し安堵し、大総統の執務机の前に向かった。
「やぁ。試験お疲れ様。どうだったかね?」 「全然楽勝!」
ニッと笑って言えば、ロイから頭を小突かれた。
「よいよい。そうかね。試験内容の方はもう私の耳に入っているがね。合格結果を正式に出す前に一度聞いておきたいことがあってね」 「??……何?」
大総統に改めて何を聞かれるのだろうか。 エドワードは小首を傾げた。
「何、難しい事ではないよ」
そう言って、大総統は椅子から立ち上がりエドワードの前まで歩いてきた。 そして片膝を付いて視線を合わせてくる。 軍のトップである大総統がそんな真似をするのはかなり凄い事だ。 だが、割と、否、大分フレンドリーに接してきたエドワードにとってあまり不思議な事ではなかった。 何だろうかとジッと見つめていると。
「二つ名は何がいいかね?」 「…………………うん?」
ニコリと好々爺のような笑みを浮かべて、唐突にそんな事を聞かれた。 さすがのエドワードも目が点になり、こてりと小首を傾げる。
「国家錬金術師になったら、マスタング君のように“焔”などの二つ名を与える事になっている。いやぁ、君に似合うのは何があるかなと昨夜から考えているのだがね、」
中々良いのが浮かばなくてねぇ、と笑っていた。 えぇ…それって、大総統が考えることじゃん?とエドワードは困惑する。
「…俺が自分で考えていいの?」 「うむ。本当は私が考えないといけないのだがね?コレは内緒だよ」 「………えぇ…」
茶目っ気たっぷりにそう言われてしまえば、エドワードとしても何も言えない。 現に、ロイなどは片手で目元を覆っている。 ちなみに、補佐官等、この場に居合わせた軍人達もそれぞれ見て見ぬ振りをしている。 いいのかよ、と思いつつも。
「うーん……二つ名かぁ…」 「君の師匠が“焔”だからねぇ、何か一文字で、と思ってるんだが、」
確かに、エドワードの錬成内容も特徴も突出しているものはない。 昨夜のパフォーマンスでは蒸発させた水を凍らせて雪に変えたが、それはあの場の演出であって、根本的にエドワードが得意としているわけではない。 しいて言うならば、エドワードが得意なのは鉱物などの物質錬成である。 前の世界では右腕と左脚が機械鎧だった事も有り、“鋼”という二つ名を貰った。 だが、今はどうだろう。 手足は生身だし、前の世界の時よりも一年幼い自分だ。 何を全面に押し出したら良いのか。
「考え付かないかね?」 「…んーと……一個、頭に浮かんだのはあるんだけど……」 「お!何だね、言って御覧」
それでも思い浮かぶとすれば一つしかない。 慣れ親しんだあの二つ名。 エドワードの言葉に大総統が促す。
「……“鋼”」 「“鋼”かね?」
ほぉ、と驚きの眼で見てきた。 確かに現状、エドワードと“鋼”という二つ名は何も関連性が無いだろう。 自分でも思うのだから他人が見て思うはずが無い。 それでもこの二つ名以外、自分にしっくりくるものは思いつかなかった。
「俺、基本的に鉱物とか、物質の錬成が得意なんだよね。まぁ、全般的に出来るっちゃ出来るんだけどさ…。……やっぱ可笑しいかな?」 「……そうだねぇ…」
大総統は立ち上がり、後ろ手に組みながら歩き出す。 エドワードは眉尻を下げてロイを見上げた。
「………」
ロイは、無言で小さく笑みを浮かべ、エドワードの頭に手を置く。 安心させるように。 暫く大総統は考えているようだった。 そして。
「ん、あい判った。エドワード君の希望も踏まえ、後日改めて合格の通知を送る。二つ名は楽しみにしていたまえ」 「……はい」
駄目かなぁ、と思いつつも、それでもこの大総統が決めた二つ名ならばいいかな、と自分を納得させる。 少し雑談を交え、一礼して執務室を後にした。 大総統府を出て、セントラル駅へと向かう中、エドワードは思う。 確かに思い浮かんだのは“鋼”という親しんだ二つ名。 だが、此処は前の世界とは全く違う。 ならば、その二つ名に縛られる必要も無いのではないかと。 どんな二つ名が与えられてもそれは謹んで受け取ろうと思った。
「エドワード、」 「何?」
イーストシティ行きの汽車に乗り込み、落ち着いた所でロイが問うてきた。 聞かれるだろうと思っていただけに、エドワードは落ち着いている。
「何故“鋼”という二つ名を希望したのか聞いても構わないかね?」 「……別に構わねぇよ」
目の前に座るロイに見つめられ、エドワードはふ、と笑みを零す。
「“鋼”ってさ、めっちゃ力強く感じるだろ?」 「……まぁそれはそうだが…君の雰囲気にはとても…」 「俺に合わないのは判ってるよ。でもさ、“鋼”を溶かすのは“焔”なんだぜ?」 「!!!?」
目を細めるようにしてロイを見つめ返した。 そう。 “鋼”という二つ名の由来は、勿論別にある。 だが、それは前の世界での事。 今の世界にそれを当てはめるのであれば。 それはロイとの関係性しかなかった。 “鋼”を溶かしてしまえるのは高温の“焔”だけである。 つまり師匠であるロイの“焔”が弟子であるエドワードの“鋼”を溶かす唯一の存在。 どうにでも出来る存在なのだ。 好きなように加工を施せる。 酸でも“鋼”は溶ける。 だが、加工は出来ない。 だから“焔”で溶かすのとは訳が違う。
「……大佐の“焔”と俺の“鋼”。良い師弟関係だと思わない?」
したり顔で告げれば、ロイは狼狽した表情を見せた後、く、と笑いを零した。
「成る程、それは良い案だね。思いつかなかったよ」
さすがエドワードだ、と。
「だろ?」
笑うロイに、エドワードも笑みを零す。 実際にどんな二つ名が与えられるかは判らないが、“鋼”であれば良いと思う。 流れる景色を見ながら、エドワードは想いを馳せた。
イーストシティのロイ宅に戻ると、エドワード宛にアルフォンスとウィンリィからクリスマスプレゼントが届いていて。 それを見てエドワードがげんなりする事になるとはこの時はまだ知らない…。
詳しい設定は一話目参照。
次から東方司令部面々が出てきます。
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2018年03月21日付の[小説] 女子に人気ランキング 70 位に入りました!
有り難う御座います!