【漫画】男女の身体が入れ替わり、そのまま20年が経ったら? 短編『私にさよならを』の斬新な作品が生まれた背景とは

ーー多くの作品で題材とされる設定でありながら、他にはない新鮮さを感じました。創作のきっかけを教えてください。

柏木大樹(以下、柏木):最近、男女が入れ替わる映画『転校生』(大林宣彦監督 1982年)を見る機会がありました。その作品では最後にふたりは元の身体に戻れるのですが、逆に戻れないで終わるのもいいなと思って。『転校生』の設定を元にしつつ、入れ替わったまま時間が経った物語として本作を描きました。

 元の身体に戻れないとすると、35歳ごろのタイミングがつらい時期だと思ったんです。とくに女性側は子どもを自分の身体で生むことを考えると年齢の壁があるかと思うので。そのため16歳のときに入れ替わり、その20年後の物語としました。

ーー印象に残っているシーンを教えてください。

柏木:『転校生』では元の身体に戻ったふたりが「さよなら俺/さよなら私」と言い合いながら別れるシーンで終わります。ただ、入れ替わったまま生涯を終える方が本当の意味で自己との別れになると思い、本作の最後では写真の裏の「さよなら私」を描きました。このシーンが描きたくて本作をつくったので自分でも印象に残っていますね。

ーーそのシーンのあとには「さようなら…俺」とつぶやく(竜介さんだった)真理恵さんの姿も描かれましたね。

柏木:男性側は割り切って生きてきたとはいえ、元の肉体に対する気持ちも残っていたと思うのです。自分の肉体が滅んだことに対しても「さよなら…俺」と言っているのかもしれません。

 このシーンのように作中では最後まで語らない部分が多いので、読んでいる人がそれぞれの捉え方をしてもらえたらとうれしいです。

ーー創作活動を始めたきっかけを教えてください。

柏木:20代のころは商業作家を目指しており、2015年には『ヤングマガジンサード』(講談社)で『にのに』という作品を2年間連載していました。ただ商業誌で作品を描き続けるなかで同一人物が登場するお話を何度もつくることや、短編漫画としてのアイデアが溜まりつつも漫画として描くことができないことにストレスを感じることがありました。

 そのため当時の編集担当さんに「自分の描きたいものを描くため、いったん商業(漫画)とは距離を置きます」という話をしました。お金にはならないけど描きたいものを描いて、自分のSNSに投稿するようになりました。

ーー商業的な創作活動と同人活動に違いはありますか?

柏木:とにかく自由ですね。自分の好きなように描けることが快適だと感じています。商業作家を目指すことも楽しかったのですが、多くの人の目に留まることを考えると漫画で表現できないこともあったので。

 今は創作活動を支援してくださるファンコミュニティもあり、僕も生活がギリギリできるほどの恩恵を受けている身なので時代のありがたさを感じています。そのため今でも漫画を描くことが生活の大きな軸となっていますね。

ーーこれまで100本ちかくの作品を投稿しているかと思います。モチベーションの源は?

柏木:僕には思い浮かんだアイデアをかたちにできるものが漫画しかありませんでした。せっかく思いついたアイデアをかたちにしないことにストレスを感じてしまうので……。また、今は僕の描きたいものと楽しみにしてくださる方が奇跡的に一致しているので、楽しみにしてくれる人にもっと読んでもらいたいという思いもありますね。

ーー自身の創作意欲と読者さんの存在がモチベーションとなっているのですね。

柏木:自分の好きなことを続けてきただけであり、創作活動を家族が受け入れてくれることも大きいです。個人的には褒められるような生活ではないと思い、「いいのかな、これで」と思いながら生きています。

ーー今後の目標を教えてください。

柏木:とにかく短編漫画を描くことをやめない、最後のひとりになるまで短編漫画を描き続けたいです。それは誰と比べて長く描くということではなく、僕自身の魂の救済といいますか……。漫画を描かないとどうしようもない、それに尽きます。

 また、支援者の数も増えて家族の生活も少しずつ豊かにさせられたらと思います。

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