pixivは2021年5月31日付けでプライバシーポリシーを改定しました。
正直、信じられない――――というのが目に見えて伝わってくる。 自分でもうまく説明出来たか自信は無いが全てを話し終えた。
私がいた世界で起きていた聖杯戦争の事。 それが第三次聖杯戦争で選択肢を変えたもう一つの世界であるという事。
そして、アタランテが一度聖杯大戦を経験した後に私に召喚された事。
何故か、ほぼ全く同じ条件下でその聖杯大戦が再び行われている事。 死んでサーヴァントになった私がアタランテの代わりに細工をしてこの世界に来た事。
同じと言っても多少のズレや違いが生じている事。 アタランテから聞いていた、彼女から見た記憶が少しずつ思い出せなくなっている事。
多少省略はしたとしても、思考回路がショートするには十分すぎる情報量だ。
「アキレウスとは、まあ…庭園から逃げようとした時にちょっと見つかって…。」
「事情を聞いたらそういう事だったんで、俺は悪事に加担する気なの更々無かったんでな。協力する事にしたんだ。」
あの時は本当に心臓が止まるかと思った。 だけど、彼は疑う事無く一方的な私の話を真剣に聞いてくれて
私のサーヴァントになってくれた。
こんなにも頼もしい味方はいないと、その時は心から思えたし 彼とならどんな困難も乗り越えていけると…
「色々と理解に苦しむ所はありますが…、私は彼女の言っている事は真実であると思います。」
「私もルーラーに同意見です。そうでなければ彼女の出鱈目な能力や今までの行動に説明が付きません。」
ケイローンに関しては、昨晩ヘラクレスとの戦いの時に彼女のお蔭で窮地を脱した事もあり 敵対する意思が無いのは明白に理解出来ていた。そこに先ほどの長い説明が加われば納得しか出来ない。
ジャンヌに関しては、彼女の固有スキルによる判断でありほぼ直感に違いないのだが 自分たちみたいな存在がいるのだから、そういう事もあるのだろうという事で納得も出来る
根本的な理由として、明日香達が嘘を言うメリットが一つたりとも無いのだ。 なら信じるほか無い。
「だけどよ、その一周目が最後どうなったのかはアタランテもお前も分からないんだろ?」
「うん…勝ったのが最終的に赤だったのか黒側だったのかは分からない。どうしてまたこの聖杯大戦が行われてるのかすらまだ…。しかも完全に同じとは行かないIFの状態で。」
「でも、今は一周目の結果がどうこうじゃなくて僕たちがいるこの聖杯大戦をどうするかじゃない?」
「ライダーの言う通り…今俺たちがするべき事は天草四郎を止める事だ。きっと一度目の俺たちもそうした筈だと思う。」
例え、一度目が悲しい結末を迎えていたのだとしても 天草四郎の手に大聖杯が堕ちてしまっていたのだとしても
それでも、きっと一度目の彼らはそれを止めようと必死に戦った筈だ。
「私もそのつもりだよ、約束したんだもん。絶対に止めてみせる、その為に来たようなものだから。」
ならば、今の彼らの意思も変わらない。 敵がどう変わろうが世界が敵になろうが それに抗って手を伸ばすだろう。
「分かった、明日香の正体と能力と目的に関しては理解出来たよ。話してくれてありがとな。」
「疑うとかそう言うのは無かったのですが、協力する上皆の能力を把握しておく必要があったので…。」
「ううん、大丈夫だよ。私こそ昨日バタバタしてるからって言ってもある程度説明しておくべきだったしね。」
とにかく、私自身の能力と正体に関しては納得して貰えたみたいで何よりだ。 実際に披露してみても良いのだけれど回復するまでは魔術禁止令が出されていて ちょっとでも使おうとすればアキレウスからキツイお叱りが飛んできそうで流石に…
「となると、一度目のように赤の陣営に乗り込む方法はジェット機とかを使うしかねぇって事か?」
「俺の戦車やアストルフォの幻馬みたいな飛行手段があるならば話は別だが…他の連中はそれしか無理だろうな。」
「私もエルキドゥになれば飛行能力あるから大丈夫なんだけどね、昔はよくビュンビュン飛んだけど…」
「マスター、それはちょっと俺も初耳だぞ。」
獅子劫さんのナイスな質問。 恐らくだがアタランテの記憶と話を頼りにするとジェット機をチャーターして乗り込むのが一番手っ取り早い。 だが問題はその後だ。
「セミラミスのあの空中庭園には、確か…迎撃システム的な物が稼働しててそれを突破しない限り庭園に直接乗り込むのは難しいと思う。」
「あの旋回してる馬鹿でかい黒い板みてぇな奴か。」
「うん、私が回復してアキレウスと壊すのなら問題ないんだけど…」
「それは出来ませんね、私たちは彼と戦わねばいけませんから。力は温存しておきたい。」
その時は、私たちはきっとヘラクレスと戦う事になる。 他の事に無駄な体力や魔力を割く事は出来ない。 ましてやその時期になっていると、アタランテも周りの事はあまり見えていなくて どうやって黒の陣営が突破してきていたのかも覚えていないと言っていた。
だけどもその迎撃システムを破壊しない限り作戦は上手く遂行出来そうもない。
「それ、僕ならどうにか出来るかも!」
どうやってその状況を打開するかと悩んでいた時、名乗り出たのは まさかのアストルフォだった。 ゴルドさんが「悪ふざけで言うのはやめなさい」と小突くが当の本人は胸を張って
「いや、だから出来るんだって!コレの真名さえ思い出せればねっ!」
一冊の分厚い書物を机の上に置く、見た所魔道書のようだが… 多分、宝具だとは思うのだけれども。
「待って下さい、貴女…今、真名を思い出せればって言いました?まさか知らないのに今まで使っていたんですか!?」
真名を知らずに持っていた、その事にジャンヌは驚きを隠せず問いただす 流石にコレにはこの場に居た全員ビックリ驚き呆れ顔でため息を零してしまう。
「そうなんだけどそれでも今まではある程度能力は使えてたんだよ!?いやホントに!」
「だがライダー、思い出せばどうにか出来るという事はどういう意味なんだ?」
「あー、うん。実はね…」
―――――アストルフォ曰く、 自信の理性が蒸発しているせいで、この宝具の名前をすっかり忘れてしまっていて 今はそれっぽい名前を付けてどうこうしているだけであって、一度は庭園の迎撃システムにやられてしまったが 本来ならもっと凄い魔術を跳ね除ける事が可能で。 その為に必要なのは勿論、本来の真名解放。
だが理性が蒸発しているアストルフォにとっては今はそれは不可能。
ただ一つ、可能な時があるらしい。
「新月の夜!月が無い夜になら僕は理性を取り戻して、この宝具の名前を思い出せるって訳さ!」
「その時なら、その魔導書の能力をフルで使えて…」
「魔術攻撃を無効化しながらヒポグリフであのプレートをぶっ壊すって事!それならどうにか出来るでしょ?」
だけども今はその言葉と能力を信じるしか無さそうだ。 …アキレウスが『バカなの?本当にバカなのコイツ。』って言ってるけど バカと天才は紙一重と良く言うじゃない?きっとそれだと思うよ。
そもそも、アストルフォの逸話に月は深く関係しているから有り得なくはないのだ。
「だったら、次の新月の夜に作戦を決行することになりそうですね。次の新月の晩は…」
「凡そ6日後だな。」
「…幸い、あの馬鹿でかい要塞は速度は亀みてぇなもんだ。ジェット機やら使うのであれば問題なく追い付く。」
「私の体もそれぐらいなら全快してるからいけるよ。」
「分かりました、では6日後の晩に決行しましょう。ジェット機は私の方で空港を貸切り、チャーターします。」
その次の新月を待つ時間は無い、6日後の晩に攻め込むしか無さそうだ。 決行日は決まったとすれば後は誰が誰の相手をするか。
「あちらにいるサーヴァントは天草四郎を含めてアサシン、ランサー、キャスター、そしてヘラクレスの5人。彼らは確実に私たちを迎え撃つ事でしょう。」
「ヘラクレスは私とアキレウスとケイローンで倒す、正直キャスターは一発殴れば倒せると思ってた方がいいよ?」
「ではキャスターは誰かが適当にワンパンでお願いします。」
「…ランサーは俺に任せて欲しい。」
「…ジーク、ランサー…カルナはサーヴァントの中でもトップクラスの大英雄だよ?ヘラクレス程条件が厳しくないと言っても…」
「分かってる、圧倒的な実力差がある事も。だけどランサーは俺が相手をしないといけない、そんな気がするんだ。」
『頼む、ランサーは俺と戦わせてほしい。』とジークが真っ直ぐな瞳で訴える。 ジークとカルナは会った事が無い筈、特別な因縁があるとも…。 もしかして、彼に心臓を与えたジークフリートの影響…?
「マスター。ジークが…男がそこまで言ってんだ、させてやろうぜ?ただしチェンジは無しだぜ、ジーク。」
「…ああ!勿論だ、男に二言は無いぞ!」
「よく言ったジーク!それでこそ、男だ!」
なんだか男の子だけで話が決まってしまった。 これには、ジャンヌもやれやれとため息を付いて諦め状態だ。 となると後は…
「余りもんみてぇで、腑に落ちねェが…オレはあのカメムシ女か。」
モードレッドの相手は、セミラミスという事になる。 王を相手にさせるのは少しばかり皮肉染みて申し訳ない。
カメムシ、とは酷い言い方だなあ。
「なんかアイツは母上と同じ感じがして気に入らねェっつーか…まっ丁度良い。任せな。」
アストルフォが防御システムの破壊 ジークがカルナの相手をし 私とアキレウスとケイローンがヘラクレスと戦い モードレッドがセミラミスを…
「私は皆さんが敵を引き付けている間に、直接…天草四郎の元へ…大聖杯に向かいます。」
彼の相手は、ジャンヌが請け負う事になる。 それは仕方ない、ジャンヌは彼の野望を止める為に召喚されたのだから
彼の相手をするのは彼女がふさわしい。
「…俺も一発アイツにくれてやりたいからその分残しておいてくれ。ヘラクレス倒したらすぐに向かうから。」
「分かってます、貴方の拳一発分は残しておきますよ。」
「ぶふっ」
「先生、なんで笑ったんだよ!?ひっでー!」
何故か、ケイローンが噴き出してアキレウスが顔を赤くしているけど…。 でも絶対に何かしらの対策はしてくるのは目に見えている。
特に、天草四郎とセミラミスの二人は絶対に。
でも、何をしてくるのかは分からない。 うう…アタランテが『本当に何も覚えていなくてすまない』と謝っているような…!
「では、私とカウレスはその間に囚われている赤のマスターを探し助け出す方向で…。」
「姉さんも乗り込むのか!?俺だけでどうにか…」
「当たり前です!私たちの世界の命運が懸かっているのに、飛行機の中で待っているだなんて!」
「そいつは助かるぜ、俺たちじゃ赤のマスター達を探している余裕なんて無いからな。その役目頼んだぜ。」
「ええ任せて下さい。きっと助け出してみせます。」
危険だけど、赤のマスターたちも完全な被害者だ。 フィオレ達が助け出してくれるというのであれば、任せたい。 ゴルドさんは転移魔術で送られた赤のマスターたちを治療する為、城塞に残るらしい
それぞれの役割が決まり、後は6日後を待つだけ。
その時に全てが決まる。
その時に此処にいる誰が残っていて、誰が消えているのか…―――――――――――
それは私かもしれないし。
もしかしたら…――――――――――――――――――――
アキレウスがいなくなる、一瞬その可能性を考えた瞬間。 胸が締め付けられる感覚が襲った。
息が止まるようにも似た感覚、ああ嫌だ。怖い。
覚悟していた筈なのに、こんな…こんな…―――――――――――――
「マスター。そんな不安そうな顔すんなって。」
皆が、重苦しい話から解放されて談笑している中 アキレウスはそれを見逃さなかった。何かに不安を覚えたのか顔色を変えた明日香を
彼から声を掛けられた彼女は俯いていた顔を上げる
「これが終わったら、街の祭り一緒に行くって約束だろ?」
ここ数日の騒動で忘れかけていた約束。
トゥリファスの街を見下ろせる、あの丘でアキレウスとした約束。
ああ、そうだ…。全部終わったら街のお祭りに二人で行こうって。
アキレウスは信じてる、私たちが生き残ってると。
ちっぽけだけど、今の私たちには途方にも無い希望に満ちた約束。
それを聞いただけで、少し気分が和らいだ。
「だから、そんな顔すんなって。俺は笑ってるお前が好きだぜ?」
「ふえっ!?すっ、好きって…」
「いやっ!ほら、悲しそうな顔より笑ってた方が誰だっていいだろ!?あははーっ!!」
「だよねっ、そうだよねっ!!」
思ってもいなかった単語に思わず声が裏返ってしまった。 アキレウスも自分が言った事と赤面したマスターを見て、顔を紅潮させ挙動不審になる それをジーッとガン見していたケイローンは『弟子が幸せそうでお茶が美味しい』と悟りの顔をしている始末。
「あっ、そうだもう一つ確認しないといけない事があった!」
「今、良い所なのに。」
「え?」
「あ、いえ何も。私は何も言っていませんよ。続けて。」
何かを思い出したように、カウレスが声を出す。 それを舌打ちせんとばかりにケイローンがチクリと呟くが すぐに『え?私何か言った?』とシラを切る
「あー、空中庭園に乗り込む前にどうにかしないといけない事があってさ…
「アサシン…。」
「ルーマニア各地の猟奇的殺人、それと最近街の方でも起こり出した同様の事件。これは黒のアサシンの仕業だ。」
「そいつならオレは一度街で交戦したが…、逃がしちまった。顔もろくに覚えてねぇ。」
「俺たちもろくにアサシンの情報が無くて、明日香…アタランテから何か聞いた事は無いかと思ってさ。」
分かって居た、遅かれ早かれ彼らが黒のアサシンに手を打たなければいけない事。 今の時点で被害者は魔術師だけ、だけども街に魔術師がいなくなれば次に狙いに来るのは一般の人になるかもしれない。
それだけは防がないといけない。
でも、
「カウレス達は、アサシンをどうするの?」
「危険、だと思ってる。場合によっては倒さないといけないかもしれない…」
「私もそうだと思います、アサシンを放置するのは更なる被害を生む可能性も…―――――――――」
分かってる、分かってる。 でも倒すだけが、殺す事が正しい選択じゃない。
だけどそれも間違いじゃない。
でもアタランテの記憶がもうノイズが奔っているように断片的にしか思い出せないけど
あんな終わり方させてあげたくない。
もし、あの通りの結末になりジャンヌと争う形になったら私は…どっちかなんて選べない。
「アサシンの事は…、お願い。倒すとか殺すとかしないで欲しいの…、アタランテの願いを叶えてあげられるチャンスだから…今は手は出さないで欲しい…!」
完全にではないけれど、救ってあげられるチャンスがあるかもしれない。 その僅かな可能性があるというのであれば、誰も憎しまず悲しまずに終われるなら…――――――
「っ、分かりました、無理に話そうとしなくても大丈夫ですよ。そんなに辛そうな顔をするという事は深い事情があるのでしょう?私たちも可能な限りアサシンに対する武力行使はしませんから。」
「ごめんなさい…、私も断片的にしか思い出せないってのもあるんだけれど…」
「気にすんなって、でも流石に調査をして情報を仕入れるぐらいはさせて欲しいんだ。何か解決策が見つかるのかもしれない。明日にでも誰かを連れて行こうかなって。」
「それぐらいなら、大丈夫だと思う…。」
「ほらっ、明日香。病み上がりなんだから少し部屋で休もうぜ!トランプでもしながらさ!」
「俺も一緒に行く、ライダーも一緒に行かないか?」
「僕も行く行く!どうせだからキッチンからお菓子でも少し貰って行こうよー!」
「そう、だね。アキレウス…少し、部屋に戻ってるね。」
「あ、ああ…俺も後で行くよ。」
もう少しで涙が溢れそうな程、悲痛に満ちた表情だった。 これ以上詳しい話を言わせようとなれば、泣き崩れて負の感情に押しつぶされてしまう気がした。 モードレッド達が気を紛らわすかのように彼女を部屋へと連れ出す。
部屋に残された者たちは、正直重苦しい空気に包まれている。 まさか、あそこまでアサシンの生存を嘆願するとは思わなかった。
「アキレウス…、貴方は何も聞いていないのですか?」
「俺もそこまで詳しい事までは聞いて無ぇんだ。アサシンに関しては余り詳しく言いたそうじゃなかったし、…訳ありだって。」
「訳あり、ですか。あの様子からしてアタランテに何か関係してるのでしょうね。」
「ああ…、街での殺人に関しても凄く気にかけてた。真名も聞いてはいたんだが…」
流石のアキレウスも、動揺を隠せないままケイローンからの質問に答えている。 一番付き合いが長く強い信頼関係を築いている彼ならば何か知っていることがあるのではと思ったが 深い理由まではアキレウスも彼女からは聞いてはいなかった
聞いていない、というよりかは話したくなかったような様子だったのだ。
「確かジャック・ザ・リッパー。そう言ってたぜ。」
「ジャック・ザ・リッパー…19世紀の猟奇的殺人鬼がアサシンだと言うのか?」
「だけど、ジャック・ザ・リッパーとアタランテの関係性が全くもって見えんな。」
「ええ…年代も何も違いすぎます、ましてや別陣営でしたでしょうし特別な接点が見えません。」
益々、謎が深まっていく。 だがアキレウスは一つだけずっと気になる事があった。 自分と出会い、ホテルの一室でサーヴァントの説明をしている時、黒のアサシン以外に説明を少し辛そうにした人物がいた。
ルーラー ジャンヌ・ダルク。
明らかにその時だけ、瞳を揺らがせていた。 辛い何かを思い出すようにして、その存在は一周目のアタランテに大きく影響を及ぼし 敗退にまで関わったような事を言っていた。
それでも間違っていなかった、二人の思いは、と――――――――
そう言っていたのだ、何かが原因で二人は争う事になったのは間違いない。 その原因と言うのが…まさか黒のアサシンなのだろうか。
でも、何故どうして?
駄目だ、推測だけで勝手に今は物を言えない。 ましてやジャンヌに今この場で
「一周目のお前とアタランテは争う事になり、その結果アタランテが敗退した。」
なんて言ってみれば、場の空気は更に重くなり今後の作戦にも影響が及ぶ。 その原因たる最大の理由も分かって居ないと言うのに。
「きっと、明日香さんはアタランテとも深く信頼し強い絆で繋がっていたのだと思います。アタランテの記憶を聞くだけでは無く、見た事でその影響がアサシンに対する思いとして強く出ているのかもしれません。」
「…マスターは確かに、アタランテと確かに強い絆で結ばれて信頼し合ってた。そう思う。」
僅かな日数ではあったが、空中庭園で過ごしてたあの姿は 父から聞いていたアタランテその物であった。凛とした美しい孤高の狩人
あそこまで、再現出来るのはアタランテを理解している者だからこそ成せた業。 何よりあの宝具がその証だ。
だからあんなにも辛そうな顔を…したんだろう。
「俺から聞いてみる、此処にいる全員に全て話すのは今のマスターには辛そうだ。一先ず俺だけになら話してくれるかもしれない。」
其処まで俺に対する彼女の信頼があるのかは分からない。 だけど今のマスターは辛い事情を一人で抱え込んで如何にかしたい気持ちで一杯な筈だ。 少しでも分かってやる事が出来れば、理解しその苦しみを共有する事が出来れば…
「きっと、アキレウスでしたら彼女も話してくれるでしょう。貴方に話さず私たちに話すなんて彼女はしないでしょうし。」
「そうだな、アキレウス。この件は任せて良いか?最悪、詳しい事は俺たちに話さず2人だけの秘密にしてくれていいし。」
「それはマスターが決める事だぜ、カウレス。」 アキレウスはそう言うと、彼女と話をする為に会議室を後にした。
________________
____________
____________________________________
「アレ?アイツらは…?」
「おいお前ら、マスターと話があるから部屋から出て行きな」と言おうとしたのだが 部屋に着くなりそこにはベッドに腰掛けるマスターしかおらず、思わず情けない声が出てしまった。
「キッチンにお茶取りに行ったり、ボードゲーム持ってくるって言ってたよ。」
「あっ、そう…。」
「ごめんね、さっきは取り乱しちゃって。もう皆、話は終わったの?」
「気にすんなって、話も終わってアイツらはアイツらで普通に話してるよ。隣座っていいか?」
「うん、いいよ。」
いないなら、いないで丁度良い。 ベッドの空いているスペースに腰を掛け息を整える。
…やっぱり、浮かない顔してるな。―――――――――――――――――――――――
必死にいつも通りだと取り繕っているようにも見えるが 先程の事のせいもあって、思い悩んでいるのが目に見えて分かる。
早くどうにかしないといけないと、やはり焦っているんだろう。 空中庭園の突入の日にちも決まったとなれば、黒のアサシンの対応もその日以内にしなければいけない。 ましてや今の彼女の体は魔術の使用は厳禁。焦るのも無理もない話だ
「なあ、マスター…俺だけにでも話せたらで良いんだが、アサシンと姐さんに何があったのか教えてくれないか?」
…ストレートすぎる聞き方だと思う。 だけどこれ以外の方法が思い浮かばない。
「アキレウス…」
「分かってる、それは今のマスターにとって悩みの種って事ぐらい。でも…一人で抱えるより誰か分かってくれる奴がいた方が気持ちが少しは楽になると思う…言っただろう、俺はマスターの笑ってる顔が好きだって。」
言ってしまって良いのだろうか、アサシンとアタランテの事を話す事は つまり…それが原因のアタランテの最期も話さなくてはいけない。
アキレウスの事も…――――――――――――
「覚悟なら出来てる、それがどんなに辛く悲しく悲しい事だったとしても…俺はマスターの話を聞いたあの時から何があっても力になるって決めてんだ。全部受け止めてやっから…。」
「――――――――――――本当に?」
確認を取る声が震える。
ああ本当に、
「勿論だ、俺がマスターに嘘ついた事あったか?」
アキレウスは、親しい人に甘ちゃんだね。アタランテ…――――――――――――――
「そこまで言われちゃうと、話すしかないね。」
「でっ、でもゆっくりでいいぞ!マスターのペースで良いからっ、」
「うん…。それじゃあ、話すね。一周目のアタランテとアサシン、それとジャンヌの関係を。」
天草「そろそろ出番が欲しいですねー。」