pixivは2021年5月31日付けでプライバシーポリシーを改定しました。
「此処、買います。」
昨日の質屋店長伝いに紹介された不動産と共に 拠点となる物件探しをしていた。
風呂とトイレは別、平屋でも二階建てでも可能。 予算はざっとこれぐらいと提示すればすぐに良い物件があると紹介された。 そしてその物件を見学しに訪れザッと目を凝らし
不動産屋が「どうですか?」と言う前に先ほど発言だ。
「いや早くねぇか?一応他にも物件あるみたいだぜ??」 「そうだぜ嬢ちゃん、兄ちゃんの言う通り他見てから決めたって…」
「だって…キッチンも綺麗!それに築年数はそんなに経ってないし!街の市場からもそんなに遠くないし生活するには不便じゃないし…だめ?」
「あとお手洗いとお風呂は別だし。」と念を押してそう言われると それに従うしかない。だって買う金はマスターである彼女の物。 そもそもこんなにキラキラした目で言われてしまえばそれを「ダメ」と言うのも可哀想だ。 っていうか、上目遣いは反則だと思います。
「まあ!マスターがそう言うならいいぜっ、俺は!」
「アキレウス、いいですか?女性の言う事には大体「うん」や「そうするね」と言っておくものですよ。」 記憶の片隅にある幼き日に自分にそう言いつけた母親が浮かぶ。 いや…あの、はい。そうですね教育方針の違いで離婚?したんだもんな、親父と母上。
俺を炙って不死にするって言い張った母親と
いやいや人間のままにしてあげようよ!と言った親父。 渋々、「踵」だけは人間要素残してくれたけど結局それを根に持ったのか母は出て行ってしまったし。 俺のことを愛してくれたのは良いが、我が母はテティスはちょいとばかしアレだ。
「二人が良いって言うなら契約成立でもいっか、そんじゃあここにある家具は全部備え付けって事だがいいか?」
「本当にいいんですか?こんなに綺麗なテーブルとかソファや棚まで、あとベットとかも…!」
そう聞けばこの物件。新品家具付きで売りに出していた所、 なかなか買い手がつかず困っていた時に自分たちが客として訪れたのだ。 つまり生活に必要な家具は全て揃ってしまっている
「いいよいいよ、解体してアパートにするか悩んでた所だったし。にしても観光客でしばらく滞在するってのに一軒家丸ごと買うとは…」 「あー、まあこの街素敵だから別荘とかにしてもいいかなって思いまして…。」
確かに、長い滞在だと言っても家買うよりホテルで泊まった方が安く済む。 このぶっ飛んだ方法は相当の金持ちだと思われてるんだろう。 現にこの家は家具付きって事で相場より高めだった。 此処で不動産屋は「別荘」という単語にピンと来たのか
「別荘…ハーン、成程な。お宅らお若い金持ちの新婚さんって事か!」
そう考える方が早い。
若い男女が一緒に家を買いに来て親しい間柄に見えたらカップルか夫婦のどちらかだ。
「いや、違いま…」
それを否定しようとした明日香だったが 良い事を思いついた、そうはさせまいとアキレウスが彼女の肩を抱く
「そうなんだよ!実は俺たちつい最近結婚したばっかで今は大絶賛新婚旅行、ハネムーンって訳だ!おっさん察しが良くて助かるぜ~!」
この際だ、いえ友人同士ですなんて疑わしい関係で誤魔化す位なら夫婦って事にしときゃあ過ごし易い。 ある程度のスキンシップも「あらあら、あのご夫婦ラブラブね。オホホ」で合法的に出来る。と考えるアキレウス
あっ、成程。確かに若い男女が同じ屋根の下に二人きりならその方が誤魔化せるね!…それだけしか思わない明日香。
お互いに思った事は違うが、結果としては同じなので良しとしよう。
「ええ、そうなんですよ。」
「だったらのこの家結構防音効いてるから兄ちゃん頑張んな。薬局は此処から徒歩数分だ。」
「?」
「おう、俺頑張る…。」
不動産屋の要らないプチ情報を理解できない明日香だが 出来たら良いけどな!!と理解したアキレウスは夫婦設定の辛さを知る。 こういった分野は察しが悪い娘っ子を簡単に襲えるか!
「あっ、そうだ。どうせだったら滞在中に此処だけは見た方が良いって所ありますかね?」
「そうだな、見ての通り街全体が歴史深い。時計塔も結構有名な観光スポットだが…あそこはなあ…。」
「あそこ?」
時計塔は街のシンボルマーク的存在なようでおススメらしいが。 もう一点の場所に関しては不動産屋の顔が少し曇る
「いやあ、トゥリファスの北東にこの街最古の城があるんだけどね。」
「…へぇ、城ねえ。」
「街の郊外の奥地にあってよ、私有地ってのもあるんだが不気味で街の人間は好き好んで近寄る所じゃねぇな。」
「歴史的価値があるのに勿体ねぇな、そこには誰か住んでるのか?」
「ユグドミレニアっていう昔からいる貴族が住んでるよ。トゥリファスの領主、管理者って奴だな。」
ユグドミレニア----------------- 黒の陣営の本拠地がその城か。確か空中庭園で聞いた事と照らし合わせるとそこで間違いない 私有地として管理し、尚且つ住民は近寄っていない場所だからこそ サーヴァント同士の戦闘には打って付けだ。
「分かりました、とりあえず其処には近寄らない様にしますね。」
契約書にサクッとサインし、お金も現金で渡し契約完了。 不動産屋さんを見送り玄関をドアを閉める
今日から此処が私達の拠点かつ家になった。 台所用品をチャッチャと投影していき食料やシャンプー以外は一通りそろえる。 投影万歳、節約万歳。
「おいおいマスター、そんなに魔術使って平気かよ?」
「大丈夫だよ、フライパンとか包丁はどうも使い慣れたものじゃないと…」
「いやそうじゃなくて投影魔術ってのが凄いのは分かったんだが、その物の存在を維持すんのにも魔力が食うんじゃねぇのか?」
「平気だよ、私が投影してもソレはそこに残り続けるみたいだから。魔力の継続消費はないんだー、宝具とかはやっぱり魔力使っちゃうけどね。境界線がなんとも…」 「宝具も投影できるのかよ…そういえばあの短剣も礼装というより宝具だったな。」
「そうそう、まあ私が視た物限定になるのと攻撃系の宝具の威力は完全は再現出来ないけど。礼装とか昨日の短剣系の宝具なら能力を寸分違わず再現出来るよ。昨日あげたブレスレットも魔力の感知を防ぐ術が入ってる物だしね。」
そう言うとアキレウスは自分の手首に付いているブレスレットを見る。 昨日地上に辿り着き渡された物だが、そんな術が施されていたとは。 こういった物を作る際には基本的には材料が必要なのだがそれすらも必要とせず投影してしまった。 「投影魔術」とは、そんなのするぐらいなら本物やレプリカを用意した早いと言われるほど効率が悪い魔術だ。
しかし彼女と、彼女の義弟だけはそれを障害としないらしい。
「よし、他の生活用品や食料買いに行こうか。」
「んじゃあ荷物持ちは旦那に任せて貰おうか、奥さん?」
「あらー、生前色んな女の人と噂があった人が何をいいますかっと。」
「ヒッ!やっぱり知ってる…!
家に鍵をかけ 愛し合った女の数を指折り数えてくアキレウスと共にトゥリファスの街でショッピング開始だ。
「あれは…違う、ナンパしたけど上手く行かなかったからノーカンだ…。」
あっこの男イーリアスとかに書かれてる以外に女沢山いたな。 ブツブツと数えているアキレウスをよそにトゥリファスの街の景観を楽しむ。 昨日は夕方というのもあって静かなイメージだったが、今は日中の時間帯 人々が行き交い街に活気が溢れている。
「アキレウスー、数え終わった?」
「…諦めた。そういう時代だったって事で勘弁してくれマスター…。でも皆ちゃんと心から愛してたんだぜ?」
「それは知ってるよ、でも今この時代じゃ通じない言葉だから絶対言わない様に。殺されるよ。」
「うっす…。そうだ、聞きたいんだがマスターや姐さんが経験した聖杯戦争ってどんな奴らがいたんだ?」
そのセリフは士郎でも言いそうだなと思ったけれど、多分通用しない。 第五次聖杯戦争か、つい昨日の様に思い出せる。 不思議な感覚だ
強い、一級品のサーヴァントばかりで皆強かった。
「どのクラスも強かったよ、ただね…バーサーカーは本当に勘弁して下さい。もう二度と戦いたくないです。」
「えっ、マスターがそれ程言う奴ってどんなバーサーカーだったんだ?すげぇ気になる。」
「バーサーカーを話すと少し長いです、地獄だったんで。あっセイバーはアーサー王でね、可愛い女の子だったよ。ご飯いつもムシャムシャ食べてて一食3杯は余裕で…」
バーサーカーをトークを終え、最優のサーヴァントの話題がやって来た。 アキレウスはワクワクしながら耳を立てるが。 まずはアーサー王、という単語に「おぉ…」となる。 だが一秒後の「可愛い女の子」から耳を疑った。
「待て、マスター。」
「なに?」
「アーサー王が女?ご飯ムシャムシャ?」
「うん、女の子だったよ。男として育ったんだって、だから赤のセイバーに会うの凄い複雑。」
「あー、俺んとこでいう…まあそれは置いておいて。他は?」
その点については自分にも少し思い当たる節があるので あえて突っ込まないようにしよう。
「アサシンも凄い強くて手ごわかったし、剣技だけでは騎士王すら超えてた。ライダーも古代ギリシャの女神メドゥーサでね、もう一人のアーチャーは弟の未来の姿で…バーサーカーは、うん…ヘラクレス。」
騎士王を剣技で超えるアサシン…。アサシンって暗殺系だろう?バリバリ真向勝負じゃねぇか。
メドゥーサがライダー?? もう一人のアーチャってなんだ!?弟の未来の姿!?なんだそりゃ!詳しく!!
ヘラクレス?
「えっ…ヘラクレスをバーサーカーにしたのか!?逸話的には確かにバーサーカー要素はあるけれども、無駄遣いにも程がねぇか!?」
問題はバーサーカーがヘラクレスだったっていう点です。 ヘラクレスってね、俺と同じケイローン先生の元で育った…云わば兄弟子って奴です。 大先輩です。それが、バーサーカー()
「私もドン引きしたし、ヘラクレスって言ったらアキレウスと同じギリシャ神話の大英雄で最強って言われた男だよ?バーサーカーで理性は無くなってたけどよく勝てたなと思います…、アタランテもアルゴー船でのメンバーだったから強さを良く知ってたし…「無いわ」って言ってた。」
アーチャーで来られたら絶対詰んでたとマスターは漏らす。 何でも協力関係とそのマスターと深い事情があり説得する為にヘラクレスを倒さずに如何にかしたかったらしい。 だから向こうは全力で殺しに来てるけどこっちは加減、といっても本気のヘラクレスなのだから本気で対抗していたと。
それは確かに、二度と戦いたくないはずだ。
「あとね、キャスターもアキレウスによく関係してるんじゃないかな?」
キャスター? まああの頃は神と人が近い存在だったから、魔術を心得ている者は多かった。
俺に関係する人間でキャスターに該当するのはいくらでもいるな。
「俺に関係しているキャスター?いやあ…思い浮かば…」
頭を働かせ考えていると一人のシルエットが浮かんだ。
死後------楽園の地での妻となった、年上系女房… 少女趣味な部屋… ピョコピョコと動くエルフ耳
「まままま…まさか…、メディア?」
「当たり―、諸説はあるってレベルだったけど本当に死後の奥さんだったんだ。凄い歴史的発見!」
「マジか…。その聖杯戦争俺に関係ある奴二人もいるじゃねぇか!ランサーは違うよな?あの無精髭のおっさんじゃないよな、俺が引きずり回したおっさんじゃないよな!?」
「違うよ、クー・フーリン(幸運はケルトに捨てて来た)だよ。もう皆強くて参った参った。あとは…」
あの金ぴか(前世の朋友)をどう説明しよう。 うん後にしようね後で、アレに関しては本当に長い。
「家に帰ってから話そう、アイツの話をすると私の事も話さないとダメだし。」
「へ?マスターの事?なんだそれ詳しく!」
「だから家帰ってからね!」
私はね、エルキドゥなんだ----------。 そう言ったらアキレウスはどんな顔をして驚くだろうか。 ちょっとそれは楽しみかもしれない。
_______________________________________
数時間すれば、両手に大きな紙袋を抱えたアキレウスと それとは一回り小さい紙袋を手にもった明日香が新居に帰宅した。 冷蔵物は冷蔵庫にしまい調味料はキッチンの隅に綺麗に陳列させていく。
「日本の調味料置いてくれてるお店があってよかったー。」 「俺はマスターの国の食い物はよくわかんねぇけど、そんな日本ってのはすげぇのか?」
「うん!日本の食料は本当に万能だよ、和食、洋食、中華なんでも作れちゃうしね。野菜も色々あって作り甲斐ありそう…。」
「へぇ…、マスターは料理は上手いのか?」 「それなりにね。子供の時から弟と一緒に家事分担して料理も作ってたしあの頃は楽しかったなあ、死んだ父さんがね子供舌だったからどうやって野菜を食べさせようかって考えたりしてたし。アタランテも美味しいって言いながらよく食べてたよ、肉料理とか…特にアップルパイは気に入って…。」
-アタランテとからあげ-
からあげ?鶏肉を片栗粉で揚げたもの?どれ… あっつ!でも美味いっ、はわああ…凄い肉汁が出てくるし味もしっかりしてる。 明日はハンバーグ?俵型にした肉の塊にソースをかけるのか!? なんだそれは絶対美味い奴だ!楽しみにしてるからな! うーん、肉料理はやっぱり良い!----------------------------
シロウ!おかわりくださいっ!とても美味しいです!タルタルソースが合います!------------------
「…、待って。」
-アタランテとアップルパイ-
なんだこの究極に美味そうなリンゴの焼き菓子は!?香ばしくて幸せな匂いがするぅ… いただきます…。 ほぁあああ…美味しいっ、凄い美味しいぞ、マスター! リンゴにもこんな使い方あるんだな…。
なあマスター、おかわりはあるか?これならワンホール余裕だ。 えっ、あと2ホール作ってある?私のマスターは最高だ!!_______________
シロウ!アスカ!大変美味ですっ、紅茶とよく合います! アタランテ、ずるいですよ!私にもおかわりを分けてください!---------------
「…とまあ、こんな感じ。」
「姐さん、完全に餌付けされてんじゃねぇか!それとちょいちょいおかわりを要求してくるのが騎士王!?まじで!?」
「やっぱり美味しいって言われると嬉しくなっちゃって私も士郎も沢山作っちゃったんだよね。」
父から聞いていた麗しのアタランテのイメージ像が音を立てて崩壊した。 マスターとその弟が作った料理を美味しそうに大量に食し、ましてや翌日の夕飯もワクワクしながら待つ子だったなんて いや、騎士王の方も中々だ。アタランテに対して対抗心を燃やし食料の奪い合いを繰り広げている
「でも…聞いてるだけで美味そうだわ。サーヴァントは食事ってのは本来必要じゃないんだが、腹減ってきた感じがする。」
「そう?それじゃあ頑張って張り切っちゃう!アキレウスは体大きいからガッツリ食べれそうだもんねっ、よーしさっき美味しそうなひき肉を買ったからハンバーグにしよっか!」
その瞬間、マスターの頭上に料理スキルEXという謎の文字が見えた気がした。 エプロンを着込み意気揚揚にキッチンに向かって調理を始めるマスターの背中を アキレウスはじーっと見つめた。
手際よく野菜をカットしたり、肉をこねたり。 米を洗って炊く準備を始める光景はまさしく主婦だ なんか自分だけ座って良いのかと思い始めてきて、とりあえずテーブル拭くか。
「とりあえずテーブル拭いとくわ。マスターにばっか悪いし…」 「ありがとうアキレウスー。あと棚からフォークとナイフとスプーン用意してもらってもいい?」 「ああいいぜ。」
普通に考えて良い女だろ? 料理出来て家事出来て、容姿端麗。 生前のギリシャならばきっと彼女を賭けて闘技場で戦いを繰り広げられてたに違いない、俺は間違いなくその大会に出る
「なあマスター。」
「なあに?」 「そんだけ料理できるんだったら、恋人の一人や二人いたろ?」
自分の問いかけに、振り向きながら反応すると。 へにゃっと笑って。
「いないよ?今までで一度も恋人出来た事ないよー?」
「はあ!?マジで言ってんのか!?普通に考えてマスターは良い女だぜ?」
「そう?ありがとー。まあ確かに同級生に恋人がいる子とかいたけど私は家族いれば幸せだったし?告白されてもお互い好きじゃないと相手に失礼っていうか…。」
「どうかしてる…マスターの時代の男どうかしてる…」
今世紀最大の驚きを喰らった気分だ。 生きて来て今まで一度たりとも恋人が出来たことがないと、悲しむ素振りなく言った。 こんなに愛らしいのに!?可愛いのに!? 家族と居れば幸せだった?
思考回路天使か!!ああオリンポスの神々よっ、我がマスターは天使ですか!?天使っすね!!
こんなん俺じゃなくても絆されるわ!そりゃあアタランテの姐さんもアーサー王も絆されるわそりゃあ!! だがヘクトール、てめぇはダメだかんな!
「士郎もアルトリアと幸せになってるといいなあー。そしたらアルトリアは私の義妹?ねぇアキレウス、騎士王が義妹って凄くない!?」 「(しかも弟は騎士王とデキてやがったかー!!それに対して俺のマスターの反応天使!)すげぇわ…色々と。」
「あとねメディアもマスターの人といい感じになってたよ!多分結婚してんじゃないかな、受肉したら結婚するのー!って言ってたし。」 「はあ?えっ、何アイツ再婚したの?まあいいけど…」
【速報】マスターの弟、騎士王と出来ていた【吃驚】
何か最後に爆弾ぶち込まれた気がしたけど。 えっ?アイツが「私結婚するのー!」って他人に言うタイプだったっけ? 俺の知ってるメディアさんは姉さん女房でお姉さん気取りしたいタイプだったんだけど。 完全にケツに敷かれてたんだけど俺。
「いい?アンタも楽園の王みたいなもんなんだから、もうちょっとシャキッとなさい!だから韋駄天馬鹿とか言われるのよ!いい年扱いて長い廊下でダッシュなんかしないで!」
…韋駄天馬鹿って言ったのお前だけですが。
…でも、マスターは弟と騎士王の幸せの行く末や。 仲が良かったメディアが幸せそうに過ごして居る世界を見る事出来ずに死んだんだよな。 自分の命を犠牲にして穢れた聖杯を浄化して世界を救った、それなのに本人は…。
女としての幸せを一度たりとも遂げることなく死んだ。----------- 恋人を作り抱かれる事も結婚をして子を成す事もなく。 自己犠牲に近い形で他人の幸せを願い生を終えてしまった。
それでもマスターは。
「アキレウスもう出来るよ、どのぐらい食べる?」
嘆く事無く、どうしてこんな幸せそうに笑えるんだろうな。----------
「あー…、マスターの愛情たっぷりならいくらでも食うぜ!」
本当に、俺のマスターって最高だと思うんだ。
「美味ぇぇえ…」
綺麗な焼き色のハンバーグを口に含んだ瞬間、肉汁が口の中に溢れた 今までに感じたことのない美味さ、思わず頭を抱えてしまう 飯が美味くて頭を抱えるってどういう事だろうか、これにはきっと師にも答えを導くことは出来まい。 よし…会ったら聞いてみよう。先生、飯で頭抱えた事ありますかって
「マスター、本当に料理上手いな。これじゃあ騎士王や姐さんが絆されるのも分かるわ。スープも美味いし。ハンバーグにかかってるソースが犯罪レべルで美味い、幸せ。」 「ほんと?よかったー!」
もし空中庭園の厨房で調理をしてアタランテの姿で
『汝ら、飯だ!』
とこれを出されたら、きっと聖杯大戦馬鹿馬鹿しくなっちまう美味さだ。 どいつもこいつも飯優先になるレベルだぞコレ。 あの女帝に関しては無言でおかわり要求するだろうし 天草四郎も「凄く美味しいです…、おかわりください!日本の料理は作れますか!?食べたいのがあるのですが!」 嘆願するレベルではないか。
「飯を作れば世界救えるか…?いや流石に無理か。」
「??」
「あっいや、もし空中庭園でマスターが料理を作ってたらどうなってたかなって。」
「どうだろうねー。天草は日本育ちだから和食で言い包められる気も…無理だな。じゃあ夕飯は和食作ってみるね!何がいいかなー。」
食事の最中に次の食事のメニューを考えるマスターは最高だぜ。 俺のマスター本当に最高過ぎる、天使。マジ女神。嫁にしたい
「俺この聖杯大戦…マスターの飯が食えると思ったら頑張れそうだ。」 「ホントに!?いやあアルトリアもアタランテも「腹が減っては戦も出来ぬ」ってよく言ってたからまさにその通りかもしれないね。」
「いやその二人に関しては別の意味で食ってただけだぞ!?」
だが、こんなに幸せに感じる時間も
聖杯大戦が始まるまでの束の間の出来事に過ぎない。----------------
こうして戦いを感じない平和な時間の中を人として過ごし、生きる。 美味い飯を食って、散歩がてら街を偵察して。
だが何も起きずに、一週間とあっという間に時間は経ってしまった。
こんな時間は一体いつぶりだ?
まるで、ただの人間のように生きて暮らす時間を…
生まれてすぐ師であるケイローンの元に預けられ育った。 自分は英雄として生きる事を母に義務付けられそれに異論は無く自分はそう生きるべきであると。 この世界に生を受けた時から俺は常に戦士であり英雄だ。 例え戦争の中で若くして死ぬと予言を受けていても、俺は英雄なのだからとその道を選び結果死んだ。 常に俺の人生は戦いが付き物で、ただの個人として生きた時間は僅かな物だ。
今も決して英雄として生きる事を捨てている訳ではない。
ただマスターと、この人と一緒にいるとそれを忘れてしまいそうになってしまう。 考えてしまうんだ。 もし、戦いの無い世界で彼女と生きていく事が出来たらと。
いや…元々俺は聖杯に願いを持っていた訳ではない 俺はただ英雄として強い敵と戦えればよかった。 負けても勝っても英雄として戦いに身を投じていれば。
それだけで良かったんだ、彼女と出会うまでは。______________
もし…俺が聖杯で願いを叶える事があったとしたならば、俺は…
赤の陣営を離脱し、トゥリファスに潜伏し一週間が経過した。 黒の陣営と赤の陣営共に目立った動きは無い。
その中でアキレウスは心境の変化を感じていた。 聖杯大戦が始まればこんな平和ボケしてしまいそうな生活も終わりを迎える。
だが今が楽しくて仕方ない、こうして生前体験できることが出来なかった「人」の生活を。 そして聖杯大戦が終わってしまえば…______________________
「あら、奥さん!それに旦那さんも!」
「あっ、お肉屋さんの…」
今日は丘の上で景色を見ながらピクニックをしないかという事で 大きなカバンを手に街を歩いていた時だ。 この一週間で街の人間とも顔なじみになりこうして歩けば話しかけられる事も増えた。
「今日はお出かけかい?」
「はい、丘の上でピクニックでも。」 「あら、仲がいいわねぇー!」
「まあこれでも俺から猛アタックしたんでね、そのビラはなんだ?」 「ああそうだった!実はね…------------------------------」
目的地の丘の上につき、レジャーシートを敷く。 風もなく穏やかで過ごしやすい気候だ。 此処からはトゥリファスの街並が見渡せるとご近所さんに教えてもらった穴場だ。
「良かったー、私達だけで貸切だね。」 「あっ、ああ…。そうだな」
カバンから家で作ったサンドイッチや弁当をを並べ昼食の準備を始めている明日香を横目に アキレウスは先ほど受け取ったビラを見つめていた。 「やっちまったな」と自負の念に駆られどう謝ればいいのか分からない状況だ。
『実はね、来月にこの街でお祭りがあるんだよ。そんな立派なのじゃあないんだけど…』 『へえ、お祭りですか?楽しそう!』
肉屋の奥さんが持ってきたのは トゥリファスで行われる祭りの案内だった。
『ほらこの街って言い方悪いけれどそんな飛びぬけて楽しいって事がないだろう?でもこの祭りは、街の皆が色々物を出し合って街全体が楽しめる物なんだ。食べ物は勿論、娯楽やダンス、飽きることがないような楽しい祭りでね。良かったら来ておくれよ。』
聞いただけで楽しそうだった。 この街の人間はいい人たちが多く過ごしやすい、温かみがある。 そんな人たちが頑張って盛り上げる祭りはさぞかし楽しめることだろう。 何より祭り事は好きな方だ。
『そいつは楽しそうだな!もちろん、参加するぜ。』 『本当かい?嬉しいよ、でも…』
そう何も考えず、簡単に返事をしてしまったのだ。
『祭りは来月なんだけれど、アンタ等新婚旅行だろう?そんなに長く滞在して大丈夫なのかい?参加してくれるのはもちろん嬉しんだけれど…』
『来…月…。』
その一言で、現実に戻された。 街で行う祭りは来月。 まだ先の事だ、聖杯大戦が始まれば恐らく祭りが始まる前には決着が着いてしまう
終わりを迎えれば、サーヴァントである俺は勿論…マスターも英霊の座に戻ってしまっている
その時、俺たちはこの街にいない。
『来月は流石に…』
誘ってくれた、肉屋のおばさんには悪いが 断ろうとした時
『勿論、参加します!家買っちゃってるから帰国の話なんて如何にでも出来ますしねっ、アキレウス凄い楽しみだね。』
俺の言葉を遮るようにマスターがそう言った。 分かって居る筈だ、マスターだって。 なのに…
『…あっ、ああ。』 『本当かい!?いやあそれは嬉しいねえ、じゃあまた詳しい事が決まったら知らせに家に行くよ。そのビラはあげるよ、ピクニック楽しんできな!』
気を使わせてしまった-------------------- こんな俺の馬鹿に無理矢理、守れない約束をさせちまった。 完全に俺の落ち度だ。
「アキレウス?」 「…その…、マスター。悪ぃ、さっきの…俺が何も考えずに言っちまって話を合わすような事を…」
マスターは俺の手に握られているビラを見ると、 少し困ったように笑いながら
「私もね。思っちゃったんだ、『お祭り行きたい』って!でも私が言ったらアキレウス困っちゃうかなって思って悩んでたんだけどそうしたらアキレウスが楽しそうに参加するって言うからつい…。」 「は!?」
「どの国もどの街もそうだと思うんだけどね、お祭りってその街のその土地に住む人たちが精一杯力を合わせてやるものだし。楽しいんだよね、私も弟や死んだ父さんたちと一緒に行った時凄い楽しかった。お祭りってその場所にいるだけでなんか、こう…楽しくなっちゃうんだよね。でも流石に来月は難しいかなあ、そこまで聖杯大戦が長引けば出来なくはないだろうけど…それだけ続くってなると街も無事じゃすまないかもだし…」
思ってもいない答えが返ってきた。
だが、そう話している内にマスターの顔が少し悲しそうになる
違う、俺はマスターにそんな顔をして欲しいんじゃない…。
「私ね…この一週間で忘れてた。アキレウスとこの街で過ごす時間が凄い楽しくて、ずっと続くんだろうなあとか…明日は何をしようかなって。でも、さっきの奥さんの言葉聞いて一気に思い出しちゃったっていうか…」
同じだ。
俺と同じことをマスターも思っていた。
今、自分たちがサーヴァントである事を忘れるくらい、
今の生活が楽しいんだ。
「マスター…俺もだ。」
彼女だけに全てを言わせる情けないマネは出来ない。
それが恥だとしても、自分の胸の内を打ち明けなくては
「自分が英雄だって事忘れるぐらい。この生活がすげぇ楽しい…今でもそうだ、態々丘にまで来てマスターの飯を食うのも全部…全てが幸せなんだ。」
「アキレウス…。」
でもそれが本当だ。 嘘偽りない俺の今の気持ちだ。
「きっとマスターとじゃなきゃこんな気持ちになれなかった。俺は…もし、叶える事が許されるのであれば」
マスターと、一緒に生きたい。_______________
それはまるで愛の告白にも聞こえるかもしれない。 いやそれでも構わない、きっと彼女でなければこんな感情湧くことはなかった筈だ。 こんな遠まわしな告白を経験した事はない、基本的にはストレートに感情を伝えていたものだ。
やはりマスターだ、頬を赤らめる事なく自分の言葉に耳を傾けて頷き笑っていた。 きっとこれを友情とか、相棒的な意味で捉えてしまってるんだろう。
自分的には「愛」の意味なんだが。
本当に、口説くのに手がかかる女だな。俺のマスターは
「受肉、かぁ…。そっか、それは考えて無かったなあ…。」
「まあでも、まずは天草四郎の計画を打っ潰してそれからだな。」
「そうだね。意外に根性で現界出来そうな気もするし、アキレウスとなら出来るかもしれないね。」
それでいい---------------------------- 今はまだそれで良いんだ。
俺の想いが、まだマスターに届いていなくても。
「肉屋のおばさんと、祭り行くって約束も守んないといけねぇからな!頑張ろうぜ、マスター!」
「そうだね、最終目標は天草四郎をぶん殴ってからトゥリファスのお祭りを楽しむ事!」
きっと叶えてみせる。 いつの日か俺の想いを全て伝えてみせる でなければ彼女に希望を託した緑の狩人にも申し訳ない。
そして、その日の晩に彼らの想い応えたかのように ユグドミレニア城塞にて黒の陣営のサーヴァントが全て召喚された 同時に聖杯大戦に於ける全てのサーヴァントの召喚を確認、静かに開幕の狼煙を上げた。--------------------------
そりゃねぇぜー
返してくれ~、私の2時間を~
花言葉も調べた~、色々調べつくしたんだぜ~
嘆かわしいぃいー、本当にマジで~
Ah MAJIDE TURAI YO
アニメや原作のアキレウスは「後悔ばかりだ」と言っていたので
私はアキレウスに「後悔させたくない」です。
だから今回の話である意味二人の距離はもっとグッと近づいたと思います。
次回からジワジワと聖杯大戦が正式に開始です。
流れはおおまか一緒なんですが、アニメと同じような展開になるかな?どうかな?です。
セリフもほわぁああんと覚えてるぐらいなんで大体、こんな流れだったな的な見ていただけると幸いです。
これだけは原作通りに言わせたいなという個所はそのまま言わせます。
「ダーニック!!貴様ァアアア!!」は。
あそこのやり取り結構好きです、あんな盛大に残念!お前なんか所詮手駒だヴァカめ!という場面はあまり見た覚えが無いので…
「自害しろ、ランサー。」といい、本当にランサークラスに厳しい聖杯戦争。
Apoイベントは良かったです、あっコレは壮大なヴラド公の幕間じゃねぇか!と思いましたが
ジャックとアタランテが仲良く平和にしていたりギリシャ師弟が争わずして協力していたのもおばちゃん涙しか出ない。
ごめんね、どうせ黒幕は「サンタアイランド仮面」とか思ってて…。すまない…
アキレウスの母ちゃんのテティスは個人的にはちょっと面倒くさい女性なイメージです。
息子ラブなのは良いけれど、ちょっと親バカすぎたり
教育方針の擦れ違いで離婚したり…。
トロイア戦争に参加させたくないからって、息子を女装させて何処かの島に隠そうとしたり(ここ重要テストに出ます)
アキレウスは先生の元を出てから15歳前後まで女装していて女の子として過ごしてたそうですよ、一際可愛くて綺麗だったとか。
まあそれでもアキレウスは親の愛情をたっぷり受けていたんだなと。
このエピソードを公式が使ってくれないかな…女装話…。
一応、天草くんがラスボスです。
一応…。