はじめに
日本では、ファイザー社と武田/モデルナ社のワクチンの追加接種がはじまっています。現在、国内外においてオミクロン株の感染が急速に拡大していることもあり、3回目となるワクチン接種にはどのくらいの効果があるのか、また、その安全性などについて気にされている方も多くいらっしゃるでしょう。今回は、海外の情報を踏まえて追加接種の効果や副反応について解説します。
新型コロナワクチン接種状況は?
首相官邸の公表結果によると、2022年1月21日時点で、国内における新型コロナワクチン総接種回数は2億回を超えており、全国民の約8割が2回の接種を終えています。新型コロナワクチンの追加接種は、医療従事者と高齢者から順次進められていますが、追加接種するワクチンの量は、ファイザー社のワクチンでは、1回目・2回目と同量(1回0.3mL)です。一方、武田/モデルナ社の方は、1回目・2回目接種の半分の量(0.25mL)となります。
追加接種(3回目)の有効性は?
日本より先に追加接種が始まっている国がいくつかあります。
世界で最も早く追加接種をはじめたイスラエルにおける検討によると、デルタ株について、ワクチンの追加接種から7日以上経過した人と追加接種を受けていない人の比較では、追加接種による新型コロナウイルス感染症による入院予防効果は93%、重症化予防効果は92%、死亡予防効果は81%と報告されました(※1)。
米国でも同様の検討が行われていますが、追加接種から7日以上経過した人は、追加接種無しの人と比較して新型コロナウイルス感染症の発症に対する追加接種の有効性は95.2%と報告されており(※2)、追加接種後の抗体価は、2回目接種後6か月以降が経過した追加接種前の抗体価より13~17倍に上昇することが報告されています(※2、※3)。
また、現在、感染が急速に拡大しているオミクロン株に対する有効性ですが、例えば英国での報告等を踏まえると、ファイザー社のワクチンの2回目接種から約半年後には、発症予防効果は大きく低下するものの、3回目の接種を行うことにより、ファイザー社のワクチン、モデルナ社のワクチンいずれにおいても、発症予防効果が一時的に回復する可能性が示されています。
デルタ株と比較するとオミクロン株に対する発症予防効果は低下しているものの、入院予防効果は一定程度に保たれています(オミクロン株流行期における、2回接種14日後以降の入院に対する有効率は70%)。また、ワクチン製造の元となったウイルス(武漢株)に対して反応するリンパ球の少なくとも70%以上がオミクロン株に対しても応答することが示されています(※6)。
追加接種(3回目接種)の安全性は?
米国での臨床試験の結果では、追加接種後の副反応(有害事象)の発現割合は、初回接種とおおむね同じという結果になっています。
また、追加接種が先行して実施されている米国によると、ファイザー社のワクチン追加接種後では、腋窩や頸部のリンパ節が軽度~中等度に腫れる割合が1回目・2回目と比較すると多く発生していたことが報告され(1回目・2回目では0.4%、追加接種では2.7%)(※2)、頻度としては、若年者や女性に多く報告されたようです(※2)。
ただし、これらリンパ節の腫れの多くは追加接種後 1~3日後に症状が見られ、1~3日以内に自然に消失しているようです(※2)。
国内では、医療従事者等を対象に、追加接種した後の様々な症状を厚生労働省の研究班が調査しています。現時点ではファイザー社のワクチンを追加接種した時のデータが纏められていますが、3回目接種後の様々な症状は、2回目接種後と類似しており、接種部位の痛みや頭痛・倦怠感、発熱等が多くみられています。
一方、腋の下の痛みやリンパ節の腫れ・痛みなどの症状は、2回目よりも3回目接種後の方が頻度が高くみられたことが報告されています(2022年1月21日時点) 。2回目接種の時と同じですが、接種翌日は仕事をあらかじめ休めるようにしておくことが大切です。詳細は
こちらをご覧ください。
心筋炎については、10代~20代男性での発生率がその他の年代や女性に比べて多いことが国内外で報告されていますが、イスラエルによると、ファイザー社ワクチン追加接種後の心筋炎発生頻度は、1回目接種より高く2回目接種より低い結果だったと報告されました(2021年10月10日時点)(※2、※4)。
「v-safe」という米国内の約73万人を対象にした、自主的な監視プログラムのデータによると(※5)、追加接種後に起こった様々な症状は、1回目・2回目接種後に報告された症状と同様で、ファイザー社、モデルナ社のワクチンともに、追加接種後は2回目接種した後より症状が出る頻度は低かったことが報告されました(※5)。
また、昨年9月22日~11月5日の間にmRNAワクチン(ファイザー社、モデルナ社のワクチン)による約2,590万回の追加接種が米国で行われていますが、接種後に「VAERS(ワクチン接種後に発生した有害事象を報告するシステムのこと。)」に報告された93%以上が1回目・2回目接種と同様に重篤なものではなかったと報告されました(※5)。
国内外で追加接種が進められる中、オミクロン株に対するワクチンの有効性についても調査が行われています。国立感染症研究所では、これらについて今後も注意深くフォローをし、情報を常に更新しながら、分かりやすく発信していきます。新型コロナウイルス感染症に関連した情報は
ホームページにもまとめているので、ぜひご覧ください。
(参考資料)
※1:
Lancet. 2021; 398(10316): 2093-2100
(Effectiveness of a third dose of the BNT162b2 mRNA COVID-19 vaccine for preventing severe outcomes in Israel: an observational study)
※2:
ACIP. ACIP Presentation Slides: November 19, 2021 Meeting, Updates to the Evidence to Recommendation Framework: Pfizer-BioNTech and Moderna COVID-19 vaccine booster doses.
※3:
ACIP. ACIP Presentation Slides: November 19, 2021 Meeting, Update from Moderna.
※4:
Israeli MOH, Weizmann Institute of Science, Gertner Institute, Hebrew University & Technion. Booster protection across ages - data from Israel. October 12, 2021.
※5:
ACIP. ACIP Presentation Slides: November 19, 2021 Meeting, COVID-19 Vaccine Booster Dose Safety.
※6:
国立感染症研究所:SARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)について(第6報)
(注:本コラムに記載している内容は、筆者の見解となります。)