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いきなりステーキ 業績悪化で「料理用手袋は片手だけに」

「週刊文春」編集部

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「会社から『料理用ビニール手袋は片手だけ着用して調理せよ』という指令が下りてきたんです」

 格安ステーキチェーン店「いきなり!ステーキ」の元社員Aさんはこう明かす。

立ち食いと安さがウリだが…

 小誌が4月28日号で報じた大手回転寿司チェーン「無添くら寿司」店長のパワハラを苦にした焼身自殺。それ以降、編集部には外食チェーンに勤務する従業員からの悲痛な告発が相次いで寄せられている。

「『いきなり!ステーキ』の労働環境も過酷です」

 こう語る冒頭のAさんは2018年に同店の運営会社ペッパーフードサービスに社員として入社。その後、アルバイトに雇用形態を変え、22年4月まで関東近郊の店舗で勤務していた。

創業者の一瀬邦夫社長

 近年、ペッパーフードは業績不振にあえいでいる。

「いきなり!ステーキ」は13年に1号店をオープン。立ち食い格安ステーキという業態がヒットし、数年で全国に約500店舗を構える一大チェーンに。しかし、

「過剰出店で19年に営業赤字に転落。コロナ禍が追い打ちをかけ3期連続赤字に陥った。20年には別業態『ペッパーランチ』の売却、不採算店舗の閉店、希望退職者募集とリストラを敢行。215店舗まで規模を縮小しました。22年12月期は売上高が前期比11%減の168億4100万円、営業損失を1億6500万円と予想しています」(経済誌デスク)

 同社を巡っては小誌2月10日号が「いきなりステーキ」の商標権を取引先企業に“担保”として移転していたことを報じている。

 そんな苦境の中で“手袋は片手だけ令”がいきなり下されたのは21年9月のこと。現役アルバイトは戸惑い気味にこう漏らす。

「理由は『手袋の価格が高騰したから』。経費削減とはいえ、不便ですよ……」

片手だけ手袋をしている

 前出のAさんが語る。

「衛生上、手袋をしていない手で食材は触れない。当然、片手だと時間がかかります。マニュアルでは『ランチは10分、夜は15分で提供すること』とありますが片手では無理。だから私はやむを得ずピーク時は両手に手袋をしていました」

 すると――。

「監視カメラで調理場を見ていた上司から『片手がルール。外しなさい!』と電話がきた。ピーク時だったので『やれるもんならやってみろ!』とつい言ってしまった。後日、命令に背いたという理由で改善指導書を出されました」(同前)

 

 だが“片手ルール”徹底には無理があったようで、

「結局、数カ月後に『ピーク時や仕込みの時は両手に手袋をしてもいい』と緩和された。とはいえ、今でも多くの従業員が片手だけ着用して調理しています」(前出・現役アルバイト)

 小誌が入手した写真では、複数の店舗で大半の従業員が片手だけに手袋をはめて調理をしていた。

 

 従業員の苦難はそれだけではない、とAさんは嘆く。

「店長は売上ノルマに苦しんでいます。『自分で考えて行動しろ!』と上司に圧をかけられる。私が19年6月から仕えた千葉県の店舗のX店長は“自爆営業”をしていました。ある月には自腹で15万円分のステーキを従業員に奢り、売上をつけていた。私もご馳走になったことがあります」

 “自爆営業”の対象はステーキにとどまらず、

「一部の店舗にあったガチャポン『いきなり!ミニチュアマスコット』もです。X店長は1回300円のガチャを自腹で約20名の部下にやらせていた」(同前)

 ペッパーフードに片手ルールについて聞くと全店への指示を認めた上で〈あくまでも衛生レベルを一定に保ったうえで、手袋を無駄遣いしないよう意識して頂くという内容のものです〉。自爆営業については〈事実確認を行ううえで御社のおもちの情報もご共有頂ければと思います〉とした。

 “いきなり業績回復”とはいかなそうだ。

source : 週刊文春 2022年6月23日号

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