「子供にワクチンは不要」「日光でコロナは死滅する」反ワクチン団体の“怪文書”に医師が徹底反論
最近、新型コロナワクチンに関する“不正確なチラシ”が多く出まわっている。3月には、その中の一つが一時的とはいえベネッセの株を急落させる事態に……。こうしたチラシは、様々なクリニックにも送りつけられているという。
【画像】反ワクチン派から送られた怪文書やチラシ。神真都Qによるものも
そこに書かれた情報をなぜ鵜呑みにしてはいけないのか? 同問題の被害者でもある小児科医の森戸やすみさんに聞いた。
小児科専門医の森戸やすみさん(筆者撮影)
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ベネッセ株を急落させた「反ワクチンチラシ」
3月21日、Twitterに「ベネッセすごい❣️ チャレンジ1年4月号に入ってたんだって✨」という文言とともに反ワクチン・反マスクのチラシ画像が投稿された(現在は削除済み)。
投稿によると、ベネッセホールディングスから送られた進研ゼミの教材に、新型コロナワクチンやマスクの効果を否定するチラシが同封されていたというのだ。
翌22日には、このツイートが広く拡散され、多くの人が「ベネッセが反ワクチンのチラシを同封するわけがない」「チラシの内容がおかしい」と指摘。そして一時的にベネッセホールディングスの株価が下落した。
同日、ベネッセ進研ゼミのTwitterアカウントは、「【ご注意ください】昨日21時頃より、弊社発送教材に新型コロナウイルスのワクチン等に関するチラシが同封されていたとの投稿がされていますが、当社ではこのようなチラシの制作や封入はおこなっておりません。何卒ご注意ください。」とツイート。
さらに、こどもちゃれんじ編集部のアカウントは、多くのツイートに対して「ご心配をおかけしてまことに申し訳ありません。進研ゼミ小学講座ではこうしたビラを封入指示している事実はございません。」と回答し、個別対応に追われた。
実際に送られてきた怪文書とは?
小児科医の森戸やすみさんは、子供の新型コロナワクチンの接種が開始されてから、こうした反ワクチン運動がより盛んになったようだと話す。
「反ワクチン運動をしている人たちは、ほぼ根拠のない思い込みや陰謀論を信じ込んでしまっているわけですが、“子供を守る”という大義名分を手に入れたことで、言動がエスカレートした面があるのではないでしょうか」
確かに子供のワクチン接種に反対するデモが行われたり、子供のワクチン接種をやめるよう呼びかける不正確なチラシが出まわったりしてきた。
さらに今月7日には、反ワクチン団体「神真都(やまと)Q」のメンバー4名が、子供のワクチン接種が行われていた渋谷のクリニックに侵入し、建造物侵入容疑で逮捕されている。ちなみに前述のベネッセのチラシに関するツイート主も、神真都Qのメンバーだと見られている。
森戸さんのクリニックでも子供への新型コロナワクチンの接種を行なっているが、反ワクチンによる怪文書やチラシがたくさん送りつけられたという。
「こうした怪文書やチラシがばらまかれても、医療従事者には特に影響はないんです。ただ、一般の人が目にした場合、お子さんは本当に大事な存在ですから、全く根拠がなくても動揺するだろうと思います。事実に基づかない間違った考えが広がることを『インフォデミック』というんですが、まさにそれですね」
どうしたらこうした誤情報から、それこそ「子供を守る」ことができるのだろうか。森戸さんは次のように言う。
「できたら、厚生労働省や小児科学会がもっとわかりやすく情報提供できるといいだろうと思います。また明らかに荒唐無稽なチラシであっても、面倒であっても、きちんと反論していくことが大事ではないでしょうか。デマの内容って、実はかなり似通っているんです。元データを確認することなく、過去に作られた反ワクチンチラシを参考に、新たなチラシが作られているからだと思うんですが……」
「10個のデマ」に徹底反論
反ワクチンチラシはどこが間違っているのか? 実際に送られてきたチラシをもとに、森戸さんに聞いてみた。
■デマ1:ワクチン接種後に1571人が亡くなっている
「『接種後の死亡』と『接種を原因とする死亡』では意味が異なります。現在までに、新型コロナワクチンを接種したせいで亡くなった人はいません。新型コロナワクチンは、今までにない規模とスピードで接種が進んだので、たまたま接種後に体調が悪くなったり、亡くなったりする人が他のワクチンより多いように見えるのです。新型コロナワクチンに限らず、ワクチンの接種後に何かがあれば、明らかに因果関係がなさそうな場合でも開始後すぐから全ての情報が集積されています。
『因果関係不明』であることが多いと言う人もいますが、ワクチンを接種した後の待機中に具合が悪くなり、亡くなったりしたら、ワクチンのためではないかと想像がつきます。また、アナフィラキシーではないかなど因果関係も調べやすいでしょう。けれどもワクチン接種後に時間が経ってから亡くなった場合、もともとの持病の悪化、偶発的な心筋梗塞や脳梗塞などの場合は因果関係の証明は難しいでしょう。
例えば、水を飲まない人はいませんし、水を飲んだ後に死亡する人は多数いますが、そういった場合に『水を飲んだせいで死亡した』と結論づける人はいません。
つまりワクチン接種の有無とは関係なく、残念ながら常に一定数の方は病気や事故などで亡くなっているのです。当然のことですが、新型コロナワクチンの接種開始前に行われた大規模臨床試験で、ワクチン接種者とプラセボ(偽薬)接種者で、重い病気を発症した人や亡くなった人の割合に差がないことが確認されています。そして2021年の死亡者数は増加していますが、この増加はワクチン接種開始前から始まっているうえ、新型コロナウイルス感染による死亡を含んでいます。つまり、ワクチンのせいで死亡者数が増えているとは言えません。ぜひ厚生労働省のサイトも読んでみてください」
まだまだ続く反ワクチン派による「デマ情報」
■デマ2:新型コロナワクチンは実験的遺伝子製剤(治験中)
「新型コロナワクチンの治験は終わっています。安全性や効果を確かめる臨床試験は、他の薬やワクチンと同じように第1相から第3相まで厳格に行われています。その上で承認・投与が行われているものを、普通は実験的とは言わないでしょう。現在も継続中の治験もあるのは本当です。それは長期間の有効性や安全性を評価するためのもので、どんなワクチンでも行われています」
■デマ3:ワクチンで感染を防ぐことはできない
「新型コロナワクチンに予防効果はあります。新型コロナワクチンの効果は2回接種した後に時間とともに下がっていきますが、追加接種をすることによりまた効果が上がります。オミクロン株に対してもやや効果が低いものの、受けない場合に比べ、格段の予防効果があります。またワクチンは、感染を防ぐためだけに接種するものではなく、重症化を防ぐためにも接種します」
■デマ4:子供の重症化は稀だからワクチンは不要
「確かに子供は重症(命が助からないかもしれない程の症状)化することが少ないですが、感染したら軽症や中等症(入院するくらいの症状)でも相当苦しくなることがあります。また後遺症も心配です。それに国内でも基礎疾患のあるお子さんだけでなく、基礎疾患のないお子さんも新型コロナウイルスに感染して亡くなっています。家庭内感染のリスクもあります。だから、私は子供も新型コロナワクチンを接種したほうがいいと考えているのです」
■デマ5:接種した人の免疫低下が報告されている
「欧州医薬品庁(EMA)に『4カ月ごとのブースター接種を繰り返すと、最終的に免疫力が低下する可能性がある』と言っている人がいるので、それが情報源でしょう。免疫力が低下した人が出たわけではありません。ただの一意見であり、今後の長期間の有効性や安全性を評価するための調査でわかってくるでしょう。現時点で新型コロナワクチンを2、3回接種したからといって免疫力が低下した人はいません」
■デマ6:何が起きても国は責任を取らない
「新型コロナウイルスワクチンの有害事象が起きた場合、接種と因果関係のない偶発的なものも含めて医療機関に報告をしてもらい、審議会で審議されます。関係があるという結果になった場合、国による救済措置があります」
■デマ7:子供達の表情や声が奪われるからマスクは不要
「確かにマスクによって、家庭外において子供の表情や声が奪われる面はあるでしょう。でも新型コロナウイルスが蔓延しているときには、コミュニケーション以上に感染しないことを優先したほうがいいのではないでしょうか。マスクを外して自由に表情や声をやりとりした結果、新型コロナウイルスに感染して生死の境をさまようことになったら困るからです」
■デマ8:マスクの有効性は証明されていない(飛沫はウイルスじゃない)
「新型コロナウイルスに感染している人の飛沫の中には、ウイルスが含まれています。ウイルスは感染者から単独で出ていくのではなく、飛沫(くしゃみ、咳、会話で口から飛ぶしぶき)の中に入って広がっていくものです。
まず、大きな飛沫は不織布マスクに捉えられます。空気中に浮遊する微小な液体や固体の粒子と空気との混合体をエアロゾルと言い、このエアロゾルにまで細かくなったウイルスを含む飛沫も、不織布マスク繊維の表面に付着しやすいのです。だから不織布マスクの効果は100%ではないものの、ウイルスは簡単には通り抜けられず、予防効果があります。マスクの有効性を示すシミュレーションや研究が続々と報告されています」
■デマ9:日光は2分でコロナウイルスを死滅させる
「日光の何がウイルスを死滅させると考えているのかわかりませんが、紫外線でしょうか。となると、これまでの夏にも流行が抑えられなかったため、現実的には予防効果はないでしょう。ワクチンのほうが確実です」
「医師は家族にワクチンを打たせない」の嘘
■デマ10:医師は自分の子供にワクチンを打たせない
「私の子供たちは12歳以上なので大人と同じ新型コロナワクチンですが、早めに接種しました。また周囲の医師も同じようにしています。子供の命や健康を守ることが第一目的ですが、親である私たち医師から患者さんに新型コロナウイルス感染症をうつさないこと、また家族や私が感染すると患者さんを診られなくなるからでもあります」
これ以外にも「新型コロナウイルスは存在しない」「PCR検査は信用できない」などの様々なデマがあるが、森戸さんも執筆者として参加している書籍『新型コロナとワクチンの「本当のこと」がわかる本』が詳しく回答している。
最後に子供の新型コロナワクチンの接種について、どう考えるべきか森戸さんに聞いた。
「根拠のない噂話やチラシではなく、正確な情報をもとに各家庭で話し合うといいのではないでしょうか。また何となく様子見をしているうちに、小児用新型コロナワクチンの接種会場が少なくなるかもしれません。ぜひ早めに検討してくださいね」
森戸やすみ(もりと・やすみ)
1971年、東京生まれ。小児科専門医。一般小児科、NICU(新生児特定集中治療室)などを経て、現在は東京都内で開業。医療者と非医療者の架け橋となる記事や本を書いていきたいと思っている。『新装版 小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』『小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK』など著書多数。
(大西 まお)