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2022.05.20「比嘉家」のセットに込められたこだわりを一挙に紹介!

#ちむどんインタビュー

沖縄・やんばる地域で生まれ育った四兄妹きょうだいの、1972年の本土復帰からの歩みを描く、笑って泣ける家族の物語「ちむどんどん」。
本コラムでは、当時の情景を再現した美術セットのこだわりを3回にわたってお届け。第1回は、ヒロイン・暢子(黒島結菜)ら四兄妹が生まれ育った「比嘉家」のセットについて、美術デザイン担当の話をもとにご紹介します。

――沖縄の伝統建築を忠実に再現

美術デザイナー:制作がスタートしたのは、撮影が始まる約1年前。まずは比嘉家が暮らすやんばる地域への理解を深めるために、建築や気候、文化について調べることから始めました。それから装飾部、大道具、植栽担当など、美術チームに所属する各担当が現地を訪れ、やんばるの自然や伝統家屋を見て学び、話し合いながら全体像を練っていきました。

美術デザイナー:比嘉家がある場所は、共同売店などがある中心部から離れた山の中腹です。沖縄といえば海のイメージがありますが、比嘉家が暮らすやんばる地域は海と山に囲まれた自然豊かな土地。そんな山の気持ちよさも感じていただけたらと考え、こうした設定に決めました。

美術デザイナー:さらにこの家屋は、父の賢三(大森南朋)が建てたものなので「彼が家を建てるとしたらどんな所を選ぶだろう?」と相談しながらやんばる地域をリサーチしていきました。その途中に、小川の手前に2本のご神木がたたずむパワースポットのような場所を見つけて。自然に守られたこの空気感は賢三が気に入りそうだなと感じ、セット全体の雰囲気はそこを参考にしています。

美術デザイナー:その情景を再現するべく、比嘉家の周りには本物の植物を植えました。造園部が20種類以上の植物を仕入れたのですが、枯れているものを交ぜることでリアリティーを出しているんですよ。

美術デザイナー:建物については、100年以上前に造られた沖縄の伝統的な古民家や、昔ながらの民家が残る集落を見てまわり、家のサイズや使っている素材を徹底的に調べました。それらの情報を100ページくらいの資料にまとめてから、セットの土台となる図面や立体模型の作成に入ったんです。
このとき決定した比嘉家のコンセプトは「森の生命力に守られて暮らす家」。「ぬくもり・自然の恵み・風」というキーワードと、"賢三が手作りした家"というドラマのストーリーを掛け合わせて、ディティールを詰めていきました。

美術デザイナー注力したのは、伝統的な琉球建築を忠実に再現することでした。一見とても大きな家に見えますが、沖縄ではこのサイズが一般的。高温多湿な気候に合わせて、風通しがいい造りになっているんですね。

――比嘉家らしい"ハンドメイド感"にも注目!

美術デザイナー:建築物の再現度と合わせて、手作りを得意とする賢三らしいハンドメイド感も大切にしています。一家が食事をするテーブルやそれぞれが愛用しているお箸など、既製品を購入できそうな家財道具もほぼスタッフのお手製なんです。

美術デザイナー:さらに家の中に設けられた四兄妹のスペースも、手作り感があふれるポイント。各自の性格に合わせて作り込んだのですが、子ども時代のセットでは、共通して自分の大切なものをしまっている宝箱を置きました。活発な賢秀の箱だけ、中身がむき出しになっていますが……(笑)。

<賢秀>

<賢秀>

<良子>

<良子>

<暢子>

<暢子>

<歌子>

<歌子>

美術デザイナー:手鏡や書物が整頓して置かれているのは、勉強家でおしゃれ好きな良子(川口春奈)の棚。食いしん坊な暢子は、バナナやキャラメルなどの食べたものについていたラベルを大事に貼ってコレクションしています。体が弱い歌子のスペースには、ビンに入った薬草を並べた"看病セット"も。彼らが青年になった現在はどう変化しているか、比嘉家のシーンでチェックしてみてください。

――ぱっと見ただけでは分からない、たくみの技

美術デザイナー:そして、ぱっと見ただけでは分からないプロの技が込められているのが大道具。運搬することを考えると、すべてに本物の石材や木材を使うのは難しいため、さまざまな技術を駆使しています。
例えば、家の周りにある石垣もその一つ。沖縄は台風が多いため、比嘉家が暮らしていた当時は民家の周りに丈夫で風をしのげる石垣が配されていました。それを再現するにあたっては、3Dスキャナーで現地にあった石垣の型を取り、新たに繊維強化プラスチック製の石垣を作ったんですよ。

美術デザイナー:本物の石垣は60センチほどの厚みがありますが、そのサイズではスタジオに入りきらないため極力薄く作っています。しかし映像では、しっかりと厚みがあるように見えるはず。この重厚感は、造画班という塗装のプロフェッショナルたちが作り上げてくれました。

このほか家の入り口にある「ヒンプン」という塀も、彼らの塗装によるものです。沖縄の家庭独特の「ヒンプン」は外から母屋が見えないようにするための目隠しで、魔よけとしても知られている塀。こちらは石垣とは違い、3Dスキャンするのに最適なモデルが見つからなかったため、発泡スチロールを削って作りました。映像を通すと頑丈に見えますが、実はすっと持ち上げられるほど軽いんです。

美術デザイナー:そして家の中でも、さまざまな職人技が見られます。なかでもよく生活感が出ているのが畳です。日焼けによる変色をはじめ、登場人物が頻繁に座る位置をサンドペーパーで地道にこするなど、一枚ずつ細かなエイジング加工を施しました。へりの部分が沖縄の伝統模様・ミンサー柄になっているところも隠れたこだわりです。

美術デザイナー:こうした経年変化をはじめ、比嘉家の中は子ども時代から少しずつ変化しているのもお気づきでしょうか。一番分かりやすいのは、台所。かまどからガス火に変わっていたりと、時代の移り変わりが分かる細部にも注目してください。

美術デザイナー比嘉家のセットは家屋の設計から細かい質感まで、チーム一丸となってリアリティーを追求しています。完成後に、黒島(結菜)さんから「祖母の家がまさにこんな感じです」と言っていただいたり、沖縄育ちの三線さんしん指導・加藤幸子先生も「昔を思い出します」とセットを眺めながら涙を流してくださったりと、沖縄にゆかりのある方々にそうした感想をいただいたときは込み上げるものがありました。みなさんにも物語の展開と合わせて、美術チームのこだわりが詰まったセットも楽しんでいただけたらうれしいです。