文化は持続可能な都市をつくる原動力になることを、今年4年目を迎えたパリ郊外パンタン市のサードプレイス「ラ・シテ・フェルティル」が証明している。エコロジーと経済を両立させたこの本当の意味での持続可能な街のモデルは、過疎化や少子化、環境問題、経済格差など、現代の都市が抱える諸問題を解決するヒントを多く秘めている。企業や自治体から注目される「ラ・シテ・フェルティル」のメカニズムを理解すれば、地域活性化やビジネスのイノベーションに役立つはずだ。現地在住リサーチャーがリポートする。

パリ郊外パンタン市のサードプレイス「ラ・シテ・フェルティル」(写真:@Adrien Roux)
パリ郊外パンタン市のサードプレイス「ラ・シテ・フェルティル」(写真:@Adrien Roux)

「ラ・シテ・フェルティル」は未来都市の小さなモデル

2018年、パリ市に隣接した郊外の街パンタン市に、「継続可能な街のモデル」を謳った1ヘクタールの空間が誕生した。その名も「La Cité Fertile(ラ・シテ・フェルティル=肥沃な街)」。放置されていた元貨物駅を、エコロジカルに再開発したサードプレイスだ。

サードプレイスとは、自宅や職場などメインとなる生活空間とは別の、もう一つのソーシャルな空間のこと。具体的にはカフェや図書館など、人々の憩いの場をさす。

フランスでは「Tiers-Lieu(ティエール・リユ=3つ目の場)」と呼ばれ、特に文化を媒介とすることであらゆる社会階層の人々が集い連帯を実現できる場、と捉えられている。そんなサードプレイスはこの2、3年で、急速にパリの人々の話題に上るようになった。現在パリとその近郊に30カ所以上存在する。

フランス国鉄貨物駅跡地に木を植え、人々の集まる楽園に変えた(写真:@Adrien Roux)
フランス国鉄貨物駅跡地に木を植え、人々の集まる楽園に変えた(写真:@Adrien Roux)

ここラ・シテ・フェルティルは、週末になるとアーティストのマーケットやヨガ教室、各種アトリエなど、いくつものイベントが同時開催され、大変な賑わいとなる。「今度の週末は何をやっているのかな?」とSNSを開けば、肥沃な街という名の通り、エコロジーや連帯のアクション、SDGsに関連した催しがずらりと並び、そのどれもが興味深い。

パリ中心から離れた郊外にありながら、こんなにも活気づいているのはなぜか。「持続可能な街のモデル」を謳う理由とはなにか。現地で一体何が起きているのか。創業者のステファン・ヴァティネル氏に話を聞いた。

「4年前、私がここに来た当時は、今目に見えるものは何一つ存在しませんでした」と、ヴァティネル氏は切り出した。

「木は一本もなく、フランス国鉄の倉庫が何メートルも続いていて、それを解体している最中でした。廃材が運び出されるところを『待って、捨てないで!』と譲ってもらい、今あるイベント会場を作ったのです。

それから約250本の木を植え、ビーチバレーコートやメディテーション小屋を作り、今では200㎡のコワーキングスペースと、サードプレイス運営を学ぶキャンパス、木工職人のアトリエ、ブルワリー(ビール工房)などがあります」

学生から社会人、ファミリー、お年寄りまで、みんなが集まる楽園は、こうして生まれた。持続可能をテーマに掲げた楽園だ。

フランス国鉄貨物駅倉庫の廃材で造ったイベント会場(写真:@Adrien Roux)
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フランス国鉄貨物駅倉庫の廃材で造ったイベント会場(写真:@Adrien Roux)
マーケットのスタンドはテーマごとに出店者が変わり、いつ訪れても新鮮な楽しみを味わえる(写真:@Adrien Roux)
マーケットのスタンドはテーマごとに出店者が変わり、いつ訪れても新鮮な楽しみを味わえる(写真:@Adrien Roux)

「なぜ持続可能を謳うのか? それは環境が多くの人にとって最大の関心事だからです。2050年には全人類の過半数以上が水ストレスのリスクにさらされると言われ(出所:国際連合広報センター)、若い世代は未来を楽観視できない。大人である私たち世代は、今すぐアクションを起こす責任を痛感しています。世代を超えた問題の解決策が、ここへ来ればわかる。持続可能というテーマに惹かれて人が集まってくるのです。コロナ禍以降は15%以上増収しています」

ラ・シテ・フェルティルのトイレは全て水無し。菜園の水やりには雨水を再利用している。これだけで2020年は40万リットルの水の節約につながったという。敷地内のコンポストでは、オープンからの4年間で200立方メートルの腐葉土を作った。興味はあってもなかなか実行に移せないこれらのことが、この場所に来ればアトラクションのように体験できるのだ。

「水無しトイレは実際に使ってみるとシンプルで、臭いも無いことに驚きます。私も将来は自分の家に水無しトイレを採用する予定ですよ」