インタビュー ウイズ チョウセンアサガオ 中毒者 |
(スマホでは行幅など構成が乱れることがあるようですが、ご了承ください。)
幼稚園のガーデニング作業の真っ最中,お隣のTさんと話が弾む。
「そうそう,Aさんが去年キノコ食べて病院の救急へ行ったって。一家みんな調子悪くなってー」
「えー?」
「なんでも口に入れると怖いわねー」
「そうよ! 中毒は怖いの!」
あれあれ,いつものひょうきんさとはひと味違う真剣な口調のTさん。
「実は私も中毒で入院したもの。あまり人には言ってないけどー。それは大変だったんだからー」
「まぁー,やっぱりキノコ食べたの?」
「いやいや。チョウセンアサガオって知ってる?」
「ははぁ,チョウセンアサガオとエンゼルトランペット,スゴイ毒だってね! 最近聞いたところなの。もしかしてそれ食べたんじゃ・・・?」
「食べた食べた。新聞にも載ったのよ。なんだか県で初めての例らしい・・・」
「えーーーーーっ!」
チョウセンアサガオの仲間は,最近園芸部門で特に大躍進,あちこちの庭先で鉢植えや地植で見られるラッパ型の大型のナス科の植物である。色も黄色・白・ピンク・紫と様々で見ていて豪華で美しい。
初めは薬用植物として導入されたらしいが,葉・茎・花・根と,植物全体にアルカロイドという強い毒があるという。
最近は良く庭などに植えられている |
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エンゼルトランペット |
エンゼルトランペット |
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チョウセンアサガオ |
チョウセンアサガオの実 |
さて,これからお届けするのは冗談抜きのノンフィクション。
土いじりをしながら聞いたTさん恐怖の「チョウセンアサガオ中毒事件」のお話である。
ついつい聞き入り手は止まるインタビュー,しかとお聞き下さいませ。
注: 会話中の黒は私,緑は「Tさん」です。
「それって一体いつ?」
「うーん,娘が生まれて一ヶ月ぐらいだから,今から4年半程まえかな」
「でも,なんでまた食べることになったの?」
「その,チョウセンアサガオの根って知ってる?」
「うーん・・・」
「ゴボウみたいなの。それを”きんぴら”に入れて食べちゃったのよ」
「えっ? そんなに似てるの?」
「いや,ちょっとゴボウにしては白いなっと。
実家からもらった物で,ゴボウと一緒に入っていたから」
「そりゃ,貰ったんなら思いも寄らないよね」
「私,便秘気味だから,実家で作ったゴボウを沢山もらうの。
畑でゴボウと隣り合わせで植えていたのがチョウセンアサガオ。
収穫が春先だったから,土の上には葉も何もなくなってて気づかなかったんだけど,
悪いことにゴボウの中にチョウセンアサガオの根っこが入り込んでいたの。
母がわからずに抜いてそれをもらって・・・」
「はー,なるほど!」
「で,夕食できんぴらをー。
長男は嫌いだから食べなかったけど,私と主人が食べちゃって」
「どれくらい?」
「小さな小皿に一盛りぐらい」
「一盛りっていっても,ゴボウが主体で少し混じるぐらいだったんでしょ?」
「でも,前日に笹掻きにして水に漬けてアク出ししていたから,全体にチョウセンアサガオの毒が回っていたのかも」
「そうそう,聞いた話だと,毒のあるチョウセンアサガオの花を挿している花瓶の水も毒で,ネコとかがペロペロ飲むと中毒になるって」
「えーっ! そうなんだ」
「で,食べてどうなったの?」
「夕食で食べてちょっとたったら,舌が乾いて唾がでなくって,食べ物が飲み込めなくなってきたの。
目もボヤーッとして,鏡を見ると目が充血している。
足はしっかり立たないし,膝から下がぐらぐらガクガク。
頭もぼーっとしてフラフラして何を考えているのか解らないようなってー」
「つまり,”腹痛吐気”って感じの中毒じゃなくて,むしろ麻酔のような・・・」
「そうね,疲労感というか,ぼんやりして酔っぱらいのようだった。
娘のおむつを換えようにも,おむつの当て方がわからなっちゃって。
これはダメだと思って実家へ電話を掛けた。
何でそうなったかわかってないから
”お肉のせいで狂牛病になったかも!体の調子がおかしい”って」
「狂牛病ー?(笑)」
「考えるとおかしいでしょ? ちょうどそのころ話題になってたの。
私より主人の方がもっとひどくて,足がとられて歩けない。
頼んでないのに押し込みを開けておしめ出したりー。
私も変な行動をしていたみたいで,とっくに終わったコンサートがこれからあるとか,聞かれてないのにブツブツ1人で呟いていたらしい。
でもね,気が荒いって感じじゃなかった。
そして真夜中にとうとう我慢できなくなった。
救急車呼ぼうにも,目がぼやけて電話がうまく掛けられない。
娘にもお乳をやらなくてはいけないのに体はだるいし,思考が止まってダメ。
そのころ社宅の2階に住んでいたから,3階の知人宅まで命辛々で階段を這っていって”助けてっ”てドアをドンドン!
朝の4時だったらしい。
膝ガクガクで階段を転げるようにして降りて,しまいには主人も抱き抱えられながら知人の車で病院へ・・・」
「うわー怖いー,で,一ヶ月の赤ちゃんは?」
「赤ちゃんは,運良く近所の人に4カ月の赤ちゃんがいて,その人の母乳とミルクもらってたの」
「おおー,運良く乳母がいたのね,よかったー。」
「病院に着いてからがまた大変。
医師の問診にも意味不明のことをブツブツ。
隣の主人の問診に答えたりと,端から見ると気違いみたいだったと思う。
主人は自分の生年月日もまともに言えなかったわ。
私,お肉の食中毒だとばっかり思っていたからお肉は捨てたけど,きんぴらの残りが入っている鍋はそのまま台所にあって・・・」
「え・・・。」
「翌日,主人と私の母2人が心配して来てくれてー。
お台所に置いていたきんぴらを見て,もったいないって食べちゃった!」
「えええーーーっ!」
「で,実家の母の調子が悪くなって,姑はお茶を飲んだ後,こたつで嘔吐。
その後うつ伏せで意識朦朧となってタクシーを呼んだ。
けどね,手に負えなくて救急車の手配となったのよ」
「うわー怖い! 笑い事じゃなくって立派な2次災害じゃない!」
「原因が早くにそれだと分かっていたらきんぴらも処分してたのにね。
主人の母の中毒はそれはひどく,胃洗浄して意識不明になっちゃってー」
「わわわ,すごい事件ー」
「だから,新聞にも結構大きく載ってしまったの。
病院では保健所の方が来られたし,主治医から夕食の材料を聞かれ,大丈夫だった子どもが食べていない物からリストを作って,保健所が調査して発覚したの。
なんだか,岡山県で最初の野草中毒患者とかー。
毒が抜ければいいから私と主人はなんとか2日で家に帰ったけど,当分まだ症状は長引いていて,赤ちゃんにミルクやってても分量が計算できない状態でボーッっとして。
体がいうこと聞かないの」
「で,お母さん達は?」
「意識不明だった母が,結局2週間は入院してたかな」
「それにしても,その原因がきんぴらに混じっていたチョウセンアサガオだって,本当によく解ったものね。
保健所ってスゴイ」
「ほんと! 実はこの話,あんまり人には言ってないの」
「いや,恥ずかしいとか言っている場合じゃなくって,
あまり知られていない話だからこそ経験者が伝えなくっちゃ。
これから少しでも事故がふせげるんなら」
Tさんは続ける。
「今でも畑にチョウセンアサガオが植えてあるのを見るとゾゾっとするのよ」
あんなに派手で目立つ花だから,ブームに乗って育て易いっていうこともあって,ここ数年で方々で美しさを競っている。
現に幼稚園や児童館など,小さな子が出入りするような施設でも美しく咲いている。
知っていると誤食とかの事故ときの対処もできるが,なんにも知らなと言うことほど怖い物はない。
ちょっとおままごとの材料に使って口にでも入ったらと思うと怖くなる。
「怖いわねー」
「ほんとほんと!」
園庭で植物図鑑を見ながらこれも毒ね,触ったら手を洗わなくっちゃと,そんな話で盛り上がる。
それを知ってか知らずか,いいタイミングで背後から話しかけられた。
「ねぇ,山にある紅いブドウみたいな実,知ってる?」
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ヨウシュヤマゴボウ |
「あーあー,ヨウシュヤマゴボウ?」
「アレって食べてもいいのかなぁ?」
「えーっと,”ようしゅやまぼごう”っとー」
図鑑を引くとどんぴしゃり”毒”の文字。でも,植物の毒にも色々あって,一粒ぐらいなら何ともならないぐらいだったらしい。
「子どもの帽子を借りて,モンキチョウを採ってたの。振り返ってみると子どものお口が真っ赤で・・・」
このくらいだとい笑い話。
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サフランは毒がないけど薬用植物 |
チョウセンアサガオだけでない。
トリカブト・ヒガンバナはお馴染みだが,山ではドクニンジン,ハシリドコロ,マムシグサ,キツネノボタン・・・etc,
庭ではジキタリス,クリスマスローズ,スイセン,コルチカムだって,毒の種類や程度,毒のある場所は様々だが,一応有毒の仲間だ。
昔からこれらの毒は薬としても重宝されていて,裏返せば有用植物でもある。
これは毒,あれも毒と必要以上に騒ぎ立てて「触っちゃだめ」とか「抜いてしまおう」とか,神経をすり減らすのもどうかと思うが,やはり何が危険かっていうことは知っていて損はないと思う。
が,もしもの場,例えば子どもがおままごとで本当に食べちゃったとか,汁が手に付いたまま食事を作るとか,いろんな場合に備えて,頭の片隅にしまった方がいいに決まってるし,伝えられるときには伝えなくちゃと思う。
さてさて数日後,チョウセンアサガオ中毒者・Tさんのただ一つの誤算・・・
それはー私に話してしまったことが幸か不幸か,あっと言う間にあちこちで広まり,ネットにまで載ってしまったという点である。
根ほり葉ほり私に聞かれて,花掘り実掘り答えたTさん,それ以来一気に栓が抜けたみたいだ。
今日もどこかで体験談を熱く語っているらしい。
記事の載った黄ばんだ新聞紙を持ってー。
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