SPATS'n'KING - スパッツの王様 -

2012.01.06 20:16 *Fri

 こちらのSSはアカトさん作「メイドロボさんの教育」のパロディ小説です。
 先に本場の美羽さんSSを読まれるとより楽しめると思います。

 童話仕立て、基本ギャグ仕様となっていますので、軽いノリが好きな方におすすめします。
 それでは、どうぞ。
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【 SPATS'n'KING - スパッツの王様 - 】




:Prologue



コンコン

「おねぇちゃん、おきてる?」
「有人? いいよ入っても」
「うん‥おじゃまします‥」
「どうしたの、怖い夢でもみた?」
「ううん」
「じゃあ眠れないの?」
「ううん‥‥あのね‥‥これ」
「絵本?」
「読んで」
「え?」
「いっしょに読んで」
「‥‥あぁ、そういうことね。
 でも、もう遅いよ? 明日、読んであげようか?」
「うぅん、今がいい」
「どーして? 途中で寝ちゃわない?」
「へーき」
「そう? でも急にどうしたの‥‥えぇっと、『スパッツの王さま (SPATS'n'KING) 』?
 変わった題ね。どしたのこの本?」
「ナツキ先生からかりたの」
「ナツキ先生‥‥。うっ、それってあの『おひざ先生』じゃ‥‥」
「?」
「あ! ううん‥‥何でもないの。そう、ナツキ先生がくれたのね」
「うん。ぜったい読むってやくそくしたらかしてくれた」
「約束って‥‥よりによってあの先生と‥? ‥‥えっと、いつ返すの?」
「こんどの月ようび」
「明日じゃない!!」
「うん」
「えっと、その、借りたのっていつ?」
「金ようび」
「借りるとき、何か言ってなかった?」
「えーと、先生とゆーとくんのひみつだよって」
「他には?」
「んーとね‥‥ご本、ちゃんと読んであげてねって。
 ゆーとくんはいい子だからやくそくできるよねって」
「‥‥で、しちゃったわけね‥‥まずいわね。
 ‥‥あ、何でもない! そうね、頑張って読もうか。約束、破っちゃいけないもんね」
「うん。そーんなわるい子のハウスはおひざだよって言ってた」
「‥!
 ハァ‥決定的ね‥」
「ハウスってなに?」
「え! あ‥‥そうね、後で教えてあげるわ。
 ほら、ご本一緒に読むんでしょ? 早くお布団にいらっしゃい」
「あ、うん。おじゃまします‥」
「はぁ‥‥何で私が絵本なんか‥‥。卒業生まで『おひざ』で脅迫なされますかナツキ先生‥」
「おねえちゃん?」
「あ、ごめん。じゃあ早速読むわね。準備はいい?」
「うん」
「じゃあいくよ。『これは小さな小さなとあるお城の物語』‥‥」








***








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【子ども絵本・おかあさんといっしょシリーズ】(※親子で読んでね)

■題名:『スパッツの王様 ~ SPATS'n'KING ~』
■原著:みうみう
■出版:BOTK講談社

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☆エピソード☆
《御生誕! とびきりキュートな国王様!?》

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 ―――これは小さな小さなとあるお城の物語。


 その昔、ミウミウ王国という小さな島のお国がありました。
 人々がみな笑顔で暮らし、どこもかしこも動物たちが元気に鳴いては、子どもたちの笑い声が聞こえてくる素敵なお国です。

 このお国では、大人も子どもも悪さをしないので、ケンカもせず幸せに暮らすことができます。そう、みんな良い子の国なのです。
 中にはついつい悪い子になってしまう子どももいますが、すぐ良い子に戻ってくれるので心配はいりません。ペチンペチンという音とキュートな泣き声が聞こえれば、もう良い子に元通り。良い子のみんなはわかりませんね?
 悪い子はペン!はどこのお国も一緒なのです。みんなも気をつけましょうね!


 えぇと、何のお話でしたっけ。そうそう、ミウミウ王国のお話でした。
 この幸せなミウミウ王国には立派なお城があって、代々一人の王様がお城とお国を治める決まりでした。
 この王様、というのが変わった人で、不思議とみんなに好かれる人でした。王様がいることでお国の人々はみんな幸せに暮らすことができたのです。

 まぁ、お仕事はぜんぶ優秀なメイドさん達が仕切っていて、王様はいつも遊び呆けているお人でしたが。
 それでも、素敵な王様がいるおかげでお城はいつも笑い声で満ちており、仕える人々もみな楽しく過ごしていたと言います。
 まさに王様がみんなを良い子にしてくれる、ミウミウ王国は平和で理想のお国なのでした。





 さぁそんなある時、そんな幸せたっぷりなお国を揺るがす大変な事件が起こります。
 なんと、王様と王妃様がある日とつぜん姿を消してしまうのです。インド人もびっくりです。

 このお国では王様がいないと誰も幸せにはなれません。
 お城のみんなも必死になって王様を捜しましたが、王様はどうもみんなに内緒で出て行ってしまったようなのです。

 幸い、王様のお部屋には置き手紙が残されていました。どうやら誘拐などではないようで、メイドさんたちもひと安心です。
 ‥‥が、お手紙を読んだ瞬間、なんとメイドさんたちが真っ青な顔をして次々とパタパタ倒れていってしまいました。
 まるでチャンバラ劇を見ているようです。一体何が書いてあったのでしょう。


《ちょっくら僕ら海外行くことになっちゃったよ、はっはっは。
 いや~、実はちょっと最近ラブラブに忙しくってさ☆
 お城だとなかなかくつろげなくって、夫婦会議してたら成り行きで世界一周ハネムーン行くことに決まっちゃってね、ははは。
 まぁ満場一致だったから仕方ないよね? うん。

 あ、お城はとりあえず僕の子を次の王様にしといてくれていいから。彼ならきっと大丈夫さっ! 話はつけてないから、みんな安心して説得してあげてね☆
 それじゃいつかは帰ると思うから、みんなその間お城のことヨロシク!
 チャオ!

   もと王様だった、ただのおじさんより》


 ‥‥はい、つっこみ所がありすぎてつっこめません。こんなふざけた文面を読み終えた時は、さすがにメイドさんたちも血の気が引いて脱力するしかなかったのでしょう。
 王様はこういう変わった所があり時々メイドさんたちを困らせていましたが、今回はちょっとひどいものです。

 みんな怒って王様を叱りつけようとしましたが、遠い遠い海の外へ行ってしまったのでは、いくら優秀なメイドさん達でもどうすることもできません。
 とうとう王様は、その後何日経っても帰ってくることはありませんでした。





 なんてことでしょう。王様がいなくてはお国は成り立ちません。ミウミウ王国は大ピンチです。
 仕方ありません。お城のメイドさんたちは次の王様を求めて、王様の言う子を捜すしかありませんでした。
 早くしないと、お国中がみんな不幸になってしまうのです。


 しかし、王様の言う子はお城にはいません。どこに住んでいるのでしょう?
 幸い、王様はその子の住所を記した地図を残してくれていました。王様にしてはなかなか気が利いています。メイドさんたちも感心して地図を開きましたが、見た瞬間卒倒しました。

 『 住所:ミウミウ王国の田舎のどっか 』

 この一文しか中身がありません。もう地図が不親切とかそういう問題ではありません。絵図すら描いていません。いい加減にも程があります。

 ちゃんとした場所を知らないということは、どうやら王様は本当にその子にも了承を取らず、勝手に王様の役目を押しつけていったようです。‥‥何という親なんでしょう。
 結局、ミウミウ王国最強のメイドさんたちが怒りのパワーでお国中を捜し回ったところ、その子はのどかな土地で、元気に一人暮らしをしていることがわかりました。





 さあ、王様の子どもが見つかりました。
 そうと解れば善は急げ、というやつです。早速、メイドさんたちはその子を新しい国王さまとして迎え入れることにしました。さぁ、とっても大忙しです。

 まずはその子のお家へ勝手にお邪魔して、急いで荷造りです。
 お洋服から家具、机の引き出しからベッドの下の健全図書にいたるまで、その子の持ち物をあらかた包んでお城へと運び出します。
 どう見てもドロボーと言われそうな行為ですが、時間がないので仕方ありません。後で了解を取ってもらうことにします。そう、これもお国の幸せのためなのです。
 (※良い子のみんなは絶対真似しないようにね!)

 メイド一行により急いで荷物を運び出した後は、帰宅して来た王様の子を玄関にて一同整列してお出迎えします。
「お帰りなさいませ、新国王さま」
「え? だ、誰? あの僕メイド属性ないんですけd‥‥うわぁっ!?」
 お話は後です。「失礼します」と一言添えて、メイドさんたちは有無を言わせずその子を強制拉致‥‥いえ、丁重にお願いしてお城へお越ししてもらうことにします。
 くどいようですが、これもお国のためですので良い子のみんなは決して真似をしないように。


 こうして、王様の子は無事(?)お城へやってくることができたのです。







「あの‥‥何で僕が王様に‥‥? て言うか、このズボン、何!?」

 ところは変わってここはお城。立派なお洋服を着せられた男の子が、感激のあまり涙を潤ませてメイドさんに詰め寄っています。

 お城へ連れられて来た子は、『海斗』という名前の男の子でした。
 まだ年の端は14、5といった、声変わりもしていないちょこんと小さな可愛らしい少年です。
 短くぴったりな黒スパッツを履かされて困っているお顔がまたナイス・ストライクで、俄然メイドさんたちもお仕事に萌える‥‥いえ燃えるというものです。

「とてもお似合いでございます、海斗さま」
「う、嬉しくないし‥‥。
 大体、どうしてこんな突然に僕が王様なんですか‥‥? 今は親父がいるはずじゃ‥‥」
「申し訳ありません。雄三さまご夫婦は急遽バカンスへ行ってしまわれたので。
 ここにいるのは私共メイドだけです」

 海斗さまはしばらく『?』マークをいっぱい浮かべていましたが、王様の置き手紙を見せると「クソ親父!」と怒りながらも事情は呑み込むことができたようです。
 おそらく海斗さまも、王様のいい加減なところは良く知っているのでしょう。


「突如いなくなってしまわれた雄三さまの代わりとして、今日から海斗さまに王様になっていただきます。
 不肖、私がメイド長を務めさせていただきます、美羽と申します。全力で海斗さまのお手伝いと教育係を担当させていただきますので、よろしくお願いします」
「え、え~と‥‥そんなこと急に言われても‥‥。
 だいたい、王様って言われても何するかわかんないし、できれば誰か他の人に‥‥」
「そんな人はいません。お国の嫡流にしたがって、いま王様になれるのは海斗さまだけなのです。
 心配はいりません。お城の実務はすべて私たちメイド一同が行います。海斗さまには、ただ王様として良い子になってくだされば、それでお国は安泰ですので」

 きっぱりとメイド長の美羽さんは告げます。
 何か言いたそうな海斗さまを、メイド一同、数の圧力と完璧な正論で切り捨てます。

 まるで女の子の集団いじめのようですが、これもお国のため、人々の幸せのため。
 決してショタ少年の困る顔を見て萌え愉しんでいるわけではありません。あくまでこれも、平和なお国造りに欠かせない道なのです。




「う‥‥わ、わかったから‥‥なりますから‥‥」
 このような甲斐もあり、メイドさんたちの気迫に負けた海斗さんは、涙声で渋々王様になることを承知してくれました。
 良い子ですね。これでお国も一安心です。

(※ちなみに、説得中に海斗さま自身が「さま」付けを強く拒否されたため、これからは「海斗さん」と呼ぶことにしています)

「じゃ、じゃあせめて、このズボンだけでも‥‥」
 お話は終わったと、そそくさと奥で着替えようとする海斗さん。
 よく見ると海斗さんのお顔は真っ赤です。どうやらスパッツ姿を大勢のメイドさんに見られるのが恥ずかしくて耐えきれなかったようです。
 だからこの場から逃げたくてつい承知してしまったのでしょう。

 とっても愛らしいのですが、着替えていいわけではありません。非情にもメイドさんたちはやんわりと行く手を塞ぎ、それを制止してしまいます。
「あっ‥‥メイドさん!」
「ダメです。その黒スパッツは王様の正装ですので。
 海斗さんがお城にいるときは常にそれを身に付けていただきます。これは私たちメイド一同の悲願でもありますので」
 また何か言いたそうにする海斗さんでしたが、メイドさんたちに一斉に厳しい視線を向けられて、すぐ素直に聞き分けてくれます。うんうん、とても良い子です。


 そう、このスパッツはお城で着る海斗さんのために用意されたもの。
 薄い上に丈がやたらと短く、お尻のラインもくっきりで太ももの上のほうまで丸見え仕様な際どさですが、嫌でもこれを着ることがルールとなっているのです。
 お城の決まりですから、メイドさんたちも『恥ずかしいから』なんて子どものワガママを許すわけには参りません。
 これも決してセクハラなどではなく、お国の幸せを案じる一メイドとして強くお願いしているだけなのです。そこにスパッツ萌えという邪な劣情などあるはずもありません。


「どっ、どうしてこんなのが‥‥。うぅ、すごく恥ずかしいんだけど‥‥。
 大体、親父はこんなの着てなかったはずじゃ‥‥」
「海斗さんの場合は子どもですので、雄三さまとは違い子ども服のそちらが指定されているのです。
 ちなみに子ども服を黒スパッツに指定したのは、いずれお城へやって来られる海斗さんへのプレゼントとして、雄三さまがお決めになったものです」
「あのクソ親父ぃぃ!」
 ここへ来てまたとんでもない事実を聞かされたらしい海斗さんは、とうとう顔を真っ赤にさせて怒ってしまいました。背後にメラメラと揺れる炎まで見えます。

 無理もありません。ある日、家へ帰ったらいきなりお城へ連れて来られ、いつの間にか勝手に王様の代わりまで押しつけられていて、ルールと言って無理やり恥ずかしい格好をさせられた挙げ句、それら全部が親の気まぐれが原因だと言うのですから。

 そんなやり場のない怒りに、つい海斗さんは王様の置き手紙に八つ当たりしてしまいました。「こんなもの!」とばかりにお手紙をくしゃくしゃと丸め、ポイッと投げ捨ててしまいます。
 これはいけません。お気持ちは大変わかりますが、お父様を罵った上に物を粗末にするのは良い子のすることではありません。これではお国が傾いてしまいます。


「‥‥海斗さん。申し遅れましたが、このお国では王様は良い子でいなければいけません。
 今のは、とっても悪い子のすることです。残念ながら、海斗さんの教育係としてこれを見過ごすわけにはいきません」
「へっ?」
 それまでニコニコしていたメイドの美羽さんもさすがにこれは見過ごせず、突然怖い顔になって言いました。
 悪い子をたしなめるお母さんの声です。海斗さんは驚いてお目めをパチパチさせて美羽さんを見上げますが、可愛そうにくしゃくしゃに捨てられたお手紙を目の前に突きつけられると、やっと自分がどれだけ悪い子だったかということに気付きます。




 そう、何度も言った通り、このお国では王様は良い子の見本なのです。
 王様が良い子でなければ誰も良い子になろうとはしません。子どもたちは王様を見て良い子になろうとするのですから、王様が悪い子ではお国中が悪い子になってしまうのです。

 ‥‥にもかかわらず、海斗さんは悪い子になってしまいました。
 王様がお父様をバカにするようでは、子ども達に「お父さんお母さんの言うことをよく聞きましょうね」なんてどの口で言えば良いのでしょう。
 王様が床に物を捨ててしまうようでは、「お部屋はキレイにしましょう。ゴミはちゃんとゴミ箱にね」なんて言いつけをどれだけの子が守ってくれるのでしょう。

 そう、何でもない小さなことでも、王様のすることにはお国の子どもたちみんなの幸せがかかっているのです。
 そんな王様が悪い子になっていくのを、メイドさんたちが許すわけにはいきません。




「そ、そんな‥‥だって‥‥」
「だっても切手もありません。いいですか? 今、海斗さんが行われたことは悪口やポイ捨て、悪い子の見本です。
 これではお国の良い子たちに示しがつきません。私、美羽の務めは微力ながら海斗さんを良い子に教育することですので、そのような行為が見られた場合、躾け直しとして罰を与えることになります」
 罰、と聞いて海斗さんは小さな身体をビクッと震わせます。
 普段、あまり叱られたことがないのでしょう。不安そうな目でおずおずと美羽さんを見上げます。これから何をされるのかという不安でいっぱいで、つい涙目になるのも仕方ありません。

 美羽さんから見ると、それはもうわざとやってるのかと疑いたくなるくらい悩ましい子犬の表情。スパッツ姿でそのお顔は反則です。あぁもう、お仕置きなど忘れてすぐにでも抱きしめたくなってしまいます〈by 美羽談〉。
 ‥‥が、そんな萌え攻撃になど屈する美羽ではありません。
 ここで許してしまっては、この先海斗さんは良い子に戻れず、どんどん悪い子になっていくことでしょう。ここは心を鬼にして、断固お仕置きを決行しなければならないのです。これも海斗さんのため、ひいてはお国のためなのです。



「それでは、失礼します」
 不安そうな海斗さんの肩をしっかり捕まえ、美羽さんは素早く周りに目配せします。どうやらお仕置き準備の合図のようです。

 まもなくメイドさんたちは一礼し、手早く動きだします。
 海斗さんの前に子ども用階段をテキパキと設置し、立派な絨毯を敷いて足場を整え、一方はお薬を用意して医療班を結成し、一方はどこからか天蓋付きの豪華なベッドを運んできては、先ほどの階段とくっつけ、シーツを直し、カーテンを整え、可愛らしいぬいぐるみクッションをぽん、と置いて準備を終わらせてしまいます。この間わずか1分。

 凄まじいまでの早業で、呆然としている海斗さんへ「お辛いですけど、頑張ってくださいね」とニコッと一礼してメイドさんたちはさがっていきます。
 一体、何が起こるのでしょう?
 あまりに仰々しい準備劇に、海斗さんは何をされるのかとますます不安になります。後ろの美羽さんはと言うと、厳しい顔のまま肩をトントンと押して目の前の階段を上るよう促して来るので、何もわからない海斗さんはさすがに怖くなってきたようです。

「それでは靴を脱いで、ベッドにお上がりください」
「え、えっと‥‥美羽、さん‥? あの、ば、罰って‥‥何を‥‥?」
「‥‥? 海斗さんは学校で、『悪い子はお尻』と習いませんでしたか?
 当然、ここお城でも例外ではありません。悪いことをした子どもはお尻を叩かれる決まりです」
「‥‥え!?」
 淡々と伝える美羽ですが、海斗さんはよほど驚いたようです。目を見開いて後ろの美羽さんを見上げます。


 そうでした。『悪い子はペン!』はミウミウ王国の正統なる躾けの伝統。このお国では、悪い子を良い子に戻すにはお尻を叱ってあげるしかないのです。
 これはたとえ王様と言えども変わりません。子どもである以上、悪いことをしたお尻は必ず罰を受けなければいけません。お尻を丸出しにして、真っ赤になるまで平手をしてあげて初めて、海斗さんも良い子になれるのです。

 もちろん、美羽さんも本来ならしたくはないことですが、教育係である以上は仕方ありません。海斗さんが一度悪い子になってしまった以上、愛情を込めたお尻叩きをして良い子に戻してあげるのが筋と言うものです。
 そう、あくまで役目のため、そして海斗さんのために”仕方なく”罰するのであり、その執行者である美羽に役得などという思いは微塵もありません。


「えっ、あの、ちょっと、おおお尻って、そんなの‥‥!?」
「これはお国のルールですので何があっても曲げることはできません。
 決まりを破ってワガママを言うのはすごく悪い子ですよ」
「うっ‥‥で、でも、僕もうそんな子どもじゃ‥‥!!」
「ポイ捨てが悪いことかどうかもまだ知らない海斗さんは、私たちから見ればまだまだ子どもです。
 納得されましたら、早くベッドへ上がってください」
 ちっとも納得できないらしい海斗さんは、この期に及んでもイヤイヤと抵抗してベッドに上がろうとしません。
 相当恥ずかしいのでしょう。ぷしゅーとお湯が沸かせそうなくらいお顔を赤くしてイヤイヤをします。美羽さんが肩を押そうとしても、逆に海斗さんは美羽さんの腕にしがみついてどうしてもお仕置き場へ行くことを拒否します。
 一度ベッドに上がればお尻は助からない、と言う怖さからのささやかな抵抗でしょうか。ちょっぴりワガママさんですが、美羽さんから見ればまだまだ可愛らしいものです。

「ほら海斗さん。イヤイヤしてないで早く上がってください。
 私にくっついてもお仕置きはなくなりませんよ?」
「だっ、だってだってだって‥‥っ!!」
「もう、仕方ありませんね‥‥。
 海斗さんはとても甘えんぼさんのようですので、今日は特別です。私がベッドへ連れていってあげます」
「あっ!」
 困った美羽さんは、とうとう海斗さんの背中と膝裏を抱えてひょい、と抱き上げてしまいました。
 俗に言う「お姫様抱っこ」と言うやつです。軽々しく持ち上げられた海斗さんはますます赤くなり脚をばたばたさせますが、美羽さんは悠々と海斗さんを抱えたままベッドへと上がっていきます。さすがは教育係を務めるメイドさんです。
「そんなっ、やっ、やだっ! み、美羽さん、お願い、許してっ」
「駄目です。ほら、暴れてはいけません。往生際が悪いですよ」
「だだだだってだって‥‥!! お尻は恥ずかしいよぉっ!」
 必死によじよじする海斗さんですが、めっと叱られるだけでどうにもなりません。可愛らしい抵抗もむなしく、とうとう美羽さんはベッドへ座り、海斗さんをお膝へ横たえてしまいました。

 すかさず外のメイドさんたちがベッドのカーテンを閉め、外から覗けないようにしっかりと隠してしまいます。
 お尻を出すので、さすがに大勢のメイドさんにまで見られないようにとの配慮です。一瞬見えたメイドさんたちのお顔が大変名残惜しそうにしていたような気もしますが、お尻を拝見できるのは教育係の特権‥‥いえ、お仕置きの責任を負うものとしての使命ですので、決して他の女性にまで見せるわけには参りません。
 あぁもう、童話語りなのか、私・美羽の一人称語りなのかわからなくなってきました。


「それではお尻、失礼します」
 うさぎクッションに顔を埋める形になった海斗さんの背中を左手でしっかり押さえ、空いた右手で黒スパッツに包まれた形の良いお尻を少し高めに持ち上げます。
 お尻を持ち上げられてとても脱がしやすくなったスパッツにも容赦なく手をかけます。それだけで耳まで真っ赤になった海斗さんは、お尻だけは見られまいと激しく暴れ出しました。
「やだぁーっ!! 美羽さん、お尻脱がすのやだぁ!!」
「こら海斗さん! 暴れてはいけません。お尻じっとしててください」
「やだやだやだぁぁ!!!」
 ものすごいイヤイヤです。先ほどまで大人しかった海斗さんですが、よほどお尻を見られるのが恥ずかしいのでしょうか。スパッツのお尻をふりふりして激しく抵抗します。

 どうしましょう。このまま無理に脱がすのも可愛そうです。
 しかし決まりである以上、お尻は必ず出さなければいけません。これだけは例えルールが逆であっても譲ることはできません。
 お仕置きだからと言って強引に脱がせましょうか。それとも‥‥。

 美羽さんはしばらく考えた後、スパッツから手を離します。そうしてまだイヤイヤするお尻を優しくなでて、落ち着かせるように言い聞かせました。
「ダメですよ、海斗さん。素直にお尻突き出してください」
「ひくっ‥‥だ、だって‥‥」
「私だって、嫌がる海斗さんを無理やりお仕置きしたくはないんです。
 ただ、どうしても嫌だとおっしゃられるなら‥‥教育係という立場上、海斗さんを押さえつけてでもお仕置きするしかありません」
「‥‥ぐすっ‥‥うぅ‥‥」
「ね、海斗さん」
 ポンポン、とお尻を優しく叩きます。ぐずる海斗さんを、あやすように諭します。甘えんぼさんの海斗さんなら、これできっと素直になってくれるでしょう、という判断です。
 海斗さんはしばらく「うぅ~‥」と悩んでいましたが、最後はやっぱり良い子。恥ずかしがりながらも、もぞもぞと脱がしやすいようにお尻を高く上げてくれました。
「はい、とても良い子です。
 自分からお尻出せましたね。えらいですよ、海斗さん」
「い、言わないで‥‥っ」
 ご褒美とばかりにお尻をなでなでします。すると海斗さんは先ほど以上に顔を真っ赤にさせてイヤイヤするようにクッションにしがみつきました。あらあら、少しいじめすぎたでしょうか。

「ふふ、それじゃお尻、脱がしますね?」
 お返事はありません。代わりに「コクン」と微かに海斗さんはうなずきました。
 それを確認してから、怖がらせないようにそっと再びスパッツに手をかけます。今度は海斗さんも暴れません。ギューっとうさぎにつかまって恥ずかしさに耐えています。
 そんないじらしい海斗さんの頭をなでなで、一方の手はスパッツの縁に手をかけてゆっくり降ろしていきます。
「~~っ…!」
 身体がギュッと固くなったのがわかります。
 お膝からも恥ずかしさに身体が震えているのが伝わってきますが、それでも海斗さんは抵抗せず、頑張って我慢してくれています。とっても良い子です。
「大丈夫、いい子、いい子」
「うぅ~~‥‥っ」
 少しお尻が見えてきた後も、落ち着かせるように頭をなでなで。そうしてスパッツを膝まで降ろすと、つるんと雪餅のように白く可愛らしいお尻が出てきました。
 とっても綺麗な子どもお尻です。男の子なのに表面つるつるスベスベで、手の方が心地良くて思わずなで回したくなってしまいます。
「あっ‥‥美羽さん‥‥っ」
「ふふ、良い子にお尻ペロンできましたね。えらいです、なでなで」
「あ、だめ、お尻なでないで‥‥っ」
 そのまま、躊躇わずふにふにした小ぶりなお尻をなでさすります。頭も優しくなぜるのと一緒に、可愛くイヤイヤするお尻も追いかけてなで続けます。
 当然これも、ご褒美のため・お仕置き前のかたくなっているお尻を落ち着かせるためという大義名分があり、決して後ろめたい何かがあるわけでは(略)。


 そうしてひとしきりお尻の感触を楽しみ‥‥ではなくお尻を落ち着かせた後は、いよいよお仕置きです。頭をなでていた左手は背中を押さえ、右手はお尻をぺちん、ぺちんと軽く叩いて合図をします。
 海斗さんもそれだけでお仕置きの気配を察知したらしく、きゅっと目をつむり、お尻を固くさせて身構えます。私はこわばったお尻をひとなでして、ゆっくりとお仕置きを告げました。
「それでは、海斗さん‥‥お父様の悪口を言った罰、お手紙を粗末にして捨てた罰として、お尻ぺんぺん50叩きです。
 覚悟はいいですか?」
 お返事の代わりに、海斗さんはうさぎクッションにギュッとしがみつきます。良い子です。そんな海斗さんの背中をしっかり押さえ、右手を高く高く振り上げます。

「それでは―――

 ―――お尻、ひとつっ!」

 突き出されたお尻の真ん中目がけて、強く打ち付けるように平手を振り下ろしました。

 ばちーーーんっ!!

「~~~~っ!!!」
 大きな音が弾け、海斗さんがのどの奥で悲鳴をあげます。高く突き出されたお尻も、一発で奥まで引っ込んでしまいました。
「ぁぅぅっ‥‥!!」
 遅れて小さく声をあげる海斗さん。少し厳しめに叩いたせいか、お尻には紅いもみじがくっきりついています。そんなお尻をふるふる震わせ、何とか痛みに耐えています。
 とても健気で可愛いですが、お尻はこのままではいけません。健気なお尻をぺちぺちと叩いて、ちゃんと突き出すように促します。
「海斗さん。お尻、逃げちゃってますよ?
 お仕置きの時のお尻はどうするんですか?」
「うぅ~‥‥」
 海斗さんもお仕置きの作法はきちんと知っているようです。逃げたお尻を少し上げ、叩きやすいように突き出してくれました。
「はい、良い子です」
「あうぅ‥‥」
 ご褒美にお尻を少しなでてあげると、海斗さんは鼻に掛かった甘い声をあげて恥ずかしがります。ふふ、とても可愛らしいです。
「続き、行きますよ。
 ――お尻、ふたつっ!」

 べちーーんっ!!

「ひゃうぅっ!?」
 今度は左のお尻です。強く振り下ろした手がお尻で弾けるのと一緒に、あまりの痛さに海斗さんの背が思い切り仰け反ろうと動きます。
 もちろん背中はしっかり抑えているためあまり動きませんが、やっぱりお尻だけは下がり、また奥へ引っ込もうとします。
「海斗さん」
「ご、ごめんなさいっ」
 優しくぺちぺちすると、慌てて海斗さんがお尻を戻します。今度は言われなくてもちゃんとできました。とても良い子です。
「お尻、みっつ、よっつ、いつつ、むっつ!」

 ぱちん! ぱちん! ぺちん! ばちんっ!

「あっ、あぁっ、いたっ、痛ぃ!」
 右、左、右、左と交互に平手を振り下ろします。さっきより少し弱く、でも速く落ちてくる平手に海斗さんは短く悲鳴をあげます。
 叩かれてほんのり染まっていくお尻は痛そうですが、今度は逃げずに頑張ってお尻を突き出してくれています。えらいですよ。海斗さん頑張って。
「ななつ、やっつ、ここのつ、とお!」

 ぺしん! ぱしん! ぺちぃん! ばしぃん!

「うぅっ、あぅっ、やだっ、痛いぃっ」
 緩急をつけて、お尻をまんべんなく叩きます。叩くたびに海斗さんの身体がびくっと震えてイヤイヤと身体をよじります。
 左右お尻の上、下と交互に叩いてなるべく痛みを分散させてあげたつもりでしたが、やはり痛いようでお尻を少し左右に振ってしまうようです。
「海斗さん、お尻ふりふりは、めっ!ですよ」
「だ、だって‥‥っ!」
 ぱちぃん!
「いたぁぃ!」
「だってじゃありません。ちゃんと良い子にお尻出してください。
 ほら、行きますよ。お尻、じゅーに、じゅーさん、じゅーよん、じゅーご、じゅーろく、じゅーななっ」

 ばしっ! ばしん! ばちっ ばちっ ぱちんっ ばっちぃん!

「あぁっ、ふぁっ、ああぁぁっあぁぁあぁぁ‥‥っ!!」
 痛くて声が我慢できなくなってきたようです。可愛らしく喘ぐ海斗さんのお尻へ、愛情を込めて力強く手を振り下ろします。
 よじよじするお尻を叱りつけるように、右へ逃げれば右のお尻を、左なら左のお尻を叩いてお尻を戻し、少しずつ良い子のお尻に躾けていきます。
「じゅーはち、じゅーきゅ、にじゅっ、にじゅいち、にじゅにっ!」

 ぴしゃん! ぱちっ ぱちんっ! ばしん! ぱん!

「あっ、あぁっ、あぁぁぁっ! いっ、いたいいたぃいたいぃぃっ‥‥や、やだっ、もうお尻やだぁぁ!」
 イヤイヤしながらもきちんとお尻を出してお仕置きを受けていた海斗さんでしたが‥‥。
 二十をすこし過ぎたところで、とうとうクッションも放り出してわんわん泣きながらお尻を両手でかばってしまいました。
「こら海斗さん、お尻隠してはいけません!」
「やだぁ!」
 まだお仕置きは終わっていません。めっと叱りますが、海斗さんはお顔もお尻もイヤイヤしてめそめそ泣き出してしまいました。さすがに手を叩くわけにはいかず、不本意ですが一旦平手を止めるほかありません。
「海斗さん、ダメですよ。お仕置きの時のおててはどうするんでしたか?」
「ぐすっ‥‥だって、だってぇ‥‥っ!」
「おててでお尻隠すのは一番やってはいけないことです。
 さ、おててはクッションをつかんで、お尻を出しなさい」
 少し怖ーい声で叱ったつもりでしたが、海斗さんはクッションではなくお尻の両たぶをぎゅーとつかんだまま離そうとしません。
 ‥‥困りました。お仕置き中だと言うのに良い子にお尻出すどころか、ますますお尻を叩かれまいとイヤイヤしてしまいます。これではお仕置きになりません。
「か~い~と~さん? 素直にお仕置き受けないのはとっても悪い子ですよ? 悪い子はどうなるんですか?」
「だ、だって‥‥お尻痛いんだもん‥‥っ! お願い美羽さん、もう反省したからぁ‥‥もうお尻許して‥‥ごめんなさいっ‥‥!」
 よっぽどお尻が痛いのでしょうか。海斗さんはもうやだとお尻を隠したまま必死によじよじ振り向いて、涙目で見上げてお願いをします。
 それはもう、またもや確信犯かと疑わせる可愛すぎなわんこなおねだり顔。お尻を出した男の子がお膝でこんな顔をしてると思うと、もう何もかも許したくなってしまいます。
 ‥‥いけません、これではますますお仕置きになりません。

「‥‥仕方ありませんね。海斗さん。ペンしませんから、おててどけて、少しお尻を見せてください」
 どうしたものかとしばらく考えた後。
 お尻をかばっている海斗さんのおててに手を添え、優しく言い聞かせました。

「‥‥ひぐっ‥‥で、でもっ‥‥」
「お尻の状態を見るだけです。もしお尻が十分に反省したと判断すれば、残りのお仕置きはまた今度にしてあげますから、ね?」
 先ほどと同じように、にっこりと微笑んで言い聞かせます。
 すると思った通り、海斗さんは泣きながらもイヤイヤをやめ、少しずつお尻からおててを離してくれました。
 やっぱり海斗さんはこういう押しには弱いようです。優しくされると素直になれるのですね。とっても可愛いです。


 さて、少し甘いかも知れませんが、今お仕置きを優しくしたことには理由があります。
 このお国のお仕置きは、決めた回数は必ずお尻を叩かないといけない決まりです。
 泣いて甘えたからといってお仕置きそのものをやめるわけにはいきませんから、こうして日を改めてお仕置きをしてあげることも重要なのです。
 さすがに一度に50回は海斗さんのお尻には厳しすぎたようです。途中まで良い子にお尻を出そうと頑張っていましたから、どうしても我慢できなかったことはよくわかります。
 ですので、今日はあとどれだけペンが必要かは、お尻をよく見て判断してあげることにします。残りのぺちんは後日にしてあげた方が、頑張る海斗さんのためにもなるでしょう。


「さ、海斗さん。おててをどけて、よーくお尻見せてください」
「ぐすっ‥‥うぅ‥‥」
 よしよしと頭をなでてあげて、おててをどけるのを応援してあげます。ほどなくして、紅くなった可愛らしいお尻がふたたび顔を出しました。
「はい、いい子いい子。
 それでは海斗さん。お尻、ちょっと失礼しますね」
 ご褒美に頭をよしよししてあげた後。出てきたお尻の状態を確かめるため、少しお尻をなでてあげることにします。
 海斗さんのお尻はどこもかしこも真っ赤に腫れ上がっていました。触るとじんじんと熱を持っており、軽く叩くだけで「うぅっ」とお尻を震えさせて痛がります。これでは当分椅子には座れないでしょうね。
 もう終わりにしてあげてもいいお尻ですが、お尻を隠してしまったけじめもつけなければいけません。幸いアザにはなっていませんから、まだ叩いても大丈夫です。可愛そうですが、これも海斗さんのためと言い聞かせ、最後のけじめのお仕置きを告げることにしました。
「海斗さん。お尻つらいでしょうけど、あと3回だけ叩きます。
 ‥‥我慢できますね?」
「ふぇっ‥‥?」
 驚いて振り向こうとする海斗さんの背中を制して、お尻をぺちぺちと鳴らしてお仕置きの合図をします。また叩かれるとは思っていなかったのでしょう。海斗さんのお尻がふたたびこわばったのがわかります。
「や、や‥‥!」
「これはお仕置き中にお尻をかばった分です。お尻隠すのはとっても悪い子だって知っていますよね?」
「ひっ‥‥! ぐす‥‥っ‥そんな‥‥っ!」
「ですから悪い子になってしまった分、きっちりお仕置きを受けて良い子になってほしいんです。
 良い子の海斗さんなら、素直にお尻出してお仕置き受けてくれると信じてますよ。
 ね、海斗さん」
「ひぐっ‥‥うぅぅぅ~~‥‥っ」
 またイヤイヤしてしまいそうな海斗さんでしたが、にこりと諭してあげると渋々ながらもお尻を叩きやすいように突き出してくれました。はい、やっぱりいい子です。
「えらいえらい。さ、あとちょっとですからね? 終わったらいっぱい甘えてもいいですから、頑張りましょうね?」
「えぐっ‥‥ぐすっ」
 お返事の代わりに、放り出したうさぎさんにまたギューとしがみつく海斗さん。そんな海斗さんの真っ赤っかになった可愛いお尻をひとなでして、
「お尻、ひとーつ」
 ビュン、と勢いよく手を振り下ろします。

 ぱっちぃぃぃん!!

「ひぅぅぅぅぅ‥‥‥っっ!!!」
 耳が痛くなるほどの大きな音。赤くなった左のお尻に、さらに赤い手形が張り付きました。
 とっても痛むお尻をまた叩かれた海斗さんは、痛みを必死に堪えて逃げたくなるお尻を何とかとどまらせています。健気でとってもいい子です。
「いい子いい子。あと二回ですよ、頑張って。
 お尻、ふたーつ」

 ぺっちぃぃぃんっ!!!

「‥‥~~~~っ!!!! えっ‥‥えぐっ‥‥えっ‥‥」
 右のお尻も打たれた海斗さん。飛び上がりそうなくらい背を仰け反らせて、ぐすぐすと嗚咽をあげて泣きじゃくります。
 可愛そうですが、残るはあと一回だけです。お尻は先ほどよりもさらに赤く膨れあがっています。さすがに海斗さんももう限界でしょう。
 良く頑張りました。えらいえらいと頭とお尻をなでなでして褒めてあげて、

「さぁ、これで最後です。うんと痛いの我慢して、良い子に戻ってくださいね。
 お尻、みっつ!!」

 ――最後にお尻の真ん中へ、とっても痛い一打を落っことしました。

 ばぁちぃぃぃぃぃんっっ!!!!

「~~~~~~~~~~!!!!!
 ひぐっ‥‥ごっ‥ごめっ‥ごめんなさぁぁぁい!! 美羽‥さっ‥‥ごめっ、なさっ‥うっ、うわぁぁぁぁん!!」
 今まで我慢していた海斗さんが、堰を切ったように大泣きしてしまいました。
 とってもつらかったのでしょう。小さな子どものように泣きじゃくります。そんな海斗さんをひょいと抱き上げ、「よしよし、もういいんですよ」と安心させるように抱きしめてあげます。
 ぽんぽん、と小さな背中をあやしてあげて、熱ーく火照ったお尻も優しく、優しくよしよしするようになでてあげます。
「うわぁぁぁん! ごめんなさぁい! 美羽さん、ごめんなさぁい!」
「よしよし、もうお仕置きは終わりましたよ。もういっぱい甘えてもいいんですよ」
「えぐっ‥ひぐっ‥わぁぁぁん!」
「はい、いい子いい子。よく頑張りましたね。とっても良い子です」
 なでなで ぽんぽん
 愛らしく泣き続ける海斗さんへ、何度も何度も優しい言葉を投げかけてあげます。
「ひくっ‥えぐっ‥‥」
「いい子、いい子」
 海斗さんが落ち着くまで、ずっとこうしてあやしてあげます。
 ぽんぽん なでなで













 そうして、一時間ほど海斗さんをベッドであやした後。
 可愛らしくずっと私につかまっていた海斗さんも落ち着いてきて、抱っこでお尻をなでた体勢のまま、色々とお話をすることになりました。
 ときどき恥ずかしがって離れようとするたび、お尻をぺちぺちしてあげたので海斗さんも慌てて素直にしてお話を聞いてくれます。とってもいい子です。

「海斗さん、残りのお仕置きはいつにしましょうか?」
「うっ‥‥き、聞かないでよ美羽さん‥‥」
「ふふ、まだ半分残っていますからね。明日すると言ったら、海斗さん泣いてしまいますよね?」
「うぅ~~‥‥美羽さんの意地悪‥‥」

 この調子です。初めはよそよそしかった海斗さんともすっかり打ち解けました。
 お尻ぺんぺんの後なので海斗さんももう恥ずかしいことなんてありません。これからのこと、不安なことなどを素直に話してくれました。
 不安がる海斗さんに「大丈夫ですよ」とその都度安心させるよう言い聞かせてきたので、今ではすっかり信頼してくれています。どんな心配事でも私を頼って相談してくれて、とっても可愛いです♪ 思わず抱きしめる手に力が入ってしまい、海斗さんに助けを求められる始末です。

 ‥‥って、よく考えたらいつから私(美羽)視点の文章になっていたのでしょう。
 ずいぶん前から何かが間違っているような気がします。なんだかもう色々と釈明のしようがなくなってきたので、この際開き直ってこーいう作風だと言い張ることにします。



「海斗さん。そう言えばまだちゃんとお返事いただいていませんでしたよね」
「えっ?」
「私が海斗さんの教育係を務める、という件です。はっきりお返事をいただけなかったので、担当するメイドが私でよろしいかどうか、ここで海斗さんの口から聞かせてほしいのです」
 落ち着いたところで、忘れかけていたお話を切り出しました。
 ここまでお仕置きしておいて今さらとも思いますが、うやむやにしたままではいけませんので、ここでしっかり確認を取っておくことにします。
 もっとも、海斗さんが不安そうに目をつむって私にギューと強く抱きついてくるので、聞くだけ意地悪だったような気もしますが。
「や、やだ‥‥美羽さんじゃなきゃやだ‥‥ぐすっ‥‥」
「はいはい、私はどこにも行きませんよ。すみません、少し意地悪でしたね。よしよし」
 寂しくなったのでしょうね、ぐずって甘えてくる海斗さんの頭をなでてあげます。
 また海斗さんをあやすお時間に逆戻りしてしまいました。本当、海斗さんは甘えんぼさんですね、そこが可愛いのですけれど。
「ぐすっ‥‥ぐすっ‥‥」
「いい子、いい子」
 なでなで なでなで




 ‥‥その後、海斗さんが落ち着くまでさらに一時間、ベッドであやしてあげたのでした。

 ようやくベッドから降りたときには、あまりにも待ちくたびれたメイドさんたち(全員ご丁寧に整列したまま)から大顰蹙を買ってしまい二人して平謝りする羽目になったのですが、それはまた別のお話ということにしましょう。
 そんなこんなで、海斗さんお迎えの一日は過ぎていったのでした。新しい王様とのお仕事、これからも大変そうですが、不思議と以前よりやる気が出ている自分がいました。








 ‥‥‥‥‥‥‥‥




 ‥‥‥‥‥




 ‥‥








 これは小さな小さなとあるお城の物語。
 ひょんなことから、このお城に小さな王様が生まれることになりました。

 ミウミウ王国の幸せのため、子どもたちの笑顔のため、海斗さんには立派な王様になってもらわなくてはなりません。
 お国の幸せは、海斗さんが良い子になれるかどうかにかかっているのです。


 しかしきっと大丈夫でしょう。海斗さんはとっても可愛い良い子なのですから。
 優しく厳しいメイドの美羽さんもずっとおそばについています。海斗さんが悪い子になった時は、きっとお尻を叩いて良い子に戻してくれるでしょう。
 お城のメイドさんたちもみんなついています。海の向こうのお父様お母様も、きっと海斗さんを見守ってくれていることでしょう。
 そう、ミウミウ王国はみんな良い子のお国なのです。それはきっと海斗さんが王様である限り、末永く続いてくれることでしょう。


 だから、安心してご本を閉じていいんですよ。
 良い子のみんなはもうおネムの時間ですものね。

 読んでくれてありがとう。お城のみんなも喜んでくれています。
 それではみんな、おやすみなさい。小さな小さな良い子たちへ―――








***








:Epilogue



「―――小さな小さな良い子たちへ‥‥と。はい、おしまい。
 ふふ、ちょっぴり変わったお話だけど、面白かったね有人。これで『おひざ』もされなくて済みそうだし‥‥‥って!?」
「すー‥‥すー‥‥」
「あ‥あのね有人‥‥」
「すやすや‥」
「‥‥まぁ、しょうがないか。もう12時だし。さっきまであんなに一生懸命聞いてたんだから、きっとナツキ先生も許してくれるよね。ねぇ有人」
「むにゃ‥‥」(すりすり)
「きゃっ‥! ‥‥こら、もう‥‥。寝相の悪い子はペンしちゃうぞっ」
「(びくっ)」
「あら‥‥ふふ、冗談よ。ごめんね有人。おやすみなさい、いい夢見てね有人‥‥」

Category : 短文

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